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レリック・ラトリックと異世界から来た女【後編/本編無料】

商業未発表作品
2021年作成
漫画原作想定のシナリオです。

前編はこちら

※本編無料。キャラクター詳細とあとがきは有料になります。

登場人物

《ユウマイデクト魔法学院大学院博士課程》
レリック・ラトリック
ユーザック・ウィンター
デュラン・セシル
ハンター・ハーヴェリー
ヒューブ・ジェムズ
ジェンスン・バックス
モシュ・ゴンドール
 
《その他》
デュアルデル 大魔法使い

ミナモトミナト 異世界人


本編

〇ユウマイデクト魔法学院・大学院寮・隔離部屋
ミナト「なるほど、なるほど」

ミナト、チェーンソーを抱えながら頷く。
レリックとミナト、隔離部屋で向かい合って立っている。

ミナト「つまりレリックさんは、権力者の目にとまり、ハリポタ学校にやって来たシンデレラだったのに、高学歴ニートになりそうになったり貴族のボンボンを傷物にしてしまったりで、さぁ大変……そんなところでしょうか?」
レリック「どんなところだ」
ミナト「大丈夫です! 完全把握いたしました!」
レリック「いや、どうだろう」
レリック(うっかり召喚してしまったから、説明してみたものの……これでいいんだろうか?)
ミナト「それでは、このちょっぴりアウトローなトラブルシューター、ミナモトミナト! 名探偵になって、バシッとレリックさんのトラブルを解決してみせましょう!」

ミナト、扉の前に移動してチェーンソーを作動させる。
チェーンソーを突き刺して、扉の蝶番を切る。
扉の向こうにいるユーザック、ハンター、デュランが恐々と逃げる。
扉を蹴破って廊下に出るミナト。

ミナト「さぁ、行きましょう」

先を進むミナトの背中を見るレリック。

レリック(俺が異世界(そっち)に行きたかったのに)
 
〇同・同・談話室(夜)
レリックの私物を漁っている最中だったが、ミナトを見て固まるモシュ、ジェンスン、ヒューブ。モシュは異世界小説を読んでいた状態。ヒューブは魔法道具を見ていた状態。ジェンスンは書物を紐でまとめていた状態で固まる。

ミナト「初めまして、異世界人のミナモトミナトです。廃材を解体していたら、異世界に召喚されました」
モシュ「なに、この人。見た目も言動もヤバくない?」
ジェンスン「こら、モシュ」
ハンター「レリックが召喚した」
ジェンスン「本当に?」
ヒューブ「先生の魔法石……」
ミナト「今からヒューブさんの手が吹き飛んだ原因を突き止めようと思います」
ジェンスン「それは……レリックの魔法が原因だと思いますが」
ミナト「それはどうでしょう。ちょっと失礼」
   
ミナト、ヒューブの無事な方の手をとってマジマジと指輪を見る。

ヒューブ「(どぎまぎ)なに?」
ミナト「(手を放して)素敵な宝石ですね。これも魔法石というものですか?」
ヒューブ「違うよ、ただの宝石」

ヒューブ、左手親指で左手人差し指の指輪を触る。

ミナト「指輪を触るのはクセですか? 私もよくやりますよ」

ヒューブ、恥ずかしくなって手を背中の後ろに隠す。

ユーザック「デュラン、治療を続けてやれ」
デュラン「あ、うん」

デュラン、ヒューブの横に座る。
皆が座る中、ひとりだけ立ってチェーンソーを杖のように地面につくミナト。

ミナト「質問があります。魔法発動のルールはありますか? 何か制約は?」
レリック「特にない」
ユーザック「ただし、魔法を使えばすぐにバレる」

ユーザック、人差し指と中指でミナトの髪を指さすと、ミナトのボサボサ頭がキューティクルヘアーに変化する。

ミナト「(髪をつまみ)まぁ!」

ハンター、「けっ」という顔。
ユーザックの手に魔証が浮かび上がる。

ユーザック「こんなふうに魔法を使うと、体の末端から中心にかけて魔証という模様が浮かび上がる」
ミナト「魔証は消えますか?」
レリック「使った魔力の大きさにもよるが、1時間くらいは消えないだろう」
ミナト「魔法石の方は?」
ヒューブ「魔法石は宝石に特定の魔法を込めたものを言うんだ。魔力を使わずに魔法を発動できる、疲れ知らずの道具だよ」
 
〇同・同・廊下(前編回想)
廊下の魔法石を「消灯」とつぶやきながら消灯するレリック。

ヒューブ(OFF)「発動条件は、魔法石に触れてから決められた呪文を唱える。それだけ」
 
〇同・同・談話室(夜)
ミナト「誰でも作れますか?」
ヒューブ「魔法使いなら誰でも」
ミナト「普通の人間でも使えますか?」
ヒューブ「使える。普通の人間が使っても、魔証が出るよ」
ミナト「魔法石はどんな宝石でも作れるんですか?」
ヒューブ「うん」
ミナト「呪文の詠唱は、合間に別の言葉を挟んでも大丈夫ですか?」
ヒューブ「どういうこと?」
ハンター「ちょっと待て、何が言いたい」
ミナト「ヒューブさんの指輪が魔法石だったんですよ」
ヒューブ「!? そんなハズない!」
ミナト「試してみましょうか。爆発した時にはめていた指輪はどれですか?」
ジェンスン「その机の上に」

机にある焦げた指輪を手に取るミナト。

ミナト「まず、指輪に触ります。ヒューブさんは指輪を触るクセがあるので、簡単にスタンバイ状態になったかと思います」
   
ヒューブ、今も指輪を触っていたため、気まずそうな顔をする。

ミナト「次に呪文を唱えます」
モシュ「呪文なんて、作ったヤツが適当に設定するんだぞ。わかりっこない」

ミナト、指輪を石畳の床に置いて離れる。

ミナト「ヒューブさん。爆発する直前のあなたの言葉は何でしたか?」
ヒューブ「えっと……『お金ならある。お願いだよ、言い値で買うから』」
レリック「『買う』あたりで爆発した気がする」
ミナト「(指輪に)『言い値で買う』」

何も起きない。

モシュ「ほらー」

ミナト、少し考えてから

ミナト「(指輪に向かって)『デュアルデル先生の魔法石』、『言い値で買う』」

ボン!と床に置いてあった指輪が爆発。床が黒焦げに。

ミナト「(喜ぶ)やりましたぁ!」

驚く一同。

ジェンスン「床が……」
ミナト「やはり、呪文の合間に別の言葉を挟んでも大丈夫ですね」
ヒューブ「つまり……僕が魔法石を起動させて、レリックに言った言葉で爆発したの?」
ミナト「レリックさんに『しか』言わないような言葉です」

ミナト、自分の魔証をみんなに見せる。

ミナト「魔法石を発動させたヒューブさんに、魔証が残ってないのも頷けます。手が吹き飛んでしまいましたからね。そのため、魔証があるレリックさんの犯行に見えた」
ハンター「指輪に魔法を込めただけ……なんで、こんな単純なことに気がつかなかったんだ」
ユーザック「真っ先にレリックを疑ったのは誰だった?」
ハンター「……」

ヒューブ、指輪を拾う。

ヒューブ「(焦げた指輪を見て悲しそうに)僕じゃない。僕はこんなことしない」
ミナト「レリックさんが消灯して魔証が出ている時に取引を持ち掛けた理由は何ですか?」
ヒューブ「あの時しかなかった。明日になったら魔法石の噂が一瞬で広まる。そうなったらレリックを巻き込んだ争奪戦になるんだ」
ミナト「指輪を外すことはありませんか? シャワーの時も?」
ヒューブ「え……」
ミナト「ここにいる誰もが、隙を見てあなたの指輪を魔法石にすることができたんじゃありませんか?」
ヒューブ「(愕然)」
レリック「可能だ。ヒューブの宝石管理はザルすぎる」
ヒューブ「レリックが僕を注意した意味がやっとわかったよ。全然気がつかなかった。灯台下暗しだね。研究者のクセに」
デュラン「(不憫そうに)ヒューブ……」
ハンター「この中の誰かが犯人だって言うのか?」
ミナト「その通りです、マルフォイさん」
ハンター「ハンターだ」
モシュ「1文字もあってないじゃん」
ミナト「これは、ヒューブさんが先生の魔法石を欲しがるという予測ありきの仕掛けです。ヒューブさんの人柄と、レリックさんが魔法石を貰った事実を知らないとできません」
ジェンスン「部外者や他の学年の生徒には無理ですね」
モシュ「えー、俺達容疑者かぁ。どうやって犯人を特定すんの?」
ミナト「それは簡単――げほっ!」

ミナト、咳き込む。

デュラン「大丈夫ですか?」
ミナト「すみません、飲み物はありませんか? 朝から何も飲んでないんですよ」
レリック「用意しよう」

レリック、立ち上がる。

ミナト「ああ、自分でやります!」
 
〇同・同・台所(夜)
キッチンストーブでお湯を沸かすレリック。
それを見て感動するミナト。

ミナト「キッチンストーブ! 19世紀感といいますか、異世界感といいますか。素敵ですね」
レリック「……ミナモトミナト」
ミナト「ミナトで構いません」
レリック「ミナト。俺は異世界小説が好きなんだ」
ミナト「まぁ、こちらの世界にも異世界小説があるんですね!」
レリック「君のいる世界はどんな所だ。君みたいに真っ黒な瞳の人間ばかりなのか?」
ミナト「いえいえ、みなさんカラフルですよ。髪も目も肌もバラバラです」
レリック「本当に?」

ミナト、頷く。

レリック「仕事を選ぶのに、色は関係あるか? 階級は?」

ミナト、レリックの願望を悟る。

ミナト「(困ったように微笑む)関係ない……とは言えませんねぇ」

レリックも事情を察して少し寂し気。
 
〇同・同・廊下(夜)
灯りの魔法を浮かべながらティーセットを運ぶレリックと並んで歩くミナト。

ミナト「主人公は高確率でトラックという乗り物に轢かれて異世界に転生します」
レリック「こっちは馬車に撥ねられる。主人公が転生する世界には魔法がないんだ。だから、自ずと魔法使いがチヤホヤされる」
ミナト「こちらはチートスキルと、現代文明の知識を引っ提げて転生するんです!」

2人が盛り上がっている後ろから黒い影。
 
〇同・同・談話室(夜)
異世界もの談義を続けながら談話室に戻ってくるレリックとミナト。

ユーザック「何の話をしてるんだ」
レリック「異世界転生」
ユーザック「頼むから今を生きてく――」

レリックの背後で鎧が剣を振りかぶっている。

ユーザック「レリック、後ろ!」

レリック、振り返る間もなく横からミナトに蹴り飛ばされる。(ティーセットは落とさない)
ミナト、蹴りの体勢から体を捻って鎧の剣をチェーンソーで受け止める。

ハンター「今度は何だよ!」

ユーザック、魔法で攻撃をしかけるが、魔法の障壁に弾き飛ばされる。

ユーザック「保護魔法がかかってる!」

鎧、ティーセットを持ったままのレリックに向き直る。
ミナト、チェーンソーで鎧を殴るが、障壁で弾かれる。

ユーザック「(魔法を使いながら)待ってくれ、今剥がす!」

ハンター達も鎧に向かって魔法を使う。ハンターは高そうな杖、ジェンスンは筆、それ以外は手で魔法を使っている。  
鎧周りの障壁、魔法によって頭から剥がれ出す。

ユーザック「今だ!」

チェーンソーのスイッチを入れる。

ミナト「エクス……なんとかかんとか!」

叫びながら、チェーンソーで鎧の脳天をかち割る。

ミナト「呪文なんでしたっけ……」

縦真っ二つになって倒れる鎧。中からボロボロと一握りくらいの量の宝石が出てくる。
ヒューブ、宝石を拾って魔法で分析。

ヒューブ「魔法石だね。2種類ある。ちゃんと鑑定しないと厳密にはわからないけど、保護魔法と鎧が動くように自律魔法が込められてる」
ハンター「誰だ、こんなマネをしたのは!?」
モシュ「そんなのわかるワケないって」

モシュ、腕をこれ見よがしに振る。
全員の手に魔証が浮かび上がっている。

ミナト「宝石は証拠になりませんか?」
ヒューブ「ならないよ」
ハンター「これくらいの宝石なら、レリック以外はみんな持ってる」
ミナト「身分の違いを感じながら、質問を変えますね。鎧を起動させるには、ひとりになる時間が必要だったのでは?」

ミナト、レリックが持っているティーセットから紅茶を淹れる。

レリック「長い時間ひとりになる必要はない。空間移動魔法だ」

×   ×   ×

イメージ。
黒い犯人、談話室でポケットの中に魔法石。
その魔法石を鎧の中へ。

レリック(OFF)「談話室で手をポケットにしまって、小さな声で魔法石を起動させてから、鎧の中に送り込めばいい」

鎧、談話室にやってくる。
鎧を魔法で攻撃する犯人。

レリック(OFF)「そして、みんなに混じって鎧を攻撃すれば、魔証があっても不審に思われない」

×   ×   ×

ユーザック「空間移動が得意なお前じゃないんだぞ。そう簡単に鎧の中に石を突っ込めるか」
ヒューブ「待って」

ヒューブが宝石の中から指輪型の空間移動ゲートを拾い上げる。

ヒューブ「レリックの指輪?」
レリック「ああ、そうだ」

レリック、やっとティーセットを置いて、机の上にあったゲートの片割れを手に取る。

レリック「これは俺が机の上に置きっぱなしにしていた指輪型の空間移動ゲートだ。2つセットで使う」

と、ペンをゲートに通す。ヒューブが持っているゲートからペンが出てくる。

レリック「このゲートを使えば、誰でも簡単に魔法石を鎧の中に移動できる。全員が鎧を見ている間に、元の場所に戻せばバレやしない」
ミナト「便利な道具をお作りになって」
レリック「誰も買ってくれなかった」
ハンター「そのゲートの片割れをいつ鎧の中に突っ込むんだよ」
ヒューブ「レリック達が台所に行った後、3人組はトイレに行ったじゃない」

ハンター、ジェンスン、モシュ、「そういえば」といった顔。

モシュ「俺は犯人じゃないぞ!」
ミナト「連れションですか、かわいいですね」
ヒューブ「デュランとユーザックはミナトが泊まるための部屋を用意してた」
ユーザック「事実だ」
ヒューブ「僕以外の全員が、廊下にあった鎧の前を通ってる」
ハンター「誰だってできる! こんなの埒が明かないぞ!」
モシュ「また次の事件でも待つ?」
ジェンスン「待ちたくないよ」
ユーザック「犯人はレリックを狙っていたということで、間違いないのか?」
ミナト「でしょうね」
デュラン「どうしてレリックを……」
ミナト「魔法石でしょう。私怨は考えにくいです」
モシュ「なんでだよー」
ミナト「ここにいる全員が何年間も一緒にいた相手でしょう。仮にレリックさんが憎ければ、卒業間近の今殺す必要はありません」
ハンター「むしろ、顔を見なくなってせいせいする」
レリック「お互い様だろ」
ミナト「あ、もしかして! 全寮制男子校で急展開のボーイズラブがありましたか!?」
ユーザック「ボ……なんて?」
レリック「生徒間で色恋沙汰があれば筒抜けだ。すぐにわかる」
ミナト「(しゅん)そうですか」
ヒューブ「だったら、やっぱり魔法石……」
ミナト「はい。最初はレリックさんを爆発の犯人に仕立て上げて私物没収を狙っていた。ところが、犯人である線が薄れてしまった。そこで、彼自身を殺して魔法石を奪ってしまおうと考えた」
ジェンスン「犯行が短絡的すぎませんか」
ミナト「犯人は焦っていますね。レリックさんに魔法石を隠す時間を与えたくなかったのではないでしょうか」
ユーザック「結局、誰が犯人かわからない。どう判断すればいい?」
ミナト「それは簡単です」

と、「今度は咳き込まないぞ」とばかりに紅茶をグイっと飲む。

ミナト「レリックさん、デュアルデル先生の魔法石を貸してください」
レリック「?」

レリック、大人しく魔法石をミナトに渡す。
ミナト、魔法石を机の上に置く。

ミナト「これを、こうします」

魔法石の上にチェーンソーをそえる。
驚愕する一同。

レリック「ま、待て待て待て!」
ヒューブ「やめてよ、ものすごい石なんだよ!」
ミナト「すみません、私には魔法石の価値がわかりません。なにせ異世界から来たものですから」

ミナト、チェーンソーのスイッチオン。

レリック「よせ、ミナト!」

レリックを止めるユーザック。
ヒューブはジェンスンが止める。
ミナト、チェーンソーをふりかぶる。

???「やめろ!!」

誰かが魔法を繰り出そうとする。
発砲音。
ミナト、チェーンソーを持つ手とは別の手にグロックが握られている。

ミナト「あなたですか」

撃たれた肩を押さえて座り込んでいるデュラン。

ミナト「デュランさん」
レリック「……デュラン?」
ユーザック「何故、デュランが?」
デュラン「……」
ミナト「デュランさんなら、魔証を隠す必要もありませんでしたね。ヒューブさんの治療をされていたんですから」
ジェンスン「デュランが魔法石を欲しがる理由は何ですか?」
ミナト「さぁ?」
モシュ「コイツんち、水源地帯持ってんだぞ。金に困ってるワケないし……」
デュラン「だって……」

デュラン、俯いたまま。

デュラン「レリックばっかりズルいから……」

みんながデュランを見る。

デュラン「(泣いて)僕の方が先生の特別だったハズなのに」
レリック「お前も個人授業を受けていたのか?」
デュラン「君の個人授業なんて大したことないよ。僕は特別講義を受けてたんだ。奥の部屋で……」
レリック「奥の部屋?」
デュラン「寝室」

愕然とする一同。

ミナト「(空気読まずに)そーゆうのは求めてないんですよ」

ユーザック、レリックを見る。
レリックは首を横に振る。

レリック「肩すら触れられたことがない」
デュラン「それは、君が1番の特別じゃないからだよ!」
レリック「……」

×   ×   ×

フラッシュ(前編回想)
デュアルデルの家で、奥の部屋に入っていく少年。こっちを見るその目。

×   ×   ×

レリック、何も言えない。

デュラン「お願いだよ、レリック。僕に魔法石を頂戴。先生の遺産を受け取る権利は僕にもあるハズだよ!」
レリック「デュラン……」
ミナト「盛り上がってるところ、すみません」

ミナト、机の上の魔法石を指さす。

ミナト「もう魔法石、壊しちゃってます」

魔法石は粉々。その後ろで、既に気がついていたヒューブの顔が真っ青になっている。

レリック「そ――」
デュラン「(被せて)ああ、そんな!」

デュラン、壊れた魔法石に駆け寄る。

デュラン「先生! 先生、酷いよ! どうして、僕には何も遺してくれなかったの!?」

泣いて縋るデュランを見て、どんどん冷静になっていくレリック。
レリック、デュランの肩に回復魔法をかける。

ミナト「弾は貫通していますよ」
レリック「(魔法かけながら)ヒューブ」
ヒューブ「なに」
レリック「今回の件は……」
ヒューブ「僕が魔法石を暴発させて怪我をした。それをデュランが治してくれた。それだけでしょ」

ヒューブ、負傷していた手をヒラヒラ見せる。完治している。

レリック「ありがとう」
ヒューブ「別に」
ユーザック「デュランの家には連絡を入れた方がいいよな?」
レリック「と思う」
ユーザック「デュラン、お前は部屋に――いや、みんなと一緒にここにいてくれ」

ユーザック、泣いているデュランの肩に手を置いてから部屋を出る。

ハンター「胸糞悪いな。俺達が騒いだところで、こんな大スキャンダルは表に出ない」
ミナト「デュアルデル先生は有名な方だったんですか?」
ジェンスン「魔法使いの権威でもありますし、人権活動家としても知られていました」

ミナト、鼻で笑う。

ミナト「希望で釣っていたのか、思想と嗜好は違ったのか。どちらにせよ、こちらの世界でもよくある話ですね」
モシュ「というか、アンタ何者なんだよ。なんで、銃なんか持ってるんだ」
ミナト「ちょっぴりアウトローなんです」
モシュ「なるほどー」
ジェンスン「なるほどかな?」
ハンター「これからどうするんだ、異世界人。石が壊れたのなら、帰れないだろ」
ミナト「そうなんですか? 帰れるものなら、帰りたかったのですが……」
レリック「戻りたいほど、いい世界なのか?」
ミナト「うーん、どうでしょう。ですが、このまま異世界にいたら異世界が現実になってしまいます。そうしたら、私にとって異世界小説が夢物語ではなくなってしまうでしょう?」

ミナト、にこりと笑う。

ミナト「夢だからいいんじゃないですか」
レリック「(目を丸くする)……」
ジェンスン「憧れの地は、観光くらいが丁度いいということですか?」
ミナト「その通りです!」

レリック、諦めたように苦笑。「そうだよね」という顔。

レリック「ここは夢の世界か?」
ミナト「はい! とてもファンタジックで素敵です!」

レリック、デュランを見る。
デュラン、静かに泣いている。

レリック(彼を見てもそう言うのか)

レリック、デュランの治療を終える。

レリック「……ミナト、おかげで助かった。ありがとう。君を呼んでよかった」
ミナト「あら、お褒めに預かり光栄です」
レリック「召喚した責任は俺にある。君を元の世界に戻す方法を必ず見つけ出そう」
ミナト「ありがとうございます!」
ヒューブ「レリック、僕に壊れた魔法石を貸してほしい。魔法を抽出する方法を探してみる。それを君が研究すれば、異世界への移送方法を見つけられるかも」
レリック「ああ、俺はそれで問題ないけど……」

ヒューブとレリック、デュランを見る。

デュラン「(やけ気味)もういいよ……」   
レリック「デュラン」
デュラン「(自嘲気味にポロポロ涙を流す)君なら大魔法使いになれるって、そう言ってくれたのに」
 
〇同・階段教室(夜)
誰もいない階段教室。
そこにレリックがやって来て、教壇へ向かう。
雇用契約書を教壇の上に置く。

レリック「……」
???「サインをしないのかい?」

×   ×   ×

シームレスに回想(10年前・昼)
顔を上げる、レリック(16)。
目の前の壇上にデュアルデルがいる。
窓の外、上品な学生達が歩いている。
対して貧相な服のレリック。

レリック「(気まずくふてくされ)その……字を書いたことがないんだよ」
デュアルデル「そうかそうか。レリック・ラトリックのスペルは?」
レリック「わからない」
デュアルデル「では、こうしよう」

デュアルデル、黒板に字を書いてみせる。

デュアルデル「今日から、これが君のスペルだ」
レリック「(高揚)」

レリック、嬉しそうにペンを持って入学証にサインする。

×    ×    ×

空白の契約書。(現在)
レリック、師のいない教壇の前にひとり佇む。
 
〇同・外観(翌朝)
 
〇同前
学院前に豪華な馬車がつけられる。
カバンを持っているよそ行き姿のデュラン。
それを見守るレリックとユーザック。
少し離れた所にミナト。

デュラン「ごめんね、2人とも。お別れ会しようって言ってたのに」
ユーザック「それはいつでもできる。落ち着いたら連絡してくれ」
デュラン「連絡していいの? 僕、レリックに酷いことしたよ。ヒューブにも」
レリック「俺は気にしてない。親しき仲にも利害の対立はあるだろ?」
ユーザック「育ちが良いな。ウチもしょっちゅうだ」

苦笑するレリック。

レリック「俺はお前を責めないよ、デュラン」  
デュラン「レリック……」

デュラン、泣きそうになる。何か言い辛そうにするが、意を決したようにレ
リックを見る。

デュラン「(縋るような笑顔)ねぇ、レリック」
レリック「?」
デュラン「デュアルデル先生に選ばれたのは、僕達に才能があったからだよね? 間違いじゃなかったんだよね?」

レリック、目を見開く。

×   ×   ×

フラッシュ(前編回想)
デュアルデル「君を見出したのは、間違いではなかったと証明してくれ」
  
×   ×   ×

レリック、口元を引き締める。

ユーザック「デュラン、それは……」

何か言いたげなユーザックを、レリックが手の甲で制す。

レリック「ああ、そうだな。何も間違ってない。俺達には才能があるんだよ」

ユーザック、「そっちを選ぶのか」と神妙な顔をする。

デュラン「(ホッとして)うん……」
レリックM「クソジジイめ」
レリック「だから見ててくれ、デュラン。(怒ったような笑ったような)俺は大魔法使いになる」

デュラン、ちょっと驚いてから微笑む。

デュラン「レリックなら、なれるよ!」

×   ×   ×

馬車、空を飛んで去っていく。
それを見届けるレリックとユーザック。

ユーザック「今のは正解か?」
レリック「わからない。けど、デュアルデルの件で、アイツに落ち度はないだろ?」
ユーザック「なにひとつ」

ユーザック、レリックを見る。

ユーザック「それで? お前はどうする」
レリック「(考えてから)休学する」
ユーザック「どうして」
レリック「卒論を書きなおす」
ユーザック「単に進級すればいいだろ」
レリック「(穏やかに)それじゃダメなんだ」

レリック、デュアルデルから貰った契約書を取り出して魔法で燃やす。
それを離れた所で見ているミナト、目を細める。

ユーザック「(嬉しそうに)貴族以外の大魔法使いは前例がないぞ」
レリック「だったら、俺が世界初だな」
    
レリック、校舎に背を向け、燃えて塵になった契約書を手放す。

レリック「さぁ、どこへ行こうか」(※1)

おわり   
(400字詰原稿用紙33枚換算) 

※1前編冒頭と対の構図でお願いします。




キャラクター詳細

 
《魔証》 
魔法を発動すると皮膚に浮かび上がる刺青のような模様。人によって模様が違う。模様は個性を表しており、内面が変化すれば模様も変化する。
使用する魔法の強さや回数と体に広がる魔証の面積は比例する。
強い魔法ほど魔証は大きく広がり、消えるまで時間がかかる。
 
《ユウマイデクト魔法学院大学院生》
今回登場する主要生徒はレリック以外全員白人で、何かしら宝飾品を身に着けている。
全員25歳前後。

 

ここから先は

2,953字

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読んでくださってありがとうございます。 これからも作品を公開できるよう頑張ります!