サイハテだけを見つめて【プロジェクトぴあの感想】

山本弘『プロジェクトぴあの』の感想です。こんなアイドル実際にいたら推さざるを得ない...。(ネタバレあります。本文開幕5ページで全てわかりますが)

宇宙のサイハテを目指すため、世間を、世界を、終いには物理法則すら持ち前の知性でねじ伏せる最高にマッドで魅力的なアイドル、「結城ぴあの」が世界に革命を起こし、そして光よりもはやく去るまでの物語を彼女の友人(以上になれなかった)女装青年「昴」の目線から描いた傑作SF。

本作の大きな魅力として「結城ぴあの」のキャラクター造形が挙げられるでしょう。彼女は天才です、稀代の、突然変異的天才です。持ち前の知性を活かしあらゆる学問をものにし、おまけに自分の計画を実現させるためアイドル活動でも圧倒的な成功を収めます。

その一方、人の心が理解できず、また人を愛せず、「嘘がつけない」などいわゆる「天才のステレオタイプ」的言動を連発し、この点やや陳腐な描写なとも思えるのですが、ですが...

ここまで突き抜けるやつがあるか

彼女は天才です、稀代の、突然変異的天才です。その知性は学問をものにするどころか物理法則すら捻じ曲げ、永久機関を実現し、光速を超えた速度を生み出すエンジン「ぴあのドライブ」の開発までしてしまいます。また、アイドル界がバーチャルアイドルやAIに取って代わられつつある中、「最後の歌姫」の名を欲しいままにし、トップアイドルの座に君臨します。

こんなもの間近で見せられたら昴さんでなかろうと10年だろうが3200年だろうが恋してしまいますよね、これは仕方がない。陳腐だのなんだのと文句をつける余地のない力強さに、真っ直ぐさに徐々に徐々に読者たる私まで心を奪われました。

ところが彼女が愛するのは宇宙のみ。自分の夢を叶えるため全てのものを利用する彼女は読者の気持ちがようやく昴に追いついた頃、憐れみと謝罪だけをつきつけ、独りサイハテへと飛び立ちます。

雲一つないような抜けるような晴天のようなどこまでも爽やかで、しかし永遠に傷になりそうな失恋をしたような読後感を同時に味わえるとても良い作品でした。また、SFとして拡張現実などのガジェットの使われ方が妙に納得できる使われ方だったり(少なくとも私なら同じように使う)、インターネットの描写がとても生々しく、「作者インターネット好きすぎるだろ!?」となること請け合いです(流行語大賞の下りは爆笑しました。それはMADにもされるさ)。

他の山本弘作品の基礎になっている作品と伺ったのでそちらもチェックしてみようかと思います。お付き合いいただきありがとうございました。




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