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映画で知り、本で生き、舞台で弾ける。

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映画、本、観劇の記録です。 この3本の柱でわたしは成り立っています。
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記事一覧

【詩集】 真珠 ・荒川洋治

惑わされる...これはきっと叙情の惑いなのかと こうなれば、もうどうでもなれと思いながら読み終えた。 詩というものを読んだことがないわけではない。 子供の頃から現在に至るまで、有名無名に限らずあらゆる詩を読んできた。 そして自分でも詩を書いた。 これだけ長いあいだ詩と関わってきたのに、荒川洋治さんの『真珠』にこれだけ惑わされて、「読み解けるもんなら解いてみる?」と、問われる詩集は始めてだった。 正直に白状しよう。 私は読み解けてはいない。 そもそも詩というのは、読み解くも

茶柱の立つところ ・ 小林聡美

【読書感想文】 茶柱の立つところ 何かの女性雑誌を立ち読みしていたら、小林聡美さんが新刊を出されたという記事を見かけた。 それは日々のことを綴ったエッセイだと知った私は、その足で雑誌コーナーから新刊書コーナーに移動してこの本を買った。 私は小林聡美さんの佇まいというか、持ってらっしゃる雰囲気というか、どこがどうという理由ははっきり答えられないのだけど、とても好きなタイプの女性だ。 以前(2021年1月20日)に『誰もが小林聡美になりたがる』というエッセイをこのnoteに書い

映画館の隅っこで、未来をそっと夢見てた

【映画にまつわる思い出 with WOWOW 参加作品】 少し戸惑っていた。 私は映画に少し戸惑っていた。 今の私の素直にな気持ちである。 ありとあらゆる映画をテレビやスマホで見れる時代になった。 映画好きにとっては最大級の幸せな時代なのかもしれない。 しかし、子供も頃、母に連れられて行った映画館の子供さえも魅了する雰囲気が忘れられない。 重い扉を開けて中に入ると、外の世界と一線を画した世界がそこにあって、きらびやかな世界というより、その反対のどこか秘密めいた世界があった。

BLANK PAGE (空っぽを満たす旅)

【読書感想文】BLANK PAGE 空っぽを満たす旅/内田也哉子 樹木希林さんと内田裕也さんの娘である、内田也哉子さんが書かれたエッセイとなる。 この本はかなりの人気だと聞いている。現に私の知人の半分がこの本を購入していた。也哉子さんのお母様である希林さんの人気も凄まじかったが、その娘となると若い方も加わってさぞかし人気なのだろうと思う。 希林さんは、女性の方、それも若い方というより年を重ねられた方に絶大な人気がある。 希林さんが生前書かれたエッセイは今でも売れているようだ

現実的なくせに、どこか弱虫

2024.2.5 (月曜日) I'm wimpy 雨の月曜日である。 『雨の月曜日』とかいうと、詩や小説の題材になりそうだが、 私にとっては週の初めなのに鬱陶しいなという感情しかない。 今日の私は過度に現実的である。 時々、過度にロマンチックになるから帳尻合わせとしては丁度いいのかもしれない。 夫はいつも自転車通勤をしているが、雨のせいで徒歩で行くようで、 「あぁ、めんどくさいな」と、夫もまた今日は現実的な様子である。 市川沙央さんの『ハンチバック』を読み終えた。 読み

【映画】 月の満ち欠け

1年前だろうか、私は知人から勧めで偶然この佐藤正午さんの「月の満ち欠け」の原作本を読ませていただいていた。 「不思議な物語だなぁ」という感想を持ちながら読み終えたのだが、 その後そのことに触れることもなく、読書感想文を書くこともなく、私の中ではそこで終わっていたのだが、また別の知人から「おもしろい映画があるけど観てみたら」と勧められたのが、偶然にもあの時の小説が映画化されたこの「月の満ち欠け」だった。 この二つの偶然は何か意味があるのか、それとも単なる偶然が続いただけのことな

にぎやかな落日

にぎやかな落日/朝倉かすみ 光文社 ある雑誌の紹介文に、 『自分の今後、そして自分の老後について思いをはせながら読むことになる小説だ。』と書いてあった。 確かに読んでる最中に、何度も亡くなった父や母のことを思ったし、生きていれば必ず訪れるであろう自分の落日についてもいろいろ考えながらの読書であった。 物語は、北海道で一人暮らしをする83歳になるおもちさんが主人公。 甘いものが大好きで間食がやめられず持病の糖尿病が悪化してしまう。 夫(勇さん)は施設に入っていてもう帰って

ドラマ 『季節のない街』

ドラマ『季節のない街』全10話見終わった。 大人の切ないおとぎ話である。 みんな、愛おしい存在だった。 ひとつひとつのエピソードだけを拾っていくと、それはよくある話ではあるが、宮藤官九郎の手によって人間の根底にあるさまざまな思いが、これでもかと見る者に訴えてくる。 このドラマの原作になっているのは山本周五郎の同名小説『季節のない街』で、以前は黒澤明監督がこの原作を元に映画『どですかでん』(1970年)を撮っている。 もちろん今回のドラマは時代を現代に置き換えて作られているの

放浪記(一部〜三部)・林芙美子

読書感想文 『放浪記・林芙美子』 『私は宿命的に放浪者である。私は古里を持たない。』 という文章から「第一部・放浪記以前」が始まる。 そこを読んだだけでも変にワクワクする。そのワクワクは、嬉しい、楽しいというワクワクではなく、林芙美子という女性の生き様を垣間見れるワクワク感だ。 これは小説ではなく、芙美子が日々書き留めた日記だ。当然、主人公は芙美子自身であるから、正直に綴られたその日記には心を奪われてしまう。 571ページという長い文章である。 ただただひとりの女性に魅せら

【NODA・MAP第26回公演】 兎、波を走る

酷暑の中、新歌舞伎座へと向かう。 最寄り駅にはものすごい人の波で観劇前から酔いそうな気分で劇場へと向かった。この暑さとこの人並み...これもこのお芝居の演出のひとつなのではないかと思うほど、人を酔わせる夜だった。 定時開演。 * 潰れかかった遊園地が物語の始まりの舞台となる。 妄想の世界と現実の世界、その中に時間渦の不思議が織り込まれていく。 とある場所から脱走してきた兎(高橋一生)、妄想か現実かわからない場所で迷子になったアリス(多部未華子)、アリスを探し続けるアリスの

【読書感想文】 いのちの初夜・北條民雄

重いです。 辛いです。 悲しく切ないです。 言葉のひとつひとつにそれらの感情が込められている。 そしてそのすべての言葉にリアリティがある。 それは単なる創作作品ではなく、自分の目で見て肌で感じてそれらに触ってきたから書ける言葉だなと思う。 しばらくこれほどの感情をぶつけてくる作品を読んでなかったせいか、 ちょっと戸惑いながら(不穏を隠せないまま)読み始めた。 この作品集は癩病(ハンセン病)を患った作者が書いたハンセン病患者を収容する強制隔離施設の様子を描いた作品である。 読

【映画】 My Salinger Year

映画マイ・ニューヨーク・ダイアリー(原題:My Salinger Year)を観る。 邦題のタイトルが気に入らないと思って原題で表記した。 内容と合ってないような気がしたのだ。 確かにニューヨークでの日々を描いたものではあるけれど、サリンジャーと文学との関わりがとても重要なのになと思う。 なぜサリンジャーが邦題タイトルからなくなったのか?日本人にとってサリンジャーは馴染みがないからなのか? 時々、海外の映画の邦題の付け方がイマイチなことがある。日本人にわかりやすくしようとして

【映画】土を喰らう十二ヵ月

見終わった後の感想を最初に書くのは変かもしれないが、とても美しくとても静かな贅沢な映画だと思った。 立春の風景から物語が始まる。 立春といえど、信州はまだ雪に囲まれている。 お茶を立て、漬物を漬け、芋を焼き、筍を煮、梅を漬け、栗を煮… 季節に応じた食材を料理していく。 便利な道具は使わず何もかも手作業。 どれもこれも美味しそう。 美味しそうというだけではなく美しい。 豪華な料理ではなく、どちらかといえば質素な料理であるが、ものすごい贅沢さを感じる。 物語の中の主人公は当た

[映画] ケイコ 目を澄ませて

私が岸井ゆきのさんのことを知ったのは2018年のNHK朝ドラ「まんぷく」の中だった。その時は彼女に対しての情報は何もなく、元気で可愛らしい人だなという思いで見ていた。それから時々ドラマなどで見かけるようになって頑張ってらっしゃるんだなと思っていたところ、先日の日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞されて感動的なコメントをされていた。 素敵な女優さんになられたのだなとその時思ってこの作品もいつか観ようと思いながら今日になった。 物語は、 耳が聞こえない実在のプロボクサー小笠