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[私小説] 霜柱を踏みながら

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私小説です。時系列でなく、思い出した順番で書いてます。私の個人的な思い出の物語です。
このマガジンは私の私小説風のエッセイで、月に3本くらい2000文字前後の作品を投稿していく予定です…
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2021年2月の記事一覧

畦道の兄妹、カズヨシとミユキ

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 4』 家の裏側にある窓を開けると一面に田んぼが広がっている。その向こうに国道が走っていて、国道沿いには郊外特有の大きなガソリンスタンドがあった。その横には何も手のつけられていない広い空き地があり、子供など簡単に隠れてしまうほどの背の高い雑草が生えてて、雑草の生えてないところには大小の石ころが転がっていた。柵はしてあるもののとても粗末なもので、所々が壊れていて誰で

ゆらゆらの果て、煙の中に消える父

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 3』 レコードはすべて映画音楽だった。爪弾くギターも「禁じられた遊び」、クリントイーストウッドのタバコの吸い方を真似して、スティーブマックイーンのカウボーイハットの被り方を模索していた。あの物静かでどこか陰気な雰囲気のある父がこんなミーハーなことをしているのが不思議でならなかった。もちろん子供の私にはミーハーという言葉もその意味もわからなかったのだが、母の顔色を

母親が哀れに泣く雨の夜

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 2』 あの夜、母が泣いた。嫌、嫌、と幼児のように泣きじゃくった。派手好きで自信満々で大阪の街中を縦横無尽に闊歩していた母。そんな母にとって奈良の市内とはいえ、まだ田畑が残るこの住宅街に来ることは屈辱にも近いことだったのだろう。引っ越しが終わった当日の夜、父と母は喧嘩をした。それは大人同士の喧嘩というより、我儘な子供とそれを嗜める大人の喧嘩のようだった。 「こんな

弧を描く白い絵の具

一歩進むごとに、過去の一歩が失くなっていく。 いつかこの場所もゼロになってしまうのだろう。 『霜柱を踏みながら 1』 奈良なんて田舎やん、そんなところに引っ越すのは嫌や。私は内心そう思っていた。そして口に出せないその思いを微々たる態度で両親に抗議していた。でも、そんな子供の微々たる抗議が聞き入れられるはずもなく、引っ越しは決行された。私の気持ちなど蚊帳の外だった。 それは小学三年生になったばかりの頃だった。引っ越しと同時に大阪の小学校から奈良の小学校に転校した。大阪の小学

プロローグ

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