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ボードゲームのバグとは何か、その対処法(What could possibly go wrong? An examination of Board Game Bugs)

ボードゲームの製造過程を外からうかがい知ることは難しい。私たちが遊ぶ1つ1つのゲームは、多くの作業を経て手元に届いている。ボードゲームデザイナーがゲームを構想することから物事は始まり、膨大なデベロップメントの作業が行われる。並行して、デザインの作業が進められ、最終的に製造に至る(製造も管理する必要があるだろし、その後には、配送という作業が待っている。)。もちろん、ローカライズについても、同程度に多くの作業があり、しかも、如何ともし難いことが増えるのは想像できる。

私たちボードゲーマーが、こういった過程があることを自覚するのは、ボードゲームに何らかのエラーが生じた時だ。ボードゲームそれ自体にエラッタがあればもちろんのこと、ボードゲームが面白いとは感じなかった時、Kickstarterで支援した商品の製造・配送がされない時にもそういった過程があることをふと思い起こす。ボードゲーマーは、エラーから帰納的にボードゲームの製造過程を知ることが多い。

本記事は、「ミレニアムブレード」や「Bullet♡」を出版しているLevel 99 GamesのBrad Talton氏が投稿した「What could possibly go wrong? An examination of Board Game Bugs」(直訳すれば、「何がうまくいかないって言うんだ。ボードゲームのバグ精査」ともなろうか。)を翻訳したものである。

ボードゲーム製造におけるバグの発生原因や予防策を比較的細かく挙げており、人によっては多少の参考になると思われる。この記事を読んで、当然じゃんと思う人もいるだろうし、わずかながら何かを発見する人もいるだろう。そういった感想の違いは、立場や重視している力点の違いにすぎないと思われる。

元記事は、以下のリンク先を参照されたい。また、本記事の翻訳・公開についてはBrad氏の許諾を得ている。なお、ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリー機能を利用させていただいた。

ソフトウェアの話にあるように、ボードゲームやカードゲームにおいても、不意に発生してしまう"バグ"というものがあります。これらの製品の多くは複雑で、変動する要素があるので、特に次のような問題を避けるために注意を払わなければなりません。

バクとは何か。

なぜ、バグが発生してしまうのか。

どうやったらバグの発生を避けることができるのか。

そして、バグが見過ごされた場合に、どんなサポートを皆さんに提供することができるのか。

ことわざにもあるように、「百の治療より一の予防」(an ounce of prevention is worth a pound of cure)です。こういった誤りを理解することによって、エラーに用心して対処することに役立てることができます。それに、デザイン、デベロップメント、製造の過程を改善することにも役立てることができるのです。

問題が生じた時、会社としての明快な方針があれば、あまりお金をかけることなく、一貫して、その問題に対処することも確実にできますしね。

曖昧さ

ルールの読み方(reading)が大まかになっていると、カードやルールの展開の仕方が変わってしまう可能性があります。ルールの読み方が厳密であると、コンポーネントの設計意図とは異なる結果をもたらす可能性があります。曖昧さは、プレイヤーが解決することができないプレイ上の問題を生み、ゲームの流れやゲーム体験を損なう可能性があります。

理由:基本的にいえば、テンプレート化とは、"ゲームのルールを言語で表現する方法"といえます。曖昧さは、大抵の場合、テンプレート化の質が低かったり、テンプレート化の実行が不十分であったりすることが原因(function)となっています。

予防策:曖昧さを避ける最も良い方法は、あらゆる能力レベルに応じた校正者を取り入れることです。そして、ゲームのコンポーネントを使って、そのゲームを遊んだことがない人や、ゲーム一般に慣れ親しんでない人たちに、ブラインドテストを行ってもらうことでしょう。テンプレートを作成したら、プロジェクトの編集者(Editor)は、厳格にテンプレートに基づいて実行するべきです。

バグが起こったら:曖昧な点を解消するために、FAQを公表し、デザイナーの意図を伝えるべきです。

ゲームバランスのエラー

対戦型のゲームでは特にそうですが、プレイヤーが同等のプレイ条件で遊べることが重要となります。Level 99 Gamesでは、非対称性や固有能力といったメカニズムが大好きですので、バランス調整のために一層の注意を払わなければなりません。

バランスエラーであることを宣言する際には、注意を払わなければなりません。バランスエラーは、印刷前にされた(pre-press)、文章やバランス要因がコンポーネントから省かれて、その結果、ゲームバランスを一変させるような、予期しなかった効果やインタラクションが発生した際に起こるものです。もし、ある要素が意図したとおりに印刷されていたが、予想以上に強くなったり弱くなったりしたのであれば、それはバランスエラーではありません。単にバランスが悪いだけです(もしくは、特定のメタゲーム(ゲーム外の要因)が原因となった予測不可能な変動(vagaries)というだけです。)。

理由:バランスエラーは、ゲームのデータベースから文章が正しく取り込まれなかったり、印刷前の設定段階で文章や数値が誤って変更されたりした場合に起こります。大抵は、ゲームプレイ自体に変更はありませんが、このような変更や削除によってゲームバランスが変わってしまいます。

予防策:印刷前のカードを作成する際に、できる限り自動化を行って、手作業による修正やデータ入力を最小限にします。デベロップ作業担当者が校正者と一緒にカードを精査できるようにして、ゲームのデータベースと対照して各カードにエラーがないか(integrity)照合するためのチェックリストを作っておきます。

バグが起こったら:バランス的にあまりにも弱すぎる要素であれば、特に行動をする必要はありません。バランス的にあまりにも強すぎる要素であれば、対戦環境からその要素を禁止すべきでしょう。この使用を禁止することは、FAQを通じて公表されるべきです。この要素は、将来の版においてバランス調整が施されるかもしれませんが、同じ版の再印刷時には変えるべきではないでしょう。

お客の混乱

このバグは、製品について何か混乱がある場合に起こるものです。約束を果たす(deliver on)のも重要ですが、何をお客様に届けているのかを伝えることも同じくらい重要ですよね。もし、箱の中のコンポーネント(内容物)がどんなものかとか、それがいくつあるのかとか、どうやって1つのゲームに拡張が統合されているのかとか、特定のコンポーネントがどの箱に入っているのかとかが正確にわからないと、ゲーム体験がたちまち損なわれる可能性があります。

理由:多くの場合、製品にコンポーネント一覧(sheet)がなかったり、コンポーネント一番に誤記があったり、または、特徴として宣伝していたある要素(piece)が、完成品(the final game)にはなくなっていたり、完成品まで隠されていたりする時に、この問題が生じます。コンポーネント一覧が詳細でない時にも起こり得るのです。

予防策:慎重にコンポーネント一覧や広告用材料を作成して、ゲームの最終コンポーネントを反映させるようにします。デジタルプルーフの段階で、綿密にコンポーネント一覧を確認して、箱の中の全ての品目が揃っているか、約束していたゲームの特徴を満たしているかを確認します。さらに、ある要素が他の要素の裏面に印刷されていれば、コンポーネント一覧において、明確にどのような内容が(intellectual)印刷されているのかと対比して、何個のコンポーネントが実際に(physical)含まれているかを説明します(4タイル、片面に2つの都市・合計8都市)。

バグが起こったら:FAQを公開して、混乱の原因に対応します。次の印刷の際にはコンポーネント一覧を改善すべきでしょう。

編集上の誤り

ゲームには多くの文章があります。句読点、スペル、構文(太字やイタリックの使われ方が統一されているかとか)の誤りは、否定的な体験を伴う可能性があります。最悪の場合、曖昧さや矛盾を招くかもしれません。

カードが誤ってテンプレート化されたとか、異なる裏面、アート、フォント、シンボルがカードにあるとかといった問題も編集上の誤りといえます。

理由:プロの編集作業が欠けていたり、十分な校正サポートが得られなかったり、テンプレート化のスキームがあまりにも複雑であったり、編集チームにうまく伝わってなかったりするのが、この誤りの原因となります。

予防策:編集作業は複数の段階に分けて行われ、各段階において、異なる種類の特定の問題を点検を行うことになります。その上、スペルや文法の自動チェック機能は、ゲームのあらゆるコンポーネントの部品において使用されるべきです。最後に、可能な限り、文章の書式は、自動のスタイル設定(GREPスタイル)を使用して行われるべきです。

バグが起こったら:編集上の誤りがゲームプレイに影響するのであれば、エラッタを公開して修正されるべきです。そうでなければ、次の印刷時に修正するべきでしょう。

グラフィック上の乱れ

このバグは、製品のグラフィックデザイン、その製造又はそのテンプレート化の過程から生じた不自然な体裁(artifacts)が、完成品に含まれている時に起こります。また、画像が変更されていたり、誤って切り抜いていたり(clipped)、にじんでしまったり、誤った色のフォーマットになっていたり、印刷時の解像度(resolution)の問題だったりする場合にも起こります。

理由:ほとんどのグラフィック上の誤りは、アートファイルの破損、誤ったカラープロファイル、380dpi未満の解像度の画像、フレームの設定やクリッピングマスクが不適切といった、技術的なグラフィックデザインの不具合により生じます。

予防策:こういった問題は、編集の段階で発見することができますが、最善の予防策はコンポーネントやアートワークの形式を標準化することです。標準化されたコンポーネントを使えば、システム上の誤りは劇的に低下するものです。

バグが起こったら:この問題がゲームプレイに影響を与えるのであれば、グラフィック上の乱れは編集上の誤りとみなして、適切に対処すべきです。そうでなければ、次の印刷時に修正を加えるべきでしょう。

不適切/無思慮なコンテンツ

ファンタジーやフィクションの領域で仕事をしていますが、現実の世界に基づいた半現実的な個人、人種、出来事、ジェンダー、文化を描くこともよくあります。こういったことを行う際には、当然払うべき敬意をもって扱うことが重要ですし、調査し、必要があれば許諾を得た上で、適切に描くことが重要です。ゲームの内容が、箱の側面に記載することになる年齢区分に合致しているかにも注意を払う必要があります。

理由:世界は常に変化をしていますし、私たちそれぞれは1つの世界の見方しか持てません。無害な冗談、パロディ、オマージュと思えるものや、思春期のユーモアだろうと思えるような事柄であっても、他者にとっては不快で侮辱的であるかもしれません。

予防策:問題のある部分を発見して気づかせてくれる、潜在的なプレイヤーとなる人たちが集まる多様なコミュニティに作品を見せればよいでしょう。特定の文化、サブカルチャー又は伝統を扱う際には、取り組んでいる要素に関する専門家に必ず相談しなければいけません。

バグが起こったら:謝罪を公表して、次の印刷時には問題を解消することになります。

表記の不統一

同じような効果は同じような方法で記載され、同じようなコンポーネントが使用されるはずです。全く同じ効果が複数の方法で表されていたり、キャラクターの名前が別の場所では違った名前になっていたりすると、プレイ体験を混乱させ得るような曖昧さや疑問が生じてしまいます。

理由:曖昧さのところで話したのと同様に、表記の不統一は、主にテンプレート化の誤りから生じますが、時には他のコンポーネントや印刷物の間のわずかな変更点から発生することもあります。

予防策:編集者は、ゲーム用語のテンプレート化を学ぶべきです。自動で表記のゆれを点検してくれるデータベースの利用も、予防への大きな一歩です。さらに、デジタルプルーフの段階では、版違いのコンポーネントとの間の統一性を図るために、(※プルーフ前に)印刷されたそのほかのものと見比べて、ゲームを見直すべきでしょう。

バグが起こったら:表記ゆれが曖昧さを生み出しているのであれば、その後にFAQを公開すべきでしょう。そうでなければ、次の印刷時には修正を施すべきです。

コンポーネントの不足

これは、計画していたコンポーネントが完成品に封入されなかった場合に起こります。カードや冊子のような重要なコンポーネントであることもあれば、仕切り、トレイ、リファレンスカード、ポスターといった見栄え重視の物であることもあります。

理由:特に長期で大きいなプロジェクトにおいては、製品の範囲が変わることがあるかもしれませんし、工場との不正確なやりとりで製品の性質が間違って伝わることもあるかもしれません。時には、プロジェクトの計画段階がいびつで(malformed)、プロジェクトのお偉いさんたちが(leadership team)、あえて完成品に含むことにしたコンポーネント全てについて完全には理解してなかったりします。

予防策:計画段階をしっかり踏んだ上で、製造、デベロップ、計画チームの間の明確なコミュニケーションが行われることが重要となります。デベロップ中の明確なデータベースが重要なのと同じくらい、この問題については、しっかりとした検査(White proof)が重要となります。各コンポーネントは、間違いなく必要であると評価されなければなりません。要は、シンプルなゲームほどエラーの余地が少なくなるのです。

各デベロップチームは、一度に1つのプロジェクトにのみ注力するべきです。つまり、注意が分散すると混乱のもとになりますし、より多くのエラーにつながるのです。

バグが起こったら:その製品がコンポーネント不足のまま輸送されれば、コンポーネントそれ自体の評価が必要となります。製品に重要なコンポーネントであれば、合理的な範囲内で代替品を製造して収めるべきです。重要ではないコンポーネントであれば、謝罪や一部の返金で収めるべきでしょう。バグは、次の印刷時には修正すべきです。

製造上の不具合

時には、製造中に、エラーが製品の印刷全体に影響を与えることがあります。このバグは、パンチボードがくっついているというような、大きいミスプリントの形かもしれませんし、10デックごとにカードに汚れがついているのと同じくらい小さい問題かもしれません。

カラーマッチング、誤った仕上げ(finish)、不統一なコンポーネントの大きさも、製造上の不具合に含まれる問題です。

理由:多くの場合、製造上の不具合は、休日のせいで突貫工事で製造されたり、最低限の予算で製造したり、コンポーネントの性質や量が誤って工場に伝えられたりする時に起こります。

予防策:デベロップチームにとって良いことと同じように、工場側も一度に1つのプロジェクトしか作業しないようにするのが良いのです。同じ工場で並行して複数のゲームを製造するのは避けましょう。

工場がゲームコンポーネントについて理解しているか確認しましょう。しっかりとした点検とデジタルプルーフが不可欠です。

最後に、ファクトリーファースト(製造ラインを離れたサンプル, ※要は、生産前のサンプルのことかと思われるが、a factory firstと呼ぶのかまでは判明しなかった。)は、ゲームが工場から出荷される前には常に要求すべきです。特に複雑なゲームにおいては、いくつかのサンプルをお互いに点検すべきです。輸送や配送の準備やコンポーネントを点検のために、箱詰めや箱を振ってテストする映像を工場に要求すべきです。

バグが起こったら:工場側と共同して、不具合の原因を見定めます。もし、工場側に過失があるのであれば、工場側でできる限り問題を是正するのが期待されます。もし、不具合が私たち側のミスにより生じているのであれば、私たちの負担のもとで是正されるべきです。

コンポーネントの不足と同じように、そのパーツがどのくらい重要なのかを考慮しなければなりません。重要なコンポーネントであれば、交換や再発行をしなければなりません。重要ではない不具合であれば、謝罪や一部の返金で収めるべきでしょう。いずれにせよ、将来の印刷時において、このバグは修正されるべきです。

以上

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