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インタビュー: Fabio Lopiano(Merv, Calimala, Ragusa), ゲームデザインのイノベーションについて

かなり前に翻訳したが、公開せずにいた没記事を手直ししたものである。先日、「サポテカ」がテンデイズゲームズから発売され、公開するには良いタイミングと感じた。本業が忙しく、平日朝30分ほど設けている翻訳の時間もとれないことが多いため、箸休め的にご覧いただければ幸いである。

本記事は2021年8月6日にDiagonal Moveにて掲載されたFabio Lopianoのインタビュー記事の和訳である(2021年9月11日にBGGにも転載されている。)。

Fabio Lopianoはイタリアのミラン在住のボードゲームデザイナー。「Calimala」(日本語版は未発売)が2016年にHippodice賞を受賞したことから、ボードゲームデザイナーとしての活動を始める。
過去作として、「Ragusa」(テンデイズゲームズから和訳付き輸入版が流通)、「メルフ」(アークライトから日本語版が発売された)がある。また、最新作として「サポテカ」(テンデイズゲームズから販売)が出版され、2022年にAlley Cat GamesからAutobahn(Nestore Mangoneとの共作)の出版がアナウンスされている。今、続々と新作が出版されていて注目を集めているFabio Lopianoのインタビュー記事となる。

翻訳に当たり、作品名は、日本語版が出ていればその表記に従い、日本語版が出ていないもの(和訳付輸入版も含まれる。)は英語表記としている。また、地名を指す場合は、一般的な表記に従ってカタカナとしている。ただ、本記事では、地名としては「メルブ」と表記するのが一般的なようであるが、作品名は「メルフ」となっており、混乱の元となった。訳していて気づいたのだが、修正するのに手間がかかってしまう。リーダーフレンドリーではなくなってしまったが、ご容赦いただきたい。

ヘッダー画像は、BGGから引用した(クレジット: 左から、W. Eric MartinW. Eric MartinIan O'Toole)。元記事のリンクは以下を参照されたい。

※インタビュアーをDM、Fabio LopianoをFLと記載する。

メルフ」、「Calimala」、「Ragusa」のデザイナーであるFabio Lopianoが、Diaonal Moveに来て、ゲームデザインにおけるイノベーションについて語ってくれました。

DM: こんにちは。今日は来てくれてありがとうございます。まずは、あなた自身のことやゲームデザインを始めるようになったきっかけについて少し教えてくれませんか。

FL: こんにちは。Fabio Lopianoといって、ボードゲームデザイナーをしている。長いこと、ボードゲームを遊び続けてきたけど、ほんの数年前にゲームデザインを始めたところだ。現在はイタリアのミラノに住んでるけど、この20年くらい、数年ごとに国々を移住してきた。

2013年に、パリからロンドンに移り住んだ(Facebookのためのソフトウェアエンジニアとして働くためだ。)。ロンドンでは、LondonOnBoardというMeetup(※共通の地域や興味に関するコミュニティを簡単に始め、運営することを可能にするプラットフォームサービス)グループに参加することにした。LondonOnBoardは、巨大なボードゲームコミュニティで、ほとんど毎日、市内のあらゆる会場にボードゲームをするために集まっている。そこで、何人かのゲームデザイナーと出会って、彼らのゲームのテストプレイをするようになった。しばらくして、試しに自分でゲームデザインをしてみたところ、それが最終的に「Calimala」になったんだ。

クレジット: W. Eric Martin

DM: これまでに発表されたあなたのゲームでは、歴史的な設定の中の建物や交易(trading)をテーマとして扱う傾向が間違いなくあると思われます。あなたが興味を抱くテーマとはどんなものなのでしょうか。

FL: いつも歴史に興味を持つようにしていて、特に、歴史のあまり知られてない面に興味があるんだ。ノンフィクション以外の本を読むことが滅多にない(almost exclusively)ので、そのほとんどが歴史、科学、経済の分野になる。だから、時々、あまりよく知られてない面白い歴史的事実に出くわすと、自分のゲームの設定としてそれら(※歴史的事実)を使おうと思っている。

初めて製作したゲームである「Calimala」についてみると、少し風変わりなんだけど、奇抜というわけでもない感じの作風なんだ(this was a little different but not too much)。「Calimala」の設定はそんな新しくない。ただ、フィレンツェやルネサンスについてのゲームは既に多く出版されているのに、その裏の実際の経済をテーマにしたゲームは、見渡した限りなかったんだ。

フィレンツェの富は、カリマラのギルドが推進した国際的な羊毛貿易から生み出されていた。貿易により蓄えられた巨万の富を使い、フィレンツェの貴族(families)は銀行に転身し、国内外に金融サービスを提供するようになった。莫大な財源を基に、貴族たちは、教会を建てたり、芸術家を支援したりして名声を競い合うようにもなった。それと同時に、市議会の議席を獲得して市政を掌握しようとしていた(これと大体同じようなことが、ゲームでも起こるようになっている。)。

ラグーザ(現在のドゥブロブニク)の歴史は、私にとって面白いものだった。学校では、海洋共和国(Maritime Republics)について学んだけど、ラグーザのことは全くと言っていいほど触れられなかった(ヴェニスやジェノバと並ぶ最も重要な共和国の1つであったにもかかわらず。)。この理由は、私が学校に通っていた時、ドゥブロブニクはいまだ鉄のカーテンの向こう側に属していて、その結果、当時の歴史書からほとんどの記述が抹消されていたからだろうと思う。

そういった経緯から、かなり後になってラグーザという名前を見かけると、その名前を知らないことが変だなと感じるようになり、ラグーザに関する文献を少し漁った。その後、ラグーザを次のゲームの舞台にしようと決めた。

同じように、メルブの歴史も興味をそそる題材だった。メルブは世界で最も栄えた都市の1つであったと学んで驚いたけど、ほとんどの人がメルブを聞いたことがなかったんだ。繰り返しになるけど、学校で習う歴史のほとんどはあまりにも西欧中心(※東欧であるドゥブロブニクが知られていないので、Westernは「西洋」より狭い範囲である「西欧」を意味している考えられる。)であるのが原因なんだ。

DM: あなたのゲームには、革新的な要素をいくつか含んだ形で、複雑にメカニズムが重ね合わされています(contain intricate layers of mechanisms)。「Calimala」のアクション選択メカニズムをどのように開発したのか教えていただけませんか。

「Calimala」の当初のアイディアは、毎回のゲームで異なるアクション選択システムが搭載されていることだった。つまり、"標準的なオープニング"になってしまうセットアップを避けるようにした上で、ゲームごとに取り得る戦略が十分に変わり、プレイヤーがボードを見て、与えられたボード上のセットアップにおいて最善となる戦略が何かを見つけるようにしたんだ。

最初のバージョンでは、8つのアクションタイルを円状に配置して、プレイヤーが2つのタイルの間にトークンを置き、両側のアクションが使えるという感じだった。結局、9番目のタイルを中央に固定して、円状の配置から3×3のグリッドの配置に変更した。

デザインのプロセスは何度も何度も繰り返し行われ、長期間に及んだ。だいたい2年ほど経ったところで、テストプレイのために、二、三の月例会にプロトタイプを持ち込んだんだ。最終的に、ダウンタイムを減らし、各プレイヤーの手番に全てのプレイヤーが関与するように、既にトークンをスロットに置いたプレイヤーのアクションが発動する(the triggering of actions for previous players)というシステムを導入することにした。

最も大きな進展は、決算トリガーだった。当時、抱えていた2つの大きな問題を解決する、一石二鳥なものだ。問題の1つは、アクションスロットに多くのディスクが置かれてしまうと、(※他のプレイヤーにより発動する)アクションの連鎖が手に負えなくなってしまったことだ。もう1つの問題は、様々な場所でエリアマジョリティを行うが、得点計算のタイミングをいつにするのがよいか決めねていた。良いアイディアというのは、一方の問題を他方の問題解決に利用するというものだった。4番目のディスクがスロットに置かれて積まれたらすぐに、1番下に積まれているディスクはアクションを行わず、その代わりにエリアの得点計算のトリガーとして使われるようにした。最後には、エリア得点の順序をセットアップ時にランダムに決めるようにしたら、戦略がアクションタイルやセットアップに左右されるだけでなく、得点タイルの並んだ順序によっても左右されるので、ゲームのリプレイ性が飛躍的に高まったんだ。

クレジット: W. Eric Martin

DM: 2作品目となる「Ragusa」は、プレイヤーが市壁を建設することで、ワーカープレイスメントに独特のひねりを加えたのが特徴的でした。このゲームがどのようにデザインされたのかもっと教えていただけませんか。

FL: 「Ragusa」では、「Calimala」のいくつかのアイディアのを更に前進させようとしたんだ。例えば、プレイヤーのトークンを2つのアクションタイルの間ではなく3つにしてみたり、プレイヤーができるアクションの種類や勝利点を獲得する手段を増やしてみたりした。そこで、リソースマネージメント、セットコレクション、壁の建設、市場の操作等といった要素を付加していった。

これら全ての要素は、テーマに沿ったものである必要があったので、(※ラグーザの)都市の歴史や経済に関する文献を読んで、近くにあった銀山、石油やワインの交易、市壁や塔等について学んでいった。できる限り多くの要素をデザインに取り込もうとしつつ、これらの要素が相互に関連して、一定の一貫性が保てるようにした。

ただ、あまりにもこれらのアクションを相互に連動するようにしてしまったせいで、セットアップを完全にランダムとするのはもはや困難となった。ランダムなセットアップでは、ゲームバランスが崩壊したり、ランダムに設定された、とある場所が他の場所よりもあまりにも強くなったりしてしまう。そこで、固定マップにすることにしたんだ。

他方、このゲームはある種の混沌とした(chaotic)側面を持っている。要するに、最初に建てられる家の順番という些細な違いが、異なるアクションが発動されるというだけでなく、前ラウンドで建てられた家が新しく建てられる家の配置場所に影響を与えるという家の配置ルールも相まって、中盤から終盤までのゲーム展開に多大な影響を与えることとなった。

クレジット: Diagonal Move

DM: あなたの最新作は「メルフ」となります。「メルフ」では、利用可能なアクションが、格子状のボードのワーカーの位置とプレイヤーが建設した防壁(テーマ的には市壁)の位置の両方に応じで変化します。このメカニズムは、あなたの旧作で実装したものを自然に発展させたものでしょうか。また、ゲームデザインに着想を与えたものが何かについて教えていただけますか。

「メルフ」は長く複雑な進化を遂げたゲームで、現在のメカニズムになるまで様々なものを試したんだ。

いわば、これはテーマが第一にあったゲームなんだ(theme first game)。当初から考えていた要素がいくつかあった。キャラバンが街を通りながら商品を運んでくるとか、壁を建設してモンゴル人の襲撃から守るとかみたいな要素だ。モスクや図書館といった要素も実装したかった(メルヴは、当時の重要な学問の中心地で、高名な学者たちがそこで学んでいた。)。

資源を集めるターンがあって資源を使うターンがあってといったシステムを設けたくはなくて、その代わり、一定量の資源が各ターンで入手可能となると同時に、プレイヤーが効率的に資源の使い道を見つけなければならないというものにしたかった。プレイヤーが得る資源の種類や数は、いかに上手く建物を格子状のボードに置くかにかかっている。

当初は、街を練り歩くキャラバンが、プレイヤーがそのターンで使う資源を落とすといった構想だった。これはちょっと厄介なものだったので、もう何度も何度も試行錯誤を繰り返すことになった。今のメカニズムは、先の構想をより一層抽象化したものと考えることができる。ミープルを使って行や列を選択すると、まるでキャラバンがその通りを抜ける案内をして、キャラバンが立ち寄った家に対応した資源を置いていってくれるようにみえる。

DM: 今までのあなたのゲームには、アクションを行うと、他のプレイヤーの場所を使うことができたり、手番外で資源を生み出すことができたりする形で、他のプレイヤーに影響を与えるといった特徴があります。あなたが興味を持っているインタラクションは、どのような目的があるのでしょうか。

FL: 私は、あまりに激しい対立を生んだり、"ぶっつぶしてやる"(take that)的な要素があったりしなければ、インタラクションの強いゲームが好きだ。ご指摘の特徴は、好ましい(positive)インタラクションを生む可能性があるので、ポードゲームにおける私の好きなコンセプトの1つといえる。

この特徴により、プレイヤーは、テーブル上のみんな動きを気にかけなければならなくなるし、とても面白い選択が与えられることになる。まず、プレイヤーは、自分の行う特定のアクションが、その他のプレイヤーよりも有利になることを確認しなければならなくなる。次に、ほかのプレイヤーのアクション(によって得られるもの)から、より多くの利益を得るために、自分の戦略を適合させる道筋を検討するようになるかもしれない。このことにより、柔軟性をもって、他のすべてのプレイヤーのアクションに適合させなければならなくなるので、ゲーム開始時の戦略を念入りに選んだ上で、ゲーム終了時まで徹底的に貫き通すといったことができなくなる。

クレジット: Diagonal Move

DM: あなたのゲームのインタラクション性(インタラクションの特徴)を考慮すると、少ないプレイヤーの数にはどうやって対応したのでしょうか。

FL: 私の最初の2作品は、プレイヤー数の多い場面を対象としていた(「Calimala」も「Ragusa」も両方とも5人で遊ぶのが好ましいと思う。)。2つのゲームとも、他のプレイヤーから受ける副次的な影響(side effect)に重きを置いている。

「Ragusa」の2人用ルール(version)は、プレイヤーごとに"パワーハウス"を導入することで、わずかに異なる挙動をさせて、複数の問題を一挙に解決しようとした。

"パワーハウス"を配置すると、(そのヘックス上の家が誰のものかにかかわらず)置いたプレイヤー自身のために全てのアクションが発動する。もし、もう相手が3つの家をそこに置いてしまっていたとしても、"パワーハウス"を置けば、(自分のために)4つの家が起動することとなり、相手は何も得ない。このことで、プレイヤーは、過剰な特化戦略をすることができなくなり、ゲームの後半になっても、スペースに家を置くことも悪くないって思わせることができる。

さらに、"パワーハウス"は、3番目の色として扱われ(※各プレイヤーと同色としては扱わない)、市壁に沿って配置しなければならないので、壁の連続性を断つことができる(そうしないと、プレイヤーは、お互いの家に塔を配置して、双方とも、最も長くなった壁に応じた理論上の(potentially)最大得点を取得するだけになりかねない。

最後に、各ヘックス上には1つしかパワーハウスを置くことができないので、更なる緊張感も加えてくれる。つまり、パワーハウスを置かないでいれば、より多くの家を起動させるようになるかもしれないが、あまりに長い間置かないでいると、相手が先にパワーハウスを置いてしまう。こういったチキンレースの要素を導入している。

こんなインタラクションのあるゲームでもあるので、Ragusaのソロルールは3人ゲームを想定した上で(simulate)、2つのオートマを導入し、1個1個の家の配置が、そのほかの全ての家の効果を起動させるといった、よりフルゲームに近い体験を提供するようにしている。

ゲーム開始時にオートマの家の配置を"予約"しておくことで、各オートマが理にかなった(sensible)戦略を確実にとるようにしている(各オートマカードには、オートマ相互の行動が筋が通ったものとなるように、あらかじめ3つの家の配置順序が記載されている。例えば、最初はぶどう園、次にワインを製造し、最後にそのワインで支払えるように市場から商品を得る、となっている。)。1個1個の家が配置されると、カードがシャッフルされるので、プレイヤーから見れば、最終的には対戦相手がそのようなアクションを行うことまではわかるが、正確なタイミングを知ることができないため、状況に応じて戦略を適切に適合させなければならない。

「メルフ」の2人用ルール(ソロルールも同様)は、双方のプレイヤーが操作する3番目の色を混ぜてプレイすることになる(最初のプレイヤーが行か列を選び、もう1人のプレイヤーがどの家を建てるか選ぶ。)。これにより、2人のプレイヤーにとって手番順が非常に重要となり、手番プレイヤーの動き(manipulation)がゲームの最も面白い点の1つとなる。プレイヤーが使いたい行か列をブロックするために、対戦相手は中立のミープルを置いてくるので、プレイヤーは後手番になりたいとは思わなくなる。さらに、追加の中立の建物が置かれることで、もっと多くの影響力を得るために、起動することができる列や防衛すべき家に関して、双方のプレイヤーはより多くの(※関わりをもつ)機会を持つことができる。

そして、ソロルールは、自身の駒を動かすオートマ1つと(プレイヤーとオートマの)双方が共有して動かす、中立の3番目の色の駒を使って、2人用ルールを模している。

クレジット: Diagonal Move

DM: 比較的複雑なゲームのデベロップやテストプレイの過程で困難に直面したことはありますか。もしあれば、詳しく教えてください。

FL: もちろんあるさ。ボードゲームデザインに関する"作業"のほとんどは、テストプレイに費やされる。テストプレイをするたびに、問題点が明るみとなり、おそらく問題解決を見つける手助けとなっている。

テストプレイ(とテストプレイヤー)には、異なるタイプがある。その時点で、どんなタイプのテストプレイが必要とされるのかを知るのは重要なことだ。

デザインプロセスの初期段階は、信頼しているデザイナーグループでテストプレイを行っている。そのグループ内では、非常に出来の悪いゲームで遊ぶことを期待していて、うまく機能しないもの、改善できるもの、見込みがあるもの等について目を光らせている。

もし、ゲームが、このグループの何回かのテストプレイに生き残れることができたら、普通のプレイヤー(例えば、ゲームデザイナーでない人たち)とのテストプレイを開始する。

テストプレイには、重要な2種類のものがあって、"新規プレイヤー"(例えば、そのゲームを前に遊んだことがない人)とのテストプレイと"経験豊かなプレイヤー"(例えば、そのゲームの初期バージョンを既に遊んだことがある人)とのテストプレイがある。

前者の方が難しい。プレイヤーがゲームを初めて試してみて、次も(in the future)またそのゲームを遊びたいと思ってくれるほどの良い体験をしてもらえてるか確認することが重要だ。この種のテストプレイは、十分に良いといえる状態になったゲームで行われることが望ましい。あまり直感的に理解できなかったり、難しすぎたり(もしくは簡単すぎたりなど)するルールを見つけるには最適だ。

逆に、経験豊かなプレイヤーとのテストプレイは、プレイヤー自身が何回も同じゲームで遊んでいるので、それでもなお、何か新しかったり面白かったりする部分を見つけたり、しばらく遊んで飽きなかったりるのを確認するために重要となる。ルールの微調整やバランス調整のためにも有用だ。

ゲームの複雑さが増すほど、こういったテストプレイを行うのは難しくなる。そして、あるテストプレイの中で見つけ出したいもの(※獲得目標)が何かによって、テストプレイ中にいろんな方法で介入することもなくはない。例えば、最初の数ラウンドがどのように機能しているかとか、いくつかのルールが直感的かどうかとかなどについて調べたければ、介入することなく観察しようとはしている。けど、もし、中盤から終盤にかけて起こるかもしれない特定の状況について調べてみたいと思っていたら、あちこちの場面でプレイヤーに声をかけて(nudge)、調べたい特定の状況になるように序盤の動きを示唆することもある。

ここ数年のうちに、ほとんどのテストプレイは、Tabletop Simulatorに移行した。そういった中では、一層困難となったことがあったり、時間の経過が信用できないものとなったりしている(いくつかの動きは早くなり、ほかの動きは遅くなったりしていて、実際に行われるゲームの長さを測るのが困難となっている。)。また、非言語的なコミュニケーションがないせいで、遊んでいる間にプレイ体験を理解するのがとても難しい。ゆっくりと元の状態には戻りつつあって、対面でのテストプレイが復活しつつある。

DM: 同じように、出版社を探す際に、革新的だったり、"より重めの"ゲームを好む層を対象とした(aimed at the ‘heavier’ end of the gaming spectrum)ゲームが直面する固有の困難というものはあるのでしょうか。

FL: ゲームにおいて、革新性というのは重要なことだ。近頃は、その年に出版される数千ものゲームと差別化するために、それぞれのゲームに何か新しい要素を取り入れるべきだといわれている。ただ、革新性があることと同時に、親しみやすさというのも必要不可欠だと思う。多くの新しいコンセプトがゲームに組み込まれていたら、ほとんどのプレイヤーにとって、受け入れ難いものになる。プレイヤーが圧倒されないように、馴染み深い要素に、一、二個の革新的なアイディアを混ぜ合わせるのが重要かな。

重めのゲームは、軽いゲームよりも、契約から出版までに長い期間を要する。こうなってしまうのは、開発期間が余計にかかってしまうからという側面がある。テストプレイは長くなりがちで、それゆえ形にしていく作業も困難となる。それに、修正するのも大変な細かい問題がたくさん出てくる。特に、相互に作用する要素が多くあるようなゲームであれば、なおさらそうで、小さな変更を加えれば、どこかほかの部分に意図しない結果をもたらしてしまう。

また、アート、コンポーネント、ルールブック等の製造前に必要な様々な作業にも、少し時間がかかってしまう。
しかし、より重要なのは、多くの出版社が、大きめのゲームに対して少ない固定のつながり(a fex fixed slots in pipelines)しか持たないけれども、小さいゲームに対しては、より柔軟につながりを確保する傾向にあることだ。

そうすると、軽めのゲームであれば、契約してから約12か月後には出版されるのに対して、中量級のゲームは少なくとも18か月を要し、重めのゲームになると、簡単に2年から3年以上かかる可能性がある。

クレジット: Diagonal Move

DM: 現在、制作しているゲームについて何か教えていただけませんでしょうか。

FL: えぇ、今後二、三年以内に発表する準備をしている作品がいくつかある。

「サポテカ」は、Board&Diceから11月に発売される。中量級のユーロゲームで、簡単なルールと面白いエンジンビルドが特徴となっている。

Nestore Mangone (「ニュートン」や「Darwin’s Journey」(※原文では、Darwin’s Voyageとなっているが誤記)の共同デザイナーでもある。)と共同して、ドイツの高速道路システムをテーマにした「Autobahn」という新しいゲームを制作している。少し重めの経済ゲームとなっていて、来年の早い段階にKickstarterを予定している。それに、2022年のEssen Spielに間に合うように準備しているよ。

最近では、Mandela F. Grandon(「グラスゴー」、「Overstocked」のデザイナー)とも一緒に二、三個のゲームに取り組んでいる。その中の1つは、2023年のEssen Spielにスケジュールを合わせてるんだけど、まだアナウンスされてないみたいだ。

だから、今のところ、1年に1作品のペースを保とうとしているところさ。

DM: 複数のメカニズムを重ね合わせたようなゲームの制作に興味を持つ新人デザイナーに向けて何かアドバイスをお願いします。

1つアドバイスをするなら、イカしたもの(cool things)を取り除くのを恐れないことかな、私のほとんどのゲームについていうと、初期のメカニズムのアイディアが二、三個あるところから始まって、ほとんどの場合、テストプレイをきっかけに、ずっと変更したり、付け加えたり、取り除いたりしている。

たくさんの要素を盛り込もうとする拡大期間と無駄を省こうとする縮小期間を行ったり来たりしがちなんだ。場合によっては、2つの要素を1つの新しい要素に置き換えることになるし、理想をいえば、2つの異なる問題を1つの解決策で対処したい。

結局、物事がかちっとはまり始めたと思ったら(clicking together)、初期バージョンにはあったメカニズムの全てが完全になくなっていたなんてことに気づく。初期のメカニズムは、その他の部分の構造をどう組み立てるかの枠組みを提供するために重要だ。ただ、一旦、ゲームがうまく機能し始めると、もう必要なものとはいえなくなるかもしれない。だから、ゲームをより良くするという観点からみて、本当に貢献するところがなくなったら、とにかく初期のメカニズムをいじくったり、維持したりしないようにすべきだ。

以上

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