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「全部聴いたら?」がなかなか通じない

先日ある宴席で「気になるアーティストがいるなら一旦全部聴けばいいんじゃない?」というと「それはできません、そんなにストイックになれません」と返されて「??」となった。それからこの「全部聴いたら?」の話を生徒さんともちょこちょこしていると、やはりみんな「(難しいこと言うなぁ)」という顔をされる。

別に全部の曲のコードを取れとかコピーしてみろと言ってる訳じゃない。単に聞き流す程度でいいんだよって話なんだけど、それでもあんまりピンとこないらしい。


これがプロ志向というやつなのか?

時代の話になって恐縮だが、僕が中高生から青年に至るまで音楽視聴といえばCDがメインだった。お金を払ってCD1枚を買って(尤も中古CDが中心だった)、せっかく買ったんだし全部ちゃんと聴かなきゃな、という気分でヘビロテするのだった。アルバム全体を聴くのは義務というか使命感のようなものを感じていたように思う。

今にしてみれば、それは僕が「音楽家になるぞ」という決心があったからそういう聴き方をしていたに違いない。周りの友人たちは好きな曲があればその曲ばかりリピートしていた。CDのシングルリピート、僕は使ったことないけど、そういうニーズがあるんだなぁと変な気分になったのだけど、変なのは僕の方だった。

気に入ったアルバムを何度も聴き返すことが当たり前だったのは、僕が幼少からプロ志向だったからであって、普通に暮らしていて音楽を楽しんでいる人は何度か聴いたら飽きるものだ。当たり前のことだけど、当時は想像もしなかった。
つまり僕はプロ志向の人間として、ずっと音楽を聴いていたのだ!なんてことだ!!僕は普通じゃなかった!!笑



「全部聴く」のコツ

全部聴くと言っても「検索して隅から隅まで聴け」と言ってるわけじゃない。せいぜい”ストリーミングサービスの中であるもの全部”くらいのことでいい。(そこが通じなかったのかも、言葉足らずだった)

コツは3つあると思う。

・聴き流しでいい
・期間は長くてもいい
・範囲を決めて


例えばAppleMusicに登録されているaikoのアルバムは16枚だ。シングルのみの歌もあると思うけど、とりあえずアルバム16枚聴けば”アルバム全部聴いた”のトロフィーが獲得される!みたいなイメージで。

全部をつぶさに聴く必要もない。通勤中や散歩しながらサラッと聴き流すだけで”全部聴く”は達成できる。
それにどれだけ時間がかかるかは対象によるけど、別に数ヶ月や数年かかろうが、やりきればいい。

全部聴いたら何が得られるのか?それは「そのアーティストの傾向」が理解できるようになる。aikoはコード進行で音楽を彩る人なんだな、ロックが基本なんだな、生演奏が好きなんだな、という傾向が見えてくる。
その傾向、キャラクターや個性のようなものは自分の引き出しになっていく。本人のコピーやカバーを意図しなくても、作曲や編曲、あるいは楽器演奏で創作するときに「思いつく」ようになってくる。

もちろん気に入った曲をヘビロテしてしっかりラーニングするのもいい。
けどまずは、全体像を確認してから細部に向かうのが効率がいい。

もうひとつの例として、たとえばクラシックの作曲家に興味があるなら、ある時期の作品に対象を絞るとか、交響曲を全部聴くとか、エチュードを全部聴くとかをやる。クラシックの作曲家の作品全部!は結構骨が折れるけど、けどやれなくはないし一度やってみる価値はある。
ちなみに僕はGlenn Gouldの録音作品はほぼ全部聴いた。まだ抜けはあるかもしれないけど、映像化されたアンソロジーを全部見たしAppleMusicにあるものは全部聴いた。変態である。


クリエイターであるならば

アマチュアであれ、作曲をしないとしても、楽器や歌を楽しむことはそれ自体がクリエイティブな行為だ。上手下手は関係ない、テクニックがなくても創作はできるし、創作自体が楽しいものだから成果はクリエイティブの本質ではないと思う。

プロ志向なのであれば”全部聴く”はとても重要なメソッドで、これをやるかやらないかで音楽力に大きな差がつく。実際、作曲や編曲の仕事をするのであれば依頼に釣り合う音楽の引き出しが必要になるのだから。

でもみんながみんなやらなきゃ”いけない”かと言われると、それほどでもない。こんな面倒なことはしなくたって音楽は楽しい。
あくまでプロ志向、クリエイターになりたい人に向けたアドバイスということは付け加える必要はありそうだ。



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