【アーカイブレポート】なれそめアカデミー#02劇場のお仕事~ロームシアター京都 河本あずみさん~(学生視点編2)
なれそめアカデミー#02 が「劇場制作のお仕事」をテーマに開催されました!
前回に引き続き、ファシリテーターを京都を中心に舞台制作を行う渡邉裕史(ソノノチ)、学生の聞き手を小寺春翔(京都芸術大学 アートプロデュース学科4回生)が担当。ゲストにロームシアター京都の河本あずみさんを迎え、劇場制作との「なれそめ」と若い世代へのアドバイスを伺いました。
【なれそめアカデミーとは?】
オンライントークイベント「なれそめアカデミー」では、主に京都や関西を中心に、舞台芸術やアートの創作現場・環境を下支えする仕事をしている方をゲストに招き、今の仕事につくきっかけを聴いています。
ゲスト×ファシリテーター×聞き手(学生)の三者対話形式で話を進めながら、「これから舞台やアートを裏から支える側・マネジメント側に関わりたい」と思っている方に向けてお届けするトーク企画です。
<こんな思いのヒントに!>
・舞台芸術の仕事にはどんなものがあるのか知りたい!
・舞台芸術の裏側に興味がある!
・これから舞台芸術・アートマネジメントに関わることをやりたい!
・舞台芸術関係の仕事に興味があるけど、きっかけやつながりが見つ
からない!
・とりあえず就活を始めたけど、何から手をつけていいか分からない!
詳しくは第1回アーカイブ「なれそめアカデミーとは?」へ
https://note.com/begining_academy/n/n65880539fb6e
【ゲスト紹介:河本あずみさん (ロームシアター京都)】
第2回のゲストは、ロームシアター京都・管理課 の河本あずみさん。
劇場制作として吉祥寺シアター、ロームシアター京都では自主事業の制作を担当する事業チームを経て、現在は貸館業務*1や賛助会員業務などを担当する管理チームでお仕事されています。
(*1 貸館…劇団やカンパニーなどが施設利用料を払い、劇場が場所を提供すること)
体育会系一家だったと話す河本さんは、高校まではポートボールやソフトボールに打ち込み、グラウンドのそばの建物から演劇部の声出しが聞こえていた…とのこと。高校までの演劇の思い出と言えば、学校の鑑賞会で観た「オズの魔法使い」くらい。他にも読書が趣味で、大学は文学部に進学、日本文学のゼミに所属しながら本屋でアルバイトをしていたそうです。
そんな河本さんの舞台芸術との「なれそめ」は、卒業研究の題材に選んだ「三月の5日間」から始まります。今回は河本さんの「なれそめ」を3つのキーワードから振り返ります。
【キーワード①「とにかくやってみる」】
河本さんのお話には「会ってみた」「行ってみた」など、「とにかくやってみる」が盛り沢山。自ら飛び込むことで無縁だった舞台芸術の世界に進み、仕事になるまでの「なれそめ」を振り返ります。
◆本人に会ってみた
河本さんが卒業研究の題材とした「3月の5日間」は、岡田利規(チェルフィッチュ)さんの戯曲が原作の小説版(筆者は同じ)。なかなかピンとくる作品がない中、若者言葉・だらだらした文章に「なんだこれ!」とびっくりして、これなら2年間飽きることなく研究できそう、と選びました。
しかし、論文としての先行研究がない本作の研究は難航。ネット上のインタビューなどを見ながら進めてもアイディアが尽きた時に思い立ったのが「本人に会ってみよう」でした。
所属事務所の問い合わせフォームからメッセージを送ると、「いいですよ」との返事!実は、当時の岡田さんは京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)で非常勤講師を務めていたのです。こうして、河本さんは本人から直接お話を聞く機会を得ることができました。
◆現場に行ってみた
研究を進めるうちに、岡田さんや「三月の5日間」のフィールドが演劇にあることを理解していた河本さん。しかし演劇についてはよく知らない。となれば、作品をより知るために自分が体験するしかない!と次の行動を起こします。
”劇場 ボランティア” で検索をかけると、一発で出てきたのが京都芸術センターでした。募集は「演劇計画」の現場ボランティア。稽古場のお手伝い、折り込みの準備、当日の誘導などの基本的な作業を体験しました。
【キーワード②「人とのつながり」】
前述の岡田さんをはじめ、河本さんが舞台芸術とつながっていく過程には多くの人が関わっていました。「演劇計画」で現場に触れた河本さんは「人とのつながり」によって、舞台芸術により深く関わっていきます。
◆京都の制作レジェンドたち
ボランティアとして参加した「演劇計画」には、スタッフに後の「KYOTO EXPERIMENT」プログラムディレクターの橋本裕介さん、事務局長の垣脇純子さん(MONO)らが。いわば京都の制作レジェンド達がそこに集結していたのです!
ボランティアの翌年、その垣脇さんから1本の連絡が入ります。初年度だった「KYOTO EXPERIMENT」の有償インターンに誘いを受けた河本さん。お金がもらえる&就活に疲れ、休息の言い訳になるかも…と参加を決めます。8月から週2、3回事務局に通い、本番を迎えるまでの様々な仕事を体験しました。
“青春の「KYOTO EXPERIMENT」”、このインターンがちゃんとした社会と触れ合う初めての機会になったと河本さんは語ります。就職面接で落ち続け、自己認識が崩壊するような状況だった河本さんに、職員さんは人を見て仕事を頼んでくれました。就活のアドバイスやフランクな会話も交えながら、社会に出る中でどう頑張れば良いのかを教えてもらうことができたそうです。
さらに幸運なことに、その年はチェルフィッチュも演劇祭に参加。現場に当ててもらい、とても楽しい時間となりました。
【キーワード③「自分に合った仕事」】
「KYOTO EXPERIMENT」のインターンを終えた頃には「自分は舞台芸術が好きだ」と自覚していた河本さん。インターン終了後、就活に戻ると、劇場の就職先を探し始めます。3、4財団を受け、東京・武蔵野市の吉祥寺シアターへの就職が決まりました。
舞台芸術の世界で仕事をすることになってからのキーワードは「自分に合った仕事」。2つの劇場と様々な業務経験を経て、現在の河本さんにつながります。
◆舞台鑑賞1000本ノック
新卒で就職した吉祥寺シアターは230席の地域密着型劇場でした。運営チーム6、7人に技術職が各セクション1人ずつという状況で、多くの業務を担当することになります。「東京の中で劇団から選んでもらえる劇場に」という目標を掲げ、そのために招待する劇団探しが始まりました。
そんな中、上司が河本さんに告げたのが「1000本演劇を観ろ」です。終業後電車にのって観劇して周り、そこで出会う人が「この作品/劇団/俳優がいいよ」という作品をまた観に行く…という日々になりました。これが今の経験にも繋がっているのだそうです。
◆再びの京都、再びのチェルフィッチュ
5年の有期契約だった吉祥寺シアターの退職を前に、河本さんは進路を考え始めます。そんな時、再び垣脇さんから連絡が。ロームシアター京都の開設準備室の事業部に誘われ、即答で入社。
当時のチームは全員が先輩で、皆得意分野がはっきりしていました。そこからこぼれ落ちたものをすくう形で、伝統芸能を中心に公演制作を担当します。そして2018年、ロームシアター京都でチェルフィッチュが「三月の5日間」のリクリエーションが決定。制作チームに参加し、これが河本さんの中で「ひとつの小さなゴール」になりました。
◆「自分に合っている仕事」
劇場での仕事をしてきた中で、「オールマイティー」、「幅広いなんでも屋さん」が向いている、と感じていた河本さん。話し合いなどを経て事業チームから管理チームへ異動をしました。その後正規登用試験にも合格し、現在に至ります。
【三者対談/劇場制作の仕事と若手へのアドバイス】
ここからはファシリテーター×聞き手×ゲストによる三者対談。一部を抜粋して紹介します。
Q.舞台の現場に飛び込んでみて、イメージが変わったことはありましたか?
A.何も知らなかったので、全てが新鮮でした。
(普通の作品とは少し違う)客の方を向かない演劇にはびっくりしました。
他にも、インターン先の職員の皆さんは思考の幅が広く、柔軟さに驚きました。大人になったら真面目になるものだと思っていたけれど、とても自由、想像力豊かな人が多いと感じました。
Q.いい仕事をした!という経験はありますか?
A.ロームシアター京都は指定管理による事業なのもあって、1から企画した公演はありません。
事業プランナーが年間ラインナップを作成しています。その中のトーク企画の1つとして、「LGBTQ+」をテーマにした企画を担当しました。
人選・内容を考えるのは初めてで右往左往しましたが、受け取りやすさを意識して「どんな内容にしたら多くの人が来てくれるか」を考えました。「ロームシアターでやっているから」と来てくれた人が一定数いて、嬉しかったです。
劇場で働いていると、劇場があるありがたみを感じます。
発表の場としての劇場はコスト的にも負担が大きいものですが、制作企画する上では大きなアドバンテージになります。
Q.ロームシアター京都の特色は何ですか?
A.京都という土地が持つ芸術的豊かさです。
事業部で伝統芸能や舞踊(バレエ)の先生と関わり方ひとつでも感じます。
土地に対するプライドを持っている人が多いし、劇場のある土地には自治会の文化もあります。
【Q&A】
なれそめアカデミー#02、最後は参加者の皆様からの質問コーナー。河本さんにお答えいただきます。ここではその一部を抜粋して、紹介します!
Q.(この界隈には)若者が少ない印象があります。どう思いますか?
A.一定の年齢層への偏りが大きいです。経験者が求められる上、契約年数がある(有期契約)雇用形態が多いので、皆がローテーションのようにぐるぐると移動している現状があります。そうすると、そこに新卒が入るのは難しい。かといって人手が潤っているわけではないので、定期的に若手を育てようという扉が開くことはあります。
とはいえ、自分の希望と門戸があることについては、他業界より難しいかもしれません。
Q.舞台の経験がなくても、新卒で舞台の現場で働けると思いますか?
A.できると思います。
皆知識0から始めているし、何も知らないからこそなんでも聞きやすかったりします。
知らないことへの不安はいらない、知りたいという気持ちが大事です。他にも、自分の(舞台以外の)経験が役立つこともあります。
【アーカイブ】
河本さんのお話、三者対談、Q&Aと、盛りだくさんの内容でお送りした第2回。ここでは取り上げ切れなかったものを含めて、アーカイブ動画をご覧いただけます。ご本人から語られる「なれそめ」、ぜひご覧ください!
<アーカイブ動画 URL>
https://youtu.be/ANpqa7_pAH8
【ふりかえり〜第2回に参加して〜】
今回のお話をふりかえると、「劇場で働く」とは、同じ場所で違う作品/人に沢山出会うこと・繋げることかもしれない、と思います。
「ロームシアターだから」というお客さんの言葉が嬉しかった、というエピソードが印象的でした。
他にも河本さんのお話からは、ピックアップした3つのポイントを含め、どこで働く上でも重要なことを教えていただきました。
大学では、「業界・企業研究」「この人と働きたい、と思った人が採用される」「自己分析」の言葉を耳にタコができるくらい聞いています。
でもこれは、まさに①とにかくやってみる(知るための行動をする)、②人とのつながりが重要、③自分に合った仕事…
逆に捉えると、一般就職の考え方が「舞台芸術/アートマネジメント業界で働くための方法が全然分からない!」の突破口になるかもしれないと、ヒントを貰えました。
全く関係のないところから舞台芸術に辿り着くのも、なんだか納得してしまいます。
しかもネットTAMや地域創造、ON-PAMといった情報の窓口は、前回ゲストの尾崎さんと全く同じ。
やり方が少し見えてきた気がするような、そしてもっと話を聞いてみたいような、ワクワクする第2回になりました!
【次回予告】
次回のなれそめアカデミーは7月5日。ゲストは演出家・アートマネジメントなど、多方面で活動している和田ながらさんです。
そして、その翌日7月6日には、アートマネージャーとして活動してる小島寛大さんがゲストとして登場します。
皆様のご参加をお待ちしています!
◉日時:7月5日(月)18:30 - 20:30
◉ゲスト:和田ながら さん(演出家・したため主宰・UrBANGUILDブッキングスタッフ・NPO法人京都舞台芸術協会理事長)
◉参加申し込みURL:https://begining-academy03.peatix.com
◉日時:7月6日(火)18:30 - 20:30
◉ゲスト:小島寛大 さん(アートマネージャー・Bassline Arts Management代表)
◉参加申し込みURL:https://begining-academy04.peatix.com
※2日連続、別々ゲストでの開催予定です。ご参加の申し込みは個別で受け付けております。
記事:菊地しずく(京都芸術大学)
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