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ボードゲームのデータ解析その1:まえがきと一般的な傾向について(An analysis of board games: Part I - Introduction and general trends)

本記事は、Dinesh Vatvani氏が2018年3月5日に投稿した「An analysis of board games: Part I - Introduction and general trends」の翻訳である。

Dinesh Vatvani氏は、ケンブリッジ大学の化学情報学(Chemical Informatics)の博士号を持つ30代のデータサイエンティスト。Dinesh氏のブログには、WhatsAppのチャットログの解析やテレビドラマの各エピソードの評価分析などが公開されている。

本記事を含む3つの記事は、BGGのデータベースを利用したデータ分析をしている。グラフが出てくるが、統計学の知識はほとんど必要がない。最初の記事となる本記事は、BGG上のデータの経時的な変化を概括的に述べたものとなっている。

まずは、今現在が「ボードゲームの黄金期」と言われることがあるが、BGGのデータから実証できるのかという話をしている。出版数とゲームの評価の観点から分析を加えている。次に、ボードゲームのトレンドについての話になる。複雑さ、メカニクス、テーマの流行の変化について検討している。これらの検討は、結果だけを読んでもおもしろいと思われる。

なお、この記事が約4年前の投稿であることには留意されたい。昔の話ではあるが、今でもなお有用だと考えて翻訳した。

元記事は以下のリンクを参照されたい。本記事の翻訳については、当たり前のことであるがDinesh Vatvani氏から許諾を得ている。また、ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリー機能を使用させていただいた。

はじめに

ここ数年にわたって、ボードゲームが私のお気に入りの娯楽の1つになっている。この分野(space)での発見の道のりはとても楽しいものだったが、抜け出せなくなるくらいこの分野を深く掘り下げれば掘り下げるほど(the deeper I delve down the rabbit hole)、ボードゲーム全体のことについて、だんだんと疑問点が湧いてくる。特に、私がまだ試したことがないジャンル、まだ体験したことがない様々な種類のメカニクス、珍しいメカニクスが合わさったゲーム、時間と共にどのようにボードゲーム全体が進化していったか等のことについて、どうなんだろうかと思うようになった。Kaggle、フォーラム、ブログなんかで、こういったトピックを表面的に論じた(scratched the surface)ちょっとした解析をいくつか見つけた。だが、私の好奇心の高まり(the itch of my curiosity)を収めるのに十分なものではなかった。そこで、手に汗かいて(get my hands dirty)、自分自身でデータの山(the data mine)をくまなく探していこうと決めた。

データの収集と説明

BoardGameGeekはボードゲーム情報に関する素晴らしいデータベースだ。これから行う解析のための主要なデータ源としてBGGを利用することについて、頭を悩ませるようなことではない(a no brainer)ように思える。KaggleやGitHubには、事前にスクレイピング(※ウェブサイトから情報を抽出するコンピュータソフトウェア技術のことをいう)された、すぐに使えるBGGのデータセットがある。ただ、KaggleのデータセットはBGGの上位5000ゲームに限定されていたし、GitHubのほうは2年前のもので、各ボードゲームのメカニクス一覧といった私が興味を持っている一部の分野のデータが欠けていたこともあり、そのどちらも私の目的に適うものではなかった。そこで、GitHubで見つけた抽出データ(scraper)の修正を再度行った。元々の抽出データでは収集されておらず、わずかばかりでも豊富でより最新となるようなボードゲームのデータセットを得られるように、メカニクス、カテゴリー、デザイナーの一覧といった追加できる分野のデータを得られるようにした。こうすることで、76,597個のボードゲームと13,675個の拡張を含んだデータセットが生み出された。修正された抽出データとスクレイピングしたデータセットは、どちらもここで見ることができる。

この記事での分析では、ボードゲームの基本セットだけに絞っており、拡張は含まれていない。

データセットのサンプリングバイアスに関する注記

本格的な分析に入る前に強調すべきなのは、ここで判明したいかなるパターンも観察結果も、BoardGameGeekのデータセットの中にあるパターンを反映したものとなる。分析の文脈次第によって、この観察結果はボードゲーム業界全体を反映したものになるかもしれないし、ならないかもしれない。というのも、BoardGameGeekユーザの見方や行動は、必ずしも全てのボードゲーマーを正確に反映しているとはいえないからだ。BoardGameGeekのアカウントを持って、遊んだことを活発に記録し、ゲームに点数を付けるような人たちは、大抵の場合、平均的なボードゲーマーと比較すれば、ボードゲームにより多くのお金を注ぎ込んでいるし、ボードゲームに関する情報をより多く摂取しているに決まっている。このバイアスを示す良い証左(demonstration)として、BoardGameGeekで最も所有されているゲームの一覧を見ればわかる。

正確な総販売数を把握する(come by)のは難しいが、(評価ではなく所有数という意味で)最も人気のあるボードゲームの中に、「チェス」、「モノポリー」、「リスク」、「Scrabble」、「Pictionary」、「クルード」、「Trivial Pursuit」等が含まれることは一般的に承認されているだろう(出典1234)。これらのゲーム全ては、先ほど述べたバイアスのせいで、BGGのデータセットでは十分に示されているとはいえない。分析において、このバイアスが作用している可能性が高いところは多くあるが、その都度、対応していきたい。

ボードゲームの黄金期

今現在、ボードゲームの黄金期の真っ只中であると示唆するような議論が多くある(出典123)。データがこの見解を根拠づけるかどうかをみるのは面白いと考えた。

ボードゲームの出版数の経時変化

・歴史的には、毎年出版されるボードゲームは、大まかにみると指数関数的に増えている。
・今まで観測された、ボードゲームの出版の指数関数的な増加に基づくと、1年間に出版されるボードゲームの数は12.6年ごとに2倍になることが予想される。これは、ムーアの法則のボードゲーム版といえる。
・現在、年間3500種類の新作ボードゲームが発売されていることがわかるが、その数は毎年約5.7%ずつ増えている。
・ボードゲーム業界の成長は、1980年代の中盤から1990年代の後半にかけて停滞したようにみえる。しかし、1999年から2005年にかけて、それまでに観測されていた停滞期を埋め合わせるかのような、ボードゲームの年間販売数の不自然な(disproportionate)急増がみられる。私には、これらの年に停滞や急増が起こった理由は明らかではないが、停滞と急増の間の推移がBoardGameGeekのウェブサイトの開始時期(2000年にサービス開始)と一致していることを鑑みると、このような1年間に出版される新作ゲーム数の変化は、BoardGameGeekが利用開始になったことによるデータ上の不自然な結果(artefact)という可能性がある。(例えば、BoardGameGeekの存在前は、無名のボードゲームは歴史の中で失われていったかもしれないが、他方、BoardGameGeek存在後は、無名のゲームであってもデータベース上に残る可能性が高い。)。
・この話は、新作ゲームを参照しただけであるし、拡張すら含んでいないということに留意してくれ(worth remembering)!
・全体として、現在のところ新作ボードゲームの年間販売数はかなり多いように思えるが、ボードゲーム業界の歴史的な成長傾向に基づいて見込まれる数とほぼ完璧に一致している。新作ボードゲームの販売数に関して、現在がボードゲーム黄金期であるという見解を裏付けるような特筆すべき点や特徴的な点は全くない。しかし、ボードゲームの販売数は、みんながボードゲーム黄金期だと信じ込ませる様々な要素の1つにすぎない。他の要素についても見ていこう。

出版年別のボードゲームの評価

このデータによれば、2002年あたりから、ボードゲームは着実に良いものとなってる。しかし、ここ二、三年においては、ゲームの評価が不自然に向上している。ここ二、三年は、確かに「パンデミック:レガシー」 、「グルームヘイヴン」、「サイズ -大鎌戦役-」等の素晴らしいゲームが販売されたように見えるが、ゲームが不自然なほど改善された原因は、私にとっては明確ではないように思える。おそらく、ボードゲームの消費者市場の規模が目に見えて増大して、ゲームのデベロップにより多くの資金が注ぎ込まれたのだろう。しかし、残念ながら、この見解を確かめるデータを持ち合わせていない。もう1つ、注目すべき点は、このデータには、評価のインフレ要素が含まれているかもしれない。例えば、10年前は平均を5点と認識していたかもしれないが、今では平均を7点と認識しているかもしれないことから、平均的なゲームに対する評価のベースライン(※基準値)が上昇したと考えられる。そうすると、ゲーム自体が必ずしも良いものとなっていないのにかかわらず、平均的な評価は上がっている可能性がある。

その他の業界のトレンドの経時変化

複雑さ

ボードゲームの"複雑さ"は、遊び方を学ぶ際だけでなく遊ぶこと自体にも関係する、様々な種類の学習特性や意思決定の特性を網羅しているので、比較的漫然とした定義の言葉となっている。簡単な例を挙げると、「チェス」や「囲碁」は、ルール的にいえば比較的単純なゲームだ。どちらのゲームも、ルール全てを簡潔に説明できるし、数分以内に理解することもできる。しかし、こんな簡単なルールから生まれるあらゆる戦略や戦術を完全に把握するには、とても長い時間をかけることになる。各手番で取り得る動きの数だけでなく、一手一手が将来の手番で行うことができる動きに影響を与える事実(つまり、手番が独立していない。)もあることから生まれる複雑さは、尋常ではない。BoardGameGeekには、(ユーザが評価した)ボードゲームの"重さ"という指標があり、ユーザの認識に基づいた、ゲームの複雑さに関する単純化された(redeuced)、包括的な感覚を示している。販売された時期によってボードゲームの複雑さの指標がどのように発展していったかを見ることができる。1995年頃であれば十分な数の重さの評価があり、それ以前になるとゲームのデータセットが段々と数が少なくなり始めてしまう。そこで、1995年以降のゲームに絞った。

1990年中盤以降から、ボードゲームの評価が上がっているだけでなく、複雑さも増しているように見える。複雑さの傾向は、全般的な傾向で見られた傾向と酷似しており(mirror)、2000年代初期から着実に複雑さを増していって、この二、三年では複雑さが不自然に急増しているようにみえる。全般的な評価の傾向と複雑さの傾向が類似していることで、これらをより直接的に比較することが必要となるが、それ自体がそれなりに大変な話(a fairly substantial topic)になるので、もっと分析で得られたことを話す余裕のある(the analysis has more room to breathe)、このシリーズの今後の投稿で取り組もうと考えている。

メカニクス

メカニクスは、ボードゲームと相互に関わり合いをもって遊ぶことができるようになる、ルールや方式の基本的な構成要素のことだ。これらは、ダイスを振るとか、お絵かきとか(例えば、「Pictionary」)といった単純なものから、カードドラフト、ルート/ネットワークビルドといった少し複雑なものまである。以下に、ボードゲームでよく実装されている順でBGGのメカニクス一覧を作った。メカニクスの名前の多くは直感的に理解できるものだが、中には説明を要するものもある。全てのメカニクスに関する記述と説明は、ここで見ることができる。

最も人気のあるメカニクスは次のとおり。

あまり驚きはないが、上位2つのメカニクスはダイスと関係しており、ボードゲームの象徴的な定番(an iconic staple)としてよく見られるものだ。

また、メカニクスの流行がこの数十年でどのように変化していったかを見ることもできる。

この数十年で人気を博したメカニクスはいくつかあるが、最も特筆すべきはハンドマネジメントだ(あるカードの組み合わせが他の組み合わせよりも良かったり、手元に置いておくことができるカードの数に上限があることから、1組のカードを手元に置くか、場に出すか、捨てるか選ぶ。ハンドマネジメントのメカニクスが搭載された人気のゲームとして「カタン」や「パンデミック」がある。)。なぜこうなっているのかについて、確固とした理由はわからないが、おそらくハンドマネジメントは、より多くの説明やより複雑なルールがなくても、興味深い意思決定の要素を取り込むことになるからだと思われる。

一旦、手元にあるカードやカード一式を理解してしまえば、特定のカードを場に出したり、それを捨てたり、手札を管理したりすることによる入り組んだトレードオフ、リスク、利益は自明のものとなることが多い。考えさせたり意思決定をさせたりするメカニクスのテーマは、例えば、プレイヤーの固有能力エリアコントロール/エリアインフルエンスカードドラフトデックビルディングワーカープレイスメント等の他のメカニクスにも見られる。その対極には、双六(Roll/Spin and move)のようなメカニクス(これは、「モノポリー」や「蛇と梯子」にみられるメカニクスで、プレイヤーのトークンの動きがサイコロを振った出目やホイールを回した結果で決まる。)は、大きく減少していると感じる。おそらく、このメカニクスには考える要素や意思決定要素が全く必要とされておらず、それゆえボードゲームに熱心に取り組むことにはならないので、この減少ぶりには驚かないだろう。

もう1つ特筆すべきは、減少したメカニクスよりも増加したメカニクスのほうが多いということだ。というのも、現代ボードゲームはより多くのメカニクスを取り込むようになったからだ。時間の経過と共に、より多くのメカニクスを取り込むようになったということは、ゲームが時間と共に複雑化しているという先程の分析結果と一致している。

テーマ

BGGのゲームの分類区分の方式はやや変わっている。最上位の区分け(level)では、ゲームの種類(type)別の分類がある(例えば、戦略ゲーム(Strategy)、テマティック、シミュレーションゲーム(Wargame)、パーティーゲーム)。分類の種類はそれほど多くあるわけではない。BGG上のゲームの75%以上が、種類別の分類に含まれてさえいない。そこで、この投稿では、分類別に関する分析はしないこととした。ただ、最も流行っているゲームの種類等に興味があるのであれば、未加工の解析結果に係るJupyter Notebookのファイルを見つけることができる。次の段階の分類法は、カテゴリだ。この分類(fields)の値(value)をざっくり見ると、テーマ、ゲームの"種類"、メカニクスがまとまりもなく混在している(例えば、「コードネーム」は、パーティーゲームカードゲームワードゲーム推理スパイ/秘密諜報員というカテゴリに含まれている。)。私は、手作業で、カテゴリという分類におけるタグの一覧にフィルターをかけて、テーマだけが含まれるようにした。なぜならば、テーマは、カテゴリという分類の中で最も一貫して現れてくる要素だったからだ。BGGには、更に異なる段階での分類がされているが、この分析では、種類別のタグに由来するテーマのみを調査する。

BGGにおける人気のあるテーマは次のとおり。

メカニクスと同じように、この数十年でどのテーマが人気又は不人気となったかも見ることができる。

人気のあるテーマを見ると、ゲームにおける主要なテーマに大きな変化が起こっている。実際、上位10のテーマのうち8テーマが急上昇した5つ又は急下降した5つのテーマのどちらかに属する。現在のボードゲーマーの世代の魅了するテーマには、大きくて明確な変化が見られることを示唆している。上位になったテーマには、ファンタジーSF格闘で、反対に、トリビア映画/テレビ/ラジオテーマスポーツレース経済は全て減少している。このことから、今日の私たちの想像力を惹きつけるテーマは、(少なくとも20年前と比較すると)やや現実から離れたもの(slightly less grounded in reality)となっているように思われる。

BGGのデータセットの更なる分析は、この一連の"分析"シリーズのその2でしたいと思う(もうすぐ公開するよ)。そこでは、メカニクスとテーマと評価の関係を探りたいと思う。

この記事の構成には合わなかった、ちょっとした分析を数多く残したままだ。だが、もし、ボードゲームのデータセットについて学ぶことに興味が湧いてきたら、ここで、Jupyter Notebook(Python)の形式のコードも併せて、私の分析全てを見ることができる。

謝辞
Colm Seeleyは、現代ボードゲームの世界を紹介してくれた。このデータセットでできる興味深いことについて、数え切れないほどの議論とアイディアを提供してくれたし、分析の構成を助言してくれたり、手作業で集めたデータを提供してくれたりした。将来的に、彼と共同で発表する分析を心待ちにしている。
・Catherine Maddoxは、この投稿の文章と体裁について素晴らしいフィードバックをしてくれた。
・Yihui FanとHugh Thompsonは、グラフの明確化と見栄え(aesthetics)について役立つフィードバックをしてくれた。
・GitHubユーザであるTheWeathermanは、この分析のために修正したBGGのデータ抽出をしてくれた。

この記事を読んで楽しめたら、以下のものも楽しめるはずだ。
・KaggleにあるBoardGameGeekのデータセット。複数のユーザの分析もある。
Opinionated Gamersの記事「Are Boardgames Getting Better? An Empirical Analysis
・Oliver Kileyの「By the Numbers - BGG Rank Data + Analysis

以上

※かなり毛色が違うが、データ分析その2とその3は、以下のリンク先を参照されたい。

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