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詩4「カラスウリ」

何度か浮かぶ、何度か浮かんで怒られる。沈みかける。
背泳ぎは得意なほうだった。コーチは男子の背中に、もみじと言って、ビンタを張って跡をつける。笑う。その手がわたしの首を掴んで浮かせる。男の人の手、いや。水着になるの、いや。更衣室の床が濡れているの、いや。みんなでサウナ室に何分も入れられるの本当にいや。
綺麗な水のことを考える。
少し甘い白樺の樹液。
山奥の水源。
つららからしたたる。
前世は烏瓜を愛した鳥で、夜咲く花から実になるまで毎日通って覗き込んだ。赤い実にその姿を映して眺めるだけで、実は決して食べなかった。その蔓に巻かれて死にたかった。
サウナ室の赤い電球、見て、息を、吐いた。他の子供の肌に触れていなくてはいけないのが苦しい。べとべとして熱い。はしゃぐ声が煩い。長々と出席を取るコーチ。タイマーがまだ鳴らない。
もう死ぬんだわたし。次は烏瓜に生まれ変わって鳥に愛されて蔓で優しくその首を締めてあげたい。夜ひっそりと咲く花になりたい。暗い中に白い花。騒がしい昼間に悠々と眠って。そして枯れる。鳴る電子音。開けられるドア、入ってくる塩素の匂いの空気。肺を満たす。みんな駆け出して出て行った後、のろのろと更衣室に向かう。一人で。
烏瓜の蔓を引きずって。

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