雲間に隠れた未来の証拠が。 2023.12.03 湘南ベルマーレvsFC東京 マッチレビュー
開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。
■巻き戻された時間
完全に冬を迎えた平塚でキックオフ。互いに累積警告による出場停止(湘南=田中、東京=長友)を抱えた中で迎える最終節。お互い残留もタイトルも賞金も争うわけでもない、いわゆる消化試合である。
湘南はJ1残留を決めた前節横浜FC戦から、田中の代わりに茨田をアンカーポジションに起用。それ以外の10人は変更なし。
東京は何人かの入れ替えがあり、右SBに古巣対決の白井、中盤に寺山、松木が入った。また理由は発表されていないが、前節から原川と渡邊凌磨が外れている。
残留を決めて勝ち点を落とせない重圧から解放されたからなのか、これまでよりも足元で繋ぐ意識が高い湘南。前節までなら簡単に相手の背後へ蹴り出していたシーンでも、ショートパスで渡せる味方を探していた。
組み立てにおける狙いはSBの二人、バングーナガンデ・白井の裏に空くスペース。とりわけ左サイドは大野に仲川、杉岡に白井が強めに食い付く傾向があるため、平岡が裏にランニングするだけでCB木本を引っ張り出すことができていた。しかし問題はその後。DH2枚がボックス内のカバーに入り木本が抜けた穴を埋め、単純なクロスは跳ね返されてしまっていた。
6分、ミンテがボールを持ち出すと相手の1stプレスライン(ディエゴ・松木)の間が開き、茨田へのパスコースが開通。ディエゴのプレッシャーを背中で抑えつつパスを通すと、池田は半身で受けながら前を向いて背走するDFの裏にスルーパス。バングーナガンデに対応されたが、走り込む大橋か岡本に通っていればビッグチャンスだった。
その後は細かいパスミスからFC東京にボールを献上。11分には横パスのコントロールミスからゴール前まで運ばれ、ディエゴに際どいミドルシュートを打たれた。
保持でリズムが崩れた影響なのか、プレッシングでのタイミングのズレが生じ始める。13分、森重から木本へパスが通った瞬間に平岡がスプリントしてプレッシャーをかける。しかしボールと平岡の移動距離はほぼ同じであるため、平岡が到着する頃には木本はボールのコントロールを終えていた。連動が必要な後ろの選手も間に合っておらず、とくに杉岡は対面する白井がボールを受けた時点でも3〜4mは離れた場所までしか辿り着けず、プレッシャーとしての効果なし。フリーの白井はスペースへランニングした松木の足元に正確なロブパスを通すことに成功した。その後ミンテがカバーに入ったためにことなきを得たが、試合を通じてプレス隊が無謀なタイミングでのプレッシングをかけて後ろが連動しきれず、却ってFC東京にスペースと時間を提供する場面が数多く見られた。
またプレスがうまくかかっているのにも関わらず、ファールで自分たちの努力を水の泡にしてしまうシーンもしばしば。フリーキックの数が湘南:9に対してFC東京:23は多すぎで、タイミングの遅れによって焦りが出て強くいきすぎてしまった結果が表れているのだろう。
16分には積極的なプレスを剥がされてピンチを迎える。ボックス近辺まで複数名で圧力をかけてハメかけたところ、木本から松木に通して脱出に成功。パスを受けたアダイウトンが前向きに仕掛ける理想的な形を作り、クロスを上げるところまで持ち込んだ。
対面する松木に対して出場時間を通して劣勢だった茨田。彼のところで潰せていれば…と思うシーンもあったが、全体的にプレスのタイミングが遅れており、その遅れた結果が顕在化しやすいポジションだったのも考慮するべきか。田中の不在が響いたのではなくそもそもの戦い方に不備があり、その尻拭いをアンカーポジションがやらされていたのである。
ここまでの時間は14試合未勝利だった4月〜7月を思い出すような内容で、無謀な前線からのプレスでボールが奪えず、後ろからの組み立ても上手くいかない悪循環に陥っていた。アンカーで出場した選手が叩かれがちだったのも同じである。
■45分に詰まった34試合
ところが27分ごろになると無謀なプレッシングを控え、構えて守る前節までの方法にシフト。相手の右サイドに向かって方向づけして圧力をかけ、精度の低いフィードを蹴らせて少ない労力でボールを奪った。飛び込まない構える陣形で詰め寄り、ロングパスのミスを誘えるように。
34分、大野から平岡に縦パスを通すと、センターサークル内でフリーの池田へ。ワンタッチで叩いて阿部へ渡すと、走り込んだ岡本へスルーパス。マイナスの折り返しに再び池田が飛び込むが、シュートはうまくミートせずシュートは枠外へ。良いテンポでボールが回せていただけに、得点に繋げたかったシーンだった。
43分、FC東京が最終ラインで左から右にボールを動かし、ポジションを入れ替えて降りてきた仲川へパス。奪いどころにボールが入ってきたので一斉に湘南の選手たちが寄せにかかるが、ここはFC東京がうまく逃げてGKまで下げてやり直し。奪取は出来なかったが、相手を押し戻すことに成功した。
その流れから45分+1分、この試合でもっとも良い展開が見られた。一度は相手にプレスかわされるが改めてポジションを取り直し。自陣で構えて守る湘南に向かって相手がギャンブル的な縦パスを入れたところ跳ね返してカウンター。大橋がキープして味方が上がる時間を稼ぎ、阿部から岡本に展開、ワンタッチで上げたクロスに再び大橋が顔を出して折り返す。惜しくも相手にクリアされてしまうが、大野の激しいチェックで二次攻撃に繋げる。得点には至らなかったものの、11人の連携した守備から鋭いカウンターという、ここ最近の好調時に見られた良いシーンだった。
前半途中からハーフタイムを迎えるまでの戦い方は好調だったリーグ終盤戦のそれで、前半45分の中に2023シーズンの変化が詰まっているようで興味をそそられるものだった。ちなみにこの変化については近いうちに公開予定の2023シーズンレビューで詳細にまとめているので、そちらも見てもらえると嬉しい。
後半に入るとFC東京は選手交代こそないが、流れの中で積極的な配置移動を実施。中盤が逆三角形となって小泉がCB間に入り、CBが大外に開いてSBを高い位置まで押し上げる。その結果、湘南のWBが低い位置まで押し下げられ、プレス隊と最終ラインの距離が間延び。FC東京からすれば容易に縦パスを通せる盤面を引き出していた。
逆三角形の残り2点=松木と寺山はボールサイドで積極的に顔を出し、湘南のアンカーを引っ張り出して中央のスペースを活用。49分には寺山のドリブルに茨田が対応、フリーになった松木を大岩が見るか見ないのか中途半端な動作をして背後にスペースを空けてしまう。そのスペースを寺山と松木の連携で侵入、決定機を作り出した。その直後の51分、間延びした湘南の陣形を利用して森重からアダイウトンへロングフィード。ラインの乱れた最終ラインは後手の対応となり、遅れて走り込んでくる小泉にマークしきれず失点。後半立ち上がりに前半と異なる動きを見せたFC東京の奇襲にまんまとやられてリードを許した。
失点した湘南は前半の頭同様に組み立てとプレッシングに傾倒するがチャンスは作れず、55分に選手交代。平岡に代えて鈴木淳之介、茨田に代えて奥野を投入。奥野の役割はある程度見えやすく、松木へのケアに重きを置いていた。
58分、パスミスでボールを奪われたシーン、森重から松木に入った瞬間に激しいチャージ。ファールにはなってしまったが、これまで自由にプレーしていた松木に窮屈さを与えたシーンだった。62分には松木のファーストタッチをうまく引っ掛けてボール奪取、逆に報復でイエローを引き出した。
奥野の投入により中盤付近でボールを引っ掛けるシーンが増えてきたところで、さらなる選手交代とシステム変更を実施。72分、岡本に代えて福田、池田に代えて鈴木章斗。中盤ダイヤモンド型の4-4-2とし、5-3-2のDFラインから一枚削って中盤(トップ下)を一枚増やした。変更後もチャンスシーンは少なく、この策が効果的だったとは言い難い。試合終盤にようやく押し込めたのは、東京が守り切るために重心を下げた影響が大きいと思われる。
同じタイミングで東京も選手交代。今シーズン限りで退団が発表されているアダイウトンが下がり、ベンチメンバー・スタッフに拍手と抱擁で迎えられていた。年齢を重ねてもなお迫力を維持するアタッカーの新天地はどこになるのだろうか。
アディショナルタイムに猛攻を仕掛けてゴールに迫るが得点は生まれず、試合は0-1で終了。2023シーズンは18チーム中15位、勝ち点34でフィニッシュとなった。
■ピッチにおけるアイデンティティ
この試合においては結果どうこうよりも、前半立ち上がり〜半ば&後半の戦い方を選択したのは選手と監督のどちらだったのか、という点が気になって仕方がない。試合前日に公開された馬入日記において、大野は以下のように話している。
つまり”今シーズンで一番の最高な試合にしよう”と意思統一を図った試合の入りが勝てなかった頃の戦い方なわけで、あの頃にやり方にこだわりがあるのだろうか。もしかすると監督は"これが選手を一番成長させられるやり方"と考えているのかもしれない。実現すれば強さを発揮できるうえに選手たちが輝いて見えるのを我々は知っている(ex.開幕の鳥栖戦)ため、一概に否定も出来ないところではある。
しかしプレスのタイミングがチーム内で揃えられていないのが現状であり、プレスの口火を切る相手のアクション(バックパスや滞空時間の長いパスなど)とその後ろにいる選手の役割をもっと協調する必要があるし、年間を通して試合ではそれが表現出来なかったのであれば、再びのチャレンジには首を傾げる。
プレッシングが機能していないため相手に前進を許し、低い位置から攻撃を始めるしかない。整備されていない組み立てでは各選手の力量に任せる他なく、プレスで消耗した状態では苦し紛れのロングフィードも収められず、即時奪回も望めないといった悪循環に陥ってしまっていた。
筆者としては負けていたやり方はダメ、勝っていたやり方が良い、という考えをしているのではなく、湘南ベルマーレというクラブのアイデンティティは、いかにボールを奪って相手ゴールに迫るかを突き詰めるという点にあると考えているからである。相手ボールを狙って陣形を構え、奪った後に湧き出すようなカウンターを見せるチームがあってもいいだろう。別に流れるようなパスワークだけが優れたサッカーではないし、前から奪いに行くだけがプレッシングでもない。平塚に集う民ならば、カウンターでも最高のサッカーだ!と言えるだけの土壌は整っているのではないだろうか。
エンブレムや新スタジアムなど、奇しくもシーズンを通してクラブのアイデンティティを考える機会が多かった今年。最後にはピッチにおけるアイデンティティは何か?と問われて幕を閉じる格好になった。来年はどんなサッカーが展開されるのだろうか。期待と不安が入り混じるオフシーズンを過ごすことになりそうだ。
試合結果
J1リーグ第34節
湘南ベルマーレ 0-1 FC東京
湘南:なし
東京:小泉(52')
主審 谷本 涼