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1年目、東京からの逃避

札幌、すすきので舌と目が肥えたと思っていたが、
ここ東京ではビギナーからのスタートだった。

学生の頃みたいに、飲食店でバイトしてスタッフや常連さんのつてで開拓していくこともできない。
何よりもお店の数と街の数が多すぎて、フラッと入って失敗することも多くて、
自分の目利きに自信を無くしていた。

地方は落ち着く。
東京みたいに選択肢が多くない、
少しおしゃれそうなスポットを見つければ、
美味しいレストランにありつける。

山口は下関で過ごした26歳の誕生日、
東京からのエバキュエーション。

港があって、大型商業施設があって、夜になると人が少なくなる。
街にはそれなりの活気はあるが、洗練されているわけではない。
なんと落ち着く街なんだろうか、ここでは強気でいられる。
表参道とか青山で気後れしてしまう地方出身新卒1年目は皮肉にも地方都市に癒される。

インターネットで「山口 フレンチ」とか「山口 おしゃれ ディナー」と何度も検索した。
食べログや一休を開いては閉じ、疲れた頃に見つかったのは「レストラン高津」というなんとも洗練されたHPだった。
価格もさすが地方だし、ここでいいじゃんとあっさり決めた。
https://restaurant-takatsu.com/menu/

嫌いなものもアレルギーもないから、予約だけよろしくね。
遠距離交際をしていた恋人に頼む。
白のノースリーブシャツと黒のスリットスカート(@B-shop)で挑む。

高台にあるリノベーションした洋館にレストラン高津はあった。
佇まいやドアを開けたお店の雰囲気は、想像以上に都会的で、
すすきので培った経験値では計れないものだった。
スチールと石を感じさせるコの字型のカウンターと黄色いライトはなんとも素敵だった。
「下関」ってのも渋い、何が表参道青山だ!
あの高揚感だけで「誕生日を良いものにしたい」欲はほとんど満たされた。

しかし、案内されたのは個室のテーブル席だった。
正直、カウンターがよかった。
彼がお願いしたのか、お店側の配慮なのかわからないけど、
恋人との食事は隣同士の方がよくない?と26歳のわたしはまだ言語化できていなかったのだろう。
若干、高揚感は落ち着いてしまったが、自分の意見(不満)を常々伝えられるほど都会的な女性になりきれていないので気持ちに蓋をした。

26歳のわたしは、日本酒と居酒屋くらいにしか目利きがなかったので、
レストラン高津のすばらしい一皿一皿を覚えていない。
味わうほど経験値もなくて、個室のドアがあくたびに(カウンターのほうがキラキラして楽しそうだな)と蓋をした感情が再燃していた。
目の前の当時の恋人は何を考えていたのだろう。
自分と同じで、料理はなんかすごいけど今の自分だと形容詞きれない。
ただ、こういうとことにサクっとこれる大人になるぞ!とかかな、
大人の男とかに憧れている人だったから。

わたしも「もうすこし大人になったらもう一度来たい」と思った。
その時は今目の前にいる恋人とこれたらいいな、とその頃は思ったかもしれない。

セブンイレブンでアイスとコーヒーかなんかを買って、帰路についた。
怖いくらい暗闇の中を進む地方の夜のドライブは、「2人きり」を演出してくれる。



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