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第三章 NY & NWO、第四話 探偵

皆様、あけましておめでとうございます。年が明けたのに、何の因果か、同じ続き物。心霊現象の話を書きたいのですが、こっちもあるので、仕方なし。「第三章 NY & NWO、第三話 モンペリエ」の続き。やっとニューヨークに送れました。※一点、ウソを書いていました。ルガーLC9sは、2011年にアメリカのスターム・ルガー社が開発した自動拳銃で、1986年時点では存在しません。よって、スミス&ウェッソン M&P9 シールド M2.0に変更します。

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第二ユニバース
第三章 NY & NWO
第四話 探偵

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第ニユニバース
ニューヨーク、アメリカ
1986年11月10日(月)

 洋子は、去年ニューヨークから帰国した後、護身術を習い始めた。大学の同僚のピエール(今回、授業の代講をお願いした私に惚れているやつ)がフランス外人部隊の退役軍人を知っていたので、紹介してもらった。
 
 フランス外人部隊は、下士官以下は基本的に外国人志願者である。紹介してもらった彼女の教官はベトナム戦争経験者のアメリカ人だった。名前は、「ジョン」としか教えてもらえなかった。外人部隊は、本人が望めば名前や国籍、経歴を変えることも可能なので、本名じゃないのだろう。
 
 洋子が習ったのは、アメリカ人なので、フランスの体術のサバットではなく、海兵隊式の近接格闘術である。徒手空拳によるものだけではなく、警棒とナイフ、拳銃を使用した護身術を習った。「洋子は女性だからな。いくら徒手空拳で体術に長けたとしても、男性の七割には敵わない。だから、男が近寄ってくる前に、拳銃でバンっと撃ってスタコラ逃げてしまうのが一番だよ。女性用のオススメは、スミス&ウェッソン M&P9 シールド M2.0とかだな。500グラム。ハンドバックにしまっても苦にならない。装弾数は七発だ。マニュアルセイフティがないから危険だが、イザという時にセイフティをリリースしないでも撃てる」と彼の手持ちのスミス&ウェッソン を使って練習させてくれた。

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 今回のニューヨーク行きに際して、ジョンに向こうでの捜査とボディーガードの人選を頼んだ。「ジョン、今度ニューヨークに行くけど、CIAやFBIが絡む日本人女性の殺害犯の調査に行くのよ。詳しいことは言えないけど。ヤバいことになるかもしれない。それで、向こうでの調査を助けてくれて、ボディーガードをお願いできる人間が必要なんだけど、誰か心当たりの人はいない?ピンカートン社絡みは絶対にダメよ。CIAやFBIにバレるかもしれない。小さい探偵事務所がいいんだけど・・・」と洋子が聞くと、「なんだ、それなら、俺を連れていけよ。暇なんだよ。向こうに知り合いもいるからな。手助けしてやれるぜ。どのくらいの期間だい?」「そうね、十一月の中旬から、ニ、三週間。クリスマス前には帰れるわ」「費用は?」
 
 洋子は、ジョンに森絵美の射殺事件の背景を一通り話した。ニューヨーク市立大学(CUNT)の院生で、FBIの下級調査員もしていたことなどを。彼女のファイルにジョン・ヒンクリー、ブッシュファミリーとCIA、FBI、ピンカートン社の資料があって、FBIのNCAVC(国立暴力犯罪分析センター)と凶暴犯逮捕プログラム、プロファイリングの技術資料などがあった、という説明をした。もちろん、NWOの話はしなかった。

「それで、森絵美の親族が彼女の殺害理由を知りたいということで依頼が来たのよ?」「おいおい、洋子、何か隠しているのはわかる。大学の法学の助教授にそんな依頼なんてしないだろう?普通?まあ、いいけどな」「その内、説明するわ。だから、ヤバくなりそうかもしれない。護衛する人数は、日本人男性一名、日本人女性は私を含めて三名。みんな英語を話すわ。こういう内容の事件だけど、相場で費用はいくらくらい?」「そうだなあ、俺の分で、経費抜きで週千ドル、七日皆勤だ。知り合いの探偵事務所に週ニ千ドル。危険手当抜きだぜ。危なくなったら追加をもらう」「あら?意外と安いわね。わかった。手付で六千ドルと経費千ドルの七千ドル。二週間分ね。キャッシュでお支払いします。手付けと経費がなくなったら、随時請求、という条件でいかが?」「気前がいいじゃないか?」「資金は潤沢にあるから。宿舎はペニンシュラでよろしい?」「ますます、気前がいいじゃないか。気に入った。引き受けるぜ」

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「向こうで、森絵美の捜査担当はNYPDのノーマン警視、遺体の担当は、ニューヨーク市監察医局のマーガレット医学博士よ」
「わかった、調べておく」
「じゃあ、スケジュールが決まったら連絡するわ」
「ところで、洋子、まさか、いつものようにストローハットをかぶって、ミニスカートで行くんじゃないだろうな?あっちは寒いぜ」

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「バカね、向こうの気象は知ってるわよ。南欧と違うわよ」
「できるだけ、地味な格好にしてくれよ。護衛する他の日本人にも言っておいてくれ。東洋のお姫様三人を護衛したくないからな。目立っていけない。キミみたいな女性なら、ただでさえ目立つからな」
「あら、お世辞?アリガト。それは了解。彼女たちに言っておきます」

 モンペリエ メディテラネ空港は、市街地から十キロ、車で十五分程度の距離にある。地中海に面したラグーンのエタン・ド・ロールに面している小さな地方空港だ。洋子は、ジョンが地味な格好、地味な格好と強調するので、白のタートルネック、黒のストレッチジーンズを着た。黒のウールのニットキャップをかぶった。黒のトレンチコートを手に持っている。空港のデパーチャーで待っていると、ジョンがタクシーから降りるのが見えた。スーツを着ている。どこにでもいそうなビジネスマンのなりをしている。小さなスーツケース一個だけ。洋子は、大型のスーツケースを三個抱えている。「洋子、バカンスに行くつもりか?そんな荷物、何を持っていくんだ?」「ジョン、女性は、あらゆる場面を想定して、フォーマルからカジュアルの服を用意するものなの。詰め込むとこうなるのよ。さ、私のもお願い」とジョンに荷物を持たせてしまう。「やれやれ、ポーター役の代金はもらってないぜ」とジョンがブツブツ言う。

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 モンペリエからパリまでは、エール・フランスで移動した。飛行時間は一時間半だ。シャルル・ド・ゴール空港の第一ターミナルからエール・フランスのB747で行くことにした。コンコルドで行くことも考えたが、時間に追われているわけでもなく、B747が九時間弱、コンコルドが四時間弱、五時間飛行時間が短くなる。だが、人に聞いた話だが、コンコルドの飛行中の盛大な騒音、トイレの狭さ(パンティーをおろすのも大変)、エコノミー並の座席のサイズを考えると、B747のファーストクラスの方が断然良いに決まっている。明彦も資金は潤沢と言っているのだし、ファーストクラスで良いわよね?と洋子は思った。
 
 飛行機の中で、洋子とジョンはたわいのない話をした。ベトナム戦争が済んだ後、アメリカに帰国したら、女房が友人とできてた話。幸い、子供がいなかったので、すぐ離婚してやった。ベトナムで知り合ったフランス人から外人部隊を紹介してもらって入隊。アフリカや中央アジアに派遣された話。洋子も明彦や恵美、奈々の話をしておいた。むろん、奈々に絵美の人格が入っていることは伏せておいた。
 
 ケネディ国際空港に着くと、ジョンが「洋子は先にチェックインしておいてくれ。俺は後から行くから。まず、車の手配をして、こっちの探偵と話をつけてくる。キミのルガーも手に入れておく。車は、でかいヴァンがいいよな?キミがスーツケース三個なら、日本からくる他の二人のお姫様はスーツケース何個になるんだかわからんものな」と洋子をまずタクシーに乗せて、別行動を取った。「夕食は一緒にとれるでしょ?」と洋子がタクシーの窓越しに聞く。「ああ、後で部屋に電話するよ。日本食は止めてくれよ」「ジョン、ニューヨークに来て日本食なんて食べるもんですか。血の滴るステーキを食べるのよ」

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 翌日、ジョンがミッドタウン・イーストにある探偵事務所に案内してくれた。洋子は薄汚れたビルに入居している事務所を想像していたが、ペニンシュラからパーク街に出て、イースト四十六番ストリートを曲がったところにあるビルは、カナダ総領事館のビルの真ん前だった。

 三十九階にエレベーターで登った。ハワード&ニック探偵事務所とドアに書いてあった。ドアを開けると、映画で見るような受付に金髪の女性がピンクのバブルガムを膨らませてファッション雑誌を読んでいた。ソバカスがあるがすごくカワイイ。まったく、映画を地で行く絵に書いたような場面じゃない?
 
「おい、マリー、接客態度、悪いぞ」とジョンが言う。
「あら、ジョン、お久しぶり。ハワードとニックが待っているわ」と奥の事務所のドアを開ける。

 マリーが「ハワード、ニック、お客様よ」と言った。「コーヒーで良いわよね。コーヒーしかないんだけどね。ジャパニーズティーはないのよ」と洋子にウィンクする。あら?私、この子気に入ったわと洋子は思った。

 ハワードとニックの事務所は、L字型にデスクを配置してあった。窓際に白人の男性が座っている。アイリッシュ系かな?と洋子は思った。洋子を見てニコッとした。もう一つのデスクには、黒人の男性が座っている。洋子をジロッと見る。
 
 二人が立ち上がった。ハワードがデスクの正面にある革張りの応接セットを指差して、さあ、そちらにどうぞ、とジョンと私に言った。ハワードは180センチぐらいあるだろう。ニックは2メートルくらいかな?
 
 応接セットにジョンと洋子が座った。正面にハワードとニック。マリーがコーヒーを持ってきて、配ると、ニックの隣りに座った。あれ?ただの受付の子じゃないの?と洋子は思った。

「ハワード、ニック、マリー、こちらが島津洋子教授。法学博士だ。我々のクライアントだ」とジョン。
「私がクライアントではなく、私たちのグループがクライアントになります。私は先遣隊みたいなものです。ジョンから聞いていると思いますが、昨年もここにまいりまして、森絵美の遺体確認とその後始末をいたしました。今回、遺族からの要望で、殺害原因を調査することになりました。FBIも噛んでいる様子。危ないことが起きないことを祈りますが、万が一のためにみなさんにお願いをすることと致しました。みなさん、よろしくお願いいたします」と洋子が説明した。

「ミス島津、ジョンから聞いたが、隠されていることもあるんだよね?」とハワード。
「スミマセン。確かにそうです。残りの三人がニューヨークにまいりましたら、打合せして、情報の開示範囲を決めますので、少々お待ち下さい。それから、マイクロソフトという会社のCEOのビル・ゲイツ氏もまいりますので、彼とも相談したいのです。

「え?あのMS-DOSとWindowsのマイクロソフト?」とマリーが聞いた。
「マリーさん、よくご存知ですね?」
「エヘヘ、私がハワードに無理を言って、日本からToshibaのJ-3100というラップトップを輸入してもらったんですよ。ニ千ドルですよ!RAMが640KB、3.5インチのフロッピーディスクがツードライブの最新型なんです。アメリカでは、ハンディーなコンピューターはIBMも出していないんです。日本が一番。これでスプレッドシートで情報整理しているんです。私は日本語も少し話せます」と驚くようなことを言う。
「ああ、じゃあ、マリーさん、ビル・ゲイツさんのことをご存知なのね。彼がアメリカでの私たちのパートナーです。あ!私はヨウコと呼んで下さいね」このマリーさん、バブルガムをただ噛んでいるおバカじゃないわね?と洋子は思った。

「じゃあ、ヨウコ、ここでの分担は、ジョンがリーダーだ。私とニックは力仕事専門。マリーは調査担当で、ヨウコのチームを補佐する。ジョンは24時間だけど、我々は、十二時間勤務くらいかな?それで、ジョンから聞いている契約内容で構わない。契約書はこれだ。署名して欲しい」とハワード。

 洋子は、契約書を二度読んだ。問題はない。しかし、一点、注文をつけた。「このオプションの項目に追加事項を書き入れて。この探偵事務所が入っている保険とは別に私たち負担で、死亡保険付の傷害保険を契約して下さい。上限額は五千万ドル。ジョンも含めてね。死亡時の保険の受取人はそちらで指定なさって下さい。それから、危険手当は、発生時に倍額とします。通常時とは別に、追加で支払います。手書きで結構です。それでサインします」と洋子は説明した。それはハワードたちの思っている以上の内容だ。
 
「ヨウコ、そんなことが起こると思っているのか?単に、日本人の女子学生の殺害調査だろう?」とハワード。
「日本のことわざで、転ばぬ先の杖、というのがあります。もしもの際の、というオプション項目ですわ。今は、私がサインしますが、ビル・ゲイツにも私たちの後見人としてサインをお願いしておくつもりです」
「う~ん、思っていた以上に厄介そうだな。後で、話を聞かせてくれるんだろうね?」
「日本からメンバーが来て、ビルが来たら、詳しい話をしますわ。この条件で、みなさん、どうでしょうか?」

 そこで初めてニックが口を開いた。「気に入った。そこまで手を尽くしてくれるんだ。俺に異存はないぜ」彼がそう言うと、ニックもマリーもうなずいた。

「じゃあ、ヨウコ、みんなが来たら作戦会議をしましょうよ。もっと私も情報がほしい」とマリー。
「ヨウコ、マリーは調査担当だけど、身辺警護も可能だからな。拳銃とナイフは凄腕なんだよ」とジョンが言う。
「みなさん、ご協力ありがとう。いいチームになりそうね。安心したわ。ジョン、ありがとう。いい人たちを紹介してくれて」
「ま、すべてビジネスだ。日本人と違って、俺たちはドライだからな」




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