見出し画像

カイゴはツライ?第24話~自己流介護よさらば!

ユリはインターネットでみつけた介護福祉士実技試験対策講座にさっそく申し込んだ。1日がかりではあるが、1万円以下の料金である。これで合格できるのか不安はあるが、サイトには、受講者の合格率80%以上とある。一か八かやってみるしかない。
受講日当日、ジャージ姿で会場に向かい、緊張で体をこわばらせながら講師の話を聞いた。講師たちは開口一番次のように言った。これまでの介護は全て忘れてください。今から試験に受かるための介護技術を教えます。しっかり身に付けて当日の実技試験に臨んでください。ここで身に付けたことを実施できれば試験に受かります。
ユリは衝撃を受けた。そして、講師が教え、やってみせる介護技術にさらに衝撃を受けた。講師の言うとおりにやると、自分の身体が何よりもラクで使いやすかった。そして、利用者の安全が高い率で確保されていると思った。今までの自分のやり方はなんだったのか。これまでの3年間が恨めしかった。入職後まもなく腰椎椎間板ヘルニアに罹り、ブロック注射を打ってもらって夜勤をこなし、効き目がなくなることを恐れてなるべき痛み止めを飲まずに、体を労わりつつ仕事を続け、奇跡的に痛みが治まった経験を持つユリは過去の3年間をぼんやり思い出して反芻していた。自分の時間をドブに捨てたことよりも、自分の稚拙な自己流の介護を受けなければならなかった利用者さんが気の毒でならなかった。
介護と言えば、精神論やコミュニケーション術ばかりが幅を利かせもてはやされ、介護技術など二の次になっているのが現場である。まともにトランスファーもできない職員が介護福祉士でござい、ケアマネでござい、ベテランでございと大きい顔をしているのが介護現場である。
たった1日の講習会であったが、天地が引っくり返るような体験だった。試験対策で受けた講習だったが、それ以上の体験知をもたらした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?