銃・病原菌・鉄を読み終わった

内容 ~歴史から一般則を導き出す~

この本は「個人の偉業によりある国・組織・共同体は発展した」という見方を徹底的に排除して、人類を集団、地域ごとに分類することで、発展した集団とそうでない集団が生まれる理屈を説明している本です。

序論ではアメリカ大陸で大繁栄をしていたアメリカ先住民が鮮やかにヨーロッパの征服者に滅ぼされた経緯を語っていますが、そこでは銃があったこと、ヨーロッパ由来の病原菌があったこと、馬があったことなど、勝利の直接的要因を説明しています。

そこから下巻の終盤まで続く、人類の分析では、以下の四点の地域差によって「発展しやすさ」に差異が生まれることを説明しています。

1.栽培化や家畜化に適した動植物の有無

2.地形や気候による技術や栽培植物、家畜の伝播速度の差

3.別の大陸からの伝播速度の差(2より大きなスケール。別の大陸で発明されたものがもともとの大陸の発展の速度を飛び越して急に技術や文化レベルをジャンプさせるものと理解しました)

4.大陸の大きさや人口の差異

その結果、ヨーロッパがいかに気候的、文化的に恵まれていたかを説明しています。ちなみに中国が統一しているのにヨーロッパに最終的に負けたのは、強力な意思決定のせいで、発明の種がつぶされたり、進歩のチャンスを失ったためとのことです。端的には多様性がある方が、発展は進むと理解しました。今全世界的に格差がとんでもなくなっていますが、技術の発展や発明には丁度良い状態なのかもしれません。実際進歩していますし。

最後のエピローグには著者がこの本を書いた動機を書いていますが、以下のに集約されていると思います。

歴史から一般則を導き出すのは、惑星の軌道から一般則を導き出すことよりもむずかしい、ということは否定できない。しかし、むずかしいけれども絶対に不可能とは思えない。天文学、気象学、生態学、進化生物学、地質学、そして古生物学といった自然科学の学問も、過去にあった事物を研究の対象としており、そこから一般則をみちびきだすことは歴史学と同じくらいむずかしいはずである。(銃・病原菌・鉄 下 395ページ(文庫版))

結局、天気予報にしても一定の物理法則に従ってある程度の確率で予想できるように、人類の歴史もある確率の範囲で予想できるだろう、という「科学に解明できないことはない」のスタイルです。

この本を読んでわかった自分の興味の特徴、今後に生かしたいこと

歴史も気象学のように法則に乗せられる。ということは自分が常々感じていたことの明確な表現でした。

政治ニュースや経済ニュース、その他スキャンダルみたいなニュースに一切興味がわかないのですが、それらは確率的に起こる現象のたった一回の確率が低い側の結果に過ぎないからだとわかりました。

天気予報が何パーセントである、というくらい、今年の自殺者数は何人になりそうですという予報ができそうじゃないですか。人間味をもったり、生きていくうえでは個別の事象は抑えておいた方が良さそうと頭では理解していますが。。。普遍的な法則に乗らないランダム性に一喜一憂するのは本当につまらないです。

関連して、個人が自殺したニュースを伝えるより、自殺率が高い理由を資本主義の発展形態と教育制度というような、抽象的な側から説明してほしいのです。そうすると、自分の生き方や仕事への取り組み方に反映できます。個別のニュースを詳細に分析されても、自分の身の回りや所属する組織では違うことも多いですし。

けっこうサイコパスっぽいかんじですが、単純に身近な人以外の「個人」に想像力を働かせられないだけと思います。

あとは、論文を書くときに、先行研究のまとめをする際、なぜその国の研究者がこれだけ多いのか、これだけ研究が進んだのか(逆になぜ日本には○○の研究者がすくないのか、とか)、ということを「個人の業績」以外の地理的、文化的理屈だけ(つまりこの本が扱っている理屈)をもって説明できれば、それだけで一つ論文に出来そうとも思いました。当分やりませんが。

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