人前で緊張せず上手くプレゼンするコツ
僕は普段、日系大手のIT企業で、法人向けに年間15億円程度を売り上げている。
パッケージ導入からスクラッチ開発、既製品から新規ソリューション、金額は数千万円から数十億円まで、大小問わず様々な案件を提案、受注、実行しており、提案活動やプレゼンについてはそれなりの勉強と経験をしてきたつもりだ。
その経験も活かし、今回は、頂いたご質問を参考に「人前で緊張せず上手くプレゼンするコツ」をご説明したい。
課題定義
まずは、課題を正確に定義する。
このテーマの真のゴールは「上手くプレゼンをすること」だと思う。とすれば、多少の緊張はしたっていい。
問題なのは、過度の緊張によって以下が生じ「上手いプレゼン」でなくなった場合。これは聞き手に不安と不信感を与え、信頼関係を壊すため。
「声」:震えて聞こえない
「動作」:挙動不審になる
「思考」:次の言葉が出ない
逆に言えば、緊張してもこれらを防げれば良い。一方、緊張しなくても元のプレゼン能力が低ければ目的は達せない。
よって、今回の課題を解くには、
① 人前で緊張しない
② 緊張してもプレゼンに悪影響を与えない
③ そもそも上手いプレゼンが出来る
という3点(①と②は片方でも可)を満たせばよいことが分かった。では、実際どうすれば良いかを説明していく。
…なお、真の真のゴールは「プレゼンの目的を果たすこと」であり、それは多くの場合「聞き手を動かすこと」だと思う。つまり、緊張してもプレゼンが下手でも「聞き手を動かしさえすれば良い」という考え方もできるが、あまりにも質問者様の意図から離れそうなので、今回は上記に論点を絞る。
① 人前で緊張しないために
そもそも人は、どういうときに何故緊張するのか。僕の考えはこうだ。
"成功しなきゃいけない" と本人が思う局面で、失敗の可能性を感じたときに、人は緊張する。
例えば「失敗しても構わない/問題ない/何とも思わない」と本人が感じていれば人は緊張しない。また同様に、失敗が許されない局面も「確実に成功する」と、本人が自信を持てていれば緊張しないだろう。
つまり、緊張を防ぐためには以下のいずれかを満たせばよい。
①ーA 失敗しても良いと考える
①ーB 成功を確信する
①-A 失敗しても良いと考える
安易な話だが「失敗してはいけない」と力を入れることで緊張するならば、「失敗したって良いじゃん!」と発想を変えてしまえばよい。
そもそも何故プレゼンごときに失敗してはいけないのか。
プレゼンをミスれば会社に巨大な損失でも与えるから?それは嘘だ。巨大な損失を被る恐れがある仕事なら、会社は決してあなた一人に仕事を任せない。もし、あなたがミスしても、隣の上司や同僚が必ず挽回する。あなたの失敗なんて何もなかったかのように会社とビジネスは回り続ける。
もし、プレゼンをあなた一人がするなら、それは会社にとって大して重要な仕事じゃない。失敗したって会社が傾くわけじゃない。ちょっと恥ずかしくて怒られるだけだ。
恥ずかしい思いや怒られたショックなんて一瞬で、次の日にはもうみんな忘れている。人間なんて、他人の受けた叱責より、今夜のご飯が気になる生き物だ。
他人どころか自分のことだって覚えてない。ほら、最後に恥ずかしい思いをしたのはいつ?何日の何時何分何秒?その前は?10回前は?
大体、プレゼンの一瞬の巧拙で、提案や説明の勝敗が決まることはほぼない。それまでのコミュニケーションや信頼関係、そして提案や説明の中身の合理性がよっぽど決め手になるよね。
それでも万が一、あなたのプレゼンミスで案件を失注したとしたら?それで実態あなた自身に何の影響があるのか。会社の売上が多少下がろうと、あなたがもらう給料にはほとんど影響がない。もし甚大な影響があるなら辞めてしまえばよい。どこだって働けるし、何だって生きていける。
通常のサラリーマン型月給制ではなく、フルコミ系やフリーランスならどうか。そんなことでウジウジせず、普通に次の仕事を探すでしょ。
要は、目の前のプレゼンで軽く失敗したって、実質的に大した問題じゃないの。「絶対に成功させなければいけない!」なんてプレゼンは存在しない。
どうだろう?少しは失敗しても良いって思えてきただろうか。
ちなみに緊張する理由をグーグル検索してみると、その原因は「自意識過剰」や「完璧主義」だとするものが多い。本項の考え方に近いと思う。
とはいえ、ここらで言われるような「自意識過剰をやめる」「完璧主義をやめる」というのは、実は対策に見えて全く対策になっていない。なぜなら、これらは性格上の個性であり、やめようと思って簡単にやめられるものじゃないから。
だってそうでしょ。もとから自意識過剰だったり完璧主義な人達にとって、適当人間になることは非常にハードルが高い。僕もこの種の人間だからよくわかる。「失敗してもいいや」なんて腐っても思えない人もたくさんいる。
そんな人は、完璧主義をとことん活用して次項で緊張を回避しよう。
①-B 成功を確信出来る準備をする
先ほどの「失敗しても何の問題もない」暗示が響かず、「完璧なプレゼンをしなきゃいけないんだ」という強い信念をお持ちの完璧主義者、かつ、自意識過剰なあなたは、是非その強みを生かして完璧を目指そう。
成功を確信できるまで完璧に準備し状態を整えられたら、失敗を恐れて緊張することはなくなる。だって失敗しないんだもん。余裕でしょ?
そのためには、例えばこんな準備をすると良い。
・台本作成と練習
緊張で困る人が、プレゼン開始前に一番失敗を意識するのは「言うべき内容が出てこない」「間違った内容を話してしまう」といった言葉に関する部分だろう。立ち位置や表情を意識出来るようなプロなら、緊張で悩むこともない。
この場合の対策は簡単で、最初から言うことを決めてしまおう。台本を作り、練習して覚え込む。もしくは、覚えきれない内容ならば、読みながらプレゼンしてしまえば良い。
「プレゼンは身振り手振り相手の表情を見ながら臨機応変にやるべきで…」とは、プレゼンのプロが考えることだ。失敗の可能性を感じて緊張する程度の人は、こんなことを考える必要はない。頭が真っ白になり、伝えるべき言葉を届けられない方が余程問題だ。
僕も、大事なプレゼンではきっちり台本を用意し、プレゼン中に読めるようにしている。ワードに小さく書いて印刷して置くこともあれば、Evernoteに書いてスマホを見えるところに置くこともある。
↓ Evernote に書いた台本例 ↓
登壇形式なら、操作PCやマイクが置かれる台で隠せるし、打ち合わせ形式なら手持ち資料に紛れ込ませてテーブルの上に置けば良い。大体みんな資料を睨んでいるから、こちらも資料を読むフリをしながら手元で操作しても、ほとんど違和感なく読める。
ちなみにジョブズじゃないんだから、フラフラ歩き回り格好よくプレゼンする必要はない。それはプレゼンのプロの仕事だ。先の章にも通じるが、そこまで「完璧」であると思う必要はない。それでも、もし「完璧」にやりたいなら、納得いくまで練習すべし。
なお、台本については「一語一句正確に書く派」と「キーワードと流れだけメモしておく派」がいるが、個人的には前者をオススメする。後者は、結局その場その場でアドリブが必要になるので、言葉に詰まったり、言いたいことを忘れる可能性がある。それらの可能性が残れば、緊張のタネは消えない。
これで「言葉を失う」リスクはかなり回避できる。相当な安心感と上手くやる自信が得られ、緊張は薄まるはずだ。
・想定問答の作成
説明やプレゼンには「質疑応答」が付きものである。どれだけ自分のプレゼンを完璧にこなしても、その後の質問で頭が真っ白、言葉に詰まってしまったらやはり「上手いプレゼン」にはならない。はぁ…悩みは尽きないし、これも緊張のタネになるよね。
この対策としては、予め「想定問答集」を作っておく。どんな質問がくるかを事前に想定、回答を用意し、頭に入れておく。台本と同様に持ち込んでも良い。
ただし「想定を当てる」には、経験や知識が必要になる。何度かプレゼンを経験すれば「どんな質問がくるか」はある程度分かるが、慣れていない人には難しいだろう。
そんなときは遠慮なく、周囲に聞いてみるとよい。プレゼン資料や台本を見せて、突っ込みどころを聞く。人は頼られてうれしいから、快く意見をくれるはずだ。
また、当然、質問に対して的確な回答を用意しておく必要がある。これは提案の話であり、中身の話であり、プレゼン技術とは無関係に対応出来て然るべきものだと思う。きっちりと対応をお願いしたい。
ときどき、本当に中身を理解していない担当者がプレゼンし、中身の質問にたじろいでる姿を見ることもあるが、これはハッキリ言って相当にダサイ。どんな事情で人前に出ているかは知らないが、人前に立ってしまった以上は、組織を代表するプロとして見られる。見せ方の技術云々は抜きにしても、中身はきっちり理解し語れるべきだと思う。
なお、プレゼンで敢えて説明不足の点を用意し「質問する部分を作っておく」という荒業もある。聞く側も「全ての疑問を解消したい」というよりは「体裁として質問をしなきゃいけない」という義務感で聞くことも多いので、食いつきやすいネタがあればホイホイ乗ってくる。ただ、説明不足で主張が伝わらず、相手のフラストレーションに繋げては逆効果なので、初心者にはオススメしない。
ここまで準備すれば、大体のプレゼンには自信をもって対応できるだろう。
ただし、世の中にはあらゆる想定を超えて奇怪な質問を投げ込んでくる「ファンタジスタ」がいる。このようなテールリスク、ブラックスワンは諦めて受け入れよう。その場の誰もが上手く対応出来ないので、あなたに責任が発生することはない。受け入れる覚悟があれば、自信の喪失には繋がらない。皆で慰め合って、打ち上げの肴にしよう。
・録音録画練習
ここまで来たら最後の仕上げとして、録音や録画によるセルフチェックをオススメする。
自分のプレゼンに自信が持てない、もしくは不安を感じる原因の一つに、それが「他人にどう見えているか分からない」というものがある。自分の顔は一日に数十回確認し、何回も整えるにも関わらず、プレゼンの姿や説明時の音声を確認したことがない人はめちゃくちゃ多い。自分の姿を知らずして人前に出るなんて、そりゃ不安でしょうよ。
だから、是非自分の説明を録音しプレゼンをビデオに撮ろう。今の時代、スマホ一つですぐ出来る。
何なら今この瞬間に録音してみてほしい。練習原稿として、この記事を使ってくれて構わない。周囲の人は何かと思うだろうが、プレゼンの勉強として当記事を早速実践している旨、合わせて宣伝してくれれば良い。
タイムスケジュール通りに物事を進める練習としても、必ず1回は通しでやっておきたい。話すスピード、声の大きさ、抑揚の付け方に、表情やボディランゲージなど、あらゆる観点からチェックをしよう。
そして、自分のセルフイメージや憧れのプレゼンターとのギャップを分析し、軌道修正しながら再度撮り直す。そうして少しずつギャップを埋めていく。こうした地道な活動により、プレゼンの質と自信が高まっていく。努力の継続のみが自信と成果を高める。
さて、ここまでは「人前で緊張しない」ための方法を考えてきた。次は「緊張することを前提にそれでもプレゼンは上手くやる」ための方法を考えてみたい。
② 緊張してもプレゼンに悪影響を与えないために
冒頭にも記載したが、多少の緊張をしても、プレゼン上の問題を起こすような過度の緊張をしなければよい。
「声」:震えて聞こえない
「動作」:挙動不審になる
「思考」:次の言葉が出ない
不安や緊張は「心の動き」、上記は「身体(心以外)の動き」である。
心と身体は密接に関わるものの、別々に制御できるのが理性をもつ人間。普通なら、お腹が空いたからといって、目の前のお店から食べ物を盗んだり、落ちているご飯を食べたりはしない。
ここでは、そのように「過度な緊張を緩和し身体のコントロールを取り戻す」ための簡単な技術をいくつかご紹介する。なお、これらの効き目には個人差があることと、本質的な打開策は前述の『①人前で緊張しない 』にあることはご認識いただきたい。
大きな声を出す
人はどうやら大きな声を出すと緊張が緩和するらしい。プレゼンの前に直前練習を兼ねて、もしくは、冒頭挨拶にて、出来るだけ大きな声で始めてみてはいかがだろうか。
個人的な経験としても、肺に意識を集中し、しっかり空気を出し入れしながら発声すると、体の内部が温まって気持ちが落ち着く感覚はあるので、よくやっている。
姿勢を変え歩き回る
子供が授業中に歩き回る例からも想像出来るとおり、心が昂っているときに、身体を落ち着けてじっとするのは、心身への負担が大きい。そのストレスが余計に緊張を増幅し、行動に支障を来す。
緊張したときこそ、身振り手振り大きくジェスチャーをつけ、(歩けるなら)会場をラフに闊歩すると、気持ちが落ち着くもの。
また、身体を動かしながらのプレゼンは、聴衆に「優秀そうなプレゼンター」として映るので、プレゼン技術としても練習しておきたい。
聴衆に問いかける
プレゼンは、工夫をしない限り孤独な営みとなる。協力的でない同僚に囲まれ、興味関心のないお客様が目の前にいたとしても、1人で何十分と発信し続けなければいけない。目の前の相手がどう思っているかも分からず、1人孤独に走り続ける。これはもうなかなかしんどいよ。
だから、他者を適宜巻き込むのが良い。仲間内で発表部分を役割分担するのも1つだし、お客様から随時質問を受けたり、こちらから聞くようにすればいい。場のエネルギーを一身に背負うのはストレスだが、このように分散すれば幾分やりやすくなる。1人で無理する必要はなく、お客様含めて1つのプレゼンを作る意識でやれるとすごくよい。
以上、ここに挙げたものは、正直、おまじないのようなテクニックではある。
人をジャガイモにして食べるでも、スクワットを50回やるでも何でも良い。各自が自分のおまじないを考案し、そして信じて頼れば良い。
「信じるものは救われる」だし、この手の心理コントロールの効果はバカにも出来ないものだと思う。
③ プレゼン力を磨くために
ここまでで緊張を抑制したり、多少緊張しても自分のプレゼン力を発揮できるようになった。後は遮るものはなく、全力のプレゼンを叩き込むだけ。
だが、ここで最後の問題がある。肝心のプレゼン力が備わってなければ、これまでの努力は全くの無意味だ。戦闘力が 10 の初期孫悟空は 100% の力を発揮しても 10 にしかならない。戦闘力 100 の亀仙人の手抜き(20%)にも及ばないわけだ。
だから、プレゼン力を磨こう。プレゼン自体が上手くなれば、それが自信を生み、緊張を減らす効果もある。
残念ながら、本件は壮大なテーマなので、本稿での詳細な記載は避ける。ただし、参考になる情報はいくつか置いておくので、是非活用してもらいたい。
まずは、以前の僕のツイート。
また、スピーチ全般で活用できる小技として、こちらの記事をご覧いただきたい。Googleで「スピーチ 上手い」で3位表示される、僕としても独特の視点で書けたと思う記事。
さらに、書籍としては以下を読んでみていただきたい。
そもそもプレゼンとは何か、提案の構成はどのようにして、具体的な技法としてどんなものがあるか…といった通常のノウハウに加え、マインドや哲学的な部分でも参考になり、「どうやって人に魅せるか/聞かせるか」が学べるような書籍を集めてみた。
まとめ
以上、長くなってしまったが、僕の勉強や経験を踏まえ「人前で緊張せず上手くプレゼンするコツ」を説明してきた。
緊張を防ぐには、まず「失敗しても大したことない」と考えて完璧主義を辞めること。もしくは「心配しようもない」くらい準備して確信的な自信を得ることが大切。まずはここに取り組もう。
そうは言っても、本番で急に緊張の波がやってくるときはある。そんなときは、自分なりの「おまじない」を利用して、ミスを犯す程の過度な緊張は避ける。
そして、こうして整えたコンディションで繰り出す「プレゼン自体」の質を高めるべく、日頃から勉強と訓練に努めておく。
プレゼンは確かに緊張するし、難しいものかもしれない。
でも、その緊張やストレス、責任を乗り越えて「決めきった」ときは、何より気持ち良いものでもある。もちろん、自社の提案の良さを100%伝えて採用してもらうことで、お客様ビジネスの成長に繋げられる、非常に意義のある仕事でもある。
皆さんにも是非この気持ちよさと充実感を味わってほしい。
一緒に頑張りましょう!!
あくえり
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