あくえりメモ_note___4_

法人営業のアカウント深耕戦略 ~取引拡大とLTV最大化に向けた3つの戦略~

あくえりです。

今回も頂いたアンケート結果に基づいて『法人営業のアカウント深耕戦略』について書いてまいります。

あらゆる営業やビジネスの目的の一つは、売上と利益を増やすことです。そして、これらを増やす基本は、新規顧客を獲得するか、既存顧客との商売を拡大するかです。

今回は、後者のように "特定の既存顧客(アカウント)に対して、中長期的に取引を拡大し、多種多量の自社製品/サービスを購入いただくことで売上や利益を拡大する" ための戦略を書きます。流行り言葉で言えば "LTV最大化" です。

僕は、大手SIer の営業として10年程度のキャリアを歩んでおりますが、半分以上は「アカウント営業」として特定顧客での売上拡大を担ってきました。

新卒では巨大アカウントを担当し、過酷な競争環境の中で、年間100億円規模の売上を常時獲得するための組織的な営業戦略と実務を学びました。直近数年間は、自らゼロから開拓した顧客にてビジネスを拡げ、年間10億円規模のアカウントを新しく創造しました。

僕は、これらの経験より、既存顧客向けビジネスを拡大する成功法則の一つを得られたと思っています。

最近は、マーケティングやインサイドセールスの世界で、ABM や LTV といった言葉が盛んに使われています。個々の顧客(アカウント)に焦点を当て、そこからの売上や利益を高める活動が活況です。これは、市場の飽和と競争の激化により、新規の顧客獲得が相対的に難しくなってきたからと言われています。

一方で、出回っている情報やノウハウを見てみると、ずっとアカウントに注力してやってきた身としては、正直、違和感を感じるものもあります。もちろんビジネスモデルが全然違うので、目的も価値観も異なることは分かっていますが、アカウント深耕ってもっと奥が深いぞ、と感じています。

そこで、今回の note では、特定のアカウントと伴走しながら自社ビジネスを拡大する面白さとやりがい、同時に、難しさや苦しさも含めて "僕の知っているアカウント深耕" の概要をお伝えできたらと思います。

小手先の技術論ではなく、"アカウントビジネスとは何なのか" という視点も含め、本テーマに課題意識のある全ての職種の皆様に読んでいただけたら幸いです。

ご覧いただいた方からは、以下の有難いお言葉を頂戴しました。

なお「SIer の営業って何?」という方は、是非、以下の記事をご覧ください。世には出回っていない我々の業務概要をまとめたことで、ご好評いただいた記事となります。

参考:SIer のアカウント営業とは
特定の大規模顧客(アカウント)を担当する営業。その顧客ビジネスの発展のため、あらゆる商材を用いて、あらゆる提案をし、課題解決を先導する。顧客や顧客業界を徹底的に知り、様々な部署や経営層とのリレーションを作り、プロジェクトで実績を出しながら、顧客満足度を高めていく。そのリレーションや顧客満足度と課題解決力を武器に、当該顧客内での自社のシェア(商圏)を広げる。シェアを広げることで、規模の経済や生産性向上によるコスト削減を図り、粗利率を高めていく。こうしたアカウントビジネスを主導する営業。

本稿の内容は、私の専門である SIer の業務経験をベースに書いています。ただ考え方は、SaaS やプロダクト営業でも、他業種営業でも、個人向け営業でも使える部分はあると思います。

13,000字を超えてしまいましたが、是非、最後までご覧ください!長いので、こちらからブックマーク(はてブに飛びます)登録をどうぞ。

結論

最初に結論を述べます。

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法人営業/エンタープライズセールスが、アカウント深耕のため採るべき戦略は、大きく以下の3つです。

アカウント深耕戦略
1.顧客満足度を高める
2.顧客内にリレーションを張り巡らす
3.好機にはリスクを厭わず戦略的に投資する

この3つを実現しながら営業活動を行えば、当該顧客からの売上は、ある程度勝手に増えていきます。言ってることは何となくご理解いただけると思います。

以降では、その仕組みや具体的な方法論について、順を追ってご説明していきます。

既存法人顧客での売上拡大の仕組み

まず、既存法人顧客での売上拡大の仕組みを解説します。以下のようなシチュエーションを頭に描いてください。

例題
あなたは、顧客企業 A の 東京営業部 に 自社製品 X を1つ受注。当製品の保守運用サポート(1年毎に更新)も合わせて受注した。

この顧客企業 A 向けの売上を増やすには、何をどうすれば良いか。例えば「東京営業部向けに X を追加で受注」というのも手段の1つ。他にもいくつかあるので、皆さん自身でも 10秒間 考えてみてください。

......thinking time........

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例えば、以下のような手段が思い浮かぶでしょうか。

・東京営業部向けに X を追加受注
・東京営業部向けに Y を新規受注
・関西営業部向けに X を新規受注
・財務部向けに Z を新規受注
・保守運用サポートの契約を維持
・保守運用サポートの金額を値上げ
 (※望ましい方法ではないが、一応)
…etc

抽象化すれば、"顧客の様々な部署や支店に対して、自社の多様な製品・サービスを導入し、数量も増やしながら、契約関係を維持し続けていく" ということです。言えば当たり前ですが、これ抜きにアカウントは拡がりません。

分解すると、やるべきは以下の組み合わせになります。

アカウント深耕の方法
① 既存部署と既存取引を維持・拡大する
② 既存部署と新規取引を開始・維持・拡大する
③ 新規部署と新規取引を開始・維持・拡大する

これらを組み合わせた戦略的な営業活動が、僕の伝えたい「アカウント深耕セールス」です。

*ちょっと一言*
ただ法人顧客相手の取引をしているだけでは「アカウント営業」とは言えません。同様に、"LTV 最大化" を掲げながら、実態は、初回取引で獲得した1契約の継続取引を目指しているだけと聞くと、個人的には「それでいいんだっけー?」と思ってしまいます…。

ここまでを絵にするとこんなイメージ。
(※手書きの方が早そうだったので…恐縮です)

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繰り返しになりますが、既存顧客との取引を拡大し、そこからの利益最大化を目指すなら、顧客内のあらゆる部署や担当者(場合によってはグループ企業)に対し、あらゆるマーケや営業施策を用いて、自社の多種多数の製品を買ってもらい、契約関係を継続し続ける以外にはありません。

まずは、この認識を確実にもっていただけたら幸いです。

アカウント深耕の前提条件

さて、ここまでの話を読んで気付いた方も多いと思います。上記のようなアカウント深耕を実行するには、不可欠な前提条件があります。

それは
「自社の商材が十分に多いこと」
「顧客規模がある程度大きいこと」
です。

 - 自社の商材が十分に多いこと

前提条件の1つは、アカウントを掘るのに十分な量/種類の商材(製品やサービスなど)があることです。コンサルや派遣系ビジネスであれば、それを提供可能なヒトリソースが十分にあることです。

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当たり前ですが、商材が一つしかなければ、顧客の多様なニーズに応えることができません。せっかく課題やニーズを明らかにしても、自社の商材を売れないならば、売上は増えません。

もちろん、量(利用料を決めるユーザー数やコア数なども含む)を増やしたり、同一商材を他部署(他拠点)に展開するような拡大は可能ですが、これでは劇的に規模を拡大・維持することは難しいでしょう。

なので、商材が少ない場合は、アカウント深耕よりも、マス向けのマーケや営業に徹した方が、やはり意味があるのだと思います。

でも、もし市場が飽和し新規顧客獲得が難しい領域で戦っているなら、アカウント深耕の観点も必要ですよね。

その際は、商材の充実施策も含めて検討するのが良いと思います。仮に自社で開発する力がなくとも、他社の販売代理店になるとか、アライアンスを組んで開発するとか、やれることは色々あります。現在の主力製品が解決する課題の、周辺課題を解決できるような製品を揃えていくとセットでの展開がしやすいのでオススメ。

営業は、会社が用意したプロダクトを売る仕事ではありません。ビジネス拡大のため、やれることは何でもやりましょう。マーケットと常に向き合ってる営業だからこそビジネスを先導すべきだし、それが出来る仕事のはずです。

 - 顧客規模がある程度大きいこと

もう1つの前提条件は、顧客の企業規模がある程度大きいことです。

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例えば、年間投資が数千万円の会社でどれだけ深堀りしても、1億円の取引はできません。つまり、狙う金額規模を継続的に投資できる顧客をターゲットにしないとアカウント化の目的は果たせません。

では、どれだけの金額規模を狙うべきか。これは、自社のビジネスモデルや、収益構造による部分が大きいと思います。

ただ、アカウントの深耕と維持には大変な労力が掛かる(後述)ので、基本的には営業担当者を専属で付けた方が良いでしょう。すると、少なくとも営業一人分の売上予算を満たせる取引規模が必要になります。

例えば、仮に営業1人が年間5億円を売り上げるべきビジネスモデルなら、アカウント営業としても、1人で5億円を売り上げる必要があります。言い換えれば、年間5億円を支払える顧客を相手にしないと、アカウントビジネスが成立しないわけです。

こういうわけで、アカウント営業を組織し、本気で深耕するならば、それなりに大きい企業との取引が必要条件となります。

*ちょっと一言*
もちろん、収益構造や、一人あたりの生産性、営業の目標売上、商材その他で、上記の規模感は変わります。アカウント化のレベルを下げつつ、1人で複数のアカウントを担当していくような "中間的な" モデルもあると思います。規模感については、一例としてご参照の上、皆さまのビジネスモデルや営業方法に合った計数感をご想像ください。 

ここまで、アカウントビジネスを実行するための前提条件として
「自社の商材が十分に多いこと」
「顧客の規模がある程度大きいこと」

が必要だという話をしました。

この前提条件を満たせない場合は、本当にアカウント深耕を狙うべきなのか。もしくは、完全系ではなくどの程度のアカウント化を狙うべきなのかか…という点をよく考えて、アカウントビジネスに取り組むのが良いと思います。

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"ABMの推進" や "LTVの最大化" といったキラーワードのふわっと理解で、「既存顧客からの収益を伸ばすぞ!」「アカウント化するぞ!」と叫んで営業を送り込んでも、根本的に自社のビジネスモデルやリソースと合ってなければ、効果が出るはずもありません。既存顧客との取引維持は容易ですが、拡大し続けることは大変です。

アカウントビジネスは、逃げ場でも魔法でもないんです。

*ちょっと一言*
アカウント化(継続的な大規模取引に留まらず会社同士の強固な関係を築くこと)って、物凄く大変な道のりです。

顧客を顧客以上に知り、考え、そのビジネスが大成するように伴走し続けます。ただの営業の範囲を大きく超え、顧客専属のコンサルタントや経営者の視座/視点で、顧客との関係を築いていきます。

そして、一度アカウント化を果たせば、顧客ビジネスの一部に組み込まれます。大口顧客だからこその強力な交渉やプレッシャーにも晒され、失敗も許されなくなります。万が一問題を起こしても、安易に撤退できず、全てを正面から受け止めて改善に死力を尽くします。

「顧客と伴走して取引規模を拡大し、両社にメリットのあるビジネススキームをつくる。それを営業が主導する。」

もう、めちゃくちゃやりがいと意義のある、前向きで面白い仕事です。でも同時に、大変な難しさや苦しさを伴います。"伴走"ってそういうことです。

当然、営業の負荷は甚大です。本気のアカウント化を目指すなら、顧客を複数を掛け持つなんて、まず無理。それくらい覚悟を決めて取り組むべき仕事だと思っています。

今回の noteで一番言いたかったのは、実はこの辺だったりします。皆様に、アカウントビジネスやエンタープライズ営業の一つの姿を知っていただくため、少しでも今回の note が役に立てば大変嬉しいです。


さて、話を本題に戻します。

以上の前提条件を考慮した上で、ある法人顧客をアカウント化しビジネスを拡げる際に、やっていくべきことを説明していきます。

アカウント深耕戦略

ここまでを読んで、理解いただけた方には大変シンプルですが、実現すべきことは以下です。

アカウント深耕の方法
① 既存部署と既存取引を維持・拡大する
② 既存部署と新規取引を開始・維持・拡大する
③ 新規部署と新規取引を開始・維持・拡大する

そして、そのための戦略は、大きく以下の3つです。

アカウント深耕戦略
1.顧客満足度を高める
2.顧客内にリレーションを張り巡らす
3.好機にはリスクを厭わず戦略的に投資する

以下、それぞれの戦略に対し【どういう意味か】【何をするのか】【それを満たすとどうしてアカウント化に寄与するのか】といった観点で説明していきます。

 1.顧客満足度を高める

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