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クリエイティブディレクター・コピーライター小竹海広さんに聞く”バズとブランディング”

BranCo!の卒業生で現在各界で活躍されている方々に、BranCo!での学びや現在のキャリアについて伺う連載企画「After BranCo!」。

第一弾はBranCo!2014(テーマ:「旬」)とBranCo!2015(テーマ:「嘘」)に参加し、現在はクリエイティブディレクター・コピーライターとして活躍する小竹海広(オダケミヒロ)さんにインタビューしました。BranCo!に出たきっかけや提案したアイデア、そこから得た学びなどについても伺いました。

「マス広告」と「バズ広告」を一撃でつらぬく思考法。

―はじめに、自己紹介をいただければと思います

クリエイティブディレクター・コピーライターの小竹海広です。学生のときは建築設計を学んでいましたが、就職は外資系広告会社に進みました。そこでコピーライターとして勉強した後、IT系事業会社やクリエイティブ・ブティックなどを経て、現在はクリエイティブディレクターとして活動しています。マスメディアでブランドのメッセージを伝えるCMプランニングや、バイラルメディアやPRで話題を起こすコンセプトを考える仕事が多いです。

近年だと、メッシ選手やエムバペ選手が所属するパリ・サン=ジェルマンジャパンツアーのクリエイティブディレクションを「全員、超人」というコンセプトを開発して、チケットからグッズデザイン、スポンサーCMなど全ての制作物を企画しました。他には、シンエヴァンゲリオンとゼンショーグループのコラボキャンペーン「外食5チェーン共同作戦」の全体企画や、TBSラヴィットの「日本でいちばん明るい朝番組」というコンセプト・コピーの開発。最近だと、芸人のかまいたちさんを起用した「逆の立場で就活してみ」というOfferBoxのCMや、村上宗隆選手(村神様)を起用したSaaSの広告を企画しています。

―小竹さんは建築学科出身ですが、広告業界に進もうと思ったきっかけは何ですか?

建築でも広告と同じくアイデアやコンセプトが大事にされますが、アウトプットを建築以外にも広げたいと思ったのが、きっかけでした。私が学生の頃は、佐藤可士和さんが幼稚園の建築・設計に関わっているのを見て、広告の領域が広がっているのだなと。映像や言葉のアウトプットがありつつ、建築やプロダクト・事業開発にも関わることができる広告業界に魅力を感じました。
また大学院在学中に、私が投稿したツイートが「バズ」ってニュースに取り上げられたことがありました。そのとき、情報発信のやり方を工夫するだけで世の中が動くことを実感しました。この体験がきっかけで、建築空間だけではなく、情報空間でもクリエイティブなことがやりたいと考えるようになりました。今となってはSNSの功罪のうち、罪の部分もかなり強く感じますが、学生の時にはSNSが表現のフロンティアに見えたんです。

―だから今も「バズ」を意識して広告をつくっているのですね

そうですね。バズという言葉自体が「もう古い」とも感じますが、他に表現するワードもないので、、。それに結局バズと向き合わないと、クライアントも納得しない時代になりました。SNSを中心とした企画はもちろんですが、テレビCMを企画するときも、SNSで反応が生まれるように設計しています。そういう意味では、自分の中でバズとブランディングをあまり区別していません。いまの時代、むしろ「SNSで反響がない広告は、はたしてブランディングとして成功しているのか?」とすら感じます。そのため、広告や反響に「いいね」がつくかどうかに、愚直に向き合って広告の企画をしています。


―小竹さんは「言葉のアップデート術」という著書を書かれていますが、これはどういった経緯で生まれたのですか?

広告の仕事でSNSの恩恵を受けている一方で、SNSに対して恩返しもしたいなと思ったことが、きっかけです。SNS黎明期には明るみに出ていなかった、誹謗中傷やフェイクニュースなどの負の側面を少しでも解決して、次の世代につなぎたいと思って書きました。私自身、SNSで人を傷つけてしまった過去があるので、その反省を踏まえた教訓や言い換え方をまとめたいなと。そんなことを思っていた時に、出版社さんから声がけをいただいて刊行に至りました。コピーライターの視点で、人を傷つけず、建設的な言い方に言い換えるための24の切り口をまとめました。「人を傷つけない」という視点は、これからの全て表現・クリエイティブに必須な視点だとも思います。昨年末にAmazonのAudibleで音声化もしたので、学生の方にも是非、手にとってみて欲しいです。

広告をつくるプロセスは、BranCo!そのもの。

―BranCo!に出場したきっかけを教えてください

東大の大学院に入ったときに、研究室の先輩がi.schoolというイノベーション教育プログラムをはじめ、様々なワークショップに参加していました。僕もそれらに参加するうちにBranCo!の存在を知り、友人を誘いBranCo!2014(テーマ:「旬」)に参加しました。このときの結果が3位だったため、次出れば優勝だろうと考えて、翌年も出場しました。テーマは「嘘」ですね。ちなみにこの年の結果も3位でした(笑)。
(*BranCo!2014で小竹さんと組んでいた髙橋良爾さんは、現在博報堂社員として、BranCo!の審査員・メンターをつとめています)

―どんなアイデアを出したか教えてください

テーマが「旬」のときは、インプットをしていく中で、一般的に旬ではないが、「陰」の魅力がある季節の存在に気づきました。例えば、冬の海、秋の桜、春の紅葉といった景色も、独特の美しさや魅力がありますし、それらを愛する人たちもいます。

そこで、旬(syun)の頭文字を、moonの「m」に変えて、「みゅん(myun)」という造語のコンセプトを開発しました。ロゴデザインとしても旬の「日」の部分を「月」に変えるという造漢字の表現をしています。いわば旬のカウンターパートが、みゅん(myun)ですね。その魅力に気付いてもらえるような、雑貨屋ブランドを企画しました。

―以前にBranCo!の動画や記事に出ていただいたボヴェ啓吾さん桃井菜穂さんが「歴代BranCo!で一番良かった」と言っていたアイデアですね。テーマが「嘘」のときはどのようなアイデアを提案されたんですか?

そのときは、石のスープという嘘をテーマにした童話をモチーフにアイデアを考えました。この童話は、「この石をスープに入れると美味しいスープがつくれます」という嘘から、「石が古いから塩を入れると美味しくなる」「肉や野菜を入れるともっと美味しくなる」と言ううちに、後付けでスープが出来上がってしまう、という話です。嘘からでた実(まこと)ですね。これをモチーフに、照明のブランドを提案しました。レストランやホテルのクロークで服や荷物を預かるふりをして、勝手にサプライズとして間接照明にしてしまおうというアイデアです。その日その空間に集まった人の手持ちの荷物が、その日だけしか現れない間接照明の影になるというわけです。今ふりかえると、この「嘘」というテーマ、すごく難しかったですね。笑

―BranCo!で学んだことを教えてください

現業の広告企画のプロセスが、BranCo!で学んだプロセスそのものです。特に、インプットを大事にするクリエイティブのやり方を学びました。僕が勉強していた建築学科では、作家性をデザインに落とし込む属人的でプロダクトアウトな方法論を学んでいました。

一方で、BranCo!では、多角的なインプットのテクニックを駆使して情報を集約し、それをコンセプトに言語化し、そのコンセプトを様々なアウトプットなどに落とし込んでいく、というプロセスを学びました。だれでも再現可能な企画の流れをBranCo!を通じて学べたのは、幸運でしたね。

今の仕事もやっていることは全く同じです。クライアントからオリエンがあったら、商材の強みや、ユーザーの生活スタイル、商品を取り巻く世の中の流れ、SNSでどう商品の口コミが広がっているかなど、多角的に調査します。私はTwitterでインプットすることが多いですね。そこから発想のきっかけを得て、新しい独自のコンセプトを発見するのが、今の時代のコンセプトメイキングの定石なのではないかと思います。もちろんアウトプットから考えて、ユーザーインサイトに逆算的に繋げる企画手法もあります。しかし、インプットから始める順目の考え方を知っているからこそ、順目も逆算もできるのではと思います。こうした企画プロセスの基本を学べたという意味で、BranCo!に出場して本当に良かったと思います。

―学生に向けてメッセージをお願いします

広告業界だけでなく、あらゆる業界を目指す学生にBranCo!をオススメしたいと思います。理由は2つあります。1つは、クリエイティブの基礎を体系的に学べるという点です。インプット、コンセプト、アウトプットを行き来するという思考の流れは、広告の企画だけでなく、商品や事業開発など全てのアイデアを考えるために役立ちます。2つ目は、大学や専門分野を横断した横の繋がりを得られる点です。同じチームのメンバーだけでなく、一緒に戦った別のチームの人とも切磋琢磨できます。いわば異種格闘技戦ですね。BranCo!で知り合った友人とは、10年ほど経った今でも連絡をとったり、刺激をもらったりしています。

―ありがとうございました。


小竹 海広(オダケ ミヒロ)(@0dake)

クリエイティブディレクター/コピーライター
1990年生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。外資系広告代理店でコピーライターの仕事に従事し、IT系事業会社などを経て、現在はクリエイティブ・ディレクターとして活動。最近の仕事に「全員、超人」パリ・サン=ジェルパン ジャパンツアー2022、「外食5チェーン共同作戦」ゼンショー×シンエヴァンゲリオン、「日本でいちばん明るい朝番組」TBSラヴィット、「逆の立場で就活してみ」かまいたち×OfferBox、「かっとばせ、あたらしい時代へ」ビジネスツール最終進化形Lark×村上宗隆など。累計動画再生1.6億回。累計運用SNSフォロワー300万人。日本キャラクター大賞プロモーション・ライセンシー賞2022 、 ガジェット通信2021 年上半期 ネット流行語大賞ノミネート、 YOUNG SPIKES ASIA 2020 日本代表・本戦特別賞。2019 YouTube Ads Leaderboard 上半期ベスト、 ACC 銀賞、ADFEST銀賞など、国内外で受賞経験を持つ。著書に『言葉のアップデート術』(クロスメディア・パブリッシング)


現在BranCo!では2023/2/11に開催される決勝プレゼンへの一般観覧を募集しています。BranCo!にこれまで参加されていない方でも観覧可能ですので、ぜひお越しください。


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