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ヨーロッパや北アメリカでボードゲームの製造を行うことは現実的か(Is manufacturing in Europe and North America realistic?)

元NSKN Games、現Board&Diceの中の人であるAndrei Novac氏が、2021年10月8日、以下の投稿(ブログ)をして、BGGで話題になっていた。そこで、この投稿を翻訳することとした。この投稿の前に2つの投稿がされており、その流れでの投稿である。前の2つの記事についても機会があれば訳そうと考えている。

なお、翻訳・公開についてはAndrei Novac氏からの許諾を得ている。

前回の投稿は、ボードゲームの価格の内訳(※翻訳は末尾リンクを参照)消費者の手にわたった際の価格(小売価格)にどれほど影響を与えるかという内容でした。そして、消費者により近いところであるヨーロッパとアメリカの各地域で、ボードゲームの現地生産を行う可能性について話すことを約束しました。ただ、ボードゲームの現地生産とはどういうことかという具体的な話に入る前に、どこに消費者が居住しているかについてざっと見たいと思います。

場所、場所、場所

ボードゲーム業界では、消費者に商品を届ける方法として2つの大きなビジネスモデルがあります。それは、(通常はクラウドファンディングに代表される)直接販売と古典的モデル(classic model)です。古典的モデルにおいては、出版社が自分たちのやり方でゲームを作り、ディストリビューターにゲームを卸し、そこから小売店に流通し、最後にはゲーマーの手に渡ります。

Board&DiceではKickstarterを用いていますが、
最初のモデル(直接販売)において、全てのプレッジがどこから来たのかという内訳を作るのは容易です。そこで、(キャンペーンの固有の特徴により生ずる偏りを最も少なくした)正確な概要を知ってもらうために、Board & Diceと別の出版社(単に偏りを取り除くための基準値として用いました。)のキャンペーンを3つ使って説明したいと思います。

※上の円グラフを見ると北米とヨーロッパで9割を占めていることがわかる。
クレジット: Andrei Novac

輸送費を減らし、環境負荷を最小限にするためには、クラウドファンディングモデルにおいては、北米やヨーロッパで製造を行うのが最も良いようにみえます。しかし、何らかの結論を出す前に別のデータを見てみましょう。古典的モデルと比較するとどうなっているのでしょうか。うまく概要がわかるように、2020年と2021年にBoard&Diceから出版された全てのゲームのデータを使いました。というのも、私は他の出版社のデータを持っていません(それに、私にビジネスモデル全体を共有するような出版社はいないでしょうから。)。ゲームは、言語版とは関係なく、私たちが配送した地域により分類されています(例えば、中東やアジアでは、ローカライズされたゲームに加えて英語版も見られます。)。

※上の円グラフでは、北米とヨーロッパを合わせても83%しか占めておらず、クラウドファンディングモデルとは差がある。
クレジット: Andrei Novac

クラウドファンディングモデルでは、北米とヨーロッパを合わせると、消費者全体の90%を占めています。ディストリビューターを介して販売するゲーム(古典的モデル)を見ると、これら2つの地域を合わせても83%しか占めていません。アジアと南アメリカの割合が大きくなっています(上のグラフには表れていません。)。しかし、いまだに、アジアと南アメリカが収益全体に占める割合はむしろ小さいものです。それにもかかわらず、私たちのゲームは全てアジアで作られています。その理由を分析していきましょう!

コストの比較

最初に、ヨーロッパや中国の製造パートナーとの間の私たちの歴史について少しお話ししようと思ったのですが、加工されてないデータをそのまま見せようと思いました。ただ、一例を示す必要があります。結論を歪めたりせず、バイアスを生じたりしない例が必要ですね。そこで、話を戻しますが、やはり歴史の話が必要だとわかりました。

プラスチック

皆さんご存知のとおり、プラスチック製のミニチュアが含まれる全てのゲームは中国で作られています。そうですね……知ってるのはほとんど全ての人になりますかね。かくいう、私たちがこの業界に入って間もない頃、私たちは「Exodus: Proxima Centauri」を製作しており、プラスチック製のミニチュアがあるにもかかわらず、ポーランドで製作しました。2年間、ヨーロッパでプラスチック製のミニチュアの工場を探し、数十社と話をしてきました。Exodus(の改訂版)はポーランドのGranna社によって製造されたにもかかわらず、ミニチュアとダイスは中国製でした。まさにその時に、ミニチュアは中国で製造されていることを知っている人たちのコミュニティに入ることができた瞬間でした!なぜそんなことになってるんでしょうか。単に、100万個以下では製造を考えないような人ばかりだったか、ぼったくった値段(予想していた額の25倍)しか示さない人ばかりだったかでしょう。

私は、その時に、プラスチック製のミニチュアの製造過程やヨーロッパでの製造がそこまで高価格になるのか理解しました。実際には、プラスチック製のパーツが含まれているようなゲームはほとんどありません。私の予想では,ミニチュアが封入されているゲームは15%以下でしょう(おそらく現実的な数字は全体の5%ほどで、ひとえにCMONAwaken Realmsのおかげにすぎません。)。

コストの比較(再)

回り道は終わりにします。公平に比較するには、紙やボール紙のコンポーネントや木駒(wooden piecies, 広く木製パーツという意味合いだが、木駒と訳した。)で製造されたゲームについて見る必要がありますね。しかし、木材といっても一括りにはできないわけです……。では、もう少し回り道をしましょうか。

特注の木駒

もし、「Yedo: Deluxe Master Set」や「Snowdonia: Deluxe Master Set」を遊んだことがあれば(少なくとも見たことがあれば)、特別な形をした木駒や高品質のプリントが表面にされている木駒が多くあることに気づくはずです。手作業で塗られたものは一切ないですし、シルクスクリーンという木材に印刷する古典的な方法を使ってもいません。むしろ、中国の工場でプラスチックプリンティングとかホットプリンティングとかと呼ばれている(もしくは、かつて呼ばれていた)、より現代的な技術が使われています。この技術ではプラスチックを用いませんが、長持ちで、紙に印刷した時とほとんど同じくらい高品質で色鮮やかになります。私たちは、以前、「テオティワカン:シティオブゴッズ」のピラミッドタイルで使い、その品質に感動しました。

ヨーロッパのボードゲーム工場は、他社(ここでは中国を指す)に負けないくらいの価格で木駒を調達し、多少の特別仕様も可能でしょう。しかし、私たち(出版社)が、複雑な木駒や高品質のフルカラーの印刷の木駒を要望した段階で、ヨーロッパの製造工場は現地製造によるサービスを提供できず、中国の工場に製造委託をしなければならなくなります。

追記: 木製8mmキューブの価格をヨーロッパと中国で比較したら、中国はヨーロッパの25%も低価格であるとわかりました。

コストの比較(再々)

では、「テオティワカン:シティオブゴッズ」、「テケン:太陽のオベリスク」、「オリジンズ:ファーストビルダーズ」、「タバヌシ:ウルの建築家たち」といった手が込んだパーツがあるようなゲームを除いてゲームを選んでみます。幸いにも、Board&Diceで作った全てのゲームが、手の込んだゲームと分類されるわけではありません(cross that threshold)。(分析する)武器として選んだゲームは、「Founders of Teotihuacan」という来年出版予定のゲームになります。もっとも、このゲームは2年前から作業が進められていました。

2021年の春(今となっては遠い昔のように思えますが)、中国からの輸送が面倒ごとになってきた当初(そして、実際に悪夢となってから(※翻訳は末尾リンク参照))製造拠点をより身近な場所、はっきり言えばヨーロッパに移転する良い機会だと考えていました。私たちは、過去に(2012年から2015年まで)ヨーロッパでゲームを製造したことがあり、品質もそこそこ(ok-ish)、コストも許容範囲で、その頃からより多くの工場が現れていました。同僚と私は、大部分がポーランドしたが、そのほかにドイツ、オランダ、フランス、チェコ共和国等のアジア拠点ではない11工場と連絡をとりました。そのうちの多くの工場(全てではなかったのですが)から返事をもらうことができました。内容に入る前に、実際の提示額を見てみましょう(機密性の高いであろうデータ部分はぼかしてあります。)。1パーツに30ドルという最も馬鹿げた額を提示した工場のものは見せません。ただ、そのほかは誠実で実績のある工場のものです。

※出版数に応じた単価が右下に記載されている(濃いオレンジ色の記載がドル単価)
クレジット: Andrei Novac

次に、同じ工場から修正された額が提示されました。

※出版数に応じた単価が右下に記載されており、先ほどよりも安いことがわかる。
クレジット: Andrei Novac

もっと提示額を見てみましょう。

クレジット: Andrei Novac
クレジット: Andrei Novac
クレジット: Andrei Novac
クレジット: Andrei Novac

(※濃いオレンジ色の数値がドルでの単価となり、最も安くて6.83ドルとなっている。)

これは単なる事実として受け取ってほしいですし、単価を公にすることで誰かを面目をつぶすような意図はありません。これは、私たち(ボードゲーム出版社)が生きている現実のほんの一部にすぎないのです。では、中国からの提示額を1つ見てみましょう。これが群を抜いて安いわけではありませんが、品質の面では保証できます。

※右下にドルでの単価が記載されており、4.82ドルから4.73ドルの単価となっている。
クレジット: Andrei Novac

では、簡単なまとめをしましょう。

  • ヨーロッパの最も安い提示額は6.83ドルに対し中国は4.73ドル

  • 春以降の輸送料については、中国から全世界への平均輸送料は1.85ドルに対しヨーロッパからは1.15ドル

  • 中国の工場では、まさに私たちが望むような出来栄えゲームが製造されるが、ヨーロッパの製造では私たちの方でいくばくかの妥協が必要とされる。

  • ヨーロッパでは最低価格を選択し、より長い製造時間(lead time)を要することになる(30日ほど)。

これが、これから出版される1つのボードゲームについての価格の話になります、わかりやすい話でしょう(simples)。厳密には紙やボード紙で作られていないコンポーネント毎に価格差はより大きくなりますし、それが法外な価格差になることもあります。

重要なポイントがまだありますから、まだ結論には飛びつかないようにしておきましょう。

流通の全過程(Supply Chain)

数週間前の夏に、この業界の友人たちと話す機会があり、それぞれの話を共有しました。もちろん、私は、中国からの輸送について文句を垂れていましたが、他方、友人たちは、外部からみればちょっとおかしな、(私とは)違った問題を抱えていました。ポーランドの大きな工場の1つでは、ボール紙が不足し、生産ラインにある全てのボードゲームが実質的に1か月から3か月の遅れがみられるということでした。その友人は、まだ規模的に小さかったので、不幸に見舞われたという程度でした。別の友人は、違う工場と契約していましたが、契約後の原材料の高騰の影響で、膨大な数量にのぼる価格の値上げを受け入れざるを得なかったということでした。3人目の友人は、出版の遅れと価格の値上げの双方を味わっていました。

このことはヨーロッパの工場が悪者だから起こるのではありません。実際に、私が会ってきたほとんど全ての人は、素晴らしく、一緒に仕事をしたくなるような人たちです。彼らは事業を継続するための努力をしているだけなのです。原材料の多くが中国で生産されており、このような事態が顧客である(私たち)出版社にとって不明瞭な場合に、私たちが影響を受けるような問題が彼ら(ヨーロッパの工場)にも影響を与えることになります。中国の製造工場では、時として、他の地域から材料を調達することがあります(例えば、中東からプラスチックの薄片(plastic foil)、ドイツからリネン紙)。しかし、中国への輸出価格は極めて適正なものです。中国の製造工場の中には規模も大きく、将来的により稼げることになるので、現在必要としている量を超えて原材料をストックしておくことができます。より重要なのは、そういった中国の製造工場は、原材料の大半を1000km以内から調達することができるのです。

しかし、私の意見は、これで終わりというわけではありません。

技術面の話

私がヨーロッパの工場の中に入ったのはもう5年も前になるので、正確な最新情報というわけではないかもしれません。その当時の様子をお話しすると、次のとおりになります。

私が訪れた工場は、かなり新しい建物の中で操業しており、良い労働環境で従業員も働いていましたが、私が見た中では技術面は既に古くさいものとなっていました。多くの工程では、手作業か半自動化のままでした。その上、実際の印刷(ハイデルベルク社のCx104のようなオフセットプリンタによるもの)は、このようなサイズ(とてつもなくでかい)のプリンタを備え付けても、常に使われなければ投資の面で正当化できないので、下請会社に委託する始末でした。ちょうどその頃、私は、中国の8つの製造工場も訪れていました。私が見た上位3つの製造工場は、先端技術が搭載されており、労働条件も良いものでした。

中国の製造工場の主な利点は技術面でしょうか。間違いなくそうであるとまでは言い切れませんが、(私が見た工場のほとんどがある)上海と東ヨーロッパの賃金はほとんど同じくらいでしたので、(技術面という理由は)関係しているように思います。

技術のおかげで、私たち出版社は良い選択をすることができます。中国では、私たちが想像するようなボードゲームを製造することができます。必要なプラスチックのインサート、手の込んだ木駒、プラスチック製のミニチュア、更にクレイジーなパーツですらも製造が可能です。インサートのない平らな箱の中に全てのコンポーネントが入っている「世界の七不思議」を想像できますか。若かりし頃の私にとってみれば、かなり基本的なものですが、便利なインサートはとても印象に残りました。もしくは、ミニチュアのない「Lord of Hellas」を想像できますか。はたまた、手の込んだピラミッドタイルのない「テオティワカン:シティオブゴッズ」を想像できますか。

北アメリカにおける生産について

私が北アメリカやカナダの工場に言及しなかった理由は、現代的なボードゲームを製造できる工場を知らなかったからです。ある時に、(悲しいことに、その誰かのことを思い出すことはできませんが)親切な誰かが存在を教えてくれた、世界中のボードゲームに関連する製造工場がほとんど網羅されているリストがあります。
https://boardgamemanufacturers.info/

私は、箱に大きなロゴで"USAで製造されました!"(proudly made in the USA)と記載のあるボードゲームをいくつか知っています(「ロール・フォー・ザ・ギャラクシー」とか)。私は、そのボードゲームがアメリカで全て製造されているとは思っていませんが、元の出版社とはなんのつながりもないので、私のこの推測(theory)を裏付けるものは何もありません。しかし、箱に同じような文言が記載されている他のゲームも知っています。そこには、"USAで梱包された"(assembled in the USA)との記載があるはずです。

私たちは環境に配慮しており、一般論として輸送量を減らしたいとは思っています。ただ、地元で梱包したとしても、その部分でしか減らすことはできませんし、私の意見では、コストの増加を正当化できることにはなりません。

結論

今日では、他社に競争で負けないような価格で、単純な(*)ボードゲームやカードゲーム以上のゲームをヨーロッパで、モノポリーを超えるレベルのゲームを北アメリカで製造することは現実的には不可能です。例えば、「Twantinsuyu: The Inca Empire」をヨーロッパで製造するとしたら、80ドルの価格設定にしなければなりません。同じ状況では、「テオティワカン:シティオブゴッズ」の価格は90ドルになります。「Founders of Teotihuacan」については、中国の提示額により、適切なマージンを得るか、手の込んだコンポーネントを導入するか、あるいはどちらも行うかといった、私たちがやってきた素晴らしい選択をすることができました。

(*)単純というのは、軽いゲームだとか、カードと少しのトークンがあるだけだとか、そういうことを意味していません。ここでは、大幅に特注された木製パーツ、カラフルな木駒、手の込んだインサートやミニチュアがないという意味です。

私たちの業界において、より特注されたコンポーネントがあり、10年前よりもはるかに見栄えの良いゲームらより少ないマージンしかないといった現在のトレンドが続く限り、主たる製造拠点はアジアである必要があります。というのは、誰も、自分の気に入ったゲームに対し、(従前よりも)はるかに高い価格になることを受け入れる準備ができてないからです。その一方で、ヨーロッパの工場は、カードゲームや単純なボードゲームであれば、いまだにできる限り全力で製造することができます。

私が間違っていると誰かに証明してほしいと思っていますし、消費者により近い場所であるヨーロッパや北アメリカで完全に製造された複雑なボードゲームの例を見てみたいと思っています。(そのようなことが起これば)私たちは、すぐにでもそれに続きたいと思っています。中国からアジア向けに製造することは今でも可能ですが、私たちはヨーロッパ市場に向けて、ポーランド、ドイツ、ルーマニアといったところで製造もしてみたいと思っていますし、アメリカやカナダでも同様に印刷をしてみたいと考えています。もし、このような可能性が実現するのであれば、その方法を教えてください!

以上

※本記事に関連するものとして、以下の記事がある。

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