マガジンのカバー画像

なんでもないけど大事なあの日

3
大切な記念日や、思い出の1日ではないけれど、なんだか大切でいとおしい、思い返せば素敵だった「あの日」を描きます。
運営しているクリエイター

記事一覧

夜風の心地いい季節に

夜風の心地いい季節に

ほろ酔いの0.8倍速の足取りに、少し大きくふってしまう両手。
久しぶりに運動できた今日は、背中も肩もほぐれていて軽い気がする。

早く帰ることよりも、ちょうどいい温度の空気を鼻から吸い込むことが大事な夜もある。
人通りの少ない住宅街で、何人かの人に追い抜かれた。

歩く速さに精神状態があらわれると思う。
どちらがいいとかではないけれど、ゆっくり歩けた今日は、自分をすこし好きになる。

ワイヤレスの

もっとみる
ロックに生きたかった人生について

ロックに生きたかった人生について

「マーシャルの匂いでとんじゃって、大変さ」
椎名林檎の丸の内サディスティックを口ずさみながら、駅前のカフェから12分の帰り道。東横線の赤い横線が入った10両編成が通り過ぎる中、8m前を歩く夫婦にはギリギリ聴こえないだろう音量。ワイヤレスのイヤホン、両手はポケット、紺色のスニーカー。間奏で軽く目を閉じてみたりしながら、慣れた足取りで交差点を右折する。あくまで僕が主人公のこの人生でも、日常はいたって凡

もっとみる

春のあの人

心の浮わつきを春のせいにするあなたが、今年も横にいる。1枚分軽くなった服装と、少し気合いをいれて巻いた茶髪は、僕を新しい気分にさせた。

春は特別だ。仕事も家事も普段通りやってくるのに、花粉は鬱陶しくて寒暖差が服装を悩ませるのに、それでいても春は僕をあたたかくした。

咲きかけの桜にスマホを近づけて撮ってみる。あの人に送ろうとしてやっぱりやめた。あとで会ったときに見せることにした。季節の変化が僕た

もっとみる