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【エッセイ】映画「ラ・ラ・ランド」と私

鑑賞した映画が、自分の人生に影響を与えるという経験は、きっと誰しもあるのではないだろうか。
影響の受け方は人によっていろいろあるだろうけど、
僕の場合は、大抵何かその時の自分の境遇と主人公とを重ね合わせて、一歩踏み出す勇気をもらうことが多い。
割に楽観的で、そんなに迷うことも少ないタイプなのだけど、
さすがに、勤めていた会社を辞めたり、結婚したり、そんな瞬間はためらうこともある。

数年前のこと、当時付き合っていた彼女と僕は、「ラ・ラ・ランド」を観に劇場に行った。僕も彼女も特別映画好きというわけでもなかったが、かなり話題になっていたので観に行ったのだろう。
映画はとても良かった。主人公の二人の演技も、歌も、踊りも素晴らしかったし、ストーリーも切なく感動的だったのを覚えている。

当時、彼女は自分の夢を叶えるために、海外へ行くことを決意していた。
以前から、それを目指して頑張っていたことを知っていたし、ちょうど僕も新しいことに挑戦しようとしていたタイミングだったので、お互い夢のために頑張ろうと言っていた。

前述の通り楽観的な僕は、数年して彼女が日本に帰ってきた時に、お互いの気持ちが続いていたら一緒になるのだろうと考えていた。
僕だけではなく、彼女もそう考えていたはずだ。
ただ、離れている間、お互いを縛り付けてもいいことはないだろうから、他に好きな人ができれば、そこは恨みっこなしでと。

映画「ラ・ラ・ランド」の中で、女優を目指すヒロインと、自分の店を持つことを夢見るジャズピアニスト、この二人は相性ぴったりなのだが、それぞれの夢のために、離れ離れになることを決意する。
ヒロインは、海外に渡り、やがて女優として成功し、数年後には家庭も持ち公私共に順風満帆。
そんな折、たまたま立ち寄ったジャズバーで、彼を発見。
彼もまた夢を実現していた。彼のピアノにうっとり耳を傾けながら、彼と一緒になっていたらこんな人生を歩んでいたのだろうか、と夢想をするのだ。

確かそんな話だったと思う。
もちろん、女優とピアニストなんてそんなおしゃれな二人ではないが、自分達の今の状況に重ね合わせざるを得ない。
見終えた後、僕らもお互いへの気持ちを持ちながらも、それぞれの道や家庭を築くことになるのかもしれない、そう感じた。
ここで離れるということは、良くも悪くも人生の大きなターニングポイントなんだろうと。

そんなことを感じたよと、彼女に伝えてみると。
けろっとした様子で、
「私は全然そうは思わなかったよ。」
え?
「この人たちと私たちは違うなって思った。」
そうなの?!

案外、女性の方が現実的なものである。フィクションに流されるようなことはないようだ。
その数年後、彼女は帰国。僕らは彼女の予言通り、夫婦となった。
映画に影響を受けそうになった僕を、妻は現実に繋ぎ止めてくれたのだ。

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