戦術妖精隊
「それで、提案であるが、我々は二手に分かれるべきであろうと思う。さすがにシャーリィ殿下をオークどもがひしめく場所へお連れするわけにはいくまい? ゆえにオンディヰナ突入班と殿下護衛班に分かれるべきであろう。」
「なるほど。小官も賛成であります」
「そこでフィンくんには殿下の護衛をお願いしたい。」
「えっ、でも……」
「無論、軍人たるフィンくんを差し置いて民間人たる小生と黒神が出張ると言うのは、本来であれば筋違い、あってはならぬことである。しかしながら、現在我ら三人はシャーリィ殿下のお力でこの世界に存在している身である。彼女に万一のことがあった場合、我々三人は強制的に元の世界へと送還されてしまう。そうであるな? 殿下」
不意にシャーリィへ顔を向けてきた。
こくこく、と頷いて見せる。恐らく、フィンをこちらに留めるための方便なのだろうが、図らずも事実を言い当てていた。
本来この世界のものではない魂を繋ぎとめておくための楔としての役割を、シャーリィは担っていた。その負荷が、身体機能の喪失として現れているのだ。
「で、あるならば殿下の身の安全は優先順位において最上。最も信のおける者に護衛の人を託すべきである。それは君を置いて他にあるまい。」
フィンは、不安に揺れる瞳でしばし総十郎を見上げていたが、やがて目を閉じて頷いた。
「では、小官の部下を一人、お連れ下さい」
「部下とな?」
フィンは手の甲を掲げると、錬成文字が浮かび上がり、光の塊が次々と飛び出してきた。
戦術妖精たちは、ぱっと散開すると、初めて見る人々の周りを飛び回った。
「これはっ!?」
リーネは自分の周りを飛び回る手のひらサイズの子供に、目を丸くした。
「紹介するであります。セツ防衛機構第八防疫軍第五十八師団第二連隊長付き特殊支援分隊、総員七名であります。自分では喋れないので、そこはご容赦をお願いするでありますっ!」
「ああん? 虫、じゃねーなこれ」
烈火の指が閃光の速度で動き、〈アンガラ〉の翅を摘まんで捕えた。
ジタバタともがく戦術妖精。
「あっ! いじめちゃダメでありますよ!」
「この子らも、軍人であるか。」
総十郎は手のひらに降り立った〈プライディー〉をしげしげと眺める。
フィンと同じ軍服の童女は、後ろ腰で腕を組んで傲然と視線を返していた。
総十郎が柔らかく微笑むと、ぽっと顔を真っ赤にして飛び去り、フィンの後ろに隠れる。
「主に隠密偵察と、電波妨害下における連絡要員としての運用を主目的として開発された第七世代ホムンクルスであります。〈プライディー〉くんは照れ屋さんなだけので、気にしないでほしいであります。あてて」
ちいさなにぎりこぶしでぽかぽか殴ってくる〈プライディー〉に、フィンは苦笑する。
一方リーネの周りには〈グラッドニィ〉と〈カビタス〉が飛び回っていた。
「まるで神話の妖精ですね。ほら、こっちおいでー」
差し伸ばした手をするりと抜けて、〈グラッドニィ〉と〈カビタス〉はみっちりと張り詰めたスイカップに体当たりした。
つ、ぷるるんっ、と弾んで二人を押し返す乳房。
「こ、こらーっ!」
拳を振り上げて怒るリーネから飛び去る二人の顔には、悪童めいた笑みがあった。
一番モテているのがシャーリィで、〈エンヴィー〉、〈スローサ〉、〈ラスティ〉の三人を両肩に停めてご満悦だった。彼女のよくわからないカリスマが、戦術妖精も惹きつけているようだ。繊細で美しい指先に頭を撫でられると、うっとりと眼を閉じて身をゆだねていた。
非常に絵になる光景である。
「〈アンガラ〉くん。ソーチャンどのとレッカどのについていってほしいであります。連絡要員であります」
仕返しに烈火の頬をつねっていた〈アンガラ〉は、えー、まじでー? みたいな顔で敬礼した。
「戦術妖精はリアルタイムで小官と情報リンクしているであります。何かあればすぐに小官に伝わりますし、こちらの声を届けることもできるであります」
「なるほど、有能であるな。〈アンガラ〉くん、よろしく頼む。」
しゃーねーなー付き合ってやっかヘマすんなよ? 的な顔で〈アンガラ〉は頷いた。
「では、黒神よ。征くとしようか。」
あえかな微笑みとともに、総十郎は颯爽とオークどもの群れへと突き進んでいった。
「あ、てめえ待ちやがれエルフ女子んとこに最初に到達すんのはこの超天才だこの野郎抜け駆けとかマジ許されざるよコラァ!!」
烈火は駆け足でそれに追いつく。
二極の最強が、臨戦態勢に入った。
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