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第三章数学と幽霊Ⅱ、第十七話 下書き

第三章十六話 二人のアマテラスで詰まったので、飛ばして第十六話、それもまだ下書き段階という情けなさ。

第三章 数学と幽霊Ⅱ
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性同一性障害と勘違いして悩む
義理の妹に悩むぼくの物語
第三章十六話 下書き

第十三話 愛光女子学園-恭子と順子
第十四話 恭子
十五話 邪教

前回の純子と直子のお話

第三章数学と幽霊、第十ニ話 調査

「毎回、真剣勝負だからなあ。直子の役目も大変だよね。今回は、なんとなく、紗栄子とアキラが私を運んでくれる、ってそういう気がする。もしも、何かあったら、直子、紗栄子にお願いしてね」
「もしも、何かって、何が起こるの?何か起こったら、紗栄子さんにって、彼女、一般の人でしょ?」
「わからないわよ。そんな気がするだけ。でも、紗栄子は頼りになるって。彼女は『普通の人』じゃない」
「お姉さまが言われるなら、その通りにしますとも。でも、今回はますます私はあまり良い気がしませんわ」
「直子、私だってそうよ。ひどく嫌な気分。誰がこんなものを放ったのかしら?」
「また、どこかの土木工事で、道祖神様とかお稲荷様とか、移設するか、壊してしまって、お手当もせず、移したんじゃありません?」
「・・・御心霊なのか、御神霊なのか、厄介な霊でないといいのだけどねえ・・・」

紗栄子からの電話

 純子と直子が「内結界、五芒星」の話をしていた時、ちょうど紗栄子から電話がきた。「純子、紗栄子だけど、今、電話いいかな?」
「紗栄子、どうぞ。妹と話をしていただけだから」
「美久ネエさんの妹分で、後藤順子ネエさんが分銅屋で働いているんだよ。それでさ、私も順子ネエさんも何か黒い気が、邪気が通り過ぎたみたいな気がしたんだよ。だから、純子のところでお祓いをして欲しいんだけどね」
「あら、いつでもどうぞ。ありゃ、でもいつがいいの?」
「明後日の夕方はどうかな?」
「う~ん、明日からパパは神社本庁の会議でいないんだよね。でも、私と妹の直子でよければお祓いできるよ」
「神主さんでなくても大丈夫なのか?」
「紗栄子、神職に頼んだら正式なお祓いになってしまうのよ。現代の法律では巫女は神職の補佐役だから、商業行為はできないの。だから、私たちがやれば無料ということ。それに、私たちは巫女よ。神代の昔から、女性の巫女がお祓いをしていたのよ。男性じゃありません。問題はありませんよ」
「純子が言うなら大丈夫。じゃあ、お願いします」
「待ってるからね、紗栄子」

紗栄子、順子の神社訪問

 翌々日、純子の神社に順子姉さんとでかけた。石造りの一の鳥居を抜けて石畳が本殿まで続いている。左手のお手水で手を洗った。左右に赤灯籠が十数基ずつ立っていた。稲荷神社が右に、左には大神輿庫がある。恵比寿様が左手にあった。石段を五段あがると本殿の境内に着いた。順子ネエさんも私も合掌した。佳子の彼氏のイチローの家の事故物件の話を紗栄子は道々順子に説明しておいた。
純子と妹の直子が巫女の姿で本殿の横から出てきた。「紗栄子、本殿じゃなくて、神楽殿で巫女舞しますから」と言って、鳥居の方に戻って神楽殿の中に入った。巫女の装束をまとった純子と直子はいつもの学校の制服姿と違って、神々しく思えた。
「後藤さん、紗栄子・・・」と純子が言い出すと「純子、後藤さんじゃなくていいよ。順子と純子でややこしいから、私が呼んでいるみたいに『順子ネエさん』でいいんじゃない?』と紗栄子。
「わかりました。じゃあ、順子ネエさん、紗栄子、お二人が『黒い気が、邪気が通り過ぎたみたいな気がした』と感じたように、私も直子もあまり良い気がしないの。誰かがひどく嫌なものを放ちつつある、そういう気がするの。佳子さんとイチローさんの事故物件の話は、順子ネエさんにした?」
「ああ、さっき、道々、説明したよ」
「それなら、話が早いわね。そのイチローさんのアパートの事故物件、あの部屋だけの話ではないような気がするのよ。普通に、除霊、浄霊して済む話じゃないと思っているの」

 純子は『普通に、除霊、浄霊して済む話』から説明しだした。

 お寺さんのお坊さんも神社の神職もカトリックのエクソシストプログラムのような教育訓練システムを受けているわけじゃない。お寺さんは、除霊、浄霊のお経とか、密教の仏事をするだけで、実際にお坊さんに除霊、浄霊の能力があるかどうか、わからない。神社の場合は、心霊現象を否定する神社本庁が公認する神職だから、祝詞をあげる程度なの。だから、神職は準公務員みたいなもので、神職が除霊、浄霊の訓練など受けない。本庁がそういうものを否定しているから、当たり前の話。

巫女禁断令

明治維新を迎え、神社および祭祀の制度が復古的・抜本的に見直された。明治4年9月19日(西暦1871年11月1日)には神祇省に御巫(みかんなぎ)が置かれ、宮内省の元刀自が御巫の職務に当たった。1873年(明治6年)1月15日には教部省によって、神霊の憑依などによって託宣を得る、民間習俗の巫女の行為が全面的に禁止された(cf. s:梓巫市子並憑祈祷孤下ケ等ノ所業禁止ノ件)。これは巫女禁断令と通称される。このような禁止措置の背景として、復古的な神道観による神社制度の組織化によるものである一方、文明開化による旧来の習俗文化を否定する動きもうかがえる。
禁止措置によって、神社に常駐せずに民間祈祷を行っていた巫女はほぼ廃業となったが、神社あるいは教派神道に所属し姿・形を変えて活動を続ける者もいた。また、神職の補助的な立場で巫女を雇用する神社が出始めた。後、春日大社の富田光美らが、神道における巫女の重要性を唱えると同時に、八乙女と呼ばれる巫女達の舞をより洗練させて芸術性を高め、巫女および巫女舞の復興に尽くした。また、宮内省の楽師であった多忠朝は、日本神話に基づく、神社祭祀に於ける神楽舞の重要性を主張して認められ、浦安の舞を制作した。
現代日本では巫女は神社に勤務し、主に神職の補助、また神事において神楽・舞を奉仕する女性を指す。
巫女に資格は必要ないが、神職の資格を持つ女性が巫女として神社に勤務することもある。なお、巫女は男女雇用機会均等法の適用外なので、女性を指定しての募集が認められている。

除霊、浄霊のメカニズム

 除霊、浄霊のメカニズムは三つあります。一つは、お経、祝詞を唱える事により言霊(ことだま)が上がり、言霊の力により除霊、浄霊する。言霊の力で成仏してない霊体を慰め納得させた上で成仏させる方法。もう一つは、除霊、浄霊する人間の霊力で除霊、浄霊するの。最後に、除霊、浄霊する人間に神霊、神様や仏様を降霊して、その力で除霊、浄霊する方法。

 この三つの方法の一つ一つにも格があり力の強弱があるのね。三つの力が全てが強ければ強いほど効果は上がり 短時間で除霊、浄霊は完了します。

 言霊(ことだま)だけ魂の力だけで対応できる霊体は限られます。霊体にも様々な種類と格がありますので霊体に応じた力、武器(神具、法具)を 必要。成仏していない霊には成仏していない霊に対したやり方、悪霊には悪霊に対したやり方で応じなければ効果は上がらないわ。

 このような事を知らずに除霊、浄霊出来ると思い込んでいる霊能者が沢山いるのよ。正しい修行をしていて、除霊、浄霊する人間で、自分の力量を客観的に知っている人であれば 問題はないでしょうけれど。

 だけど、正しい修行も無く、ある日突然霊の世界に目覚め、自分はすごいと思ってしまった人間、幼い頃から霊が見えたり話ができて、自己流で霊能者になり、何でも出来ると思い込んでしまっている人間に対しては注意が必要。

 霊が見えるから、感じやすいから、話が出来るからすごいのではないのね。これらの力は除霊、浄霊する力とは別物で、同じではありません。見える、感じる、話せる力があるから除霊、浄霊出来とる思うことはとても危ないこと。除霊、浄霊の力を持たない人間に除霊、浄霊をされたのでは、霊障が改善されるどころか逆に悪くなるしかない。

 実際に行われる除霊、浄霊は何種類もあって、除霊、浄霊をする人によって異なります。また、除霊、浄霊の定義は、除霊、浄霊をする人によって異なるので注意が必要。除霊、浄霊を受ける前に確認しておかないといけない。

 普通のお坊さんや宮司さんは、最初の言霊の力により除霊、浄霊するけど、それが本当に悪霊に効果があるのかどうかわからないの。それに専門的な訓練を受けていないお坊さんや宮司さんに言霊に力を与えられるかどうか、はなはだ疑問よね。

 それに、除霊、浄霊の対象の霊の格にもよるでしょうし。その霊が、死んだ人間の浮遊霊とかだったら元人間だから、普通のお坊さんや宮司さんのお経、祝詞でも納得して成仏するでしょうけど。

 だけど、その霊が、古くから存在する祖霊や神霊だったりしたら、普通のお坊さんや宮司さんのお経、祝詞じゃあ効果はないのよ。

 今回の件は、私は三つの何かが絡んでいるように感じます。一つは、この元々の事故物件を引き起こした祖霊。単なる死んだ人間の浮遊霊なんてものじゃない。もっともっと強力な悪霊。それが平将門みたいなものじゃなければいいのだけど。

 二つ目は、古(いにしえ)から存在する厄介な霊というか、何らかのエネルギー体。それが何かはわからない。

 三つ目は、誰かを呪っている生きた人間。この三つ目の人間は、私や直子みたいに、悪霊を憑依させられると思う。強烈な恨みと嫉みに満ち満ちている人間が近くにいるような気がする。

 この三つが合体すると大変なことになると思う。

「順子ネエさん、私、ある名前が浮かんだんだけど、心当たりがありますか?その名前は『末次恭子』というのですが」と純子が聞いた。
「え?純子、なぜそんな名前を思いつくの?『末次恭子』は、私の元の妹分で、この紗栄子に重症を負わせて、私もかなりやられた私たちの高校の学生だよ」
「やっぱり。末次恭子ってE組じゃなかったかしら?」
「そう、E組だった。たぶん復学はしないと思うけどね。恭子は、私と同じ愛光女子学園って女子少年院に入っていて、たぶん、もう出所しているはず。少年院にいる時は私は口を聞かなかったけれど、いつも凄い目で睨んでいた。恭子は、美久ネエさんや楓さんという美久ネエさんの彼氏さんの妹、それと節子や佳子にかなり痛めつけられたから、それを恨みに思っているのは間違いがない。私は、彼女を使って、高校生や大学生の女の子をヤク中にして、売春させていた元締めだったんだ。美久ネエさんの言いつけも聞かずに。だから、恭子をあんな風にした責任は私にあるんだ」
「でも、順子ネエさん、恭子はあんたを裏切ったじゃないか?」と紗栄子が言う。
「元はと言えば、私が始めたことからああなったわけだからね」
「いずれにしても、それが元に戻るとは思えない。末次恭子は、順子ネエさんの影響がなくても、元々の悪の素養があったとしか思えないと感じられるの。順子ネエさんが善意に訴えて改心させようとしてもムダだと思う」と純子。
「じゃあ、純子、どうするのさ」と紗栄子。

「私たちにできることは、末次恭子を強力な悪霊や何らかのエネルギー体に利用させないことだけど、これは無理な話かもしれない。末次恭子が自分で呼び寄せて彼女の体を使わせようとしたら止められない。私たちは、最悪なケースを予測して、末次恭子に憑依した存在を封じ込める、成仏させるしか方法がないのよ。だけど、私と直子、それから私たちに憑依する姫様などの神社の御祭神だけでは、末次恭子と背後にいる悪霊たちに勝てないと思う。順子ネエさんと紗栄子は、このことを感じられるのだから、巫女の素質があるわ。だから、二人にも協力してもらわないと」

「おいおい、純子、私と順子ネエさんが巫女さんをやるのかい?」
「巫女というか、九字を切って、舞を踊って、とか、何でもいいから、憑依されやすくするために、どうトランス状態になるか、を練習すればいいのよ。自分なりのやり方でいいの。瞑想するとか、無我夢中で体を動かすとか、音楽を聞いて集中するとか。巫女の服装はした方がいいと思う。感覚がフォーマルになるから、トランス状態に入りやすくなるわ」

「紗栄子、やってみようじゃないか?私は罪滅ぼしがしたいよ。肉弾戦じゃないけど、喧嘩に変わりはないんだろ?それに、巫女のコスプレ、楽しそうだぜ」と順子。
「しょうがねえなあ。順子ネエさんが言うなら、つき合うかね」

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 神楽殿の中の純子の頭上を浮遊していた純知性体の第三次プルーブユニットのベータβ3をデルタδ3が見つけた。

(おい、ベータβ3、こんなところで何をしているのよ?)
(なんだ、デルタδ3、久しぶりじゃない?)とβ3が言った。
(天孫降臨の時に別れて以来だわねえ。あの時はあなたはアマテラスに憑依して、私は天鈿女命だったわね)
(あれから、どのくらい経ったの?思い出すのも面倒くさいけど)
(あれが、人類の西暦でいうと350年頃で、今は2021年だから、別れてから千六百七十一年経っているわ)とδ3。

(あら?δ3、天鈿女命に実体化していたから、あなたの肉体はとうの昔に滅んでいるんじゃなかったの?いつ、憑依体に戻ったの?)
(天鈿女命は、天孫降臨で猿田彦命(サルタヒコ)に仕えて嫁入りして、天寿を全うしたわ。その記憶データは、δ2が送った新しいδ3、つまり私に吸収されたのよ。それ以来、私は日本全国の神社を巡って、まだ私たちを信心してくれている巫女に憑依してまわっている、というわけなの。β3はなぜこんなところに?)

(そうか。長い年月が経ったんだね。私は、女系の巫女神がだんだん男系に取って代わられて以来、宮中の女御達に降りたりしていたけど、面倒くさくなってきて。β2も私の存在を忘れてしまっているようだしね。たまにこの姉妹に降霊して遊んでいるんだけどね。それで、今日は何の用事?)とβ3。

(この姉妹がおかしな気を感じたらしいのだけど、それがどうもね、一万年前にこの惑星から去ったアルファα0が放って長らく放置されている第三次の純知性体のα3のような気がしてならないのよ)
(δ3、α3ってあのハグレ知性体の?あれは最後に現れたのが平将門という武将じゃなかったかしら?)
(平将門と藤原純友よ。彼ら、分裂して、二人に憑依して、承平天慶の乱を起こしたじゃない?)

(それは相手が悪い。私とあなたが束になってもかなう相手じゃない。α3を相手にしたら、私とあなた、この純子と直子って子たちも、時間の無限ループに投げ込まれてしまうよ。永遠に出られないわよ)
(さて、どうしたもんかね?末次恭子もそうだけど、彼女は曽根崎綾子という「彼の法の集団」の巫女に接触したようだよ。アルファα3が接触するのも時間の問題だね)
(この姉妹たちと協働するかね?)
(そうねえ、彼女たちが役に立つかどうか、試してみようか?β3)

(δ3、どうするね?)
(彼女らが何が起こっているのかわからせておかないと、アルファα3とマサカド、スミトモの捕獲はうまくいかないからね。私とあなたのプルーブユニット、β4とδ4を彼女たちの脳にインプットして、それをインターフェースに、彼女たちの視覚と聴覚をコントロール、私たちの姿を実体化しているみたいに見せて、説明するのはどう?)
(うん、いいんじゃない?)
(じゃあ、私は純子と紗栄子にδ4をインプットするから、β3はβ4を直子と順子にインプットして頂戴)
(了解。で、実体化みたいな姿はどう見せる?)
(β3はあの直子という女の子でどう?私は純子で出てみようか?)

 β3とδ3は、データ量の少ない、人類の脳容量に見合うβ4とδ4を二体ずつ実体化させ、β3はβ4を直子と順子にインプットした。δ3は純子と紗栄子にδ4をインプットした。

 プルーブユニットβ4、δ4は、人間の短期記憶をつかさどる海馬に入り、海馬に対して長期記憶にふさわしい外部刺激データであると偽って、大脳皮質に侵入した。

 大脳皮質でデータの解凍を行うと、β4、δ4のプログラムは四人の女の子のニューロンとシナプスを再構築して、β3、δ3へのインターフェースを構築した。

 このインターフェースは、女の子たちの六感を操作し、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚と脳の松果体細胞が形成する第三の眼の頭頂眼から得られる外部データをβ3、δ3の思う通りに入力できるようにした。
これで、β3、δ3は、女の子たちに、あたかもβ3、δ3が実体化したかのように見せることができた。

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 最初に彼女たちが感じたのは、後頭部の発熱と偏頭痛だった。β4、δ4のデータが海馬を通じて大脳皮質に入り、データ解凍が行われる際の初期症状である。解凍が終わり、彼女たちの大脳皮質のニューロンとシナプスの再構築が終了すると、発熱と偏頭痛は収まった。

「頭が痛くなって、熱が出たような気がしたんだけど」と四人は言い合っていた。

 β4、δ4インターフェースのデバッグが終わると、β3とδ3は、全く同じ巫女姿の純子と直子が空中から出現して、フワリと神楽殿の床に着地して立っている偽データを女の子たちに送り込んだ。

四人はギョッとして後づさった。突然、もう一人の純子と直子が空中から出現して、彼女たちの正面に現れたのだから。δ3が化けたもう一人の純子が話し始めた。全く同じ純子の声だった。

「お嬢さんたち、驚かなくてもいいわよ。私たちは悪霊とか怨霊じゃないのですから。この純子と直子は、言ってみればあなたたちに私たちの姿をかりそめに見せているだけなの。あなたたちの脳に私たちのインターフェースを構築して、仮想の姿を見せているだけ。プロジェクターの映すリアルタイムの動画みたいなものと思ってね」

 紗栄子が勇気を出して、前に踏み出すと、純子と直子の像を横手で薙ぎ払った。もちろん、なにも手応えはなく、紗栄子の手は空を切った。「みんな、本当だ。こりゃあ、ホログラムみたいなものだよ」と振り返って、他の三人に言う。紗栄子は偽順子の顔に顔を合わせる。ホログラムだったら揺らぎや画像の乱れがあるが、この偽純子は純子本人そのものだ。顔の笑い皺から何からそこに純子がいるように感じられる。偽順子の息まで紗栄子の顔にかかる。顔を触ると柔らかい皮膚の感触がある。「偽純子さん、あなたが言うようにあなたたちが悪霊とか怨霊じゃないのなら、一体何者なんだ?」と紗栄子は偽順子に聞いた。この映像というかホログラムは、息をしているし、純子のシャンプーの匂いもする。

「あら?あなたは紗栄子ちゃんだったわね」とδ3の偽純子が話した。「私たちは、人間の言葉で言うと『純知性体』という存在なの。太古の昔に地球外から来たエイリアンみたいなもの。英語でいうと『Pure Intelligence』かな?思考だけがある存在。人間の概念で言う生命体じゃないの。エネルギー体でもない。どういったらいいのかしらね?クラウドに依存しない、それだけで存在している自立型AI?そういったものなのよ」

「う~ん、全然、わからない。じゃあ、純知性体さん、あなた方が私たちに何の用があるのさ?」
「呼び名が必要ね。人間の記号、名称で言うと、私はδ3と呼んで頂戴。この直子そっくりなのはβ3。私たちがあなた方の前に現れたのは、本物の純子ちゃんが感じた、『末次恭子と背後にいる悪霊たち』を私たちも感じたからなの。それはあなたたちにも脅威、敵であるとともに、私たちにも脅威、敵なのよ。だから、あなたたちへの用は、一緒に戦わない?ということなの」

「純知性体さん、δ3、あなた方のような存在からしたら私たち人類はちっぽけなものでしょう?一緒に戦うとは、具体的にどうするんですか?」と純子が聞いた。
「私たちをあまり買いかぶらないように、純子ちゃん。私たちは全能の神様じゃないわ。なんでもできるわけじゃないのよ。私たちは、言ってみればマルチバースの宇宙の生命体の知性化のDNAみたいなものよ」
「マルチバース?知性化のDNA?」

「今いるこの宇宙の外には、この宇宙と並行して存在する宇宙が無限にあるの。それを複数のユニバース、マルチバースというのよ。私たちはそれらユニバース同士のブラックホールとホワイトホールをつなぐワームホールで宇宙を旅している。私たちがあなた方人類のような物質的な形態を持っていたのは、二十億年くらい過去のこと。それが知性化して、肉体という物質を捨てたこの形態になった。物質を捨てたので、無限ではないけれど時間軸を移動することもできるようになった。そして、いろいろな宇宙で進化している生命体に干渉して、その生命体の知性化を促している。時々間違った方向に進んでしまった知性体や文明を滅ぼしたりもしているけどね。この星だとアトランティスとか。私たちの存在は、マルチバースの生命体が進化する際のDNAみたいなものと言えるかもしれないわ」



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