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映画で知り、本で生き、舞台で弾ける。

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映画、本、観劇の記録です。 この3本の柱でわたしは成り立っています。
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#読書感想文

【詩集】 真珠 ・荒川洋治

惑わされる...これはきっと叙情の惑いなのかと こうなれば、もうどうでもなれと思いながら読み終えた。 詩というものを読んだことがないわけではない。 子供の頃から現在に至るまで、有名無名に限らずあらゆる詩を読んできた。 そして自分でも詩を書いた。 これだけ長いあいだ詩と関わってきたのに、荒川洋治さんの『真珠』にこれだけ惑わされて、「読み解けるもんなら解いてみる?」と、問われる詩集は始めてだった。 正直に白状しよう。 私は読み解けてはいない。 そもそも詩というのは、読み解くも

茶柱の立つところ ・ 小林聡美

【読書感想文】 茶柱の立つところ 何かの女性雑誌を立ち読みしていたら、小林聡美さんが新刊を出されたという記事を見かけた。 それは日々のことを綴ったエッセイだと知った私は、その足で雑誌コーナーから新刊書コーナーに移動してこの本を買った。 私は小林聡美さんの佇まいというか、持ってらっしゃる雰囲気というか、どこがどうという理由ははっきり答えられないのだけど、とても好きなタイプの女性だ。 以前(2021年1月20日)に『誰もが小林聡美になりたがる』というエッセイをこのnoteに書い

BLANK PAGE (空っぽを満たす旅)

【読書感想文】BLANK PAGE 空っぽを満たす旅/内田也哉子 樹木希林さんと内田裕也さんの娘である、内田也哉子さんが書かれたエッセイとなる。 この本はかなりの人気だと聞いている。現に私の知人の半分がこの本を購入していた。也哉子さんのお母様である希林さんの人気も凄まじかったが、その娘となると若い方も加わってさぞかし人気なのだろうと思う。 希林さんは、女性の方、それも若い方というより年を重ねられた方に絶大な人気がある。 希林さんが生前書かれたエッセイは今でも売れているようだ

現実的なくせに、どこか弱虫

2024.2.5 (月曜日) I'm wimpy 雨の月曜日である。 『雨の月曜日』とかいうと、詩や小説の題材になりそうだが、 私にとっては週の初めなのに鬱陶しいなという感情しかない。 今日の私は過度に現実的である。 時々、過度にロマンチックになるから帳尻合わせとしては丁度いいのかもしれない。 夫はいつも自転車通勤をしているが、雨のせいで徒歩で行くようで、 「あぁ、めんどくさいな」と、夫もまた今日は現実的な様子である。 市川沙央さんの『ハンチバック』を読み終えた。 読み

にぎやかな落日

にぎやかな落日/朝倉かすみ 光文社 ある雑誌の紹介文に、 『自分の今後、そして自分の老後について思いをはせながら読むことになる小説だ。』と書いてあった。 確かに読んでる最中に、何度も亡くなった父や母のことを思ったし、生きていれば必ず訪れるであろう自分の落日についてもいろいろ考えながらの読書であった。 物語は、北海道で一人暮らしをする83歳になるおもちさんが主人公。 甘いものが大好きで間食がやめられず持病の糖尿病が悪化してしまう。 夫(勇さん)は施設に入っていてもう帰って

【読書感想文】 いのちの初夜・北條民雄

重いです。 辛いです。 悲しく切ないです。 言葉のひとつひとつにそれらの感情が込められている。 そしてそのすべての言葉にリアリティがある。 それは単なる創作作品ではなく、自分の目で見て肌で感じてそれらに触ってきたから書ける言葉だなと思う。 しばらくこれほどの感情をぶつけてくる作品を読んでなかったせいか、 ちょっと戸惑いながら(不穏を隠せないまま)読み始めた。 この作品集は癩病(ハンセン病)を患った作者が書いたハンセン病患者を収容する強制隔離施設の様子を描いた作品である。 読

くもをさがす・西 加奈子

その本には、伊国屋書店限定でカードが差し込まれたいた。そこに書かれたメッセージはそれだけでとてもインパクトのあるものだった。 手に取って数ページ読んだところで、この本はを途切れ途切れに日にちをかけて読む本じゃないと自分の中のどこからか指令が来て、一気に読んだ。 作家の西加奈子さんが居住地であるカナダでコロナ禍の真っ最中に乳がんになり、その時の様子を克明に綴った本だ。 今やがんは珍しい病気ではなくなってきている。そう思うことの根拠は医療の発展もあるが、まだ自分の身に降り掛かっ

八月の母

「八月の母・早見和真」を読了した。 長く苦しい本だ。 読者を嫌な思いにさせる本だと思う。 それは批判しているのではない。それだけ考えさせられる本ということだ。 冒頭は幸せそうな家族の描写から始まる。 しかし、これから長い長い苦しみが描かれるのだろうなと予測させるものが言葉の端々から感じ取れる。 この物語は愛媛県で実際にあった事件を元に書かれたものだと聞いている。 母親と子供、切っても切れない呪縛でがんじがらめにされた事件だったとしか私は知らない。 物語は愛媛県伊予市とい

私の盲端

朝比奈 秋/私の盲端を読んだ。 全編を通して『便』の匂いが立ち込める。 想像力の豊かな読者ほどそれは顕著に現れるだろう。 私も幸か不幸か想像力は豊かな方だ。 それゆえよりリアルにこの物語と接することとなった。 * 物語は、 ある日、飲食店のバイト先で大量出血をして病院に運ばれた女子大生の涼子。直腸の腫瘍を取る手術で人工肛門になったことを目が覚めてから知った。 その後、バイト先、大学生活などでさまざまな経験をしていく。 そんな中で知り合う同じ境遇の人たちとの奇妙な交流でい

父のビスコ

読書記録[父のビスコ / 平松洋子 著 / 小学館] 食べ物の記憶というのは不思議なもので、もう何年もその食べ物にお目にかかってないのに、思い出した途端に鼻腔にその時の匂いが広がり、頭の中にその時の状況が浮かび上がる。 誰にでもそんな思い出の食べ物がひとつやふたつあると思うが、この作品は著者である平松洋子さんが生まれ育った倉敷で巡り合った食べ物、東京に出てから巡り合った食べ物など自分自身や家族とのエピソードと共に綴られた自伝的エッセイ集だ。 平松洋子さんの子供の頃からの記

ある日。 から始まる日記

武田百合子さんのこと。 武田百合子さんの『富士日記』を読もうと思って購入したが、一緒に購入した『日日雑記』を先に読んだ。 日記形式で日々のいろんなことが書かれているのだが、この日記には日付が記されていない。 どの日の日記にも日付の代わりに『ある日。』と書いてある。 (お正月の日記にだけは『正月三ガ日』と書かれてる) それを読んで私は理由もなく、「なんかかっこいいな」と思った。 日付の有無はとても重要な時もあるが、果たして日記に日付は必要なのだろうかとふと思う。誰にも見せない

もっとたくさん人を愛して死んでいきたい

「某・川上弘美」を読み終えた。 不覚にも最後は涙するという結果になって、私にもまだ人間のやわな心が残っているのだと再確認した。 「某」という言葉の意味をネットで調べてみると、『人の名前や、地名、場所、時などについて、それとはっきりわからない場合、あるいは、それとはっきり示さず表現する場合に用いる』と書いてあった。 なるほど...と思う。はっきりわからないのだ。 何もかも。 主人公の「わたし」は、突然この世に現れた。人間のような姿をしているが、名前も年齢も性別も生きているの

西瓜糖の日々

とても変な話だ。 
まるで誰かが見た長い夢の話を聞かされているようだった。

 いま、こうしてわたしの生活が西瓜糖の世界で過ぎてゆくように、
かつても人々は西瓜糖の世界でいろいろなことをしたのだった。
あなたにそのことを話してあげよう。
わたしはここにいて、あなたは遠くにいるのだから。

 とても素敵な書き出しに、西瓜糖の夢の世界に恋いこがれながら読んだ。何を隠そう私はこの本を数えきれないど読んだ。でも不思議なことに何度読んでもまるで新しい本に出会ったような新鮮さと驚き

人生の謎について 松尾スズキ

この本のタイトルを見た時に、「あなたが謎だよ、松尾さん」とツッコミを入れたくなった。他人の人生で「あの人、謎だわ」と思う人は多々いるが、私の中では松尾スズキほど謎な人物はいないとずっと前から思っていた。今もそう思っている。この本は松尾スズキの人生の謎について書かれたエッセイで、普通言えないよなこんなことと思えるようなことも堂々と書いてあるから素敵だ。 私は松尾さんが携わるほとんどのお芝居や映画やドラマなどを長い間観てきたが、松尾さんはほんとうに謎多き人だった。特に舞台上では