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1,000円で楽しむ「農民美術」の世界

趣味で、郷土玩具を集めています。
先日、とうとう私の本棚が郷土玩具で埋まってしまいました。

こちらは、我が家にある郷土玩具の一つ、長野県上田市の「信州上田獅子」(しんしゅううえだじし)です。夫が上田駅前の民芸品店で買ってきたのですが、愛嬌のある顔が可愛く、私のお気に入りでもあります。

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一見、同じ人形ですが、よく見ると着ているものが違います。
なんで??理由が気になってネットで調べたのですが、欲しい情報が出てきません。
「だったら、作り手に聞いちゃおう。一番早いし、正確だ」
ずうずうしくも工房に電話することにしました。

快く答えてくださったのは、作り手の茂木さん。
15歳でこの世界に入り、キャリア60年以上のベテラン作家です。

おずおずと
「趣味で郷土玩具を集めてまして・・」
と切り出したところ、
「私も動物の郷土玩具、集めてますよ」
と、にこやかな声が返ってきました。
「そ、そうなんですか⁉何がお好きですかっ??何をお持ちでっ??」
不意に出会った同志に興奮して質問攻めにし、若干引かれたことを、ここに白状します。

農民美術とは、農民の副業アート

茂木さんは、農民美術の作り手です。
農民美術とは、冬の農閑期の仕事として広まった、農民が作る木彫り手工芸品です。大正から昭和初期にかけて画家・版画家として活躍した山本鼎(やまもと・かなえ)が日本各地に広めました。今では、専業でやられている方が多いと思います。

素朴で郷土色に富んだ、芸術的だけど実用的な工芸品は、壁掛けから人形、調味料入れに至るまで、さまざまなアイテムがあります。鳩の砂糖壺が有名でしょうか。可愛いですよね。欲しい。。。

この農民美術に、こっぱ(木片)人形というジャンルがあります。名前のとおり、小さな木材を彫った人形で、お巡りさんや山で働く人など、身近な人間をモチーフとしています。私の手元にある信州上田獅子も、ここに入ります。

地元LOVEが生んだ「上田獅子」人形

いよいよ本題へ。
私「人形を4体持っているのですが、着ているものが微妙に違います。何か意味があるんですか?」
茂木さん「上田獅子という獅子踊りがあって、それを再現しているんです。私、上田獅子が好きでね」

上田獅子は、長野県上田市に伝わる獅子踊りです。
天正11年(1583年)、真田真幸が上田城を築城する際、その地固めに舞われたといわれています。

これは、常田獅子(ときだじし)のほうです。

じつは上田獅子は、
・旧常田(ときだ)村に伝わる常田獅子
・旧房山(ぼうやま)村に伝わる房山獅子
の二つをあわせた総称です。
どちらも、もんぺを穿き、上半身は前垂れをかけています。
ただ、それぞれの村で、衣装や踊りに違いがあるのです。

まずは常田獅子

「常田獅子」の特徴は
・変形ストライプ模様の前垂れ
・弁慶格子(チェック模様)の着物
・濃い青のもんぺ
・色紙のうちわ
・人差し指を立てて舞う

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出典:第36回真田上田まつりホームページ         

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次は房山獅子です。

「房山獅子」の特徴は
・獅子の毛渦紋(けうずもん)の前垂れ
・丸紋の着物
・水色のもんぺ
・房つきのうちわ
・手のひらを広げて舞う

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出典:第34回真田上田まつりホームページ         ❞

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シンプルながらも特徴をとらえ、再現していると思いませんか?この人形は、大きさ8.5㎝ほどしかありませんから、細かな作業を求められます。

これが一体数百円だったはず。正直、労働に見合いません。それでも作ったのは、上田獅子という郷土の芸能が好きで、作ることが好きだからでしょう。

全ては「好き」でつながっているんだぜ

農民美術は、農閑期の収入源として生まれました。郷土玩具はこのように、副業としてスタートしたものがたくさんあります。以前、別の張り子工房に伺った時には、
「うちの大根、持ってって。大根おろしにすると、とろーっとしておいしいよ」
と、チクチクする葉っぱがワサワサついた大根をお土産にいただきました。あの大根は最高だった!

いやいや、農民美術の話。
私が言いたいのは、農民美術は、普通の人が作る芸術品から始まったということです。身の回りにある「好きなもの」をモチーフに、いつも使うものを「好きなデザイン」で作る。「好きな気持ち」を創作の源とした、生活に根づいた芸術品であること。それが私の毎日を、ほんの少し豊かにしてくれているということ。

茂木さんは、自分が住む土地と、伝わる祭りと、人形作りが好きで、私はその人形が好き。すべては「好き」でつながっている。なんて幸せなリレー。

「好きなことは仕事にするな」なんて言うけど、世界は「好き」でつながっているんだぜ、と叫んでやりたくなりました。そして「私は、あなたの作る郷土玩具が可愛くて、欲しくてたまらないんだぜ!」と、日本各地の工房に行って叫びたい(迷惑です)。

「全ては好きでつながっているんだぜ」

一緒に叫ぼうではありませんか。ご近所迷惑にならない程度の声量で。

よろしければ「スキ」をお願いいたします。生きる糧にします。