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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第8話 ─国家に挑戦状を叩きつけよう!─Chapter3-4


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【前回までのあらすじ】ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・29歳)。彼はその大きな力に翻弄ほんろうされる中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕びんわん弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。そんな時に、マサカズと伊達の前に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーは大活躍を見せる中、ある知らせをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。弱りきっていたマサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力をたくしてしまい、ゆがんだ暴走の矛先ほこさきは伊達に向けられる。そしてマサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、ホッパーの行方を追うものの、その足取りはいっこうにつかめないでいた。

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第8話 ─国家に挑戦状を叩きつけよう!─Chapter3

 秋葉原から総武線に乗り込んだマサカズは、午後四時過ぎには代々木に到着し、事務所までやってきた。ビルの前には鑑識と思われる制服姿の男性捜査官が二人、そしてモスグレーのパンツスーツを着た中年女性が既に到着しており、マサカズを出迎えた。捜査官たちは会釈えしゃくをすると、マサカズはそれを返した。
「初めまして。わたくし巻鳥まきどりと申します」
 ふわりとした柔らかそうなショートカットの女性はそう挨拶あいさつをすると、名刺を差し出した。マサカズもポーチから名刺を取り出し、二人はそれぞれの名刺を交換した。それには『犯罪心理リサーチ 中田ラボ 主任研究員 巻鳥公子』としるされていた。マサカズはそれを見て、なぜ民間企業の人間が刑事事件の捜査に加わっているのか小さな違和感をいだいたので、すぐさまそれを言葉にした。
「民間さんですか?」
「ええ、検察へのコンサルをやってます。今日も東京地検からの依頼できました」
 マサカズはその返答にうなずくと、三人を二階の事務所に案内した。

 二人の捜査官は手袋をすると、すみやかな手際で血痕けっこんが残る床や、ロッカーの調査を始めた。スーツの女性は、自分は何をするわけでもなく二人の作業を見守っていた。
「昨日、刑事さんが言ってた、メンタリストでしたっけ?」
「ええ、犯罪心理学を専門にしています。事件現場を検証し、犯人像をしぼり込むのが私の役割です」
 つやのある声で、巻鳥はそう説明した。
「いくつか質問、よろしくって?」
「はい……あ、すわってください」
 マサカズが適当な椅子いすうながすと、巻鳥はそれに腰を下ろし、足を組んだ。マサカズも倒れていた椅子を起こし、対するような形で座った。
「あなたもこれから現場の調査をやるんですか?」
「あら? 質問かしら?」
「あ、ごめんなさい」
「いいわ。あのね、私は特にやらないのよ」
 では何をしに来たのか。言葉の意味を素直に受け止められなかったマサカズは首をかしげ、あごをひとでした。
「具体的な捜査は、あの二人にやってもらうわ。知っておきたいポイントはもう伝え済みってこと。そして私は彼らが用意してくれる資料に基づいて、容疑者の絞り込みを行うってわけ。で、今日ここに来たのはね、この現地で山田さんからお話を聞きたかったからなの」
「そうですか……実は犯人の目星めぼしとか、もうついちゃったりしてるとか?」
「また質問? 私のターンは一体いつくるのやら」
「す、すみません!」
 マサカズはちりちり頭をくと、巻鳥に大きく頭を下げた。巻鳥は細く長い人差し指をあかくちびるに当てると、柔らかく微笑ほほえんだ。
「いいわ。そうね、目星はついてるかも」
「誰……? あ、ごめんなさい」
 頭を上げたものの、うっかり三度目の質問をしかけたので、マサカズは視線を床に落とした。
「ぼちぼち、こちらの質問に入ってもいいかしら?」
「ど、どーぞ」
「おたくのアルバイト従業員についてよ。ホッパーたけしさん。ここで働いていたのよね」
 つけている“目星”とは彼のことか。マサカズは唾液だえきみ込み、行きがけに飲み物を買ってこなかったことをやんだ。
「はい。そうです」
「彼の働きぶりは、どうでした?」
「真面目です。それに優秀でした。事務や雑務もそつなくこなしてましたし、警護の仕事では大手柄おおてがらも立てています」
 ありのままの事実をマサカズは語った。バッグからメモを取り出していた巻鳥は、万年筆で書き込みを始めていたが、その目はマサカズをじっと見つめていた。
「性格は? 特に気になった点は?」
真面目まじめ……えっと、それと……カタブツって感じですが、柔軟性がないってわけじゃなくって、自分の非はすぐ認めますね」
 他人の性格を語るなど、ほとんど経験がなかったため、マサカズは言葉を探しながらそう証言した。
「被害者の伊達さんとは、どのような関係でした?」
 刑事からされると思っていた質問だった。それが、この民間のコンサルタントからされるとは思っていなかった。マサカズは視線をそそいでくる巻鳥から目をらし、ひざの上で両指を組んだ。
「あなたは、ホッパーが犯人だって見込んでるんですか?」
 だがその質問に、巻鳥からの返答はなかった。そのかわり「伊達さんとホッパーは?」と再びたずねてきた。マサカズは観念かんねんし、ゆっくりとてのひらを合わせた。
「特に何も。僕とホッパーはプライベートでも買い物や映画に行く関係でしたけど、伊達さんとホッパーとはほとんど接点がありません。従って、二人について特に語るべき点はございません」
 事実であり、真実ではない。だが、自分はホッパーが伊達を殺害する現場には居合いあわせていない。従って彼がどのような様子でいかなる言葉と感情を伊達にぶつけたのかは想像するしかなく、その意味を見いだせなかったので、マサカズは考えをめぐらせること自体、ほとんどしてこなかった。
「ありがとうございます」
 そうげると、巻鳥はメモと万年筆をバッグに戻し、椅子から立ち上がった。
「じゃあ、これから二時間ほど、私は検証に立ち会っていきますね。ときどき、質問させていただくこともありますけど、そのときはよろしくね」
 巻鳥はマサカズに一礼すると、二人の捜査員に次の指示を出していった。椅子に取り残されたマサカズは、事務所のすみ鎮座ちんざしている金庫に目を向けた。あの中に残りのスペアキーが無事残されているのは、一昨日の時点で確認を済ませていた。六本の鍵はリュックに詰め込み持ち帰り、今では自宅の金庫に移してある。捜査の対象になるとは思えない、平凡な見た目のロッカーキーだが、自分と伊達にとって最大の秘密である。それを検証の現場から早々に回収できたのは、今となっては数少なくなってしまった安心材料のひとつだった。マサカズは欠伸あくびをかみ殺し、三人の仕事ぶりをぼんやりと見つめていた。

 巻鳥が告げた通り、二時間後、三人は事務所から出て行った。帰り際に巻鳥から、明日からまだ数回は現場検証があり、マサカズはそのすべてに立ち会う必要があると説明された。こうなると仕事など手が着けられるはずもない。それよりもあのコンサルタントの女性の質問から考えると、捜査当局は容疑者をホッパーに絞り込んでいるはずだ。早ければ明日にも指名手配され、猫矢ねこやたちとは比べものにならない規模での捜査が行われ、ほどなくしてホッパーは逮捕たいほされ、鍵の秘密と自分の違法行為も明らかになる。
 終わりはもう目の前まで迫っている可能性は極めて高い。しかし、伊達の死を無駄むだにしないためにもその瞬間まで足掻あがくことを止めたくはなかった。力も資金もまだ残されている。それらを最大限に活用し、自分にできることはやりげてみせる。誰もいなくなった事務所を眺めたマサカズは、次の目的地に向かうため腰を上げた。

「このたびはこのようなことになってしまい、大変申し訳ございませんでした!」
 顔がうつり込むほどみがかれた土間どまひたいをこすりつけ、マサカズは土下座どげざをしたままそう謝罪をした。それを見下ろす形で、廊下ろうかには一組の夫妻がいた。夫は両拳をにぎりしめ、ほお痙攣けいれんし、妻はエプロンの前で手を重ね、眉間みけんしわを寄せていた。どちらもが初老に差し掛かる年代だった。
 本日最後になる用事を果たすべく、マサカズは恵比寿の住宅街にある伊達の生家を訪れていた。
「頭を上げてください」
 伊達の母がおだやかな口調で、マサカズの背中にそう言った。だが、彼はそのままだった。伊達の父は一歩前に出ると、土間に素足を落とし、式台しきだいに座り込み、身をかがめた。伊達家の廊下は大人が横になってもなお余裕のある幅の広さだったので、父とマサカズは並んで向き合うことができた。
隼斗はやと遺体いたいは殺人事件ということもあって、検視にはそれなりの時間を要します。従って葬儀そうぎの日程は未定です。決まりしだい連絡しますので、今日のところはお引き取りください」
 父は淡々たんたんと、抑揚よくようとぼしい口調で、マサカズにそうげた。しかしマサカズはいま、何をどうするべきなのか、正解がかわからなくなっていた。今夜の訪問は事前に連絡はしていたものの、伊達の両親にどうびればいいのかについては行き当たりばったりだった。
「山田さん、謝罪の気持ちはわかります。しかしながら我々の気持ちもご理解していただきたい。私はね、隼斗はやとにあなたとの事業から手を引くようにすすめました。なぜなら、これ以上は隼斗の心が持たないと思ったからです。わかります。どうせ隼斗から持ち込んだ話だったのでしょう。ですが、あなたとの事業の結果、隼斗は命を落とした。強盗のたぐいではないので怨恨えんこんであることはわかります。いずれは、なにもかもが明白になることでしょう。だからね」
 父はマサカズの背中に右のてのひらを乗せた。少しばかりうめくと、彼の声にようやく起伏が生じた。
「あなたの存在は、できうる限り遠ざけたいのです。隼斗の死を思い返すきっかけにしかならない」
 廊下から、伊達の母のすすり泣く声が聞こえてきた。マサカズは更にひたいを土間に強くりつけた。
「葬式は呼びます。そして、我々とあなたが会うのはそれで最後です。二度と、金輪際こんりんざい、我々の前に姿を現さないでいただきたい」
 ふるえてはいたが、しっかりとした強い言葉だった。マサカズは父の助力の手伝いで力なく立ち上がると、「ごめんなさい」とつぶやき、背中を向けた。

 最悪の形での初対面になる。こうなることはわかっていたはずだ。弁護士だけに、乱暴な言葉をぶつけられることはなかったが、それだけに丁寧ていねいに、しっかりとした拒絶きょぜつだった。手紙での謝罪という手段もあった。それを選ばなかったのは、もしかするとタスクを手早く処理するような気持ちだったからなのかも知れない。そうだとすれば、原因は直前にせまった終焉しゅうえんに対してだろう。
 刑務所に入れば、二度と直接の謝罪はできなくなる。昔、父方の祖父がこう言っていた「とにかくあせるな。焦っちゃおしまいだ。なんもかんも間違えちまう。落ち着け」と。これは果たして焦りの末、間違ってしまった結果なのだろうか。
 恵比寿の閑静かんせいな住宅街を歩きながら、マサカズは腰のポーチからスマートフォンを取り出した。ニュースアプリを確かめてみたところ、今夜もホッパーについての報道はなかった。事件から、まだ二日目である。もう二日もっている。落ち着かない気持ちにさいなまれていたマサカズの目に、ひとつのニュースが飛び込んできた。
 『栃木で女子高校生が行方不明 警察が捜査を開始する』
 このような見出しであり、内容は極めて簡潔だった。十月二十日以来、栃木県宇都宮市に住む女子高校生、永野かりん十八歳が自宅から姿を消し、行方ゆくえがわからなくなっているとのことだった。このニュースは間違いなく、幼なじみの三条葉月さんじょう はづきが夫ともに遺体を山にめた事件についてだ。
 あの二人もまた、終わりが目の前までやってきているということなのだろうか。追うべき報道がひとつ増えた。マサカズは突然吹いてきた寒風に身をちぢこまらせ、背を丸めて駅まで歩いていった。

第8話 ─国家に挑戦状を叩きつけよう!─Chapter4

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