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切りたくなかった。_05月27日

うあああやだ切りたくない切りたくなかった切らないでなんで切らなきゃいけないのなんで他人に触れられなきゃいけないのなんで好きな髪型で居たらいけないのなんで貴方達の好きな髪型、長さ、見た目にしなきゃいけないのぼくはぼくの好きな髪型、好きな服装、好きな姿で在りたいのに
なんで全部全部ぶっ壊そうと崩そうとしてくるの
なんで?ねえなんで?どうしてぼくが?
どうせ産まれるのならば男の子に生まれたかったと思い願っているのは紛れも無くぼく自身だ。
だけど、そうだけど、髪を短くしたくないんだ。
嫌いなんだよ、短い髪。
寒い、気持ち悪いんだ。
長かったら、普段は面倒だけど、
可愛い髪型にも出来る。
何かあった時や、いざ!という時に
女の子ですって言える。言いたくないけれど。
「 女の子 」を有効活用するには髪が長くないと嫌なんだ
こんな切るのならばぼくは最初から男の子で居たかった
こんなことを思っているぼくは、
最低なのだろうか。
最悪なのだろうか。
親不孝者なのだろうか。
生きるべき人間ではなかったのだろうか。
死ぬべきだったのだろうか。


昨夜、美容院の予約を入れたと言われた時は毛先を揃える程度だと思っていた。

「 わかった。 」

と了承すると母親は

「 その重くて鬱陶しい髪を綺麗にしてきなさい 」

と言った。

( 揃えるだけではいけないのだろうか。 )

そう思い聞いてみた。
けれど母親は顔を顰めてからわたしの髪を掴んだ。
『 この長い髪を短く切りなさいって言ったんだけど。ちゃんと言わないとわからないの? 』
そう言い切られた。
長い、重い、鬱陶しい、うざったい、汚い、綺麗じゃない。
どれもぼくの心に酷く刺さった。
腹部にナイフを刺されるように。
鏡を見た時、前髪は長いな、と思った。
1年2ヶ月程伸ばし続けたロングウルフ。
これを、切れ、と…?
嫌だった。
だから、反発して、この長さだけでも、維持しようと思った。
けれど母親の言った言葉を思い出す。
『 切れ 』 。
命令形。
威圧が凄い。
逆らえない。
「 切りたくない 」 だなんて、言えそうにもなくて。
ああ、また、言えないんだな。
心の中で苦笑する。

切ったってすぐ伸びてくれるだろう。
…ほんとうに?

数日で慣れるだろう。
…引き摺らないの?

少しの間の、辛抱だ。お金を払っているのは親なのだから、言う通りにしなきゃ。
…。

自問自答を繰り返す。
いつもみたいに「 仕方がない 」で終われると思っていたけれど、考えがかなり甘かった。
そんなわけないのに。
全ての「 諦め 」 の言葉。
全てに問い返す。
「 ほんとうに大丈夫なの? 」と。
どれだけ理想や夢に冀ったって現実からは逃れられない。
ぼくは、わたしは。
十分過ぎる程に、解っているだろう。
過去に何度も、経験してきているだろう。

「 ははっ…、 学ばない、なあ。ぼく。 」

自分を宥めるように笑う。
諦めろよ、いい加減に。
そう思う。
切りたくなくても、切らなくてはいけないのだから
運命には、逆らえないんだ。
どれだけ藻掻いだって、結果は変わらないんだ。
どれだけ本気で願っても、想っても。
何ひとつとして、変わることはゼロに等しい。

 「 解ってるよ… 」

左手にぎゅっと刃物を握る。
夏場に向けて切らないよう心掛けていたが、
無理、だ。
無理なんだ。
ぼくは「 制御 」 も 「 我慢 」 も下手くそだ。
だからいつも思う。
こんな自分、しんじゃえばーか、って。
切ってると、痛いなって思う時もあるけれど、
安心する。
あ、ぼく、生きてる。生きれてる。
そう思えるようになった。
生きてるんだなあ、と、笑えてくる。
どろっと流れる血液は、体液は、
 “ 生きている ” ということを実感させてくれる。
そのせいか、なんとなく好きだと言える。
嬉しくないけれど。
少し力加減を間違えるとがしゃっと鳴るカッター
しゃっと紙を刷るような音を立てて切れるカミソリ
血を出さないようにする時はハサミを突き立てる。
ごりっと鈍い音と痣の出来そうな跡が残る。
どれを選んでも痛いには変わりない。
それと同じように、生きてる感覚を養える。
…綺麗事のようなことを並べるぼくでも、
生きていいのかな。と思える。

「 やっぱ、生きたくないけど、生きたいなあ…w 」

苦笑を浮かべる。
死のうとすると、大切な人達が脳裏に浮かぶんだ。
だから、死ねきれなくて。
生きたいって、思っちゃって。
結局いつも、この思考に辿り着く。


「 皆となら、生きてたいな。 」

って。
…うん、髪のことは気にしないように気をつけよう。
触らないように、見ないようにして。
気づかないようにしよう。
今のぼくをみて、
彼らがなんと思うかは、わからないけれど、
それでもいいって、勝手に思おう。
自問自答、だね。
開き直るのはきっと無理だけれど、
大丈夫だ。って思えば。
あの人たちは、受け入れてくれる。って
勝手に思い込めば。


「  … 切りたくなかった。 」

… けど、

「 身勝手なぼくを、赦してね。 」



赦して。殺して。救って。
一方的でも、愛させてね。

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