♯26 耳管開放症という障害。

あたたかい場所

退院して早速向かった紹介先の病院。
駅の真前、一見小さな路面店。
ここも前と変わらぬオープン前の大盛況ぶり、ただ一つ大きく違うのは子供もいる、大人もいる、お年寄りもいる、とにかく老若男女偏ることなくいる。

前のところはお年寄りしかいなかったのにここは年齢問わずいるし、何よりこちらが恐縮してしまうくらいに看護師さんも受付も対応が良くて、病院なのに雰囲気がすごく暖かかった。

病院はどうしても負の感情が渦巻く所なのに、それが良い意味で全くなかった。
予約はしていた、少し遅れたけれど別に居心地が悪いところではないからそれも全く苦じゃない。

奥の診察室、ショートカットの綺麗な看護師さんが呼んでくれた。


『こんにちは』

椅子に座っているのは声の質からすでにわかる物腰の柔らかい男の人、私が渡した紹介状を片手にニコニコしている。
あぁ、そうか、人は人を呼ぶ。

この人の人柄がここの病院の雰囲気を作り出しているんだ。
とにかく患者が多い、まだ待合室に入りきらないほどに溢れている。
なのに焦った素振りもない、言わばマイペース。

『大変だったね、今は痛い?どうかな。
状態はすごくいいと思います』

耳に直接カメラを挿して状態を見る。

『手術する前のお話聞かせてくれる?』

何度も何度も何度も否定されてきた話を簡潔に簡単に。
この人はパソコンを打つ手をわざわざ止めて、私に体を向けて話を聞いてくれた。

これは賛否両論あるのを承知で言うが、この先生は何かを説明するとき、話をする時に決して大きな声で話さない。
ただつけているマスクをずらして口元を見せてくれる、音をこちらに向けてくれる。

それがどれだけ聞き取りやすいか。
口を遮るマスクによる音の遮断、これが私にとっては非常に厄介だからだ。

前の先生がこうだった、だからもう戻りたくない。

困ったように笑って首を傾げる、私の検査結果を画面に映して一呼吸。

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