ひくひくとウサギの餌を食べてる
一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。
いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。
『霜柱を踏みながら 7』
ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジにある小さなカフェで私はスピナッチサラダを食べていた。生のスピナッチ(ほうれん草)の上にスライスされた生のホワイトマッシュルームがトッピングしてある。それにマスタードドレッシングをかけて食べるのが私のお気に入りで、週に3回はこのカフェに来て必ずスピナッチサラダを注文していた。ニューヨーク名物でもないのだが、どこのカフェやレストランに行ってもスピナッチサラダはメニューに載っている。ニューヨークに行く前の日本では、ほうれん草を生で食べる習慣は一般人にはまだ普及していなかった。そのせいもあり、生ほうれん草をむしゃむしゃ食べる現地の人を見て「そんなの美味しいのかね」と思いながら見ていたが、ある日友人に勧められて恐る恐る食べてみたら苦味もなくとても美味しくやみつきになってしまった。この姿を従姉妹のMちゃんが見たら何と言うだろうとこれを食べるたびにMちゃんのことを思い出すのだ。
『なんか、ウサギみたい...』
あの時、従姉妹のMちゃんはバカにしたような口調で私にそう言った。その時の声のトーンやちょっと異質なものを見るような目は今でも覚えている。
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