大規模案件を受注する戦略的提案活動のススメ
こんばんは。国内大手ITで法人営業をしている あくえりです。
安易な「人間力」に頼らず、呑まず媚びず、アウトプットの質を高めることで 8年間営業として成果を出しています。
今日は、僕が法人案件を本気で受注しにいく際に実行する「戦略的な提案活動」について、その具体的なプロセスや考え方のポイントをお伝えしたいと思います。
誰でも取り入れられるように、易しく詳しく書きました。普段意識しているポイントも、出来るだけ多く掲載したつもりです。
全部で6000字を超えてしまいましたが、休日の夜のお供に、是非読んでいただきたいです。法人営業に従事している皆様はもちろん、営業の仕事をもっと知りたい、という方にも役立つ内容だと思っています。
法人営業の仕事ってめちゃくちゃ知的かつ戦略的でクリエイティブです。その姿が少しでも多くの皆さんに伝わったら嬉しいです!
なお、以下で想定しているのは「ITソリューション等 大規模無形財の法人営業」となります。小規模有形商材や個人向けの営業は、また異なる世界の話だと思うので、その点はご了承ください。
戦略的な提案活動とは
大型ソリューションの法人営業で一番マズイのは「行き当たりばったり」の営業活動です。
とりあえず訪問する
とりあえずヒアリングする
とりあえず資料送る
とりあえず見積る
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顧客からの依頼に脊髄反射で「とりあえず」動いているようでは、いつまでたっても受注確度は上がりません。レスのスピードを上げようが、行動量を増やそうが、ゴールに近づかない歩みは時間と労力の無駄。
大型の投資(数億円~数十億円以上)ができる会社は多くなく、マーケットや顧客層に限りがあります。提案機会は少ない一方、多くの一流企業が競合になる。投資金額が大きいため、顧客社内での意思決定プロセスが複雑化する。キーマンは多数いて、皆が違うことを考えている。誰も決断をしない一方で、次々と詳細な情報提供を求められる。結果、提案期間は長期化する。
こういった過酷な競争環境の複雑な提案活動では、一つの営業的なミスが命取りになる。顧客の意向やリクエストに応えているだけでは、ただ振り回される。戦略や目的なき行動は時間の無駄であり、それはすなわち「営業としての死」をもたらす。
そこで大事なのが「戦略的な提案活動」です。
戦略とは、ゴールへの最短距離を紡ぐストーリー。提案活動も、ゴールを設定し、その実現のために必要な要素を最短距離で満たすことで、受注確度を高められます。
以下で、その具体的なプロセスや留意点をお伝えします。
提案活動のプロセス
実際の提案活動のスタートには様々なパターンがありますが、本稿では「顧客にて、解決したい業務課題や導入したいソリューションの要件が大凡決まっている状態で、当社製品に興味をもち、コンペ形式で提案依頼を受けることになった」とします。
本当は、提案依頼(RFP)を受ける前から顧客に接触していて、提案依頼自体を自分(営業)が作り、実質ノーコンペで受注に繋げるのが、法人営業の目指すべき戦い方。とはいえ、このような提案案件の組成に成功するとは限らないし、一般的にはコンペ形式が多いので、このような前提を考えることにします。
この場合、僕の考える戦略的な提案活動のプロセス(概要)は以下です。
① 受注に必要な条件の棚卸し
② 現状(既存情報含む)整理
③ 課題(不足情報含む)の明確化
④ 課題解決プロセスの策定
⑤ 役割分担と実行
⑥ (再度②へ…以降繰り返し)
では詳細化していきます。
① 受注に必要な条件の棚卸し
提案をする以上、ゴールは受注。厳密には「どこまで本気で取りにいくか」という組織的な合意を先にすべきですが、今回は一旦置いておきます。
省略したけど、この「どこまで本気で取りに行くか」の組織的な合意はすごく大事。提案活動にどれだけリソース(人、お金)を使うか、競合が価格勝負をしてきた際に乗るか引くか、赤字になる提案金額でも将来的な回収を見込んで取りに行くか、など。これ次第で、後続の戦い方や意思決定が大きく変わってくる。
さて、ゴールを受注とした場合「どのような条件を満たせば受注できるのか」をまず明確化しましょう。行先を知らずに、そこにたどり着くことは不可能です。
これ、日常的な感覚では当たり前なのに、営業活動ではこれをやってしまう人が多いんですよね。「とりあえず製品紹介します」「とりあえず見積作ります」「とりあえず上司を連れていきます」…etc。提案活動に「とりあえず」は禁句。全ての行動に目的を持つ必要があります。
では、受注に必要な条件とは何か。
簡単に言えば、顧客との友好的な関係がある上で「競合より優れた内容の提案を作り」「競合より優れたプレゼンをする」ということ。
本当のことを言えば、上記を満たさなくとも「上層とのリレーションを活かした政治的な寝技」で受注する戦術もあるが、毛色の違う話なので、ここでは割愛する。
前者(競合より優れた内容の提案を作る)のための条件としては、例えば、
・提案額が予算に収まっていること
・納期の希望を満たしていること
・必須要件(機能/非機能)を満たしていること
・優先順位を踏まえ希望要件を満たしていること
・キーマンの意向を満たしていること
・これらで競合より優れていること
・ノックアウトファクターをクリアしていること
・許容できる契約条件であること
・提案期限までに提案書を作成していること
・etc
などがあります。
条件としてはある程度汎用的なので、一回考えておけば使い回しできます。是非、一度整理することをオススメします。もちろん、それぞれの条件の中身や優先すべき順位は、案件ごとに違うので、そこはご調整ください。
なお、この辺を整理した自作フォーマットがあるので、欲しい人がいれば公開も考えます。それはまた機会を改めて。興味があれば、お声がけください!
また、後者(競合より優れたプレゼンをする)についても「優れたプレゼンとは何か」を言語化出来ている必要があります。考え方は同じ。こちらも話がずれてくるので、今回は割愛します。
なお、プレゼンで緊張しないためのコツを以前noteに書いたので、参考までに掲載します。
話を前者(競合より優れた内容の提案を作る)に戻します。
こうした「受注に必要な条件」を洗い出すと「必要な情報」が同時に分かることがポイント。
例えば「キーマンの意向を満たしていること」という条件を満たすか確認する、もしくは、満たしにいこうとする場合、必要な情報は以下だと分析できる。
・キーマンの意向は何か
・そもそもキーマンは誰か
・決裁プロセスはどうなっているか
・各プロセスの担当者や承認者は誰か
・組織はどうなっているか
・組織のパワーバランスはどうか
・これらを知っている人は誰か
・…etc
このように「受注に必要な条件」を棚卸し、その検討や確認に「必要な情報」を芋づる式で洗い出すことが、最初のステップとしてとても大事です。
書き出した情報は、関係者で共有するためにも、エクセルなどで管理しましょう。
② 現状(既存情報含む)の整理
必要な条件と情報を洗い出したら、次に確かめるのは「現状どうなっているか」です。
①で作成したフォーマットに、現時点で条件を満たせているか、必要な情報は手に入っているかを、一つずつ埋めて確認する。ここは単純作業。
一つ注意を挙げるなら、内容に対して決して誤魔化さないこと。「本当はこの情報ないけど、まぁこれが近いからこれでいいか」と見栄を張ってフォーマットを埋めないこと。可視化した結果、予想外に埋まらない現実にショックを受けるかもしれない。でも、まずはその現実をきっちり受け止めること。
大丈夫、目指すべき方向と現実が分かれば、後は改善するだけです。
③ 課題(不足情報含む)の明確化
①に対して②が不足していれば、それがそのまま課題(情報取得を含め やるべきこと)となります。
このとき提案の時間やリソースが十分にあれば、全ての課題に取り組んだ方が良いでしょう。でも、現実はそうじゃないことが多い。
その場合は、優先順位をつけて取り組んでいきます。優先順位は課題解決に掛かる「効果」と「コスト(時間、お金、労力)」の観点から決める。言うは易しだが、ここはセンスが表れるところ。
ただし、基本的に以下の情報を押さえていないと話にならないので、ここは優先的に情報をとっていく。
・予算
・納期
・必須要件(業務課題、何に困っているか、どう解決したいか)
・選定のポイント(金額?実績?機能?)
・競合情報(どこか?どんな提案か?提案額はいくらか?)
④ 課題解決プロセスの策定
取り組むべき課題が決まれば、具体的な解決プロセスを記述する。後の役割分担を決めるためにも、具体的なタスクやスケジュールに落とし込む必要がある。
なお、スケジュール(期日)は、後ろから決めていくこと。いつまでに何を実現すべき、というデッドラインから遡り、各タスクに期日を入れ込んでいく。要はWBSです。
⑤ 役割分担と実行
タスクに分解した後は、そのタスクを誰がやるかを決めます。
大事なのは、受注に必要な活動として担当者を決めること。上司にも同僚にも遠慮は不要。必要なスキルを有する人に、役割を与えていきましょう。
ただし、作業量のバランスや、各人が他に抱えている仕事の都合は十分に吟味し、全員が納得感をもてる配慮は大切。また、可能な限り自分が担う姿勢も、人に動いてもらうには必要ですね。
ここまで決めれば、後は迅速に実行あるのみ。
営業としては、提案活動全体の旗振りを担う必要があるので、各位の実行状況のフォローも忘れないようにしましょう。
⑥ (再度②へ…以降繰り返し)
こうして実行し始めると、新しい情報が集まり、また、新しい課題もどんどん見えてきます。こうしたら再度②へ戻り、同様の課題解決プロセスに落とし消しこんでいく。
短期決戦(提案まで1-2週間程度)の場合は、毎日関係者で集まって、このプロセスを回せると良い。中長期(半年以上)の場合も、競合含めて世界は活発に動いているので、少なくとも週に1回は、各自の状況や新情報を確認できる場を作ると良いです。
以上が「戦略的な提案活動」のプロセスとなります。改めてプロセスを再掲します。
① 受注に必要な条件の棚卸し
② 現状(既存情報含む)整理
③ 課題(不足情報含む)の明確化
④ 課題解決プロセスの策定
⑤ 役割分担と実行
⑥ (再度②へ…以降繰り返し)
最後に、上記のプロセスを実行するにあたって、いくつかの大事なポイントを記載して、本稿を終えたいと思います。
実行のポイント
・関係者の巻き込み
上記のプロセスは決して一人でやるものではありません。担当営業として、ある程度のフォーマットや仮案を作ったら、詳細の検討作業や協議には、提案関係者を巻き込んだ方がよいです。
この目的は「多様な観点から案をブラッシュアップする」のはもちろん、提案関係者のコミットメントを引き出す、という面もあります。
大規模提案は、決して担当営業単独で実行できるものじゃありません。顧客上層とのリレーションを活用するなら上司の協力があった方がいいし、エンジニアリングを伴う場合は、エンジニアに提案内容を考えてもらわないといけない。
こうした組織戦を行うには、一人だけが突っ走っても大概失敗します。周囲を適切に巻き込みながら、彼ら自身に「自分の案件」だという意識を醸成し、皆で熱量高く推進していかないといけない。
そのためには、分解したタスク実行の役割をただお願いするのではなく、方針検討や決定の場面から議論に参加させる(心理学でコミットメントという)方が圧倒的に効きます。
こうしてコミットメントを引き出し、また皆で頭を合わせて議論をするために、前半で説明した情報やプロセスを記述したエクセルが役に立つわけです。手間を惜しまず、ここぞというときは、是非やってみてください。
・上層部への営業
偉い人へのコネ、と言えば聞こえは良くないですが、上層部とのリレーションは、令和になっても大切です。もちろん、接待をすれば案件が取れるわけではない。何か便宜を図ってもらえることも、基本的にはない。
でも、ある程度の関係が出来ていれば、少なくとも「邪魔をされるリスク」は減る。積極的にポジティブな影響はなくとも、ネガティブな影響を排除できる効果はデカイ。嫌われていたら、それは致命的に不利になります。
また、意思決定に直接の影響はないとしても、提案に役立つ有用な情報を教えてもらえることは多いです。情報源の1つとして活用しない手はない。
なので役職の都合上、自分でコンタクトを取るのが難しければ、積極的に上司を巻き込んで、関係を作ってもらいましょう。関係を作るのは上司の仕事ですが、上司に仕事をさせるのは部下の仕事です。ガンガン使いましょう。
・戦う土俵を変える
先のプロセスで「課題」として解決を狙っても、なかなか解決の目途が見いだせない課題もあります。
そういうときは、発想を転換し「受注に必要な条件」の部分が変えられないか、検討してみるのがコツ。
例えば「顧客が必要とする機能」を、競合の製品は満たす一方で、自社製品では満たせない場合を考えてみます。このままいくと確実に負ける。
そこで「顧客が必要とする機能」を変えられないか試みる。大体の場合「機能への要望」の裏には「解決したい業務課題」がある。機能は業務を変革する一手段に過ぎず、業務課題を解決できるなら、機能自体は何だって良いものです。
顧客にもう一度丁寧にヒアリングをすることで、こうした根本の「業務課題」を見つけることが出来れば、あとは自社製品の機能でそれを解決する手段を提案すればよい。それで、より安く早く質高く解決できるなら「機能要件」はもはや選定条件にならない。
戦いの土俵を変えるとは、こういうことです。戦局を一気に覆す魔法のような戦術ですので、是非色々と考案してみましょう。
まとめ
以上が、大規模案件を受注するための「戦略的な提案活動プロセス」になります。組織で法人向けの大きな案件を狙う際は、このようにきちんとしたプロセスを予め段取り、目的や意図をもって戦略的に動くことがとても大事。
そして営業としては、このプロセス全体を仕切り、提案関係者の頭の中を整理し、想いを一つにしてモチベーションを高めながら、顧客に最高の提案が出来るように仕立てていきます。
当然、自分自身がフロントに立って顧客からの情報を取りにいくし、提案書も書きます。問題があれば先陣をきって社内外と交渉するし、ビジネスとしての責任も取ります。
営業とは、高度に知的でクリエイティブな仕事です。ただニコニコしながら場を空気を作ったり、飲んでお客さんと仲良くなるだけの仕事ではないんですよ。
これだけ面白い「営業という仕事」を知ってもらいたくて、今回の記事を書きました。
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それではまた次回お会いしましょう!
あくえり
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