行こうぜ、バディ! 2024.10.06 東京ヴェルディ vs 湘南ベルマーレ マッチレビュー
開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。
■ハイライト
曇天模様の西東京、夕刻の味の素スタジアムでキックオフ。湘南は逆転勝利した前節鹿島アントラーズ戦から1名のみ変更で、左WB畑に代わって松村が今季初スタメン。畑は負傷かコンディション不良なのか、ベンチからも外れている。高橋も前節に続いてベンチ外となった。
対するヴェルディも湘南と同じく変更は1名のみで、前節のガンバ大阪戦はレンタル移籍契約の都合で出場できなかった山見が染野に代わってスタメンに復帰。それ以外は継続志向のメンバーとなった。
試合の立ち上がりからペースを握ったのは湘南。前4枚がヴェルディの2CHを隠しながら圧の強いプレスをかけ、長いボールを蹴らせる場面を作る。深い位置で回収し、バックラインでボールを保持しつつ相手の出方をうかがった。
湘南の先制点はそのCBが起点となった。32分、左サイドのスローインから。山田のプレスが遅れてフリーになった淳之介から、乱れたDFラインの背後を取った小野瀬へのフィードが通る。ヒールキックのフェイントで相手DF2枚を手玉に取ると、細かいステップで時間を作りながら空いたスペースに丁寧なラストパス。走り込んできた雄斗が左足を振り抜きネットを揺らした。湘南が前半のうちにリードを奪う。
試合開始から湘南のプレスに苦しんでいたヴェルディだったが、21分はCH2枚とWBがビルドアップに関わってプレスの脱出に成功。だが湘南の前5枚に対して6~7人がかかわっているため、前線は3人で湘南守備陣5人を相手する状況。前線で進む方向を限定した状態で攻め込まれる湘南は、ある程度余裕を持って守備対応ができていた。
前半はそのまま湘南が1点をリードして終了。ヴェルディはハーフタイムで山田を下げて見木を投入し、機能不全だったシャドーの人員を変更する。
後半のキックオフ直後からエンジンをかけなおした様子のヴェルディ。シンプルに背後を狙って湘南陣内に押し入り、セカンドを回収してゴールへ迫ってきた。プレーのテンポも上がっており、早い時間に同点に追いつこうと前がかりな姿勢を見せる。選手たちのプレースピードや球際の当たりなど、監督の喝によって本来持っているベースの部分を叩き直されたような印象を受けた。
しかし積極的な姿勢が裏目に出たのは52分の場面。ヴェルディの選手たちが湘南陣のボックス内に5人、そのすぐ外に3人が待つほど攻め立てた状況から小野瀬がパスカット。福田がパスを受けてドリブルで駆け上がり、一転してヴェルディのゴール前へ侵攻。福田は自身が仕掛ける姿勢で2vs2を1vs2に変容させ、章斗をフリーにする。章斗は福田のパスをコントロールしてから右足を振り抜くと、ボールはブロックに来たDFの足に当たってコースが変わりゴールネットに吸い込まれた。湘南がカウンターから章斗の3試合連続ゴールで追加点を奪う。
2点のリードを得た湘南が動いたのは56分。先制点をアシストした小野瀬に代えて奥野を投入。
63分に追いかけるヴェルディが選手交代。CB千田に代えて松村優太、シャドーの山見に代えて染野を投入。右WBだった宮原が右CBに移動し、松村優太が右WB、谷口が3バックの中央に入る。
72分に両チームともに選手交代。湘南は章斗に代わって根本、松村に代わって岡本を投入。ヴェルディは綱島に代えて松橋、木村に代えて山田剛綺が入る。湘南はこのタイミングでシステムを5-4-1に変更、田中と奥野が2DHを組み、福田が右SHに移動した。
試合終盤、72分の交代で左CBに移動していた翁長のポジションを変え、80分過ぎからシステムを4-4-2(実質2-4-4)として猛攻を見せるヴェルディの前に立ちはだかったのは、古巣対戦の上福元だった。
84分はDFラインの裏に抜け出した山田剛綺との1vs1、ドリブルでかわしにかかったところのボールを見事キャッチ。
89分にはプロでは珍しいボックス内での間接フリーキック。ポスト方向へ飛ぶヘディングシュートを横っ飛びで搔き出し、その後のコーナーキックの流れでもクロスのキャッチに成功。ヴェルディの攻撃を食い止める。
アディショナルタイムはプレスをかけきれずヴェルディ攻撃陣にパスを通され続ける苦しい展開だったが、集中力と根性で守り抜き、0-2で勝利。鹿島戦に続いて勝ち点3を手にした。
■試合の振り返り
・躍動したトリオTHE鈴木
ヴェルディはプレッシングの際に3-4-2-1の前線3枚をそのまま湘南の3バックに当ててきていたが、3人とも同じ役割というわけではなく、それぞれで異なる役割が振られていたように思う。中央の木村はアンカーの田中をケアを第一としつつミンテへのプレス役で、淳之介の対面である山田は後ろの味方とのつながりを優先して同サイドへのパスコースを塞ぐ役割。大岩と対面する山見がプレスのスイッチ役になっていた。
イメージとしては淳之介がボールを持っても放置してパスの出し所を塞いでおき、順々に大岩へパスが回ってきたタイミングで山見が圧をかけ、WB翁長やCH森田で奪うような形だったように見えた。
あるいは両サイドのWBを奪いどころに設定した可能性はあるが、山田のプレスがあまり効果を発揮していなかったため宮原が限定できず、山見と翁長のサイドで奪う設計に見えたのかもしれない。
ヴェルディが見せたプレスに対し、湘南は左CBの淳之介が突破口になっていた。対面の山田が彼自身の背後を意識した守備をするため、圧力をほとんど感じることなくプレー。左WB松村にボールを預けて前線に駆け上がったり、山田をかわして平岡へパスを通すなど攻撃の発信役を担う。
淳之介だけでなく平岡が繰り返し背後へランニングして陣形を広げたり、松村が降りて相手から遠い位置で預けどころになったりと、3人の相互関係で相手の位置をずらしてボールを握る時間を創出。ヴェルディからすると蓋をしているはずのサイドから入り込まれる形になり、狙った形でボールを中々奪えず、仕方なく撤退して跳ね返す時間が長く続いた。湘南が後半耐える時間が続いても崩れなかったのは、こうした保持の時間を作ってスタミナ管理ができた点も影響しているだろう。
逆サイドのCB大岩も配球はシンプルに徹して細かな部分は小野瀬や雄斗に任せつつ、果敢な攻め上がりを見せる。後方からのランニングで深さを作り、雄斗と小野瀬にスペースを渡す相互関係ができていた。低い位置にいた場合の自身にかけられるプレスや相手の動きを見て判断していたのかまではわからないが、自分の得意なプレーと味方の得意なプレーを上手く噛み合わせていたように思う。
得点を挙げた二人の鈴木はもちろんのこと、相手の狙いを外すプレーを見せた淳之介を含めた鈴木トリオの活躍がこの試合の大きな鍵を握っていたと言える。
・早めが効いた選手交代
ハーフタイムでギアを入れ直したヴェルディは、チーム内で湘南をどこから崩していくか認識を共有して後半のピッチに立ったように見えた。その場所は田中の右横、小野瀬の背後にできるスペース。前半は湘南のプレッシングに苦しめられたヴェルディは、一気にDFラインの背後を狙って長いフィードを送っていた。しかしその結果は望ましいものではなかったので、より近くにできるスペースを利用し、そこでフリーになった選手を起点に湘南守備陣を崩していく狙いを見せる。
47分、49分に森田がボールを受けた位置や50分に山見が降りて受けた位置、54分に齋藤がボールを呼び込んだ位置、55分に谷口が走り込んできた位置など、短い時間の間に何度も同じ場所にできるスペースを利用。後半の立ち上がりにヴェルディが勢いを持って湘南ゴールに向かって迫っていたのは、フリーで受けられる場所と人の共通認識を持てていたからだろう。
それを受けて56分、山口監督は小野瀬を下げて奥野を投入する。彼が与えられていた役割は明確で、ヴェルディに何度も使われていたスペースを埋めること。とくに間近にいる森田の動きには警戒しつつ、山見へのパスや横断された時のスライドなどにも気を抜くことなくマメに対応。仮にボールを受けられたとしても自由に前を向かせることはなく、外へ追いやる守備で見事に穴を塞いで見せた。
奥野は相手ゴールに向かう場面でも繰り返し背後を狙う動きで味方にスペースを提供。小野瀬のように華麗なプレーはなかったものの、効果的な働きでチームを助け、ヴェルディの狙いを阻害することに成功していた。この後の選手交代やシステム変更によってポジションを右IH→DH→右SHと何度も移動しながらも混乱することなくプレーしており、いてくれると助かるタイプの選手だなあと思った次第である。
1点差であればこれほど早く小野瀬を下げる決断をするのは難しかったと思われる(同点に追い付かれた場合を想定すると、小野瀬にはピッチにいてほしいため)。山口監督が早い時間交代カードを切れた点を考慮すると、章斗が挙げたゴールはスコアだけでなく両指揮官の決断にも大きな影響を与える得点となった。
・偶然か狙い通りか
使いたかったスペースを埋められたヴェルディは63分に次の策へ移行。疲労が見える左WB松村晟怜の対面にスピードやテクニックが武器のドリブラー、松村優太を投入。質的優位でサイドの突破を狙い、クロスのターゲットになる染野も同時投入してゴールへ向かう方策を提示した。
松村優太がピッチに入ると、右WB宮原の時ではあまり見られなかったDFラインから右サイドへのフィードが増える。右CB宮原の立ち位置によって松村優太が高い位置を取れていたのも変化の一つである。谷口をDFライン中央に移動させたのも、蹴れる人、バランスを取れる人、パスを受けて質を出せる人を揃えるためなのかもしれない。いずれにしても右サイドの人員をまとめて入れ替え、左は諦めて右から行くぞ、というベンチからのメッセージをピッチの選手たちが受け止めた結果と捉えられそうだ。
湘南は徐々に左サイドを崩され始め、横断されて中央でフリーを作られる場面が増える。田中が左サイドのヘルプにいくために奥野が中央を埋め、逆サイドのスペースが空いてしまった68分のシーン、齋藤のミドルシュートをストップした上福元のセーブは大きな価値を持った。ヴェルディからすれば狙い通りの展開からフリーでフィニッシュまで持ち込めた場面であったし、湘南からすれば選手たちの自力で持ち堪え、ベンチが手当を検討する時間を稼いだからである。
そして72分、松村晟怜に代えて岡本を投入。システムも5-4-1に変更し、両サイドを重視した配置とする。晟怜が足を攣っていた様子もあったが、それがなくても岡本を投入していたのかは気になるところである。何はともあれドリブラーを相手に対人能力に優れた岡本の投入は一定の成果が見られ、左サイドへの侵攻を跳ね返せるように。
しかし相手バックラインへのプレスは弱くなったため、終盤はFWにパスを差し込まれ続けるなど危ない場面を続いたが、気持ちと根性で耐え切った。ヴェルディのFW相手にミンテや大岩が競り合いで勝利し続けていたのも、見逃せないポイントであろう。
しっかりと強い相手に正面から立ち向かって勝ち切った点は非常にポジティブだ。次節の対戦相手、広島はおそらく今一番強いチーム。秋口の湘南はそれにどれほど通用するのか、今節と同じくらいの熱戦を期待したい。
試合結果
J1リーグ第33節
東京ヴェルディ 0-2 湘南ベルマーレ
東京V:なし
湘南 :鈴木雄(32')、鈴木章(51')
主審 荒木 友輔
タイトル引用:にじさんじ/Buddy&Wilderness
叶、笹木咲、壱百満天原サロメ、星川サラ、葛葉が歌った楽曲より引用。福田と章斗の2トップ、鈴木トリオ、高卒同期3人やベテラン右サイドなど、選手たちのユニットやコンビネーションが目立った試合だったことから。
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