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文系がトートロジーで誤魔化さない魔法原理を考えようとしてずのうがばくはつして死んだ話 下

 前回

 さてようやく雷魔法は発動したが、当然のように疑問が二つ生じる。なぜ精霊さんは術者の願いを叶えるような行動をとるのか。それに何のメリットがあるのかということ。それから魔法を発動し終えた後、精霊さんはどうなるのかということ。

 そもそもシロガネ世界において魔法とは、神的存在がある時点からアプデによって導入した新システムである。とある理由によってシロガネ世界のアライメントは秩序や停滞といったもの一色に染まりがちな傾向にある。これを放置しておくと、やがて硬直化、ひいては壊死に至る。この未来を変えるために、適度に破壊と変容をもたらすために後付けで備え付けられたシステムである。当然、精霊さんもこの目的に沿うよう本能づけられているのではないか。術者の願いを叶えることに利己的な理由はない。それが世界の均衡を保つすべだからである。

 で、役目を終えた雷の精霊さんたちはどうなるのかという疑問が発生する。ううむ……何だろうか。森の中の環境で、不意に雷の精霊力がお役御免で解き放たれたとき、何が起こるのか? それとも、精霊さんは攻撃魔法を発現させた時点で存在意義を果たし終えており、消滅するのか? そのほうが後腐れがなくてよさそうだが、そうなると魔法とは自然界の活力を奪い取って破壊のために解き放ち、しかも後には何も残らないという代物になってしまう。後付けとはいえ世界を存続させるために組み込まれたシステムが、そのような欠陥を内包するのだろうか?

 仮に使用済み精霊力は自然消滅すると仮定しよう。それだけでは世界に満ちる精霊力は減る一方なので、増やすメカニズムをでっちあげなくてはならない。

 物象から精霊力が生ずる、という考え方で良いのだろうか。水場では水の精霊力が満ちているし、溶岩とかがグツグツいってる火山地帯では火の精霊力で満ちてますよ。いや溶岩って火とはかなりかけ離れた存在だよね!? みたいなツッコミを反射的にしてしまうが、いや、本作はステレオタイプ剣と魔法世界のテンプレを直力逸脱しないようにしたいので、とにかく火の精霊力とは熱全般を司る力なんだよ!!!! と強弁する。

 しかしここで矛盾が生じる。俺は今まで「精霊力が魔法(物象)を引き起こす」と述べてきたにもかかわらず、今回は「物象が精霊力を引き起こしている」のである。逆じゃねーか!!!! どういうことだ!! どういうことだ!! クソッ! クソッ! いやちゃうねん「魔力⇔精霊力」変換が双方向であるのと同じように、「精霊力⇔物象」の変換も双方向やねん。やからそれは別に問題やあらへんねん。

 しかし物象が精霊力に変換されるとはどういうことか。減るのか? 精霊力を生み出したら? それはなんかちゃうんちゃう? 水の精霊力を生成するたびに水が減るんだったらおめー、干上がっちゃうでしょ世界。というわけで「双方向の変換」ではいけないということが判明する。

 どうするのか。まず精霊力が何らかの物象に変換されるのはそのままで良いだろう。だが、物象は、自身が何も損なわれることなく精霊力を生み出さなくてはならない。それは……なんだ? どういう現象だ? ぜんぜんわからない。無限エネルギーじゃねえか。

 やはり「使用済み精霊力が還元され消滅する」という前提がいかんのではないのか? ではどうするんだ。森の環境の中に唐突に残された雷の精霊さんたちはどうしろというのか。いいかんじに循環しなくてはならない。普通、自然環境とは閉鎖系ではない。外部(太陽)からエネルギーを常に受け取っている。魔力=光と考えてみてはどうであろうか。無尽蔵に提供されるが、そのままではすぐに消滅してしまって活用不可能なエネルギーを、精霊力に変換することで利用/保存が可能になるのだ。そして魔力を魔力のまま保存しておける媒体が知性である。え? なんか無根拠な決めつけになってません? 本稿の最初ではもっと理論的/科学的に剣と魔法世界を構築しようという趣旨だったのに、何が「知性を媒体に魔力を保存できる」だよ!!!! どういう原理だよ!!!!! フザけやがって!!!!

 駄目だ。ずのうがばくはつしすぎて俺の頭部はもはや下顎だけになってしまった。露出した舌が芋虫のようにのたくっておる。あああああうううううう。どうすればいいんだ。そもそも雷の精霊力は電子をくっつけたり離したりを自分の意志で行える原子核のようなものと定義してきたが、では他の精霊力は何なのか? たとえば水の精霊力って何なの? 原子核っぽいなんかなの? それがどういう作用で魔法を起こすの? ていうかね、水属性の魔法って、なんか氷を発生させて敵を貫いたりする感じのが多いけど、それ水を操っているとは言えないよね!? 操ってんのは熱だよね!? あれも不可解である。まずどこからともなく水が発生して、でそれがなぜか凍って、敵を貫いている。不条理が二つもあるのである。水魔法、の範疇を水分子の発生だけに限定するか。それを凍らせているのは、何か別の物だよ。土属性の魔法とか! つまりツララ攻撃は水と土の複合属性である。水単独だと、なんかウォーターカッター的なものになるのか?

 四大元素理論によると、水、風、地、火は、それそのものではなく、水=流動性、風=揮発性、地=固定性、火=エネルギーを表している。たとえば、「雷」は電子の移動現象で、「火」は可燃物の酸化反応に伴う発熱や発光である。どちらも「雷」や「火」という物質が存在しているわけではない。ゆえに無からいきなり雷や炎が発生しても精霊力を考えれば不条理感は薄い。だが「風」「水」「土」は違う。確たる物質である。それが唐突に現れる。無から有を作り出している。それは神の御業である。そんなものを修行を積んだだけの人間が使えていいわけないだろ!!!! いいかげんにしろ!!!!!! 四大元素として同列に語られているが、この明らかな差異をどう考えればいいのか。

 そも物質とは何か。エネルギーが取りうる一形態である。物質とエネルギーには等価性があり、相互に交換可能である。そして魔力は純然たるエネルギー概念である。つまり魔力を変換して物質をつくることは理論的にそれほど外れてはおるまい。それだと精霊力が意味ないでしょうが!!!!! だがちょっと待ってほしい。雷の精霊力を「原子核めいたなんか」と定義づけたわけだが、水、風、土もこれと同じことがいえるのではないか。「通常の物質とは異なるふるまいを成す原子核めいたなんか」と考えれば、すべての精霊力を同じような理屈で扱えるのではないか。

 そう考えてウィキペディア先生につきまとってみたわけだが、諸原子の性質がいかなる要因によって成立しているものなのかという答えは見つからなかった。中性子と陽子と電子のそれぞれの数の違いによって原子の性質は決定されているのか? ということは「強い相互作用」の束縛を引き千切ることができたら、水素原子を酸素原子に変えるなどということも可能なのか? だが、なんかこう、それは危ないんじゃないスかね……? あのー、なんかいろいろあるでしょう、ベータ崩壊だかなんだか。アタシよくしらないけど、そういうの色々あるからなんかこう難しいのだろう。ではいかにしようか。知るか!!!! なんか不思議パワーで精霊さんが原子を中性子と陽子と電子に分解して再構成してるんだよ!!!! それが魔法だよ!!!!! 文句あるかオォン!?

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 だがそれで納得するにしても疑問はまだ尽きない。雷撃の槍めいたなんかを飛ばして敵に命中させてダメージを与えるみたいなビジュアルイメージが一般的だが、なんで槍の形なの? なんで飛ばす必要があるんですか? 言い換えると、なぜ射出兵器の形をとっているのかという疑問である。

 なぜ敵の肉体に直接電撃を発生させてはいけないのか。そうでなくとも、なんか電気なんだから、敵を追尾するような感じで迸らせても良いはずである。なぜ「電撃の槍」を「射出」せねばならないのか。例えば、変換生成できる精霊力の数には当然上限がある。よって最初から周囲一帯すべてを電撃攻撃とかはできない。そして精霊力の変換生成は術者の肉体から起こる現象であり、術者から離れたところにいきなり雷は発生させられない。必ず最初は術者と接触する形で発現し、しかるのちに敵に飛ばす、という形を取らざるを得ないのではないか。そして自動追尾する電撃っつったって、そんな、吸い付く対象を術者の自由に選択できるわけないじゃないですか。何のために避雷針があると思ってんですかやだなぁまったく。というわけで、直線状に「飛ばす」――というか、電撃が発生している範囲を術者から敵へと段階的に移行させてゆくという形に落ち着くのだ。これが電撃の槍というビジュアルの正体である。

 さて、次に思いつく問題としては「精霊力は何種類存在するのか」というアレである。なんだ、雷って四大元素に含まれてないよね!? だから精霊力は四つ以上あるんだよ!!!! だが具体的に何種類なのか。原子の種類と同じくらいあるのか? まぁ原子核めいたなんかであり、電磁相互作用を自分の意志で上げ下げできる存在であるから? なんかそういうことになるんだろうけど、原子って全部で何種類あるんだこれ……ぜんぜんわからん。まぁ、全部あるとして、しかしシロガネ世界においては主に知られている原子のみが人間の要請に応えるものとしようか。今後人間の技術が発展し、さまざまな原子を認識できるようになったら、「酸素の精霊力」とかがアンロックされたりするのだ。

 だがちょっと待ってほしい。水とは酸素に水素が二つくっついた分子である。シロガネ世界の住民は「水」は認識しても「酸素」や「水素」は認識していないはずである。風や土とて同様だ。単一の原子ではなく、さまざまな種類の原子の混合物のはずだ。そして中世レベルのシロガネ世界がそれを認識しているはずがない。よって「認識=アンロック」プランは通らない。

 ではどうするのか。あくまで四大元素しかないと仮定する。すると雷の魔法をどう説明すればいいのか。固定性、流動性、揮発性、エネルギーのいずれにおいても説明のつかない現象である。しいて言うならエネルギーなのだが、火と雷は明らかに異なる存在であり、ゲーム的にも別属性として扱われている以上、本作設定もそれに準じたい。だが、では、どうすればいいのか。うー、うー、わからない。たとえば、ゲームによっては、雷属性を「火と風の融合属性」としているものもある。だがエネルギーと揮発性を掛け合わせたところで雷になどなりようもない。明らかに風は雷とは程遠い存在である。なんてことだ。四大元素思想では雷をまったく説明できないのである。というかそもそも四大元素思想で現実の物象を説明しようなど最初から無理筋である。またそもそも論だよ! わかった。こうしよう。雷魔法は、その存在自体は知られてはいるものの、常人には完全に制御不可能な代物であり、「隠された第五元素」という扱いで「四大元素」からは外れる感じにしよう。全然何の説明にもなっていない。妥協に妥協を重ね、本稿の意義は喪失し、ただそれっぽい単語を並べて説明したような雰囲気を出しているだけのスカム記事に成り下がった。しかしこれは最初から決まっていたことである。土台、無理なのだ。だが始めた以上、とにかく最後までやり切らねばならない。

 さて、あとは当面思いつく限り最後の問題である「物質⇔エネルギー」の変換ってお前そんな気軽にやっていいことじゃないよね問題について考察と何らかの回答を導き出して本稿は終了することとする。

 最も美しく危険な公式として名高いE=MC2であるが、ウィキペディアで調べてもアインシュタインパイセンが天才過ぎて何言ってんのかぜんぜんわからん。だが、ほんの少しの物質が百パーセントの効率でエネルギー化されるだけで、核兵器以上の熱が発生するというあたりを読んで、果たして精霊力は魔力にそんな気軽に変換されてよいものなのだろうかという疑念が離れないのである。だが――

質量とエネルギーの等価性は「宇宙に始まりがあるのなら、どうやって無から有が生じたのか?」という、ある意味哲学的な問題にも、ひとつの解答を与える事となった。宇宙の全ての重力の位置エネルギーを合計するとマイナスになるため、宇宙に存在する物質の質量とあわせれば、宇宙の全エネルギーはゼロになるというのが、解答である

 という部分を読んでちょっと思い直す。我々の認識しているこの世界は、ビッグバンによって無から有が発生したのではなく、無の取りうる形態の一つにすぎないというのはなかなかセンスオブワンダーを感じさせる発想である。であるならば、なんかそれなりの効率で精霊力が魔力に変換されたっていいじゃないかいいじゃないかえじゃないざえじゃないざという気分になってくる。

 しかしちょっと待ってほしい。これまで「変換」を魔法の主軸に据えてきたが、これはもちろん人為的に起こされるものである。それがお前、自然環境の中で勝手に発生していいのかという話になってくるのであるが、考えてみれば我々の科学とてほとんどが自然に発生している現象を人為的に再現しているものじゃないかと思い直す。だがしかし現実における「エネルギー⇔物質」の変換は、あのーなんか粒子加速器とかいろいろ大仰な施設があって初めて可能となる現象である。それをお前、一個人が念じるだけで発生させられるとはどういうことか。この宇宙は自己認識能力を持った主観の認識が相互に干渉しあうことで形作られているとでも言うのか。それは夜天でもうやった設定でしょうが!!!! しかしこれ以外「念じるだけで変換が発生する」機序というものをまったく思いつけないのだ。

 たとえば『夜天を引き裂く』における超常現象は、この世界を「全人類が共有して見ている集団幻覚である」と定義づけることによって実現を見た。今はたまたま神骸装レフィシュルの意向によって例外なき絶対の物理法則が支配しているように見えるが、それは世界が取りうる形態のひとつに過ぎない。そして全人類の無意識が世界のありようを操作する媒体は認識子であり、何らかの方法で認識子を一か所にプールできるならば、「そんなことあり得ない」という同調圧力を押し切って超常現象を引き起こせるのだ。我ながらうまい設定を考えたものであると自画自賛したいところだが、これを『シロガネ⇔ストラグル』でまた流用するのは芸がない。というか創作者としてなんかそれはいかんと思う気がする。しかし、ではどうするのか。ぜんぜんわからない。もう駄目だ。俺は疲れ果てた。本稿はこれにていったん終了とする。結局俺の知能ではワンダーあふれる魔法原理は創造できなかった。わ! た! しは創造する! わ! た! しは創造する! するするするする……(エコー)

結論:納得のいく、無矛盾な、一般的なファンタジーイメージに寄り添う形の、魔法原理設定を構築することは、バールの脳みそでは不可能である。だけどこれだけは伝えたい。俺は敗れた。そして敗れたことを恥じている。その恥こそが重要なのだと。完璧な異世界など作れないのは確かだが、完璧に行かないことを正当化し、まるでそれが良いことであり、完璧じゃないから素晴らしいんだなどと臆面もなく吹聴するような、そんな不誠実な創作者には決してならぬ。俺たちは勝ち目のない勝負を挑み続け、負け続け、恥じ続けなくてはならないのだ。なんかすごいものは、その誠実な負け戦の過程でしか発生してないのだと信じる。

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