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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう!─Chapter7-8


前回までの「ひみつく」は

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ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・28歳)。彼はその力の使い方に戸惑とまどいながらも、同じ現場で危機を乗り越えた若き弁護士の伊達隼斗(だてはやと)の助言を得て、つけ込まれていた半グレ集団との縁を断つことに成功する。敵との死闘で壊れた鍵のスペアキーを作ってみたら、同じような"力"が発動することを発見。伊達はその"有効な使い道"として「秘密結社」についての構想を思い描き始める…。一方、マサカズは気になる存在となりつつあったアルバイト先の後輩、七浦葵(ななうらあおい)とみに行き、2人の距離は近づきつつあったが、マサカズはそこで"あるもの"を見てしまう…。

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第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう! Chapter7

 くる日、書店に出勤したマサカズだったが、あおいは体調不良を理由にアルバイトを休んでいた。同僚からそのむねを知らされたマサカズは連絡するすべも無いため、ただ彼女のことを心配するしかなかった。

 この日も夕方まではあまり忙しくもなく、来る七月の『店員さんのオススメ漫画』のポップ作成をするため事務室のパソコンに向かっていた。商業施設内の店舗だったためバックヤードのスペースは非常に狭く、この事務室も机が二つしかなく、マサカズは店長の舌打ちやひとごとを間近に聞きながら、画像編集ソフトを操作していた。
 マサカズはパソコンの操作が不慣ふなれで得意ではなく、このポップ作りも手作りで行いたかったのだが、字があまり上手うまくなかったため、申し出は店長から却下されてしまった。葵はパソコンにけていたのでいつも自分はネタだしを担当し、ポップそのものの作成は彼女にお願いしていたのだが、休みということでそれもかなわなかった。
「店長、文字ってどうやって打つんでしたっけ?」
「キーボードで打つに決まってるでしょ」
「あ、いや、それはわかります。この画像ソフトで文字を入れる方法です」
「んもう」
 となりに座っていた小坂店長が腰を浮かし、マサカズのモニターをのぞき込んだ。
「前にも言ったでしょ。この“T”てボタンを押すのね」
 店長の指示通りにしてみたところ、画面にはテキストを打つためのガイドが表示された。
「あ、そーだそーだ」
「山田君、あのね、七浦さんなんだけどね」
「はい」
「なんか、最近ダメじゃない?」
「遅刻とか、休んだりとか?」
「相変わらず仕事もミスが多いし。山田君なんか知らない?」
「いゃ、僕は、その」
 彼女の昨日からの不調については、おそらく自分の冷たい態度が原因であるはずだ。確信にまで至っていたマサカズは、それを正直に言うべきだと思った。
「実は僕、おとといの仕事終わりに七浦さんとお酒をんだんです」
「うん」
 店長は強く小さく何度かうなずいた。マサカズは彼が興奮している様に感じた。
「そこで色々とあったんですけど、ちょっと、彼女を傷つけてしまうようなことを僕がしてしまったようで」
「なにしたの?」
 早口で店長はたずねた。強い興味は管理職という立場からではなく、もっと下世話げせわな期待からくるものだ。そうさっしたマサカズはうんざりとしたが、うそをつきたくないため説明を続けようとしたものの、単純な問題ではないため言葉に迷った。
「なにもしてません。ほんと、細かいやりとりが原因だと思います。七浦さんがつぶれて、僕のアパートまで背負せおって、酔いがめて、彼女はバスで帰って」
「連れ込んだの? 山田君が? へー、意外ー」
「放っておくわけにはいかないでしょ?」
「で、ヤッたの?」
 うれしそうにそう尋ねてきた店長に、マサカズは身体を向けこぶしを作った。
「してません!」
「ははん、だから? 七浦ちゃんとこじせらせちゃった?」
「彼女には彼氏がいるんです。そんな展開自体あり得ません」
「へー、彼氏いるんだ。あんな地味子ちゃんでも」
 店長のもの言いが品性を失う一方だったため、マサカズは説明を止めこの狭い事務室から出ていきたくなった。すると、インターホンから「山田さん、ヘルプよろしく」と、男性店員から声がした。マサカズは「すみません!」と言い放つと席を立ち、売り場に戻った。

 今日こそ葵にあやまりたい。次の日もそんな気持ちでマサカズは朝のルーティーンをこなしていた。洗顔、歯磨はみがき、朝食はらず紙パックの野菜ジュースを飲みながらテレビで朝のニュースと天気予報を見る。毎日、朝はそのような過ごし方をしていた。
 テレビでは、死亡事故のニュースをやっていた。場所はこの小岩から南に九キロほど離れた葛西の路地裏であり、身元不明の二十代から三十代の男性の遺体が発見されたとのことだった。死因の公表はなかったが、警察では殺人を視野に入れて目撃情報や防犯カメラの映像の収集をしているらしい。その報道にマサカズは、やはり錠前は常に手元に置いておくべきだとあらためて思い、出勤の準備を進めることにした。

「ちょっと七浦さん、急に休まれるとね、困るんだよね」
 朝、ロッカールームにやってきたマサカズは二日前と同じ様な場面に出くわした。腕を組んでいた小坂店長は葵に「なんか言うことないの?」と、強い語調で詰め寄った。
「反省してます! もう休みません!」
 明るく元気よく、はっきりとした口調の葵だった。店長は勢いに気圧けおされたようであり、小さく身じろぎすると事務室に戻っていった。
「葵さん、あのさ」
 マサカズがそう切り出すと、葵は右足を軸にして軽やかに振り返った。
「おとといの僕の態度、謝るよ。ゴメン、どうかしていた」
「なんかありましたっけ」
 あっけらかんとそう返してきた葵に、マサカズはちりちり頭をひとかきし、「ありは、しないか……」と呟いた。葵は人差し指で眼鏡を直すと、マサカズに向かって一歩踏み出した。
「ねぇ、またあのお店で呑みましょーよ」
「そ、そうだね」
 いつもの明るい七浦葵だ。いや、いつもよりも元気が増している様にも思える。マサカズは軽く困惑し、彼女から目をらした。
「もしかして、早退からの病欠で心配しちゃったりしてくれてます?」
「うん」
「嬉しい! ありがとうです!」
 葵はマサカズの両手首をつかみ、何度か上下させた。
「でももう大丈夫です。ここをクビになったあとも何とかやっていける目処めどが立ったんです」
「目処?」
 手首を掴つかまれたまま、マサカズは視線を葵に戻した。彼女は満面に笑みを浮かべていた。
「どんな目処?」
「それは、ひみつです!」
 短くそう返した葵は、マサカズから手を離し売り場へとけていった。

 マサカズは客からの要求のため、本棚からコミックの単行本を取り出し、それをカゴに詰めていた。まさか、全三十六巻をまとめ買いする客がいるとは予想していなかった。二つのカゴを両手に持ったマサカズは、レジに戻ろうとした。
「どーしたの泣いたりして」
 マサカズは足を止め、声の方に目を移した。すると、葵がしゃがみ込んで未就学ぐらいと見られる小さな男児に声をかけていた。男児は目に涙をめ肩を上下させ、今にも爆発しそうなストレスをかかえている様でもある。
「迷子? パパかママとはぐれ……いなくなっちゃったとか、かな?」
 おだやかにやさしげな口調で、葵はそうたずねた。
「じいじ、いない」
 ふるえた声で男児が答えた。
「じいじか。じゃあね、お姉ちゃんと一緒に行こうか」
「知らない人に……」
「大丈夫、ホラこのエプロン。お姉ちゃんこの本屋さんの店員さんなんだよ」
 葵は身に付けていた“イマオカ書店”とプリントされたエプロンの端をつまみ、男児に根拠を見せた。
「そーなの?」
「うん!」
 葵はそう返事をすると、マサカズに目を向けた。
「山田さん、そーですよ、ね!」
 急に助けを求められたマサカズはカゴを床に置くと、葵たちの元まで進んだ。
「ほんとだよ。このお姉ちゃんは七浦さんっていう、僕の同僚どうりょう……仲間の店員さんだ」
 男児はマサカズを見上げると、小さくうなずいた。
「葵さん、どうするの?」
「案内所に連れていきます」
「あ、そーか。僕、迷子対応って教わってなかった」
「店長、ザルですもの。じゃ、行ってきます」
 葵は立ち上がると、子供の手を引き、売り場を出て行った。
「キミ、漫画とか好き?」
「アニメ、好き」
 そんなやりとりをしながら小さくなっていく葵たちの背中を、マサカズはじっと見つめていた。
「あぁ、好き……なのかも」
 つぶやいたマサカズの背中に、女性客から「どうなってるんですか!?」と怒声が浴びせかけられた。彼はあわてて単行本の詰まったカゴまで戻り、それを持ち上げるとレジまで戻ることにした。

第2話 ─可哀想な女の子を救ってあげよう! Chapter8

 変わらない毎日だった、この日までは。

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