#196_【ガイド研修】対馬の地酒 白嶽酒造
観光ガイドをしている中で、お客様からいただく定番の質問のひとつに「オススメのおみやげなんですか」というのがあります。
どうせ買ってくるのなら、やはりその土地でしか買えないもののほうが、送った相手の方からも喜ばれるものです。
訪れる土地ごとで特徴が分かりやすいものといえば、「地酒」もそのひとつかと思いますが、離島の中では割と大きいとはいえ、日本のハジッコ対馬にも酒蔵なんてあるのでしょうか。
あるんです!
美津島町雞知にあります白嶽(しらたけ)酒造さんになります。
酒造免許の申請手続きを経験したことのある私としては、せっかく古くから続く酒蔵があるのであれば、我々観光ガイドも、対馬のお酒がどんなものか説明できるようになっておいたほうが良かろうということで、白嶽酒造杜氏の伊藤真太郎さんを講師に対馬の地酒について勉強しました。
※補足
酒造や酒販は大蔵省(現:財務省)の管轄で、財務状況が良くないと許可が下りません。歴史のある酒蔵や酒屋が地元の名士であることが多いのはそのことと関係しています。
そして、今のご時世では、特区以外で製造許可が新規で下りないという話を耳にします。
白嶽酒造の歴史
まずは真太郎さんに、対馬で酒造りが始まった経緯からご説明いただきました。
その前に「白嶽酒造?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。
昨年10月に社名が変わりました。
昔の対馬をご存じの方でしたら、「河内酒造」と言えば通じるでしょうか。
歴史は古く、1919年に酒造権を買い上げた時に河内酒造という会社が設立されました。ですから、少なくとも100年以上対馬で酒造りをしていることになります。
対馬を代表する日本酒といえば、イコール「白嶽」ですが、昔は他にもいくつか銘柄があったとのこと。
酒蔵の中
タンク
呑兵衛にはたまらん品が所狭しと並んでいますね(笑)。
そして、並んでいるタンクを見ていますと、中に黒い腹巻きのようなものが付いているものがあります。
これは何のためのものなのかを解説いただいたところ、この黒いマットの中に冷却水を流して温度を下げるという役目があります。温めるためかと思いきや、逆なんですね。
お酒は生き物ですから、酵母の活動が活発になると、液体の温度が上がります。液体の温度が上がると、発酵が進み方が変わり、味も変わります。これは、お酒に限らず発酵食品全般に言えることですが、急ぐと「出来が雑になる」なんて言う、まさにそのようなことです。
ヤブタ式自動圧搾濾過器
つづいて紹介いただいたのは、「ヤブタ」と呼ばれる自動圧搾濾過機です。
お酒は醸している間は、白く濁った液体ですが、それを除去すると皆さんが普段目にする透明な液体の日本酒になります。ちなみに、その工程で搾り取られたものが酒粕です。
「ヤブタ」が出現する前は、布の袋に入れて高いところに吊し、ポタポタ 落ちてくるのを待っていました。人手が必要で、濾過に時間がかかり、取れる液体の量も少ないので、色々な意味でコストがかかります。「斗瓶囲い」のお酒がメチャクチャ高価なのは、そのためです。
では、そのやり方が絶対に「正しい」のか、と言いますと、工程に時間がかかるということは、品質が悪くなるリスクが増します。
「斗瓶囲い」は、味わいが良くいい値段で売れますので、素人の私はもっと作ったら良いじゃんと思っていましたが、作り手の目線で捉えるとこういう考え方もあるのか、と感じました。
麹室
もうすぐ酒造りの時期ということで、中は非公開でしたが、麹米の炊き方などについて解説していただきました。
お酒を作る時は、重量の30%の水分を吸わせてお米を蒸します。柔らかすぎると、他の菌が混ざったり、お米が潰れたりしてしまい、また最初から溶けやすいと酵母の動きが悪くなったり、増える余地ができてしまったりと色々大変なのだそうです。水加減ひとつとっただけでも、酵母の動きを左右してしまうんですね。
余談ですが、一般的に麹室は2階にあるそうで、1階にあるのはおそらく珍しいでしょうとのことでした。たしかに、別の酒蔵を見学をしたときは、 2階にありました。
なぜそのようにしているのかと言いますと、麹米をタンクに入れる時に、上から投入できるので都合が良いのだそう。
水
お酒の作り方について話を聞くと、あれこれうんちくが語られますが、なんだかんだ言っても8割は水でできていますから、水が重要なのは言うまでもありません。
白嶽酒造の仕込み水は、地下10mほどの地下水を汲み上げています。製品用に使う水は、もちろん濾過をしてますので、衛生上問題はありません。
酒蔵は、霊峰白嶽のふもとにあたる雞知にありますが、その白嶽の伏流水になります。お酒の銘柄は、まさに霊峰白嶽から頂戴しているわけです。
蒸留器
白嶽酒造では、日本酒だけでなく焼酎も造っています。時期的には、日本酒の造りが終わってから仕込みが始まります。
焼酎は蒸留酒ですが、本格焼酎(単式蒸留)の蒸留には、大きく「常圧蒸留」と「減圧蒸留」の 2種類あります。
「常圧蒸留」は、高温で熱し気化した上記を再度冷やして液体にする方式で、原料由来の香りが多く抽出できるパンチが効いた味わいになります。
それに対し「減圧蒸留」は、タンクの中を真空にし、気圧を下げて低温で気化させる方式で、圧力鍋と同じ原理になります。香りや雑味の少ない、クセのない味わいになります。
白嶽酒造の蒸留器は「減圧蒸留」になりますので、焼酎が苦手な方や初心者の方でも飲みやすいお酒です。
利き酒
いよいよ待ちに待った利き酒です(笑)。
と言っても、対馬では車がないと移動がままならないので、残念ながら、実際に口に含んで試飲する人はあまりいませんでしたが、香りだけでも学べることは多いということで、蔵開きのメインイベントである「利き酒クイズ」と同じ道具をセットしていただきました。
今回ご用意いただいた7種類のお酒について、解説していきます。
大吟醸
華やかな香りが特徴で、のどごし もすっきりしています。
私はどの食べ物にも合わせやすいという印象を持っていますが、真太郎さんはそれだけで楽しむのが一番、とおっしゃっていました。
上撰
白嶽酒造で一番スタンダードな銘柄です。精米歩合が65%ですので、普通酒としては結構磨いているお酒になります。甘口で熱燗や鍋料理に合います。私は、対馬で定番の味付けである甘辛味の煮付けに合う気がします。
純米酒つしま
日本製にはアルコールを添加するお酒とそうでないお酒があり、純米酒はアルコールは添加していないお酒になります。
お米の味がしっかりしていて、白身魚やチーズを使う洋食に合わせやすいです。
原酒
先ほどから、お酒は生き物だという話をしていますが、気象条件などが変化すると、お酒の味にも変化が起きますので、アルコール度数を均一にする和水の工程がありますが、「原酒」はその工程がないお酒になります。そのためアルコール度数は高くなり、後味がキリッとします。いり焼きや焼肉など、甘めの濃い味付けの料理に合います。
白嶽酒造さんのお酒は、甘口ですので、原酒は飲みやすいとクイクイ飲んでしまい、次の日イタい目に遭う方がいらっしゃいますので、飲み過ぎには気をつけましょう。
やまねこ
スタンダードな銘柄で、クセがないのでどんなシーンでも合わせやすいです。
原料は麦・米とありますが、メインは麦です。
ちなみに、「やまねこ」とは密造酒の隠語だったそうです。
こっぽうもん
米焼酎です。原料米や麹は日本酒と同じものを使っており、寒い時期でないと作れないため、日本酒の仕込みが終わるとまずこのお酒の仕込みから始めます。
実際お客さんからも、「この焼酎日本酒みたいじゃない?」と言われますが、作り方のお話を聞き、謎が解けました。
伊藤
芋焼酎になります。こちらも減圧蒸留で製造していますので、芋焼酎でありながらマイルドな味わいが楽しめるのが特徴です。
どこで買えるの?
白嶽酒造のお酒は、流通の7割が対馬島内、島外でも長崎や福岡、 一部大阪、東京という感じで、あまり対馬の外には出回っていません。
とはいえ、日本酒は全国鑑評会で3年連続金賞受賞、そば焼酎の「木庭作」も表彰されていますので、実力もあります。
他所ではなかなか入手できませんので、お酒好きの方へのお土産であれば、是非ご利用ください。
まとめ
私もなんちゃって利酒師なのですが、最近飲みに行く機会どころか家で晩酌する機会すら減っていたので、久しぶりにお酒の話を深く聞くことができ、面白くてためになる、充実の研修でした。
作り手とただの呑兵衛の目線の違いもさることながら、お酒はこれだけ大がかりな設備で大量生産していても生き物である、というあたりも興味深かったです。
酒造りをしていない時期でしたら、このような形で酒蔵見学や利き酒クイズもしていただけますが、これから日本酒の仕込みに入る時期になりますので、春の蔵開きが終わって落ち着く頃まで、しばらくおあずけになります。
とはいえ、酒蔵のお店に行きますと、試飲をしながらお酒を選べますし、運が良ければ、そこでしか手に入らない限定品に出会うこともありますので、お酒がお好きでしたら、空港に行く前に立ち寄ってみてください。
※もちろん、飲酒は20歳になってから!
※飲酒運転は厳禁です。試飲をしたらくれぐれも車を運転しないでください!
さいごに
講師をお引き受けくださった伊藤真太郎さんをはじめ、仕込みの準備で忙しいところご対応いただきました白嶽酒造のみなさま、ご協力まことにありがとうございました。
対馬の地酒をアピールしてまいります!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?