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映画で知り、本で生き、舞台で弾ける。

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映画、本、観劇の記録です。 この3本の柱でわたしは成り立っています。
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#映画感想文

【映画】 月の満ち欠け

1年前だろうか、私は知人から勧めで偶然この佐藤正午さんの「月の満ち欠け」の原作本を読ませていただいていた。 「不思議な物語だなぁ」という感想を持ちながら読み終えたのだが、 その後そのことに触れることもなく、読書感想文を書くこともなく、私の中ではそこで終わっていたのだが、また別の知人から「おもしろい映画があるけど観てみたら」と勧められたのが、偶然にもあの時の小説が映画化されたこの「月の満ち欠け」だった。 この二つの偶然は何か意味があるのか、それとも単なる偶然が続いただけのことな

【映画】 My Salinger Year

映画マイ・ニューヨーク・ダイアリー(原題:My Salinger Year)を観る。 邦題のタイトルが気に入らないと思って原題で表記した。 内容と合ってないような気がしたのだ。 確かにニューヨークでの日々を描いたものではあるけれど、サリンジャーと文学との関わりがとても重要なのになと思う。 なぜサリンジャーが邦題タイトルからなくなったのか?日本人にとってサリンジャーは馴染みがないからなのか? 時々、海外の映画の邦題の付け方がイマイチなことがある。日本人にわかりやすくしようとして

【映画】土を喰らう十二ヵ月

見終わった後の感想を最初に書くのは変かもしれないが、とても美しくとても静かな贅沢な映画だと思った。 立春の風景から物語が始まる。 立春といえど、信州はまだ雪に囲まれている。 お茶を立て、漬物を漬け、芋を焼き、筍を煮、梅を漬け、栗を煮… 季節に応じた食材を料理していく。 便利な道具は使わず何もかも手作業。 どれもこれも美味しそう。 美味しそうというだけではなく美しい。 豪華な料理ではなく、どちらかといえば質素な料理であるが、ものすごい贅沢さを感じる。 物語の中の主人公は当た

[映画] ケイコ 目を澄ませて

私が岸井ゆきのさんのことを知ったのは2018年のNHK朝ドラ「まんぷく」の中だった。その時は彼女に対しての情報は何もなく、元気で可愛らしい人だなという思いで見ていた。それから時々ドラマなどで見かけるようになって頑張ってらっしゃるんだなと思っていたところ、先日の日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞されて感動的なコメントをされていた。 素敵な女優さんになられたのだなとその時思ってこの作品もいつか観ようと思いながら今日になった。 物語は、 耳が聞こえない実在のプロボクサー小笠

【 映画 】 わたしは最悪。

自分探しの映画。 または、自由奔放な恋愛映画。 ひと言で表現しろと言われればこうなってしまう。 目新しいものにすぐに引かれる主人公ユリヤ。 外科医を目指している時にもっと魂を感じたいと心理学を学び始める。それにもなんか違うと感じてカメラマンを目指す。そして作家に…? 次々とやりたいことが変わっていくのだけど、どれひとつとして突き詰めるところまではいかない。 そして恋もそう。すぐに目新しい男性に近寄っていってしまう。 観はじめてすぐに思ったのは、ユリヤは寂しがり屋の女性なの

PLAN 75

映画『PLAN 75』を観た。 私はいつか観たいなと思う映画のチラシをファイリングしていて、時々そのファイルを覗いてみて「観たい」と思ったのを選んで観ている。今は上映していないという問題が発生する時もあるが、そのパターンが一番気に入っていていつもそうしている。 今朝もそのファイルを見ていた。 この『PLAN75』が目に入った。 調べてみたらAmazon primeでやっているようだったので観た。 内容は知っているので覚悟して観た。 * 静かなピアノの音楽が流れている中、

梅切らぬバカ

映画『梅切らぬバカ』を観た。 定かな記憶ではないが、それはこの映画の制作発表の場だったと思う。 主演の母親役の加賀まりこさんに誰かが質問した。 「役作りとか難しくなかったですか?」 それに対して加賀まりこさんは、 「私、実際に自閉症の息子がいるので、実生活の延長みたいで映画でも役作りとか特に難しくはありませんでした」 というふうなことをおっしゃっていた。 私はそのことを知らなかったので「えっ、そうなの?」と驚きながら聞いていたのだけど、あとでそのことの正式なインタビューを受

ある日の映画鑑賞

Dr.コトー診療所 先日、映画の招待状が届いた。 私に見せたい映画があると、時々招待状を送ってくださる方がいる。 それで、映画『Dr.コトー診療所』を観てきた。 招待状をくださった方に「観てきました」という報告と、私が感じたことを素直に書いて、さっきメールを送った。 流行りの洒落た映画でもなく、奇想天外なストーリーがあるわけでもないのだが、こういう映画は日本人にとっては必要な映画ではないかと思った。 弱い立場の人たちに平等に分け隔てなく愛を注ぐ…言ってみれば民のヒーローの

映画 『川っぺりムコリッタ』

ずっと観たかった映画「川っぺりムコリッタ」をやっと観た。 きっと極上の幸せが待っているだろうと思いながら観た。 荻上直子監督・脚本となれば、私の中であるイメージが浮かび上がる。それは決して悪いイメージではなくて「辛くても悲しくても決してあなたを裏切らないよ〜」という包み込むような優しさが漂うイメージだ。 それが確信になった。確かになった。 ここに登場するギリギリの崖っぷちの人々を暖かく包み込むような映画で、それぞれがそれぞれの事情を抱えて、それぞれの方法で何とか生きている姿

ドキュメンタリー映画 [THE GREEN LIE]

ドキュメンタリ映画「THE GREEN LIE グリーン・ライ エコの嘘」を観た。 毎日、毎日、マスコミやCM、その他さまざまなサイトで「サスティナビリティ」という言葉を聞いている。果たして企業がそれを口を酸っぱくして連呼するほど一般市民はその意味を理解しているのだろうか? たぶん理解している人は一部の人だけのような気がする。 サスティナビリティの意味は、 「sustain(持続する、保つ)」と「-able(~できる)」を組み合わせた言葉で、日本語で「持続可能性」を意味する

映画 『死刑にいたる病』

公開直後、観ることが怖くて時期を引き伸ばして今になってしまった。 映画『死刑にいたる病』を観た。 何をしても面白くないと感じ鬱屈した生活をおくる大学生の筧井雅也の元に、ある日突然一通の手紙が送られてきた。その手紙は、24人の若い男女を猟奇的な方法で殺害した犯人である榛村大和からの手紙だった。 拘置所から送られてきたその手紙には『会いにきてくれませんか』と書いてあった。 雅也は数日間いろいろ考えて榛大和に会いに行くことにした。 面会室で雅也は大和から思わぬことを聞かされる。そ

HOUSE OF GUCCI

映画[ HOUSE OF GUCCI ]を観た。 テレビでこの映画のコマーシャルが流れてくるたびに「あっ、観たい」と思っていたが、テレビコマーシャルもなくなって、映画フリークたちのブログ記事もピークを終えたところを見計らって観た。 コマーシャルや他の方の感想の先入観がある期間はどうしても観れない性分だなので、いつも一歩遅くなってしまう。 最初は謙虚な夫婦生活をおくっていたパトリツィアとマウリツィオだったが、徐々に自分の権威を主張するようになる様子が不気味だった。 伝統的な家

椿の庭

ずっとずっとずっと観たかった映画「椿の庭」をやっと観れた。 自分自身に心の余裕がずっとなくて、ガサガサした気持ちのままにこういう映画を観てもうまく受け入れられないだろうなと思っているうちに2年の月日が流れていた。 今だ!と思って観た。 すごくすんなり入ってきた。 今で間違いなかったんだなと思う。 物語はそれほど複雑ではない。 神奈川県葉山に海が見渡せる位置に建つ古い家がある。 庭には季節ごとに花が咲き、多くの木々に囲まれた中にその家は美しい姿で存在している。 そこでは絹子(

偶然と想像

この映画を観るにあたって、金原由香さんの解説文を読んでいたら、そこに哲学者・三木清さんの著書「人生論ノート」の中の文章が引用されていた。 私たちは何かあるたびに思う。 「これは単なる偶然?それともこうなる運命だったの?」と。 しかし、いくら考えてもそれに対する答えは出てこない。 でも長い間生きていると、これは「偶然じゃない」と思える(思いたい)ことが時々起こるものだ。 私の場合よくあるのは、とても嫌いな人がいて顔も見たくないと心底思っている時に限って街でばったり会ってしまう