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賢さを身につけて。 2023.04.15 湘南ベルマーレvs横浜F・マリノス マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ

■畳みかけたかったプレス

 強く雨が降りしきる平塚でキックオフ。繋ぐマリノス、待ち構える湘南といった構図でスタートする。立ち上がりのペースを握ったのは湘南。際立っていたのはゴールキック時のプレスで、2トップ+2IHの4枚でマリノスの2ボランチと両SBをケア、GKと2CBは放置というマリノス対策を見せた。簡単にはロングボールを蹴らないチーム相手だからこそ効果的な方法だが、開始早々に相手をびっくりさせることには成功していた。
 マリノスの前進を阻んだ湘南は、奪ったボールを早いタイミングで前に付けてチャンスを作る。舘から町野に足下へのパス、杉岡からDFライン裏に抜けた平岡へのパスなど、いずれもボランチとSBの間にあるパスコースを上手くついて相手ゴールに迫った。しかしながら決定機とまでは至らない。そのうちにマリノスの2ボランチ、とりわけキャプテンの喜田が湘南のプレスを搔い潜る方法を探っていた。プレス隊の目の前で受けて捌いて目線をボールに寄せ、動きなおして相手の間で受ける。彼らからしたら当たり前の作業を繰り返していくうちに湘南のプレスは徐々に押し下げられ、段々とマリノスもペースを取り戻していく。
 30分ごろからマルコス ジュニオール、アンデルソン ロペスが中盤のスペースに降りて起点となる場面が目立つようになる。ロペスが持ち前のフィジカルを活かし、湘南DFのタックルをものともせずドリブルで突き進んでいったシーンは圧巻だった。喜田がプレスを外し、ロペスとマルコスが起点になって両ウイングにボールが渡るようになると、決定機はマリノスの方に多く訪れる。しかしシュートはポストやクロスバー、そして守護神ソン ボムグンに防がれ、前半は互いに無得点で折り返す。

■状況判断と賢さの差

 前半終わり際の良い流れを引き継ぐように、マリノスが後半立ち上がりのペースを握った。2ボランチが中央に留まって湘南のプレス隊を引き寄せつつ、外側のパスコースから前線にボールを当てる。右SBの山根から降りてきたロペスにパス、反転して一機に湘南ゴールに襲い掛かった。一本のパスでプレス要員4人とアンカーの永木が置き去りにされてしまった状態で、選手個人の質の高さによるものとはいえ、チームで準備してきた対策に回答を出されてしまった。

湘南のプレスに対するマリノスの回答

 その後も山根、喜田の下部組織出身選手2名にプレスを空転させられ苦しい時間が続く。湘南としてはボールを保持してマリノスにボールを渡さない時間を作りたいところだが、杉岡と舘からは前半と変わらず裏へのボールが出てくるだけで簡単に相手にボールを渡してしまい、主導権はマリノスが握り続ける。彼らとしてはチームコンセプトに則って早く前にボールを送っているのだが、試合展開を考慮すると後ろに下げてでもボール保持の時間を作ってほしかった。前述のマリノス2選手と比較すると、状況判断・試合を読む力の質に差が大きくあったと思われる(そうした点は阿部や永木が自身の経験を活かしてチームに還元するのかと思っていたが、今のところそんな様子は見られない)。自陣に押し込まれる時間が続く中、65分にパスカットした水沼からロペスのゴールでアウェイチームが先制する。

■アンカーの役割変更

 失点直後に3選手の交代(奥野、畑、小野瀬)、その5分後に続けて2選手(山田、鈴木章斗)を交代。畑、小野瀬、山田、鈴木章は役割はそのままに選手の入れ替えを行ったように思われるが、奥野は永木とは違ったタスクを任されていた。非保持ではトップ下の西村ではなく2ボランチの喜田、渡辺と中央のスペースを監視。永木がボールとパスの受け手(マルコス、西村)の監視役だったところ、奥野はスペースとパスの出し手の監視が役割となっていた。マリノスが左右のウイング2選手交代でややトーンダウンした感も否めないが、西村とロペスはDFラインで受け持ち、奥野がその前のスペースと人をケアし、時間と場所に制限をかけることに成功した。
 81分には杉岡のクロスから山田が頭で逸らし、鈴木章が押し込んで同点ゴール。前節FC東京戦からのストーリーを感じる印象的な得点だった。最終盤には互いにチャンスを迎えるが決めきれずに試合終了。ともに勝ち点2を落としたと言えるものの、目指すサッカーを表現しようとする両チームがぶつかり合う見ごたえのあるゲームだった。

■ボールを触らずに光った奥野

 最後に、奥野が保持の場面で光っていたプレーに触れたい。鈴木章の同点ゴールが生まれる流れに繋がる79分のビルドアップ。ボムグンを経由して杉岡、畑と足下のパスが続いた局面、マリノスの選手4人がプレーエリアを狭めようとプレスをかける。そのとき奥野は畑に近づきつつも寄りすぎず、あえて西村に自身を消させることで逆サイドに立った大岩へのパスコースを開かせた。押し込まれる展開が続く中、相手陣内に入り込むきっかけを作ったチームを助ける好プレーだったといえる。茨田不在が長く続くチームで、永木とは異なるボール循環を助けられる選手は貴重な存在になるはずだ。

ボールを触らずにチームを助けた奥野のプレー


試合結果
J1リーグ第8節
湘南ベルマーレ 1-1 横浜F・マリノス

湘南:鈴木章(81')
横浜FM:アンデルソン ロペス(65')


主審
上田 益也

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