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イスラエルの「LGBTフレンドリー」政策の嘘①

 イスラエルの事実上の首都テルアビブは、「LGBTフレンドリー」な都市として有名である。確かにバーやクラブの軒先にレインボーフラッグが飾られ、市中で同性カップルが手をつないで歩く様子は、パレスチナ西岸地区の事実上の首都ラーマッラーで見られることは殆どない。それどころか世界中でもパリやニューヨーク、ロンドンなど欧米の大都市を除けば、そういった光景はあまり見られない。そんな中、テルアビブは中東で唯一性的少数者の権利が保証されている都市として盛んにもてはやされている。
 イスラエルは国家レベルで、この「LGBTフレンドリー」を推進しており、日本でも駐日イスラエル大使館が例年、東京レインボーパレードにブースを出している。同大使館のフェイスブックから2018年の東京レインボーパレードに寄せた文章を引用する。

「中東におけるゲイの首都 テルアビブ」
 LGBTの人々の権利において、イスラエルは中東およびアジア圏で最も進歩的と考えられています。事実婚においても、婚姻に関わるほぼすべての権利が配偶者に認められており、唯一、完全なる公的な同性婚が未だ認められていないだけです。
 アメリカのゲイ・カルチャー誌『OUT』はイスラエルで一番大きな文化・商業都市テルアビブを「中東におけるゲイの首都」と名付けました。テルアビブはまた、世界で最もゲイフレンドリーな都市と言われており、毎年開催されるプライドパレードやゲイビーチでも知られています。(大使館広報部資料より)

 駐日イスラエル大使館は、イスラエルへの旅行を誘うアニメの公開、公式のクックパッド(ユーザーが料理のレシピを掲載するSNS)アカウントの運用、ゆるキャラ「シャロウムちゃん 」を使った広報などソフトパワーを用いた日本への外交戦略を多くとっている。東京レインボーパレードへの参加及び「ゲイフレンドリー」の広報も、イスラエルへの日本人観光客誘致とイメージ向上のための外交戦略の一環として考えられる。
 上記のようなイスラエルの「LGBTフレンドリー」政策には、大きく分けて二つの理由があることが指摘されている。一つ目がインバウンド消費による経済効果、もう一つが人権推進国であることのアピールである。
 前者のインバウンド消費について、主に注目されるのは欧米の白人の男性同性愛者たちである。マーケティング業界は同性愛者男性が平均収入が高く、一般的な旅行者より服飾や飲食、文化に関する消費意欲が高いとみている。さらに、同性愛者のカップルは異性愛者のカップルと比較し、ダブルインカムで子供はいない割合が高いため、より購買力があるケースが多い。この購買力は「ピンク・マネー」と呼ばれ、旅行・レジャー業界で注目されている(入江,2008;吉田,2015)。イスラエル政府も、この「ピンク・マネー」の獲得に資金を投入し、国家事業としてこれを行なっている。実際、2016年にはテルアビブのプライドパレードに際して「イスラエル観光省がこのイベントを欧州の旅行客に宣伝するために1100万シェケル(約3億円)拠出する」と発表した ように、海外に向けた広報活動にはかなり力を入れている。
 後者の人権推進国であることのアピールについて、上記の通り同国の外務省や観光省は「LGBTフレンドリー」であることを盛んに宣伝しているが、これはインバウンド消費と同等かそれ以上の利益をイスラエルにもたらしている。それは「中東で唯一、リベラルでジェンダー平等を実現した民主国家イスラエル」というイメージを獲得することである。更に言えば、このイスラエルの「LGBTフレンドリー」な国家というイメージが、イスラエルは人権推進国であるというブランディングを可能にし、同国がパレスチナを軍事占領しパレスチナ人を抑圧していることを覆い去る作用があると指摘されている。この作用はピンクウォッシングと呼ばれ、国内外の一部のLGBTQコミュニティや人権活動家から批判されている。ジェンダー学者の保井啓志はピンクウォッシングという用語を以下のように説明する。

この言葉は、同性愛者のシンボルカラーとされる桃色と、「取り繕う」という意味の動詞であるwhitewashを合成させた造語で、「自らに不都合な事柄を隠すために、あえて良い(「良い」に傍点)印象を与える同性愛者のシンボルカラーをまとっている」ということを暗示している。このピンクウォッシング批判は、正確にはイスラエル政府やそれを支持する組織・個人に向けられた者である。

保井啓志「『中東で最もゲイ・フレンドリーな街』イスラエルの性的少数者に関する広報宣伝の言説分析」,『日本中東学会年報』(34−2),p.35-70,2018.

 このnoteでは、今後数回に分けてこのイスラエルの「LGBTフレンドリー」政策、或いはピンクウォッシングを取り上げ、その問題点について論じていく。

参考文献
入江敦彦『ゲイ・マネーが英国経済を支える?』 洋泉社, 2008.
保井啓志「『中東で最もゲイ・フレンドリーな街』イスラエルの性的少数者に関する広報宣伝の言説分析」 『日本中東学会年報』(34−2),p.35-70,2018.
吉田道代「同性愛者への歓待:見出された商業的・政治的価値」『観光学評論』(3‐1), p.35-48, 2015.

Y.S.

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