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詩3「よあけまえ」

喉にナッツのカケラが詰まって咳き込んだ
君が寝ているのに構わずに
東京の月島のワンルーム
川の匂いとソースの匂いのする中間
流行りのモツ屋の行列で取っ組み合いの喧嘩を見た
ドラマのように川沿いを歩く二人を見た
小型犬を抱いたサングラスの芸能人を見た
ボラを釣る人達はたくさんいた
僕は小さい箱の中で寝転んで住人の騒音を聞いている

君が小さい箱の中に切り取った求人票を隠しているのを知っている
まるで宝石の広告を切り抜くみたいに
でも君は医者に止められていて働けない
暑いと言いながら外を眺める君
新しいシャツの入った透明な袋をぐちゃぐちゃに開ける
星の数ほどありえた君の可能性
(実際小学校の時に東京に転校する選択肢もあったらしい)
奇跡とは思わず必然というよ
君が新聞紙を破いてハサミを握って
泣く夜も

北海道の宮島沼にマガンが飛来するのは
北へ帰る途中に立ち寄るからだそうだ
父と早くに起きてコーヒーを買い(セイコーマート)
車で待っていた
夜が開ける時
空気を震わす黒いはばたきの音がして
見上げると空をマガンが埋め尽くし
父は必死にカメラを回していた
その映像を編集して僕は父の葬式で流した
父は小さい箱になった

僕は手のひらを眺めるのが癖で
君にやめなさいとよく言われる

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