さんふらわあで北の大地へ 大洗→苫小牧 さんふらわあ乗船記
この船に乗ることはないと思っていた――というのも、大洗という港は関西からは遠く、もし船に乗って北海道に行くとすれば、舞鶴や敦賀から新日本海フェリーに乗れば足りるからだ。
しかし、2月下旬の水曜日、18時前――私は、大洗のフェリーターミナルにいた。今日は、神戸空港から茨城空港に飛んで、水族館に寄り道しながら、最後は大洗駅からバスに乗ってフェリーターミナルにたどり着いた。
バスといえば、乗り場の案内をする時に「〇〇へお越しの方は、こちらでのお降りが便利です」といった放送が流れることがある。
しかし、ここに来る途中のバスでは、こんな放送が流れた。
「北の大地、北海道にお越しの方はこちらでお降りください」
人生史上、最も壮大な乗換案内であった。
天気は生憎の雨。しかも風も波も強いらしい。デッキに出るのが楽しみなのに……としょんぼりしながら、乗船手続きを済ませた。
18時になると、徒歩乗船の案内が始まった。出港予定時刻は19時45分なのに、である。大洗のさんふらわあは、こんな早い時間から乗船させてくれるらしい。
フェリー大好きオタクにとって、1秒でも長く乗れることほど嬉しいことはない。よっしゃー! 乗り込めー!
陸地と船を繋ぐ長いボーディングブリッジを歩き、船内のエスカレーターを登ると、そこは「さんふらわあ」の世界であった。
さんふらわあの内装は、独自の世界観に満ちている。天井は高く、照明は細部まで凝ったデザインが施されている。壁は木目調で装飾され、心地よい温かみが感じられるようにあんっている。また、廊下の一角には、白樺と湖の風景が描かれた絵が飾られている。
こういった、ひとつひとつのデザインが、さんふらわあだけの特別を生むのだと思っている。
お部屋はスーペリアツインルームのシングル利用。
冬は閑散期なので、シングルルームとして使用できるキャンペーンをしているのだ。しかも、インターネットで予約すると割引になる。さらに、今回は株主優待まで駆使したので、わずか1万円で北海道まで連れて行ってもらえることになった。
室内にはベッドがふたつと、テレビ。さらに、冷蔵庫、トイレにシャワーまで完備。バスタオルもあるので、手ぶらでの乗船が可能だ。
ベッド脇には、部屋の照明のスイッチがまとめられていて、コンセントのそばには、スマホ置き場があるのが嬉しいポイントだ。
お船大好きオタクにとって、楽しみにしているのが晩ごはん。どんなメニューがあるのか、それを確認するだけでも楽しい。
で、興奮しながら選んだのが、これ。
そう、ローストチキンだ。
別にクリスマスでもないのだけれども、バイキングコーナーにはローストチキンが置いてあった。目に入った瞬間、「これは取るべきか…?」と悩んだのだけれども、前の人のお皿をチラッと見たら、しっかりとローストチキンが置いてあったので、迷いながら取ってしまった。
自分の後ろの人もチラッと見たところ、おおよそ私と同じようなリアクションをしながら、最後はローストチキンがお皿に盛られていた。
分かる、分かるぞ。これは取りたくなるよな。鶏肉だけに(ボソッ
全体像はこんな感じ。船のバイキングは、どうしても茶色になりがち。揚げ物、お肉、アリバイ作りの野菜に、右下は冷たいおそば。
30歳を超えたというのに、思考回路は小学生レベルである。
味はというと、ローストチキンがとても美味しかった。期待以上に、しっかりジューシーな味わいだった。お酒にも合いそうだ。
もちろん、スイーツコーナーも荒らしていく。
決して食べ過ぎではない。これは株主(当時)としての視察である。たい焼きを温めるためだけにオーブントースターがあったのが高ポイント。
19時45分、出港。相変わらずの雨である。
風が強いので、傘をさすのも危険。おとなしく、ファンネルの写真だけを撮って、船内に戻ることにした。
苦しいお腹をさすりながら、ベッドに寝転んでテレビを見ていたところ、船長からこんなアナウンスがあった。
「本日は風が強く、波は3メートルほどあるため、船体が大きく揺れることがあります……」
それを聞いたお船大好きオタクは、どこに向かったでしょうか?
答えはお風呂。理由は、楽しいから。
どう楽しいかというと、お風呂のお湯が船の揺れに合わせて、ドッタンバッタンします。肩までお湯に浸かっていると思ったら、首まで浸かったり、胸辺りまで下がったり。水流で押し流されそうになったり、隣の湯船からはお湯のこぼれる音が聞こえてきたり。荒れた日のお風呂はアトラクション。
風と波で舞い上がった飛沫が窓に叩きつけられる。動画では分かりにくいけれど、船体もかなり動揺している。部屋に戻っても、ギシギシと軋む音がひっきりなしに鳴り響いていた。
そんな様子で寝られるのか? と思うかもしれないが、そこはお船大好きオタク。ちゃんと耳栓を持ってきている。それに、少しぐらい揺れてくれた方がかえってよく寝られる。ベッドに入ると、あっという間に眠りに落ちた。
おはようございます。「さんふらわあ ふらの」の朝は遅い。朝7時に起きてから、のんびりできるのが、この航路のいいところだと思う。大阪〜別府や神戸〜大分だと朝6時台に到着してしまうからね。
身支度をして、朝食バイキングへと向かう。
さんふらわあの朝ごはんというと、カレーを食べるものと相場が決まっている。しかも、嬉しいことに、目玉焼き(しかも半熟!)のトッピングまで可能だった。
最高。さんふらわあ、愛してる。
食べ過ぎてしまったので、まずは船内を散歩する。雨は上がったものの、風が強くてとても寒い。でも、ファンネルの写真は絶対に撮る。それが、お船大好きオタク。
ファインダー越しにファンネルを眺め終わったら、そそくさと自分の部屋へと戻る。そして、やることはひとつ。
おやすみなさい。二度寝タイムである。
おはようございます。「さんふらわあ ふらの」の朝は遅い。
二度寝をしても、まだ朝10時過ぎである。
そして、次にやるべきことは朝風呂である。
夜に比べると人もまばら。太陽を見せ始めた空と、銀色に輝く海原を眺めながら入る風呂は最高だ。スープに浸かりすぎたクルトンのように、しにゃしにゃにふやけてしまった。
さて、この船に乗ってからずっと気になっていたものがある。
やたらと推されている「牛乳自販機」だ。
そんなにオススメするほどなのか? と思いつつも、オタクたるもの、推されたものには手を出すべきである。
瓶だと思ったでしょ? 私もそう思ってました。
でも、冷静に考えてみると揺れる船で瓶ってのは都合が悪そうだ。紙パックのほうが理にかなっていると思う。
味は普通に美味しかった。濃厚で甘みが強い。推されるだけのことはある。
その後ゴロゴロしていると、今度はお昼の軽食の提供が始まるとのアナウンスが聞こえてきた。朝ご飯を食べすぎた&牛乳を飲んでお腹がいっぱいなのだが、フェリーに乗っている以上何かを食べたい。
レストランに向かうと、メニューの中に「きつねうどん」を発見した。この船は「関東」と北海道を結ぶフェリー……もしや、うどんのダシが黒いやつなのでは? もし黒かったら、株主総会で「うどんのダシが黒いのはダメだ」と言ってやろう。そんなことを考えながら、きつねうどんを注文した。
ダシが黒く……ない! いつもと同じ香り、同じ味がする。うどんもほどよくコシが残っていて、おあげさんも丁度よくダシが染みている。
うん、うまい。何も言うことはない。
言うとしたら、このダシってもしかして、ヒガシマル???
13時頃。北の大地に到着したとのアナウンス。
窓越しにも鈍色の空が広がっていて、風の音も聞こえてくる。それなのに、性懲りもなく外に出てしまった。
デッキに出ると、冷たい空気が身体に突き刺さってきた。本州とは違う、心が寂しくなる寒さだ。
苫小牧西港は、荒野に佇む苫小牧東港とは違って大きな港だ。八戸からやってくるシルバーフェリーや、名古屋からはるばるやってくる太平洋フェリーも乗り入れている。接岸作業をしていたところ、遠くからやってきた太平洋フェリー「きそ」がさんふらわあの赤いファンネルを見守っていた。
乗船した感想としては、やはりフェリーは15時間以上が最高ということだ。ホームグラウンドの関西~北・中九州航路は、道中の天気は穏やかで、橋を3回くぐるなど見どころもたくさんあって楽しいが、乗船時間が12時間というのは正直物足りない。
一方で、大洗~苫小牧西のさんふらわあは、夜ご飯・朝ご飯・昼ご飯と3回食べられて、朝風呂に二度寝をしても余裕がある。しかも、18時から乗船させてくれたので、19時間超えの船旅だ。それに、北の大地に来ると気候が変わるので、旅をしている感じが強くて楽しい。
船旅はこうであってほしい――そんなフェリーだった。
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