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新しい未来は無謀前提。 2023.10.21 京都サンガvs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と噛み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ

■さながら追い込み漁

 突然冬の寒さを感じさせる京都・亀山でキックオフ。湘南と京都はともにカップ戦を落としているため、9/30に行われた第29節以来3週間ぶりの公式戦となった。湘南は累積警告による出場停止の平岡に代えて山田、U-22日本代表・アメリカ遠征帰りの田中に代えて茨田がスタメン。京都は一発退場による出場停止のアピアタウィアに代えてイヨハ、松田に代えて川崎がスターターに名を連ねた。 

 試合前のプレビューでも触れたが、この試合で注目したいのは京都CB陣の利き足。アピアタウィアが出られないため、麻田・イヨハ2人の左利きCBが並ぶという珍しい事態が起こっていた。そして湘南はこの人選によって生じる現象をしっかりと突いていく。(DAZNでも橋本解説員が15分前後に指摘しているので、よりわかりやすい解説も是非)
 セレッソ戦同様に湘南の左サイドへボールを追い込んで奪うのが狙い。対京都として調整されていたのは、右CBに入るイヨハを意図的にフリーにしてボールを渡されやすい盤面を作っていたこと。左利きのCBが自陣の右サイド深くでボールを持っても出来ることは多くない。近場にいる右SB福田に渡して手詰まりになったところ、杉岡と山田がアタックしてボール奪取するシーンが試合序盤からよく見られた。

湘南のプレッシング。
イヨハにボールを持たせて奪取を狙う。

 湘南の明らかな誘導に京都が乗ってきたのも、もともと京都は右サイドから攻撃をスタートすることが多いため。湘南のプレス設計と京都の保持設計が互いに噛み合った結果、出場選手の関係で湘南の方が優位に立てたと言える。とはいえ京都に打つ手がなかったわけではなく、ボールを持ったイヨハが湘南の選手を引きつけ、新たにフリーの選手を生み出したりすれば京都が攻め込む形も見られたはずである。実際に29分ごろにはそのようなプレーも見られており、届けるパスの質はさほど問題ではないと感じた。

DF24 イヨハ 理 ヘンリー
--最終ラインから縦にパスを入れるのは難しかった?
もう少し質のところを高めることができれば……というところ。あとは、後半は前半よりも押し込めたので、前線の選手が動き出したところを使っていければというのがあります。

京都vs湘南の選手コメント(明治安田生命J1リーグ:2023年10月21日)
https://www.jleague.jp/match/j1/2023/102106/player/

 この試合に出場可能な京都CB陣のビルドアップにおける利き足問題は素人目で見ても明らかであり、プレッシングに明確なスタイルを持つ湘南がそのポイントを狙ってくるのは予想に難くないはず。だが90分を通してプレス対策してきた様子は見受けられなかった。川崎と武田のIHがSBの位置に降りてサポートする形もあったが、湘南が先制して後ろを固めてからは効果が薄れ、ボールをU字状に動かすことに終始。アンカーに入る金子の立ち位置も阿部のマークによって消されており、そもそも最終ラインからの組み立てに関して準備不足だった感も否めない。

 京都がビルドアップから作りたかったのは21分の形だろうか。湘南のプレスが人に食い付くのを逆手に取り、背後に空くスペースにアタッカーが走りこんでチャンスに繋げる。このシーンではIHの川崎が福田からボールを引き出す動きに大野がつられたところ、背後に生まれたスペースを豊川が走り込む。もっともこれ以降は同じ形でもミンテが先読みして豊川に付いていったため、とくにチャンスにはならなかったのだが。

京都が(おそらく)狙っていた形

■ミンテが吠えた理由

 京都が長いボールを使った空中戦ではなく、後ろからの組み立て中心の試合をせざるを得なかったのは、試合序盤における湘南守備陣の奮闘によるものだ。右サイドに流れてくる山﨑を大野がファーストコンタクトで弾き飛ばしたり、中盤に降りた際にも密着マークで自由にプレーさせなかった。ミンテを中心にした細かなラインコントロールで中盤との距離を狭く取り、京都が拾いたいセカンドボールを湘南の中盤が回収。開始15分間は空中戦にもほぼ完勝で、京都の最終ラインに”長いボールを蹴っても跳ね返されてカウンターを受けるかも”といったネガティブな印象を植え付けた。また山﨑は大野を避けて左サイドに流れるシーンもあり、プレーだけでなくメンタル面でも優位に立てたことがこの試合の勝敗を大きく分けたポイントと考える。

 というのも、京都がイヨハに狙いを定めた湘南のプレッシングを避けロングボールを蹴ってきた場合、守備陣が競り負けたり跳ね返しが不十分だと"プレスを掻い潜って繋ぐよりも、長いボールを蹴ったほうが簡単に前進できるな"と思われてしまい、準備してきたプレッシングをベースとしたゲームプランを無効化されてしまう。試合序盤に送られる京都FWへのロングボールを全て跳ね返して”今日は長いボールを使えないな”と思わせ、攻撃のスタート地点である右サイドへ(その先には湘南が網を張っている)誘導するためには大野・ミンテ・大岩の圧倒的な働きが不可欠だったのだ。

 チームが準備してきた作戦を実行するための土台として、彼ら三人が担っていた役割は非常に大きかった。それだけに任務を完遂した試合後の喜びはひとしおだっただろう。ミンテが感情を爆発させる姿が印象的だった方も多いはずだ。ちなみに大岩はもっともっと喜んでもよいと思う。


■気の毒な"元"湘南戦士

 試合は湘南が強度高く臨み、用意してきたプランを遂行しながらショートカウンターを発動、京都ゴールに迫りながらもシュートはGKクソンユンに防がれる。京都も湘南のパスミスを拾って決定機を作り出すなど、チャンスの数はそこまで差がない時間が続いた。
 迎えた39分、岡本のドリブルをボックス内で三竿がファールで止めてPKの判定。それを大橋がゴールど真ん中に決めて湘南が先制する。このゴールで大橋は自身初となるリーグ戦2桁ゴールを達成した。

 さてこのシーンについて、京都の監督・キャプテンともに"我慢しきれなかった"失点と表現している。筆者にはそのように思えないのが、PKに至るまでのシーンは、再現性のある京都の穴を湘南に使われているように見えるからである。

曺 貴裁 監督
3週間前のサガン鳥栖戦がチームにとって少しダメージのある負け方だったのですが、選手たちはよく切り替えて今日まで準備してきたものにトライしてくれました。ただ、今日は前半の我々のチャンスでシュートが入らず、逆にこちらも決められそうなシュートを止めたりと、お互い我慢できない方が勝点3を落とすような試合になりました。結果的には前半の少し我慢しきれないところでPKを与えてしまって取られた失点が最後まで重くのしかかりました。
7 MF
川﨑 颯太

今日はセカンドボールやデュエルの部分が勝負になるとわかっていたのですが、前半我慢しきれずにPKを与えてしまい、そこで一歩相手に上回られてしまいました。

京都サンガFC 公式サイトより引用
https://www.sanga-fc.jp/game/report/2023102106

 まずはPKを獲得したシーンについて。クソンユンのゴールキックをコントロールした杉岡が、左サイドでボールを持って中央を向く。すると左IHの武田が湘南のアンカー茨田を抑えるためにプレスに加わるが脅威にはならず、杉岡から茨田、ミンテと繋ぎ、武田の背後でフリーになった池田へパス。すでに最前線へ駆け上がっていた岡本に渡してボックス内へ侵入、三竿のファールを誘ってPKを得た。

 同じような形は10分にも起きていた。左サイド、ハーフラインより自陣よりでのスローイン。杉岡のスローを降りて受ける阿部に向かって、何故かIH二人(武田・川崎)でプレスをかける京都。阿部はワンタッチで展開し、ミンテから池田へ縦パスが通ってスピードアップ。大外の岡本のクロスは合わなかったが、開いていたコースと登場する選手は共通している。

PK獲得の前フリとなっていたシーン。

 左IHの武田が離れた位置にあるボールホルダーにプレスをかける理由はわからないが、何かしらの約束事があるのだろう。それはそれで良いのだが、ならば武田が動いたことで生じるスペースとパスコースは誰が埋めるのだろうか。アンカーの金子は中央に留まり、左FWの原は大岩につられて外に向かって走っている。池田はその空間で待っているだけでフリーになれるありがたい状況が生まれていた。
 おそらく問題があるのは原のポジションで、ミンテから大岩に通されたところで盤面が大きく変わることはない。しかし池田に通されれば湘南にとっては大きなチャンスを迎える事になる。原が優先して抑えるべきはミンテから池田へのコースであり、大岩へのケアではない。前半のうちに二度も発生しているのは偶然ではなく、プレスを横方向にかわされた後の準備・整理がされていないということだろう。

原は池田へのコースを塞ぎ、大岩にパスが出たら寄せれば十分。
ボールの移動中に武田が戻る時間を稼げるはず。

 つまりボールに食いついた左IHと守備をサボった左FW、各選手の立ち位置整理が出来ていないスタッフ陣のツケをまとめて左SBの三竿が払わされた結果であり、それを監督・キャプテンから"我慢できなかった"と捉えられ公式に発言されてしまうのは流石に気の毒である。もちろん三竿の守備対応にも問題があったのは事実だろうが、そこに至るまでの過程は再現性のあるもので、選手個人だけではなく守備組織の問題として捉えた方がよいように思う。我慢どうこうのメンタル的な話ではなく、サッカーの技術的な話である。


 湘南の選手に関して言えば、武田の背後のスペースはスカウティング済みだった可能性が高い。池田は動きすぎずその空間で待っていたし、岡本の走り出しもスムーズで、走るコースも大外(9分のシーン)からやや内側に向かって斜め(PK獲得のシーン)に修正しており、ベテランらしい落ち着いた判断が見えた。ミンテが出したパスの質は2本とも高く、あらかじめ準備していたと思われる。


■膠着させていた後半

 前半の終わり際に先制した湘南は、後半に入ると中央をしっかりと固めてロングカウンターを狙う。前線の大橋はイヨハにマークされながらもボールを運び、阿部は足元の技術と冷静な判断で奪いにくる京都の思惑を外していく。プレッシングの圧を高めようとする京都の頭上を越すボールが多かったが、大橋が五分のボールを収めてくれるためチームとしては大変助かっていた。
 京都からすれば後半開始から10分程度で ①ロングボールは使えない、②セカンドボールも拾えない、③得意の右サイドは狙われている、④プレッシングもかわされる、⑤背後のスペースを使いたいが湘南が出てきてくれない、と中々厳しい状況に追い込まれていた。



 試合は膠着状態が続き、リードする湘南からすればそのまま時間が過ぎるのを待つだけで良い展開。京都が腹を括ったのは79分のパトリック投入から。その前に入っていた木下を含めた長身選手に向かってロングボール大作戦に移行するが、湘南守備陣が集中した守りで弾き返す。
 湘南は京都の出方を窺いながら選手交代で中盤の運動量・強度を補充。80分過ぎには跳ね返す一辺倒だけでなく、ボールを保持するプレーで時間を進めた点は成長が見えた点だろう。
 89分には大橋のゴール取り消し(阿部の戻りオフサイド)がありつつも、5-4-1に変形してアディショナルタイム7分、京都の連続コーナーキックを凌ぎ切った湘南がアウェイで勝ち点3をもぎ取った。

 横浜FCも勝利したため勝ち点差は1のままで、ライバルを突き放すことはできなかった。来週の横浜FCはここ最近不調が続く札幌と対戦で、湘南は首位神戸との戦いが待っている。ともすればまた順位が入れ替わる可能性もあるが、ミンテと気持ちを同じく"全部勝つつもり"で向かっていこう。



試合結果
J1リーグ第30節
京都サンガ 0-1 湘南ベルマーレ

京都:なし
湘南:大橋(39')

主審 松尾 一

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