♯5 耳管開放症という障害。

初めまして。

耳の下に冷えピタを貼って、布団に入れた子の横で母が電話をする。
さっき行ってきた病院の話、評判の良い病院はどこか、この子は今耳を触っている。熱は何度か。色々。諸々。

明日、あっちの方まで行ってみようか。
明日お熱が少しでも下がったらバスに乗ってお耳診てもらおうね。
頑張った帰りは絵本でも買おうか、犬のおもちゃも買ってこようか。

私の記憶にある最も古い耳の感覚はズキンズキンと波打つ痛みに、片方の耳たぶが非常に熱く耳を触る手の冷たさに嫌な感覚を感じていた事。
そして今思い出すだけでも鳥肌が出てきてしまうほどに嫌な独特な音。

この音を言葉にして載せた時、どう書けばより伝わるのだろう。

濡れたティッシュを想像してみてほしい。
今あなたの手にはしっかりと水が滴るほどに濡れたティッシュがある。
そのティッシュを耳に押し当てぎゅっと握ってみてほしい。

プツプツと空気が、グチュグチュと水と圧に押されて出てくる音。

頬の内側、下の歯の奥歯より耳に最も近い箇所に響くグシュ、プツ、ココココココと低い音から軽い音に変わりながら聞こえてくる外界の音の種類が変わっていくこの世界。

唾を飲み込めばボコッとまるで耳の奥深くに空気を入れられ、耳の下が膨らんでしまった感覚。

あなたは今鈴の音を思い浮かべた時にそれは重い音だった?
それとも軽い音だった?
きっと一般的には高い音は軽く、低い音は重く聞こえるのだろう。
だから今思い出した音階によってこの意見は割れるだろう。

それは健康で耳管に問題がないからこその感覚だ。
私には同じ音階の音でも数秒ごとに音が変わる。


ピアノで五秒、ドーーーーー。

その五秒でさっき書いたココココココと空気が入る感覚と音がしたならば私に聞こえるピアノの音はドにはならない。
0.1秒単位で音がどんどん高くなって乾いた音に聞こえていく
その間流れているドーーーーはもう遠くの方に聞こえ、私が聞く主な音はココココココでしかない。

ココココココ
ドレミファソラシドドドド

極端に、けれど全く遠くない説明をするならばいい年齢になった私でさえこの説明しかする事ができない。

この説明を2歳の子が知らない大人に、恐怖の対象である先生にどう説明ができるだろうか。


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