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カイゴはツライ?第20話~入居者の死亡は通常の出来事として忘れ去られていく

越山さんの死亡は嘱託医によって病死とされ、高齢で寝たきり、意思疎通もできない状態であったため、家族はとくに不信感を抱くこともなく納得したとのことであった。
内藤さんには施設長と看護部長から形ばかりの聞き取りはあったが、とくに注意もなく老人ホームで起きる通常の出来事として処理された。
内藤さんのこれまでの勤務ぶりや当日の怠慢は職員間でかなり批判があったが、トップはそれらを知ってか知らずかなんのお咎めもなく、職員間の不満は大きかった。
しかし、一部の職員に不満はくすぶっているとはいえ、日々の業務に終われ流れ作業をこなすのに精いっぱいの職員にとって入居者の死は特段珍しくもなく、いつしか忘れ去られて行った。
内藤さんも表面上は何事もない様子であった。
角田さんただ一人がいつまでも気に病んでおり、元気がなかった。
ユリは、角田さんから当日の詳細を聞いていたし、内藤さんが夜勤相手によってはとことん仕事をせず、ステーションのパソコンの前から動こうとしないことも知った。内藤さんがもっとも重宝がっていた夜勤相手は角田さんだった。
気がやさしく面倒見のいい角田さんは、入居者のことが気になりよく見回りをしていたし、同僚や後輩に対しても威張ったところはまったくなく、人当たりがとてもよかった。内藤さんにとっては便利このうえない存在であった。角田さんが見回りや利用者対応に追われている間、角田さんの行為を自分の行為としてしっかり記録に残し、介護職員を苦しめている書類作成も角田さんとの夜勤時には済ませていた。
角田さんは夜勤時に記録ができず、いつも日勤者が来てから居残って記録を書いていた。
ユリは憤りを感じつつも、諦めかんやどうでもいいといった投げやりな気持ちに苛まれていた。日々の業務をルーチンとしてこなしながら、それでも罪悪感はつきまとい、なんとかしたいのにどうしたらいいのかわからない、なにもできないといった焦燥感が日々募っていった。

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