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畦道の兄妹、カズヨシとミユキ

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。
いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。
『霜柱を踏みながら  4』


家の裏側にある窓を開けると一面に田んぼが広がっている。その向こうに国道が走っていて、国道沿いには郊外特有の大きなガソリンスタンドがあった。その横には何も手のつけられていない広い空き地があり、子供など簡単に隠れてしまうほどの背の高い雑草が生えてて、雑草の生えてないところには大小の石ころが転がっていた。柵はしてあるもののとても粗末なもので、所々が壊れていて誰でも入ることができた。雨が降ると水溜りがいくつもできていた。冬になるとその水溜りに氷がはってそれをバリバリと運動靴の先で割るのが楽しみだったりしたのだが、子供心に家が何軒も建ちそうな空き地が国道沿いにあること自体が不思議でならなかった。

生活圏に田んぼや空き地があることに何ヶ月経っても私は慣れることができずにいた。大阪にいた頃は、どの道筋にも何かしらも建物があって空き地などなくその代わり児童公園がいくつもあった。ガソリンスタンドも数台の車が入るといっぱいになるくらい小さなものだった。工場がたくさんあり、私が小児喘息を発症するのはこの工場が出す煙が原因だとも言われていたのだが、工場の前を通る時の油の匂いや汗を垂らしながら働いている人たちを見るのは嫌いではなかった。工場の近くを流れる川には、その工場が出す油が浮き魚の死骸が浮いてたりしたが、「これが世の中だというものだ」と変に悟っていて、この土地しか知らないということもあるが他の人が思うほど不快ではなかった。

それに比べると、奈良は静かで清潔で退屈だった。

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