「もう、忘れちゃったの?」


数年前に、私が「一本松」を見に行った時の話。


震災前、高田には「高田松原」という海水浴場があり、夏になると多くの観光客が来たものだ。


高田松原には、何百本の松があり、海と陸の間にある「門」のような存在だった。


震災時、津波によりそのほとんどが倒され流されてしまったが、唯一、津波に負けずに立っていたのが
今の「一本松」だ。


今では、高田の象徴のような存在になり、それを一度見るために多くの観光客があしをはこぶようになった。


そんな多くの観光客の中に、五歳くらいの可愛らしい女の子と母親が「一本松」を見上げていた。


女の子の20倍はあるだろう「一本松」を見上げて女の子は不思議そうに母親に言った。

「なんで、写真を撮ってるの?」


周りの観光客は、スマホで「一本松」を撮っていた。


母親は、「思い出にじゃない?」と答えた。


女の子は、また不思議そうに母親に聞いた。

「何の思い出?」

母親はこう答えた。

「高田に来た思い出だよ」


女の子は、高田が津波で被害にあった場所で、多くの人が亡くなったということを母親から聞いていたのかもしれない。


女の子は、不思議そうに母親に聞いた。

「皆、もう、わすれちゃったの?」

母親は黙って「一本松」を見上げていた。


女の子が、なぜそう思ってしまったのかはわからない。


だが、幼い女の子に、「もう、忘れちゃったの?」と感じさせてしまう何かがその場にあったことは間違いないだろう。


女の子に、違和感を感じさせてしまった大人たちは、私を含め何かを間違ってしまっていたのかもしれない。

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