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海外アートコンペに必須!アーティストステートメントの書き方

[無料記事として最後まで読んでいただけます。]

こんにちは、BEARです。

しばらく間が空いてしまいましたが、幸い私の作品関連で色々と忙しくさせてもらっていて、記事を書くまでの余裕ができずにいました。

これまで、日本をベースに活動しているアーティストの方々に向けて、日本在住でも応募可能なアートコンペ情報の記事をいくつか書いてきました。そんな中で、応募するにあたって多くの場合要求されるアーティストステートメントやプロジェクトプロポーザルの書き方のポイントやコツみたいなところを、まとめられたらいいなぁと思っていました。

今回はアーティストステートメントを海外の審査員向けor英語版ウェブサイト用に自分で作る際のポイントをお伝えしていきます。
ここで、ひとつ断っておかねばならないのですが、これから記すものは私のここ2〜3年の欧米での経験と、いろんな本、記事で参考になったポイントの詰め合わせのようなものなので、正解でもなければ、決まったセオリーでもありません。ちょっと参考になるかも程度で読んでください。自分でも読み返せる備忘録のようなものになれば良いです。

ひとりでも多くのアーティストさんに読んでもらいたいし、完全マニュアル的なものでもありませんので全部無料で読んでいただけます。全部読んでみて、いいな、参考になったなと思ったら応援ついでに購入してもらえるととても嬉しいです。

はじめに

私も含めて、文章を書くことが得意ではなかったり、アーティストとして作品が一番大事で言葉で表現することにポジティブではない方もいらっしゃると思います。ですが、現実はそうではなく、言葉で語ることが作品と同じくらい重要な場面に直面します。もちろん「アーティストに一番大事なのは作品ですので、文章に悩んでいる時間があったら制作をして下さい」という方針で、作品の写真だけが必要書類だったりするコンペや団体もあります。しかし数は限られており、応募ハードルが下がると同時に競争率はとても高くなります。
何より、上質なアーティストステートメントは現代のアートシーンでは必須ですし、イギリスの大学でも必ずプログラムが組まれています。
アーティストステートメントはBiographyやAboutとは違った、自分のアートプラクティスをプレゼンテーションする際の大事な役割を担う文章になります。あなたのアーティストとしての一種の哲学を示す文章とも言え、テーマや背景、プロセス、信念など読み手があなたの制作全体を把握するのに必要だと思われるものが構成のベースになっていきます。そして、何より重要になってくる、「何をしているのか、なぜあなたがそれをするのか」whatとwhyを提示するのがアーティストステートメントであると思います。

また、下に挙げた本の中では、あるギャラリストが「月に1度もしくは3ヶ月に1度はアーティストステートメントを見直し、アップデートしなさい」と言っています。アーティストが人間であるように作品のテーマや目の前にある世界は時とともに移ろい、変化しているはずです。なので大学を出た時に書いたステートメントと、35歳、50歳で書いたステートメントは違ったものになってくるし、なるべきです。ステートメントを見直すことで思考が整理されたり、その先の制作のガイドになってくれたりします。アーティストステートメントは、何かに応募するためだけに用意するものではなく、キャリアの輪郭を作る重要なもののひとつである様に私は感じています。なので、そういう視点からも捉えられる様に、その道のプロの言葉と私の経験を交えながら説明していきます。

私がこの記事を書くまでに読んだ本や記事の中から、手法を取り入れたり参考になった3冊載せておきます。英語で読める人はこの記事も読んで欲しいですが、この3冊を読み込めばかなりためになると思います。


フリーライティング

まず一番最初に材料が必要になってきます。そのために、多くの筆者やアーティストの方が重要性を説き、私がとても有効だと感じているのがフリーライティングです。15~30分の間くらいにタイマーをセットし、特に構成や文や言葉の表現にとらわれず、ただ、思いつくままに、あなたのアートプラクティスについてwhatとwhyを意識しながら語り倒してください。これは英語でも日本語でも構いません。熟考するより、時間制限の中で感覚で書き出すフリーライティングは、よりシンプルで本音に近い言葉が出てくるので材料集めにはとても有効です。これを日をまたいで、3〜4回行うとまた違う言葉が出てきたりして、幅が出てくることもあるし、繰り返し出てきた言葉はあなたのアートプラクティスにとって外せないキーワードになってきます。

また、フリーライティングとは別に私がこの段階で行うことの一つは、フリートークです。散歩をしながらや、誰か友人を誘ったりして、自分の作品やプラクティスについて話すのです。その際、スマホの文字起こし機能を使って全て記録しています。実際に声に出して話すと、頭の中で考えてタイピングするのとは全く違う言葉が出てくることがよくあります。
また、友人から飛んで来た質問に答えることも、説得力のある言葉が出てきやすいという点でとても有効です。

ここで紡いだ言葉や文章はもちろん荒削りで、現段階では使えませんが、最初のステップとしてとても助けになってくれます。

質疑応答ー質問リスト

次のステップとして、アートキュレーターやギャラリスト、審査員たちがこういう情報が知りたい、これを言及してくれ、などと書いている項目をまとめた質疑に、フリーライティングをベースに答えていきます。これはある本の中の質問リストがベースで、それに他の本や記事から多少付け足した質問リストです。このリストに答えることでフリーライティングで行った能動的なアウトプットとは逆の受動的なアウトプット作業が行われ、パズルのボードが埋まっていきます。

1. What does the review panel need to know about my work? What's important to them? 読み手はあなたの作品の何を知らないといけないのか。何を伝えることが読み手にとって重要な情報か。一番核になる制作テーマやメディウムとかです。

2. What process do I use in making my work? What special research am I conducting? どういう過程、手法で作品制作を行うか。どんな特別なアートリサーチを行っているか。あなたならではのアプローチとは?的な。

3. How do I make my work, step-by-step? 詳細に、どう作品作りを行っているか。

4. What's unique about my process or my result? What makes my work like no other? 制作過程や結果の独自性は何か。何が唯一無二たらしめているか。これまで培ってきた技術や、キャリアを織り交ぜながら。

5. Where do I go for inspiration? 発想を得るためにどこへ行くか。これは本文に入れるためというよりかは、作品やアイデアのルーツ的なものの材料集めに近いです。

6. How has making art saved my life? アートを作ることがどうあなたの人生に影響してきたか。これはアートの矢印が内向きでも外向きでもいい。スケールも大きくある必要は無い。

7. How did my earliest years or upbringing affect my art? 幼い頃の教育や生い立ちはどうあなたのアートに影響したか。直接この答えをステートメントに使うのは良くないが結構重要。whyの部分に当たる人もいるかも。

8. What first drew me to this art form? What was I seeking? Did I find it? 何が最初にあなたをこの制作に導いたか。何を探していたか。それを見つけたか。振り返ってみて、何が今の制作の始まりだったかなぁ。

9. Who are my influences – mentors, trainers, or famous artists I have never met? あなたに影響を与えた先生や会ったことのない有名なアーティストは誰か。パッと言えるリファレンスアーティストが3〜5人くらいいるようにしたい。直接本文に名前を挙げる必要はないが、共通項やキーワードが見つかるかも。

10. What excites me most about my work? あなたの作品で最もあなたを高揚させるものは何か。

11. What obsesses, fascinates, or haunts me? 何に取りつかれ、魅了され、悩まされているか。

12. What still keeps me up at night? 何があなたの制作を支えているか。

13. What am I worried about? curious about? 何を憂慮し、関心があるか。

14. Did I choose this art form, or did it choose me? How? あなたがこの手法、表現を選んだのか、この表現方法があなたを選んだのか。どういう過程で?

15. How does my work fit into the history of this type of art-making? あなたの作品制作は歴史やこれまでのセオリーでいうとどこに当てはまるか。これも結構重要。自分の立ち位置や方向性がなんとなく示される事になる。

16. What do I want my audience to feel, question, wonder, understand, or do after experiencing my work? What's my goal? あなたの作品を通して鑑賞者にどう感じ、疑問を持ち、不思議に思い、理解し、経験して欲しいか。= 後述しますが、これを直接ステートメントに書くのはNGです。この問いに応えることで、あなたのアーティストとしての芯をはっきりさせる事がこの問いの意図です。ゴールは何か。第2パラグラフの頭くらいにトンっと置けると良いのかな。

17. If my work were music, what kind of music would it be, played with what kind of instruments? もしあなたの作品が音楽ならば、どんなタイプの音楽で、何の楽器を使っているだろうか。これは以前アーティストの下で働いていた際に作品のニュアンスを音楽やリズムによく例えられていた。別に必要ないと思うけど、あったら面白いのかも?

この質問の答えがそのままステートメントの文になるものばかりではないかもしれないし、なる必要もありません。ただ、テーブルの上に思わぬ材料やスパイスを並べる手助けをしてくれます。

構成〜作成 -アウトライン-

それでは、実際のアーティストステートメント作成に向けて構成を練りましょう。これには正解はありません。また、場面によっても変わってきます。助成金などに応募する場合はプロジェクトのテーマに沿って整理されたり、時系列での整理が必要だったりしますし、作品の審査のような、作品と並んで読んだりすることが想定される場合、読み手にアートプラクティスの背景から現在〜将来への変遷がイメージできるとより良いかもしれません。なので、まず、これを誰が読むのか。どの場面でこれが読まれるのかをはっきりさせましょう。
1回目の下書きに向けた構成の材料は前項である程度揃っています。全てを詰め込む必要は全くないので、大体3〜4章構成になるように骨組みを作りましょう。この場合、どういう表現方法になるにしろ、1章は自分は何のメディウムで何をしているアーティストなのか、Whatから始めるのが無難だと思います。それ以降はかなり人によります。ある程度名前の通ったアーティストであれば必ずステートメントを持っていますので、その人のウェブサイトや所属ギャラリーを覗いてみて、参照すると良いと思います。

ここでは、自分のウェブサイト用に基本のステートメントを用意しており、それをベースに応募の都度、読み手と場面に応じて変化させています。
その構成を下に例としてあげてみます。これは私のウェブサイトを訪れた人、つまり、私の作品を見て、興味はあるけどヴィジュアル以外の情報は無い人を読み手と想定した例です。

ー1章ー何をしている人か簡潔に分かる
•一文で何をテーマになんのミディウムか言及。
•問題提起から〜達成するために。
ー2章ーアートプラクティスの全体図
•目的と制作の重要な軸になる要素
ー3章ー具体的なヴィジュアルイメージに迫る
•最近の作品についての概念的説明
•それがどういう作風を形作っていて、どう鑑賞者に影響するか(ヴィジュアルとしてイメージできるように)
ー4章ー結び
• 自分のアートを通して

下書き

前提条件としてアーティストステートメントは1人称ライティングです。BiographyやAboutは3人称ライティングなのでそこにまず気をつけて書き始めます。また仕上がった文章の長さの目安としては300words以内がひとつ一般的な長さのように思います。(個人調べ)その場合、私は毎回200~230ぐらいになります。*文字数ではなく単語数です。

まずは箇条書きの各項目の内容をさらに2〜3個に細分化させて個別に文章を書いてみましょう。その後その2、3個を一つの項目としてまとめる作業を各章で行います。注意したいのは、日本語は極めてボヤけた(超表現豊かな)言語なので、それをそのまま訳しにかかると英語では何言ってるか分からない文章が出来上がります。英語はとてもプレゼン向きな言語だと思うので、最初は明快に、直接的に書くことをオススメします。
各項目の文章が出来上がりました。この時点での文章のつながりや全体の整い方を気にする必要はないと思います。とにかく書いてみることです。そして各章の構成を意識しながらまとめましょう。私の場合、まとめる際に章の文頭に副詞(Actuallyとか~lyの単語)を使うことは何となく、絶対来ないように気をつけています。個人的にですけど。ここではある程度の形を作るのが目的なので悩みすぎることはありません。

編集 削ぎ落とし、肉付け

編集でまず見ていきたいのは、重複箇所です。言い方は違えど、内容が重複していないかをチェックしていきます。上記の項目に沿うならば、1章の達成するためにと2章の目的、2章の軸になる要素と3章の作風あたりが、危険地帯です。ここで重複せずに書けると良いのですが、、はい、私もよく重複します。同じこと繰り返してね?って思ったら、まず繰り返してます。なので、言いたい方もしくは文脈に上手く乗っている方を残し、片方を思い切って消します。そこで集めた材料達の元へ立ち帰り、例えばフリーライティングのwhyの箇所を掘り下げてみたり、違う角度で質疑に答えてみたり、違う人とフリートークをしたりしてみてください。出てこなかったら出てこなかったで良いと思います。短く、3章で簡潔に伝えられるならば4章である必要はありません。
また、単語の重複も避けたいです。自分の制作の中でのキーワードとして使用している場合は良いのですが、何でもない単語が続いたりすると、読み手はちょっとだけ引っかかります。実際に、この記事の最初、はじめにの段落のアーティストとアーティストステートメントの連呼に少し引っかかった人もいるのではないでしょうか。そういう時はMacmillanthesaurusを使ってみると適切なニュアンスの類語が見つかったりします。
ここまで来たら、一度読み直し、ステートメントの中で一番複雑になってるなぁココ。っていう一文を抜き出し、日本語に訳してみましょう。ここをちゃんと伝わる表現にできれば、全体のステートメントとしてあなたのコンセプトは伝わっているはずです。私はその際、DeepLさんにお世話になっています。DeepLさんの日本語訳に違和感があったり、わかりにくいと作り直します。
*大胆に誤訳される場合もあるので、頼り過ぎには注意

この下書きを読んでみて、納得したら次へ。納得できなかったらまた下書き第2弾をやり直しましょう。3度やれ、4度やれ、と言う人もいますが、納得したらそれで良いと思います。(それでも2度はやりますけどね)

Proofreading 校正

プルーフリーディングは、第3者に読んでもらうことです。これは出来るだけやった方がより良いステートメントに仕上がります。本や、大学時代の授業、個人的なトライ&エラーから私が採用しているやり方は以下です。

*見せる前にまずGrammarly等のスペルチェックソフトを使ってスペルミス、文法ミスをできる限り無くしましょう。

1人目:一番頼みやすい人(和訳も入れながら)
修正
2人目:一番アーティストとしてのあなたを知っている人
   (あなたより英語できると理想的)
修正
3人目:知り合いだけどめちゃくちゃ知り合いではない英語堪能者
修正
4人目:英語堪能者(ネイティブが理想)3人目でも可
修正/完成

これが今のところ一番しっくりきています。また、私の場合は1人目と2人目が私より英語が堪能な日本人で3人目がネイティブor英語堪能な外国人です。
4人のproofreaderを通せば、それなりの文章ができていると思います。もちろんネイティブや英語に長けた知り合いがいなかったりする場合もあると思います。そんな時はネイティブチェックをやってくれる会社に頼るか、アーティストステートメントをネタにオンライン英会話チャットをやってみるのも良いと思います。(これいいな。次そうしてみよう。)


押さえたいポイント
最低やるべきこと5

• できる限りシンプルな文章(長くても分かりやすく)
• 1人称表現で"I"を使う
• 読む人の頭の中にイメージとして湧くこと(初めましての読み手を想定)
• 出来るだけ具体的に
• メディウムの明記

絶対やってはいけないこと5

• 造語の使用(辞書に載っている単語を使う)
• 複雑で難しい表現•専門用語(ここで読み手の気持ちが離れる)
• よく見る提携文の使用
• 作品を見た人がどう感じる/感じて欲しいかを書く(それに導くあなたの独自の手法を書くのがステートメント)
• 子供の頃の生い立ちを書く(自叙伝っぽくなりやすい)

もちろん上記以外にもポイントはいくつもあると思いますが、まずは上にあげた10のポイントに気をつけて書けると良いと思います。造語なんかは割と使っちゃってた時期もありました。最終的には自分の作品の背景などを詳しく知らない状態の人に読んで貰うわけですから、あまりに主観的すぎると読み手を置き去りにしていまいます。(私も1度目の下書きはよくあります)
最低やるべきこと5は要するに「自分の中で、”前提”になっているものは基本的に他者の中に前提として無いことを念頭に置いたライティングを心がけましょう」という事です。そこが一番のすれ違い、置き去りになる原因になります。


最後に

とまぁ、こんな感じでしょうか。後半の半分以上は自分に対して書いていた感じになってしまいましたが、少しでも参考になれば幸いです。日本語でのステートメントやプロポーザルを作ったことがないので日本でもこのような書き方で良いのかは分かりません。
ただ、アーティストステートメントは全てのアーティストに必要なものですし、全てのアーティストが友達や知り合いとの会話の中で自然と行なっているものを文にしたものです。この記事を機に挑戦してみて、海外でのチャンスに挑む人たちの手助けができれば本望です。私もまだまだ半人前ですので、都度アップデートしていければと思います。

最後まで読んでくださってありがとうございました。もしよければ応援と思って購入してください。

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