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おばさんと電車と死体【リレー小説/④】(闇夜のカラス様の続きです)

秋様がリレー小説を募集しています。

闇夜のカラス様発信のお話です。我慢できずにまた続けてしまった……。
みんな書きたいよねー?書きたいでしょー?書いてー。しばらくひよこは黙ります。

「私たちの出会いと、殺人に」

 ぼくはゴクリと唾を呑みこみ、なにもいえずに彼女の目を見返した。おばさんはまた笑った。
「人を殺したからって、それがなに?楽しんだもの勝ちじゃない。夢の中なんだよ、ここは」
 おばさんは自分の持つグラスを、ぼくのグラスに軽く打ちつけて「乾杯」と言った。そして美味しそうに酒を飲み干した。


 酒を口に含んだものの、なかなかのどを通らない。一度深呼吸をして力いっぱい飲み込むと炭酸にむせる。正直、味なんてわからない。
「あら、もしかしてお酒ダメだった?」
「……いえ、そんなことないです」
 むせながら答える。大丈夫。この酒に毒は無さそうだ。
「あの。さっきの男の人、なんで殺されたんですか?」
 もっとオブラートに包んだ言い回しをしたかったが、全然頭が働いていない。
「あー、日頃のウップン? ほんっと腹が立つのよ、アイツ」
「お知り合いだったんですか?」
「うちのダンナ」
 ワゴンに置こうとしたグラスが滑り、床で割れる。ぼくの特大の「え」が車内を満たす中、おばさんは割れたグラスを見つめ、もったいない、とつぶやいている。
「え?ダンナさんって?さっき外に、え?ダンナさん?なんで?」
 男性の驚いたような怒ったような顔を思い出し、ぼくは思わず肩を震わせた。あの男性は奥さんに刺されたのだ。彼女は座ったまま手酌でシャンパンをおかわりしている。
「正直言っちゃうとさ、私、時々ダンナを殺しに来るのよ。うちのダンナは亭主関白っていうの? 家じゃ何にもしないのにプライドだけ高くて口ばっかり達者で。で、もう我慢できないって時にダイブして殺すわけ。最初はちょっと可哀想かなとも思ったけど、今は全然。家に帰ったらいるんだけどさ、ダイブを思い出してちょっとすっきりするの。ざまあみろってね」
 ぼくは呆けた顔で彼女を見つめていた。彼女は話しながらテリーヌをつまみ、美味しかったのか、うんうんとうなずいている。
「でも今回は頼んでないの。きれいな風景の中でリフレッシュしたい、って思ってたから。なんで出てきちゃったんだろうね。前のログが残ってたとかかな。ダンナを殺した後に君が出てきたから、まあエラーなんだろうね」
「あの、何度も言いますけど、ぼくがAIドリームダイブに接続した客で、あなたがぼくの見ている夢ですからね!」
 そう。きっとこれはチュートリアルみたいなものだ。こういう楽しみ方もありますよっていう宣伝だ。自分に言い聞かせるように何度も考える。でもチュートリアルってこんなにリアルな設定がいるのか?

「あ、見て! 島が見えてきたよ!」
 彼女は座席に膝立ちになり、窓に両手をつく。青い海の向こうに、絵具をぽんと置いたような緑色が見えた。


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