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日本で給料上がらず中国企業を目指しても、すぐクビになるかもしれませんのでご注意を

最近でもTwitterなどで「日本企業で働いても給料が上がらない。アメリカや中国の企業で働くとこんなに良いですよ」って内容の投稿を目にしたりします。

たしかに短期的な給料は良いかもしれないし、日本より働きやすいと感じる人も多いでしょう。でも、良いことだけだと思わないでください。中国企業で働くのは簡単なことばかりではありません。長時間労働と激しい競争にさらされることは何度かnoteで伝えてきましたが、解雇についての話題もよく目にします。

10月、テンセントのプラットフォーム・コンテンツ事業グループ(略してPCG)の社員が100人中40人レイオフされました。テンセントはみなさんにもおなじみな中国のジャイアント企業でその待遇の良さなどが日本でもよく報道されているかと思います。つい先日も優秀なエンジニアには年俸120万元(約2000万円)、さらに年間100万元(約1700万円)相当の従業員ストックオプションが与えられる といったことが日本の新聞社のニュースに掲載されていました。

また、12月1日には中国の動画プラットフォームの大手「爱奇艺(アイチーイー)」が大規模なレイオフを行うってニュースが注目を集めました。解雇率が20% - 40%にも達しているとの報道に対してのアイチーイーの担当者は回答を濁しました。ちなみに爱奇艺はMAUが約10億人、1億人以上の有料会員を誇る中国でのNetflix的な存在(ずっと赤字でしたが)。

この2つの企業のニュースは日本でも多少報道があったかもしれませんが、これ以外でもTikTokでおなじみのバイトダンスの教育事業のほか、Kwai、Baidu、NetEaseなどの大手企業も従業員の合理化や経費削減の兆しがあることが連日ニュースになっています。

中国の経済は日本と比べれば遥かに勢いがあるでしょうが、絶好調というわけではありません。特に市場を牽引してきた教育、ゲームが鈍化しているし、第3四半期の収益報告書では広告の成長が停滞していることが明らかになっていて、Tencentの広告収入の伸び率は2017年以来の低水準です。また、ECの分野ではトップ3のアリババ、JD、拼多多(pinduoduo)も純利益成長の低下と、まるで冬の時代が到来してしまったかのようだと悲観的な報道が目立ちます。

そして個人的に興味深かったのは、解雇された人たちの多くがSNSで赤裸々に情報を公開していること。爱奇艺のケースでは、入社して間もない試用期間の社員のほとんどが解雇され、試用期間中に解雇された社員がその体験を投稿しているのがたくさんあります。

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↑このように、bilibiliでレイオフされたで検索すると顔出しで赤裸々に話している動画の投稿も多数あります。

特徴としては、中間層(部長クラス)がより多くレイオフされたことに加え、長期間働いていて、年齢が高く、給料が高い従業員がレイオフされた層に多く含まれているといいます。以前はあった上級職の採用はなくなり、少し下のレベルの人を採用して内部に引き込む戦略に変わってきている。これは古いスタッフの高いコストを削減し費用対効果の高い新しいスタッフを吸収することを目的としています。

このようにスリム化効率化されていて人は減らされているのに課せられる目標設定は逆に厳しくなっている、福利厚生も悪化している、とのコメントがたくさんあります。例えば

・Baiduの社員の投稿:「人が辞めていくのを見るだけで、採用もなく、11月には誰も入社していない」「今は一人で2人分の仕事をしている」「予算が減らされ、評価指標が重くなったビジネスラインがあることを理解している」 
・テンセントのPCG事業グループの従業員の投稿:「今では部門全体が業績を争っていてKPIのプレッシャーは少し前よりもはるかに大きい」 
・爱奇艺の社員の投稿:「11月に掃除のおばさんたちがレイオフされ、ワークステーションにあったゴミ箱がなくなり、定点に大きなゴミ箱が設置されたことで、その違いを実感した。今年は様々な福利厚生が合理化されていて、たとえば以前は配られていた端午の節句の粽が後に抽選になった」
・NetEaseの従業員の投稿「午後のティータイム休憩に出ていたデザートのクオリティが低下した」

また、今年たくさんあった中国政府からの政策から影響を受けた企業や従業員の人たちがたくさんいます。例えば、中国政府からの「ダブル削減」政策の導入により、一部の大手インターネット企業の教育事業が大幅に強化されました。

当然教育ビジネス業界では大きなレイオフが多発です。ここでもテンセントの例を出しますが、11月にテンセントは幼児向けオンライン教育事業「Happy Mouse」を放棄し、これには1,500人の従業員が参加していたと明らかになりました(テンセントの関連担当者は、事業調整に基づきHappy Mouseは段階的に中止、Happy Mouse APPはサービスを継続すると公に回答したが)。

ここで解雇された従業員によると、政府による「ダブル削減」政策が導入された後、9月に社内でプロジェクトが中止になり、2ヶ月間我慢して子供向けの絵本や漫画に変化しようとしましたが資金が承認されず、プロジェクトチームは解散させられました。

ここでも興味深いこととして、ダブル削減でレイオフされた教師や教育産業の人たちに比べ、最近の大手IT各社の経営不調の現状や大手IT企業を解雇された人への同情が少ない気がします。それがなぜかというと、

・バブル業界で尋常じゃないほどの高給料
・経験や実績よりも評価は全て数字で勝負
・実業がないのに資本の力で他産業への参入が乱暴で市場の安定が潰される

などみんなの不満がとにかく多かったからです。

例えばずっと赤字だった爱奇艺はMAUが約10億人、1億人以上の有料会員があるのに今年の第三四半期だけでも17億元の赤字。CEOがコンテンツの供給があまり良くないと言ってましたが、ネットユーザーからは結構厳しく批判されていて、アクセス数や話題性でしかコンテンツの制作を判断してこなかったことが招いた大惨事とも言われます。

強烈なファンがいる芸能人を採用してひどい内容のドラマを作ってアクセスだけがあっても、けっきょく本当に大事にしなければいけないドラマを見る層が離れてしまいます。そしてこれをしばらく繰り返したら質の良くないドラマばかりになっちゃう。ドラマ好きの同僚の話をたくさん聞いていて、この話は長くなりますのでまたの機会に。

話が少しそれましたが、予期せぬ突然の政策決定によって影響を受けた当事者たちの苦労は相当なものでしょう。でも個人的にはダラダラと延命を続けるよりも新しいことに切り替えられることはポジティブなことも多いと思っています。レイオフにより可能性が薄いと判断されたビジネスラインが放棄されていることは健全な経営であり、今後各社がどこに注力していくかを明確化しているのを知っておくのは大切だと感じています。

テンセントの马化腾CEOは第3四半期の決算説明会で「将来的にはクラウド、マップ、CSIGビジネスグループなどの分野に注力するし、オンラインゲームへの投資をさらに進めていく」と述べました。 

Baiduは近年賭けてきたクラウドサービス、スマートドライビング、人工知能の事業に資金を集中させるといいますし、Kwaiはコアブランドの広告、ブランド構築、Eコマースの統合ソリューションと述べていました。そして大量レイオフを行った爱奇艺はVR(大丈夫か勝手に心配しています…)。

2021年の中国IT企業の共通キーワードは「従業員のダウンサイジング」だったことは間違いないと思います。中国IT企業たちは就職活動中の若者のメッカのように考えられてきましたが頻発した大規模なレイオフの影響は大きいでしょう。

そして、中国で働きたいって相談を受けることも多々あるのですが、良いところだけでなく、偏りなく情報を収集してから決断されることをおすすめします。そのために、あまり日本に伝わっていなそうな情報を今後も北京から発信していきたいなぁと思います。

(参考資料)


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