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動物記(高橋源一郎)真っ正面から見たこの世界は本当なのかい?と問われる一冊。

源一郎先生の本は何冊か読んできましたが相変わらずカオスです。

常識とか、当たり前の真理とか、そんなものを乗り越え、いやぶっ壊そうとしている。

でもそっちが本当の人間の姿なのかもしれないとも思わされるんです。

動物記というタイトル、かわいい動物のイラスト、のほほんとした小説なのかなあという人間的予測は31ページで終わる。

みんなは物事を真っ正面から見るのが正しいとか思っているけど、それは本当なのかい?と問われる。

この本は世界を斜めから、いやもう逆さまから見ているんだ。

そんなはちゃめちゃに聞こえる文章は読みたくないって?それが引き込まれたらもう最後まで止まらない。

なぜならそこに描かれる言葉の深さ、圧倒的なまでの知識、チートな文章に打たれるからさ。

僕の口調も影響を受けてしまった。ちなみにこれは短編集です。以下本文抜粋↓

「強く生きろというの檻の中でもつよく生きていないような大人たちが」このようなウタを読むと読むと、ほんとうに、わたしたちは、ずいぶんと遠くまで来たものだなあ、という、感慨を覚えるのです。作者は若い世代の雌のクマであります。彼女もまた、いわゆる「在園三世」もしくは「在園四、五世」と言われるグループに属しています。「つよく生きろ」といっているのは、彼女の父親や祖父の世代のクマでしょう。「刑務所」にいても、決して挫けるな、希望を失うな。そのように彼らはいうのです。しかし、そんな彼らの言葉に作者はいっさいうごかされません。檻の中で「つよく生きろ」とはどんな意味なのでしょう。人間のお客が来ても、愛想笑いを浮かべるな、ということでしょうか。しかし、そのようにお説教する前の世代のクマたちがやったことといったら、せいぜい、飼育係の交代時間に係員を襲う「真似」をすることぐらいだったのです。

なんと皮肉的な表現だろうか。希望を失うな、強く生きろと私たちに教え語りかける大人ほど、希望もなく、強くも生きていない。

真っ正面からみた世界は希望に満ち、つよく生きろと語りかけるのかもしれない。

しかし、そのハリボテの美しさに気づいてしまった人はもうこの世界を真っ正面から見られない。

この世界を斜めから、逆さまに見ながらも、それでもまっすぐに生きていきたいと思わされた一冊です。

「動物記」高橋源一郎 河合出書房

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