新しい椅子を買った日のこと
この家に住み始めて約3年。ようやく、3脚目のチェアをお迎えした。
我が家のダイニングは、円形から楕円形に伸長できるダイニングテーブルで、これまでは楕円形にしてチェア2脚とベンチをおいて使っていた。
暮らすうちに他のアイテムとのバランスを鑑みて、楕円形から円形に変えて使い始めた。ふたり暮らしなので、椅子は2脚でも十分に足りる。お客さんが来たら楕円形にしてベンチを使えばいい。
と思いながらも、円形テーブルにお気に入りの4脚のチェアを合わせたいというのは、いつか叶えたいと思っていた夢だった。
話は変わるが、お値段のする「いいもの」は、自分の人生の節目に購入することにしている。
わたしの思う「いいもの」は、必需品ではないけど、自分の心を満たしてくれる高価もの。高価なものだけに価値があるとは思わないけど、高価なものにはそれなりの意味があるとも思う。それ相応の価値があるかどうか、納得したものを買いたいけど。
去年の誕生日には、初めて作家さんのアートを買った。今回は、誕生日ではなくて、6年半勤めてきた会社を退職し初めての転職。自分にとっては、大きな節目なので何かをと考え始めていた。
そんな流れで、探し始めたのがチェアだった。日頃からストックしているほしい物リストを開き、迷う日々。長年憧れ続けていた名作チェアを候補に並べ、どれにしようかと迷っていた。
そんな時、知り合いに紹介してもらったお店で目を惹かれたのがこのチェアだった。美しい曲線と、滑らかな肌触り。上品なシルエットに、可愛らしいチェック柄の座面。
あれだけスマホの中のリストと睨めっこしたり、ヴィンテージショップに通って迷っていたのに。今まで目星をつけていなかった、未知のチェアにグッと心掴まれていた。それに、チェック柄なんて想定外。でもかわいい…。
店主さんの話を聞くと、Svend Aage Madsen(スウィン・エー・マドセン)がデザインした1960年代のチェアで、緩やかに湾曲した後脚は、無垢のチーク材がふんだんに使われた贅沢なつくりなんだとか。
確かに、後脚の美しい曲線は、1本の木から作るとしたらかなり無駄な部分を出してしまう。真っ直ぐな脚部の方が、材料費的にも工数的にも効率がいい。
そして、何より手をかけて驚いた。木肌がとっても滑らかで気持ちがいいのだ。ツルツルで、サラサラ。良質なチーク材をふんだんに使い、この滑らかな質感を出すのに、どれぐらいの手間が掛かっているのか…。
美しいな。と感じた背景には、ちゃんとそれなりの理由があって、だからこの美しさなんだと実感できた。
欲しい。購入メーターは、80%まで高まっていた。だけれど、ここで立ち止まって考えないといけないのがコーディネートとして成立するか。うまく我が家に馴染むのかどうか。
インテリアの失敗パターンとして、家具を単体で可愛いと思って決断してしまうと、テイストなどにばらつきが生まれやすく「まとまりがない」原因になりやすい。お部屋にある他のものとの全体バランス・調和を考えることが大切だ。
我が家のダイニングテーブルは、ナチュラルカラー。すでに置いている2脚のチェアは、ナチュラルカラーと少し赤みのあるオレンジに近いナチュラルカラー。そしてダイニングの横には、赤みのあるブラウンカラーのキャビネットを置いていた。
ダイニングテーブルとチェアの組み合わせだけを考えると、ナチュラルカラーの中にチークの赤みのあるブラウンが一つだけ入ることで、きっと浮いていただろうなと思う。でも、キャビネットを含めると、ナチュラルカラーと赤みのあるブラウンカラーの割合がちょうどいい感じになる。
もう一つ、柄物はアクセントになるので、取り入れる際には悩むポイントだった。無地がシンプルで合わせやすいし、ベーシックで飽きも来にくいとは分かっている。
このチェアの座面の張地は遠目から見るとライトグレーで、ネイビーのような青っぽいチェック柄。チェックの中でも控えめで上品なウィンドペン柄は、主張しすぎずいい具合にお部屋に馴染んでくれそうだと思った。
理想のコーディネートを元に、ものを選んでいくことも、上手くお部屋づくりをするには必要なことだと思っている。「自分らしさ」なんてよく分からなかったし、センスにも自信がないからそうやってどこかで見たインテリアから学んだりして少しずつ「好き」を探している。
だけれど、想定していなかったチェアとの出会いと、想定していなかったコーディネートは、「チェック柄を取り入れるのいいな〜」「座面がバラバラでも可愛いかも」なんて、新しい視点や気づきをくれた。
自分の想定内を超えた出会いが、ピタッとハマった時、こんなにワクワクするんだな〜!と感じた。これだから、やっぱり「もの」との出会いは楽しいし、お部屋づくりも楽しい。
節目に買った記念すべきチェアと、このお買い物体験は、これからの日常に馴染んで、また新しい景色につながっていくのだろうかと大袈裟に思ってみたりする。新天地でも、頑張ろう。
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