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ここをキャンプ地とする!

  目次

 シャーリィ殿下は大層なだらかで美しいプロポーションの持ち主であらせられるので、フィンはとても安心して同乗することができた。

「殿下、よろしくお願いしますっ!」

 すると肩に殿下の顎が乗ってきた。

 ――もー、あからさまにほっとしないっ。

 超バレてた。

「い、いや、そんなことは……」

 ――リーネのこと、きらいにならないであげてね。

「もちろんでありますよっ!」

 そんなつもりは毛頭ないのであった。
 勇ましい人だけど、寂しがりな面も確かに感じ取っていたから。

 ●

 それから一行は、古き神秘の眠る森を疾駆した。
 神代に建立された、ぼんやりと輝く石材の祭祀場に息を呑み、全身を架空質で形作った無数の幻影魚が宙を泳ぐさまに感嘆し、巨樹同士が絡み合って形成された壮麗なドームと、その内部にフラクタル構造を秘めた古代エルフたちの立体都市の遺構に見入った。
 目まぐるしく現れる驚異と神秘に、三人の異邦人たちは思い思いの反応をした。一人は目を輝かせ、一人は耳の穴をかっぽじり、一人は目を細めて一句したためた。
 やがて、樹冠のヴェールごしに差し込んでくる陽光が、赤みを帯び始めてきた。

「日も落ちてきましたね。今日はここに野営しましょう」
「ぬ……野宿であるか……」
「野宿かぁー……マジかぁー……野宿かぁー……」
「お二人とも、何か問題でもあるでありますか?」
「はい出ましたよ野宿大丈夫アピール!!!! おめーと違ってこっちは毎晩壁と天井に囲まれてベッドで寝てんの!!!! 虫とか大の苦手なの!!!!」
「むー、小官も虫は見たことないであります」
「へっ、そりゃあいいキモくて腰抜かすぜ」
「リーネどの、その、野営というと、どのような形に?」
「どのようにと言っても、普通に火を熾してその周りで寝ることになりますが……」
「で、あるかあ。いや、詮無いことを言った。この鵺火総十郎、無論のこといかなる艱難辛苦にも耐え抜く所存である。我が身すでに不退転。地面で眠って見せようではないか。断腸の思いであるが、煮え湯を飲もう。」
「そこまでっ!?」

 というわけで準備を始めることとなった。

「三手に別れましょう。ここで留守番する者、燃えるものを探す組、食べ物を探す組です」
「リーネどのリーネどの、燃えるものと言うと、落ち葉や小枝でありますね?」
「ええ。ただし枝は、……この、白っぽい枝にしてください。中に油分を含んでいて、燃えやすいです。他の樹は水分が多すぎて、生木ではほぼ燃えません」
「了解でありますっ! セツ防衛機構第八防疫軍第五十八師団第二連隊長付き第一特殊支援分隊の総力を結集して任務にあたるでありますっ! ――みんな!」

 フィンの手の甲に錬成文字が浮かび上がり、戦術妖精たちが次々と飛び出してきた。

「ふむ、では小生は落ち葉を担当しようか。」

 総十郎は懐に手を入れると、引き抜きざまに腕を一閃。すると不思議な紋様が描かれた符が横一列にいくつも並び、空中に静止した。

神霊かむみたまいず御霊みたまさきわえ給え。」

 涼やかな詠唱。すると紋様がぼんやりと光り、ひとりでに折り畳まれはじめた。
 たちまち十体ほどの紙人形が出来上がる。
 戦術妖精たちは色めき立ち、紙人形たちとくるくる飛び回り始める。

「わわ、これは一体?」
「式神である。さほど高度なものではないが、単純な命令なら遂行できるであろう。」
「こ、これは紙、ですよね? なぜ紙が生き物のように動き回るのですか?」
「雑霊のたぐいを憑依させておる。しゅで縛ってゐる間は悪さはせぬので安心されよ。」
「わ、我々の知る魔法大系ではまったく説明のつかない現象ですね……」

 式神たちと追いかけっこをしている戦術妖精たちに向け、フィンは手を打ち鳴らした。

「はい、遊ぶのは後であります。すでに状況は把握しているでありますね? この白い枝と落ち葉を集めてくるでありますっ! 作戦開始っ! あ、でも〈カビタス〉くんはここでお留守番しててほしいであります」

 戦術妖精たちはしゃちほこばって一斉に敬礼。なぜか式神たちもそれに倣った。
 そして〈カビタス〉を残し、散開してゆく。あっという間に巨樹の間へ入り込み、見えなくなってしまった。

「小官はおっきめの枝を集めてくるであります!」

 フィンも敬礼を残し、部下たちの後を追った。

「あまり遠くに行ってはいけないよ。」
「了解でありますソーチャンどのー!」

【続く】

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